平和都市<チューリ城> 3
「おいしぃ〜〜!」
ティナは2本目の串焼きを頬張る。
ロードは「よかった」と言いビールをあおった。
今、二人は街の北の外れにある屋台<串36>にいた。店主はよぼよぼの老人だったが、おいしそうな匂いと客が一人もいないという理由から、ティナが「ここにしましょ」と決めたのだ。ロードはティナからもらった新しいシャツに袖を通し、ティナもショールを取っている。
屋台の赤い屋根には明るいオレンジのランプが二つ灯っていた。
「すっごいおいしい!こんなの食べたの初めてっ!」
「・・・そうなのか?」
「ええ!」
言うと3本目にかじりつく。その豪快な食べっぷりに、ロードは少々驚いた。
「あのさ、ティナ・・・」
「なぁに?」
口に一杯頬張り、振り向くティナ。ロードは苦笑する。
「・・・お前、男みてぇだな」
ひくりとティナの身体が強張るのが、ロードには分かった。ティナは口の中のものをゆっくりと胃に流し込んだ後、
「ごめんなさい」
と、媚びる。うるんだ瞳で見つめられ、ロードは「・・いいよ、別に」と彼女から顔を背けた。
(こんな至近距離で見つめるなっつーの。・・・マジで暴走しちまうぞ・・・)
店主はゆっくりとした動作で串焼きを焼き続けている。煙がティナやロードのほうに来るが、彼女は全く気にしていないようだった。嬉しそうに串焼きを食べている。
「なぁ」
ロードはビールを空にしてから隣の彼女に口を開いた。
「出身はどこなの?」
「え?」
果実酒を飲んでいた彼女は、少し驚いた顔をしてロードを見た。
「出身?」
「そ。どこ?」
「・・・<キルズ国>だけど・・・」
「そこのどこ?」
「・・・<ターチス>ってところ」
「ふぅん」
二杯目のジョッキがロードの前に置かれる。ロードはそれに手を伸ばし、一口含んだ。
「んじゃあ、趣味は?」
「趣味?んもう、さっきからなぁに?質問ばっかりして」
やや頬を膨らます彼女に、ロードは笑顔で言う。
「そりゃ、好きな娘の情報くらい知っとかないと。やっぱダメだろ?」
ストレートなロードの言葉に、ティナはみるみるうちに真っ赤になった。プイとロードに背を向ける。さらりと、ブロンドの髪が闇に舞った。
「なんだよ。照れてんのか?」
「知らないっ!」
楽しそうにいうロードに対して、ティナはそのままの体勢でやや語気を強めて言った。
「いつもそうやって女の子を口説くんでしょ。私はひっかからないんだからっ!」
そして左手を伸ばし、焼きたての串焼きを口に持っていく。
ロードは笑ってしまった。
「ティナ、違うんだって。ごめん。ほら、こっち向いて」
くるりと椅子ごと回転させ、ロードはティナをカウンターに向けた。青い瞳は怒っていたが、串焼きは半分ほどなくなっている。
ロードは微笑んで言った。
「俺はお前だから、いろいろ知りたいし、聞きたいんだ。・・・ダメ?」
「ダメ」
「・・・秘密ってことかよ?」
「そう。秘密」
言うと、食べ終わった串を口に持っていく。
このとき再び、ロードの脳裏にある場面がよみがえった。
クリスとの旅が始まったとき、<ピース>に向かっている理由を尋ねると、彼は「秘密」と返した。
初めてクリスが<魔法>を使った夜、焚き火を『火炎魔法』でやったのか、と訊くと、彼は「秘密」と笑って答えた。
(・・・言い方が似てるんだよなぁ・・・やっぱ・・・)
ロードが考えながら飲んでいると、ティナが顔を覗き込んできた。
「・・どうしたの?食べないの?」
「ん?ああ・・・食べるよ」
笑顔を作り、串焼きを一口。ティナが「おいしい」と連呼するだけあり、なかなか美味かった。
「よぉ。ここ空いてるかい?」
「へい。いらっしゃぁ〜い」
商人らしい二人組みがティナの隣に座ってくる。
彼らはティナを一目見るなり感嘆の声を漏らした。
「へぇ〜!こんなとこでべっぴんさんに逢えるなんて!オレたちゃ運がいいな!」
「ちょっと酌をしてくれねぇかなぁ?」
へらへらと笑う二人組みに、ロードは椅子を蹴倒して立ち上がった。慌てて、ティナが彼を止める。
「大丈夫よ。お酌くらいなら・・・」
「でも、お前・・・何かされたら・・・」
「そのときは、また守ってね」
はにかむ彼女にロードのもやもやは全て吹き飛んでしまう。ティナは「大丈夫だから」と頷くいて見せると、隣の男たちに酒を注ぎ始めた。
ロードとティナの串焼きデートはもう少し続きます。
っていうか、ロード・・・そろそろ気付かない?
恋は盲目ですね(笑)




