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君となら  作者: 中原やや
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馬車の町<ピース> 5

 馬車の荷台にロードたちは乗っていた。

 両替えが終わり、出て行こうとするロードにドンはこう提案したのだ。

「<ピース>の中心街まで乗せてってやろうか?」

 その言葉に一番喜んだのは、他でもないレッドだった。いつの間にかクリスの横でキャンディーを舐めていた少年は、ドンの言葉を聞くとぴょんぴょんと飛び跳ねた。その結果、ロードとクリスの二人は、武器を改造するための工具や、商売用の武器・アクセサリー等と共に、馬車に揺られることとなったのだ。レッドはというと、御者席に陣取り、流れる景色をドンと共に楽しんでいる。

 しかし、荷台といっても、ほろも付いており、石畳の上を走っているため揺れはほとんど感じなかった。あっという間に目的地に着き、三人はそれぞれドンに礼を言う。

「んじゃ、またな、ロード。たまには遊びに来いよ」

「ああ!そっちも頑張れよ!」

 手綱の音と共に、ドンの馬車は南の<チューリ城>へと駆け出した。ロードは彼を見送ってから、クリスとレッドに向き直った。

「んじゃ、俺はまたブラブラしてるわ。お前らは・・・人探しか?」

「そんなとこだな」

 曖昧あいまいに答えるクリスに、少しひっかかるところがあったロードだが、両手を組んで空へ伸ばした。灰色の雲の間から、太陽が少しだけ覗いている。まだまだ陽は高かった。

「さて・・と」

 町の中心街は三叉路になっていた。目の前には大きな役所。右の道へ行くと、先程の両替屋やロードたちの宿泊場所があった。左には飲み屋や売春宿が軒を連ねている。

 そちらを見ていたロードに、クリスは口を開いた。

「お前はまた、女の子と過ごすのか?」

「ん〜〜考え中かな。ま、一杯飲むのは確かだけどな」

 言うと、ニッと笑ってみせる。クリスは「やれやれ」というように、小さくかぶりを振ると、

「俺たちはもう行くよ。宿は昨日と同じ<陽だまりの丘>だからな。忘れるなよ?」

「りょーかい」

 左の親指を上げ、ロードは左の道を進む。クリスとレッドは目の前の役所へと入っていった。



「そういう名前の方は、こちらには登録されていませんね」

 役所の受付はクリスたちに優しく告げた。二人は小さくため息をつく。

「そうですか。ありがとうございました」

 肩を落とし、帰ろうとした、その時

「あ!ちょっと待って!」

 呼び止められ、二人は振り向いた。受付の若い男性は、おいでおいでをするように手招きをしている。クリスたちが彼の元へと近寄ると、声を殺していった。

「もしかしたら、登録されてないだけで、この町にいるかもしれないよ。臨時で雇われてたりもするみたいだから・・・って何の話か分かるよね?」

 と、クリスの方を見やる。クリスにはそれで理解出来た。

(売春宿か・・・酒場ってことか・・。やはりな)

 小さくうなずき、「ありがとう」と礼を言うと、クリスはレッドを連れ役所を後にした。

「ねぇ。今日も探すの?」

「まぁね。ロードがここに泊まりたいって言ってたし。もう一度探してみるよ」

 クリスを心配げに見つめるレッド。その視線に気付き、クリスは優しく微笑んだ。

「大丈夫。きっと、見つけるから」

「うん。信じてる。・・・けど・・。クリスも危ないんじゃないかって思って・・・」

「俺は大丈夫」

 元気に言うと、レッドの頭をくしゅくしゅと撫でる。

「や・・やめろよぉ!」

 髪の毛がボサボサになるのを嫌がるレッドだが、クリスはそれを止めようとはしない。両手でくしゃくしゃと髪をかき混ぜる。

「もぉ〜〜!クリスぅ〜!」

 二人のたわむれを、南に来た太陽は雲間から優しく見つめていた。




「やっぱ、昼間っからはいねぇか〜」

 ロードは空いている店内を見渡した。やはり、昼間から酒を飲む人はほとんどおらず、カウンターに二人、奥のテーブルに一人がいるだけだった。店主も、一瞬ロードの姿を見ただけで、声も掛けない。キコキコとジョッキを布で拭いていた。

 ロードは昨夜のあのブロンドの女性を探していた。売春宿は夕方以降しか開かないので、まず手始めにと酒場から探していたのだが、これで五件目だというのに、目撃情報すら手に入ってはいなかった。

(何の情報もねぇし。やっぱ、夜しか出歩かねぇのかな?だとしたら、店のか?そうは見えねぇんだけどな・・・)

 考えつつ、カウンターの一番左の席に座る。注文もしていないのに、おつまみとビールが置かれた。自然と手が伸びる。

(夕方くらいから、店の周りを見張っとくしかねぇか。クリスに手伝ってもらうってのも、なんか恥ずかしいしなぁ。かといって、ガキは入れねぇし・・・)

 ジョッキの中身を半分にし、ロードは頭を抱えた。と、そこへ、カウンターに座っていた老人がロードの隣に移動してきた。

「のぅ若いの。悩み事か?」

 顔を上げると、そこにはしわだらけの顔に笑みを広げた白髪の男がいた。ロードはぶっきらぼうに「別に」と言い放つ。老人はヒョヒョと笑うと、「どっこらしょ」と言い、

「わしが若い頃はのぉ〜」

 と、席に座るやいなや昔話を始めた。

 彼の話は延々と続き、ロードは頭を抱えたまま、しばらく酒場で時を過ごすはめとなった。




「どうこれっ!?」

「いいんじゃない?」

 宿屋<陽だまりの丘>の一室で、レッドは新しいシャツに袖を通していた。

 昼食後にクリスと買い物に行き、そこで二人は服を買っていたのだ。レッドは赤色のチェックのハーフパンツに、袖の部分が同じく赤い七分袖のシャツ。クリスは淡いグリーンのシャツを紫色に替えていた。

「ありがと。クリス」

「いいよ。これくらい。いつも頑張ってるレッドにご褒美」

 笑顔で答え、クリス自身も鏡にその姿を映す。

(良い買い物をしたな)

 と、嬉しく思っていると、レッドが口を挟んだ。

「ねぇ、何でロードにも買ったの?」

「一人だけ買わないのはかわいそうだろ?」 

 鏡に後姿を映し、クリスはレッドに向き直った。彼はベッドに腰掛けて、足をブラブラさせている。

「でも、あいつお金持ってるじゃん」

「そうだな」

 苦笑し、クリスは窓から外を見た。

 馬車がカラカラと音を立て走っている。様々な商人の声、通行人の会話。クリスにはこんなにゆっくりと町を眺めることは久し振りであった。

 陽が西に傾き始めている。ゆっくりと影が長くなってきているのが分かった。

「レッド。夕飯はなんにする?」

「う〜〜んとねぇ。ハンバーグ!」

「んじゃ、そうしようか。どっかおいしそうなとこ探そしに行こう」

 町がオレンジ色に染まり、クリスとレッドは新しい服を着て、再び部屋を出たのであった。


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