馬車の町<ピース> 2
ロード君です。上機嫌です(笑)
「さ〜ってと。一杯引っ掛けに行くとしますかっ」
大きく伸びをし、ロードは夜も更けた通りを歩いていた。先に酒を飲んでも良かったのだが、酔っ払うまで飲んでしまうと、女を抱けなくなってしまう。今夜は久し振りの女性の身体に、ロードは大満足だった。浮かれた足取りで石畳を鼻歌交じりで歩いている。
(さっきの店の娘は、なかなか良かったな。<リリィ>よりもちょっと安いし。いい娘を見つけたもんだ)
通りの先に酒場があった。看板には<梟の小屋>と書かれており、店内から明るい光が通りにまで漏れている。
「おっ。あったあった」
ロードが独り言を言ったまさにそのとき、その酒場の前を通り過ぎる一人の女性と目が合った。グレーのレースのショール。その下には長いブロンドの髪。心なしか青い大きな瞳は驚いているようにも見えた。
「あ・・・・・」
ロードが嬉しさと驚きの混じった声を発したとたん、駆け出す彼女。
「待てって!」
慌てて、ロードも後を追う。
(今度は逃がさねぇ!)
夜も遅いため、馬車は昼間や夕方よりも随分と減っていた。その為、石畳の道を縦横無尽に走り回ることができた。彼女のヒールの音とロードの靴音、そして自分の息遣いしかロードの耳には入ってこない。
いつの間にか、中心街から離れていた。小さな家々にはもはや明かりも点いてはいない。その家の間をロードたちは走っていた。
「おいっ!逃げるなって!」
言うが彼女は止まらない。「ちっ」舌打ちをし、ロードはぐんとスピードを上げた。みるみる距離は縮まり、ロードはやっとのことで彼女の右腕を掴んだ。
「おっし。捕まえた」
走ることを止め、彼女は腕を捕まれたままうつむく。肩が上下しているところを見ると、全力で走っていたらしい。ロードも軽く息を整えると、
「なんで、逃げたの?」
優しく訊いた。しかし、答えは返ってこない。
「前にも・・<リリィ>で会ってるんだけど・・・覚えてないかなぁ?」
やはり、無言のまま下を向いている彼女に、ロードは小さくため息をつくと、空いている左手で彼女のショールをさっと取った。
「あっ・・!!」
小さく叫び、彼女はそれを取り返そうと上を向いた。そこで、再び目が合った。
瞬間、ロードの全身に電流が流れた。本当に雷にでも打たれたかのように、心臓が早鐘を打っていた。
闇にブロンドが輝いている。瞳は驚きで見開かれ、赤い唇は何かを言いたそうに少し開いていた。
「返してっ!」
彼女の透き通るような美声に、ロードは我に返った。彼女はロードに取られたショールをもぎ取ろうと、手を伸ばす。が、すんでのところでロードはそれをかわした。くるくるとショールを回しながら、
「やっと顔見れたのに・・・。こんなもんしないでいーって。すっげぇかわいいのに」
「返してよっ!」
キッと睨みつけられ、ロードは苦笑しつつそれを返した。これ以上怒らせると、彼女が本当に帰ってしまいそうだったからだ。最も、ロード本人はそれを楽しんでいたのだが・・・。
ショールを半ばひったくるように奪った彼女は、顔を紅潮させて、まくし立てた。
「こんな夜遅くに、女の子を追いかけるなんてサイテー!誰だって逃げるに決まってるでしょ!?」
「わ・・悪ぃ。何つーかさ、その・・・知り合いになりたくってさ」
言うと、ロードはニッと口の端を上げた。
「こんなトコで立ち話もなんだしさ。俺のトコに来ない?」
一瞬、驚きの表情を見せた彼女だったが、みるみるそれは怒りのものへと変わり、
「もう、サイテー!!」
言うが早いが、ロードの股間を蹴り上げた。あまりの突然の衝撃に、思わず彼女を掴んでいた手を離し、その場にうずくまってしまう。
「女ったらしに興味ないのっ!さよならっ!」
捨てゼリフを残し、彼女は元来た道を逆走していく。
「くそっ・・・油断した・・・」
ロードの呻きは馬のいななきにかき消されたが、蹴られた痛みは当分和らぐことはなかった・・・。
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