平和都市<チューリ城> 2
(どうしよう・・・)
ティナは困っていた。外に出れば自分の身が危なくなることは理解していた。しかし、あの人が自分を待っていることも事実であった。
(どうすれば・・・)
部屋の窓から街を見下ろす。夜の帳が下りても街はまだまだにぎわっていた。
「行くの?」
依頼主の問いかけにティナはわずかに頷く。彼はため息をついた。
「あいつのため?」
コクリと首を縦に振る。ティナは素早く身支度を整えると、愛用のスカーフを巻いた。
「あなたの探してる人も、もちろんちゃんと調べてくるわ」
言うとティナは依頼主の額に唇を押し付けた。
「もしものときは・・・・お願いね」
「わかってる」
言葉を残し、ティナはあの人に逢うべく膨れた三日月の見守る街の中を駆け出した。
「どこだぁ〜?」
ロードは街の繁華街をうろうろしていた。風俗店や酒場、小さな飲み屋などを一つ一つ見て回っているのだが、今日はまだティナの姿を見つけていない。
「もうこんな時間だぜ!?やっぱ、来ねぇのかな・・・」
独り言を言い、大通りを振り返ったそのとき、
「ロード!」
通りを挟んだ向かい側にティナは立っていた。肩で息をしている。
「ごめんなさいっ!・・・だいぶ待ったでしょう?」
「あっ・・・いや、俺のことはいいんだけど・・・。大丈夫か?」
「だ・・・だいじょうぶ・・」
駆け寄って来たティナの額には、うっすらと汗が浮かんでいた。よほど走ってきたらしい。
ロードにはそれが嬉しかった。素直に今の気持ちを伝える。
「ほんとに、逢ってくれるとは正直思ってなかったんだ。俺から言ったことだし・・・。もう逢いたくないんじゃないかってさ・・」
恥ずかしそうに、あらぬ方向を向いて話すロード。息を整えたティナは、そんな彼を優しく見つめ微笑んだ。
「始めはね、来ないつもりだったの。もう逢わないほうがいいっていうのは本当のことだし・・・。でも、なんとなく逢いたかったから・・・」
やや頬を染める彼女に、ロードの全身は麻痺をしたようにしびれてしまう。
今日のティナの服装はいつもの灰色のレースのショールに、白いブラウス、黒いスカートといったものだった。
「あ!そうそう」
ティナはそういうと、持っていた包みを目の前の剣士に差し出した。
「これ・・・助けてくれたお礼」
「えっ!?マジでっ?俺に?」
カァァっと顔が赤くなっていくのがロード自身にも分かった。震える手で彼女のプレゼントを受け取る。それは思っていたよりも軽かった。
「何かな?」
「フフ。開けてみていいわよ」
がさがさと、ロードは包みを開けていく。中身はシャツだった。色はティナの瞳と同じ、スカイブルー。今のロードのシャツは濃い青色なのだが、戦いで破れ、汚れ、もはや黒に近くなっていた。
「ありがと!大切に着るよ」
「あとで着てみてね」
「ああ!もちろん!」
嬉しそうなティナ。ロードは彼女を抱きしめたいのを必死でこらえた。その代わりと言ってはなんだが、彼女の代わりにシャツを胸に抱いていた。
「で?今日はどこ行く?」
「え・・・っとね。あんまり人がいないところがいいかな・・」
伺うように訊くティナに、ロードは自然と笑みがこぼれた。人気の無いところほど、ロードにはありがたいことはない。
「んじゃ、行きますか」
ロードとティナは肩を並べ、中心街から北へとゆっくり歩を進めていった。
ティナ、再び登場!
舞い上がるロードにこの後なにかが・・・!!
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