弱点 2
「おーい!ロード〜!」
「ロードぉ〜!どこぉ〜?」
クリスとレッドは口々に彼の名前を叫び、森の中を散策する。森の中は先程の草原とは違いじめじめとしていた。生暖かい風が吹きつける。
「ロード!・・・あっ・・・」
彼はいた。大きな木の下に小さく丸まっている。その姿は母親に叱られた子供のようだった。
「こんなところにいたのか。・・・もう大丈夫か?」
「・・・悪ぃ」
ロードの声は小さかった。クリスは肩をすくめて見せる。
「別にいいさ。弱点があったほうが人間らしいし。ほら、レッドも謝って」
クリスに促され、レッドは笑いをかみ殺しつつ、
「ご・・ごめんなさい。・・・クククっ」
しかし、最後で笑いが漏れる。
ロードはすくっと立ち上がると、レッドを上から睨んだ。
「お前なぁ!フツー苦手なヤツに苦手なモン投げるか?!しかも顔面にっ!」
「だ・・だって、そこまで苦手だとは思ってなかったんだいっ!」
「クリスだったら、お前、そんなことしねぇだろーが!」
「当たり前だっ!クリスはおいらの命の恩人なんだっ!」
叫び、レッドは「しまった」という顔をした。クリスを覗き見ると、やや険しい顔つきでレッドを見つめている。ロードは戸惑った。
「・・・どういうことだ?」
目の前の少年に問う。しかし、レッドは目を背け何も答えようとはしない。
ロードは矛先をブロンドの青年に向けた。
「どういうことだよ?!クリス」
「・・・さあな」
短く答えると、クリスは方向転換をした。草原へ戻ろうと身を翻す。
その彼の肩―といっても、ショルダーガードだが―をロードは掴んだ。
「おいっ!待てって!そろそろ何か教えてくれてもいいんじゃねぇか?」
「・・・お前には関係ない」
ロードの手を振りほどき、クリスは一歩前進した。
そこへ、スルスルと木の枝から人の顔ほどの大きさの蜘蛛が降りてきた。
丁度、クリスの目の前に。
「ん?・・・・クモ?」
「あっ・・・やべっ・・!」
ロードのつぶやきと、レッドのそれが見事に重なったそのとき、
「いやぁぁぁーーーーー!!!」
叫び声が上がった。
クリスの口から。
そして、次の瞬間――
「『火炎魔法』」
一条の炎がそれを包み込み、過ぎる。ジュッという焦げる音、そして、メラメラと木々が燃える音―――
「クリスっ?!」
「ああっ!!ロード、止めなきゃ!クリスはクモが大嫌いなんだよっ!」
ロードの呼びかけにも、クリスは止まることを知らない。もう一匹現れた大蜘蛛めがけ、手をかざす。
「『氷結魔法』」
巨大な氷の塊はみるみるうちに、巨大な一本の槍と化す。そして、それはものの見事に大蜘蛛を串刺しにした。
「クリスっ!やべーって!!」
後ろからクリスの肩を揺らすも、彼は止まらない。大蜘蛛は仲間の敵をとるため、次から次へと木から降りてきていた。
「くそっ!まずは、クモを片付けるか・・」
右腰から長剣を抜き放つと、ロードはおろおろしている少年に自分の盾を渡した。
「これ、使え。・・・わかるよな?」
「任せてよ」
ニカッと笑う少年。ロードも頷き、
「手っ取り早くいくぞ!」
言うと、クリスの真後ろに出現していた大蜘蛛を分断する。緑色の体液を散らし、それは地に落ちた。
「『氷結魔法』」
澄んだ声とともに、ロードは反射的に右に飛んだ。
小さな氷のつぶてが、ロードの近くいた蜘蛛3匹に命中する。
(あぶねぇ〜・・あいつ、見境ないな)
嫌な汗が背中を流れる。戦いのさなか、味方にやられたのでは洒落にもならない。
ゾンッ
ロードの長剣は大蜘蛛の身体を上下ばらばらにしていた。
レッドはロードから借りた盾を振り回していた。
いつもはロードの右腕についているのだが、レッドが持つと顔どころか、上半身の全てが隠れてしまうほど大きい。
「うりゃっ!」
変な掛け声とともに、レッドは手にした盾を地面と水平にしたまま振った。狙いは、丁度目の前に下りてきていた蜘蛛。
ばこん
鈍い音がした。そして――
「『火炎魔法』」
「どわっ!危ねぇ!!」
クリスの魔法とロードの悲鳴。
おそらく、飛んできた蜘蛛にクリスが反射的に魔法を放ったのだろう。
「レッド!てめぇ、こっちに投げてよこすなっ!!」
「ご・・ごめんっ!ダイジョーブ?!」
口では謝ったものの、レッドは笑いたいのを必死でこらえる。
(なんか・・・・これっておもしろいかも・・)
ロードはクリスの周りの蜘蛛をひたすら切っている。クリスはというと、無感情でひたすら魔法を唱えている。
(あっちには・・・飛ばさないほうがいいんだよね)
クリスのほうに飛ばしたいのは山々だが、あとが恐ろしい。レッドは身体の向きを変えた。
「こっちなら、いいんだよねっ!」
ばこん
遥か彼方に飛んでいく大蜘蛛を、レッドは無邪気に笑ってみていた。
クリスの弱点も出てきました。
実はレッドが一番強かったりして(笑)
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