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君となら  作者: 中原やや
23/67

弱点 4

「はっ!」

 気合を吐き、ロードはワーウルフの首を飛ばした。2匹目がロードの頭上にその鋭い爪を振り下ろす。ロードはそれを剣ではじくと、そのまますくい上げるように振り上げた。腹を裂かれ、血しぶきを上げながら地へと倒れるそれ。

「ったく、クリスのヤツまだ来ねぇのかよっ!」

 毒つき、迫り来るワーウルフに剣を突き立てる。

「早く来いってんだ!」

 叫んだそのとき、

「『雷電魔法ブリッツ』」

 一瞬のまばゆい光が帯となってロードの脇をすり抜けていく。そして、目標物に当たると、それははじけ消滅した。残っているものは黒焦げになったワーウルフ2匹。

「おせぇぞ!クリス!」

「そっちが早いんだっ!」

 クリスのほうをやはり見ないロードだったが、クリスの存在は嬉しかった。

 今のこの状況にとっては。

「で?どうして囲まれてるんだ?」

 クリスの言葉通り、今、レッドとクリスの二人はワーウルフ約20匹に囲まれていた。ロードよりも頭2つ分ほど背が高く、鋭いキバと爪を持つオオカミのようなそれが、ワーウルフだった。

 レッドはというと、離れたところでロードの盾を持ち身構えている。

 ロードとクリスは背中合わせでその輪の中心にいた。ロードは答えた。

「知るかよっ!ただ石を蹴っ飛ばしてたらいきなり出てきたんだっ!」

「・・・もしかして、その石を当てたとか?」

「かもな!」

 クリスはため息を落とした。そんな彼にロードはむっとする。

「手っ取り早く行くぞ!時間の無駄だ!」

 言うが早いがワーウルフに向かい走る。クリスは文句を言おうと口を開きかけたが、小さく首を振った。今、口喧嘩をしていても仕方が無い。ロードもそれを理解しているはずだった。

(・・まったく・・)

 思い、口の中でしゅつむぐ。基本の魔法にクリスは多少変化を付け加えることが出来た。

「『振動魔法トレマー』」

 左手を地面につき、クリスは魔法を唱えた。

 一瞬、空気が震えたのが戦っていたロードにも分かった。そして―

ボゴッ

 クリスのいる中心だけを残し、草原はいきなり陥没した。大人一人分ほど掘り下げた、と言ってもいいかもしれない。ワーウルフのある物は落ちたときに足や首の骨を折り、ある物はそこから這い上がろうともがいている。

 これでおよそ半分が戦闘不能になった。

「はっ!」

 声を発し、ロードの長剣が陽の光に反射する。両手を広げたほどの狭い落とし穴の中で、ロードは次々に迫り来るワーウルフに止めを刺していく。

「ふぅ」

 ロードがため息をついたときには、すでに彼の周りにはワーウルフの死体の山が出来上がっていた。額の汗を拭い、高い空を穴から見上げる。

「ったく!俺まで落とすんじゃねぇよ!」

 死体を踏み台に使い、ロードは穴から這い上がった。そして、見た。

 草原がクリスを中心に円形状になくなっているのを。

「『雷電魔法ブリッツ』」

 一条の光の帯が地を走り、這い上がろうとしていたワーウルフ3匹に直撃する。顔や手を焼かれ、それは再び穴の中に落ち、二度と上がっては来なかった。

 これで、ロードたちの他に動いているモノはいなくなった。




「終わったな」 

 ロードは剣を一振りし、腰のさやに収めた。

 誰にともなくつぶやいた言葉に、クリスが答えた。額の汗を拭う。

「・・・なんとかな」

 しばしの間、二人の間に沈黙が訪れた。

 太陽は二人の真上から暑い日ざしを降り注いでいる。

 口を開いたのはほとんど同時だった。

「お前が――」

「ロードが――」

 お互い向かい合う形となり、ロードは一瞬口ごもるが、気を取り直すと先を続けた。

「お前がいけねぇんだぞ!んな女みてーな顔してやがるからっ!」

「んなっ・・・!!なんで俺がっ!?お前が勝手に迫ってきたんじゃないかっ!」

「勝手に迫ったってなぁ!お前が欲しそうな顔するからだろっ!」

「誰が欲しそうな顔をしたよっ!?誰がっ!?」 

 草原の真ん中で、二人の口喧嘩が始まる。

 戦いを遠くから見守っていたレッドはそんな二人のやり取りを聞きながら、草地に落ちた小さな宝石を集めていた。

「だいたい、おめぇ、クモ見て泣くか?男がフツー泣いてパニクるか?」

「お前だって人のこと言えないだろっ!?トカゲが嫌いで逃げ出したじゃないかっ!」

「逃げるよりパニクって<マホウ>使うほうが、よっぽど性質たちが悪ぃんだよ!」

性質たちが悪いのはそっちだろっ!」

 いつの間にか、ロードのトカゲ嫌いとクリスの蜘蛛嫌いの話題になっていた。

 どっちが腰抜けかでもめている。

 レッドは宝石を拾いつつ、ぽつりと言った。

「・・・どっちもどっちだと思うけど」

『うるさいっ!!』

「・・・・・・・・はい」

 二人に同時に叫ばれ、レッドは仕方なく黙った。

 小鳥の声と、草のざわめきだけがその場にいる三人を支配する。

 先に口を開いたのはロードだった。

「とにかく!俺は<チューリ城>に行く。お前は?」

 クリスを盗み見ると、彼は「行くよ」と短く答えた。そして、レッドを一瞬見る。

「見つかるかもしれないしな」

 と、付け加える。その言葉に、ロードは小さく頷いた。

 彼方に城が見えている。まさしく、それが<チューリ城>であった。

 それを見つめつつ、

「ま、なんにせよ、<マホウ>は必要だし。お前の探してるヤツが見つかるまで、一緒にいてやるから」

 言うと、ロードは頭を掻く。そんなロードに、クリスは意地の悪い笑みを広げ、

「それは、つまり・・・俺じゃなく<魔法>だけが必要だと・・・。そういうコトだな?」

「そーだよ。クモ嫌いのクリスちゃんが」

「言ってろよ。トカゲ男」

 言い二人は同時に笑う。

 いつの間にか仲直りをした二人に、レッドは宝石の入った袋を見せた。

 クリスは少年の頭を撫でてやる。

 ロードは袋の中身を確認するとヒューと口笛を吹き、貸していた盾を右腕に装備した。

(夜には着きそうだな)

 <チューリ城>へと、再び歩を進める三人。

 青い空とティナの瞳が重なり、ロードの胸は高鳴っていたが、何故か不安も付きまとって離れなかった。


コメント・感想などいただけると幸いです。

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