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君となら  作者: 中原やや
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馬車の町<ピース> 1

やっと町に着きました。

この<ピース>編はかなり長くなるので、こころしてお読みください。

ロードに何か進展(?)があるかも・・・

 町は夕焼け色に染まっていた。

 太陽は一日の仕事を終えようと、山の後ろへ自分の姿を隠そうとしている。町の家々からは夕食の準備だろうか、至る所からおいしそうな匂いが立ち上っていた。

 三人が<ピース>の町に着いたのは、ちょうどこのときだった。

「・・・やっと着いたぜ」

 ため息と共に言葉を吐き出すロード。クリスも「ああ」とだけ短く答える。

 ライトスライムを倒した後、<アスター川>を東に下って行ったはいいが、立て続けにゴブリンの集団に出会い、ロードとクリスはほとんど休む暇なく戦いづめだった。それに加えて、この真夏のような暑さ。体力を奪われ、歩調も遅くなり、昼には到着予定であったはずが、こんな時間にまでなってしまっていた。

「ようこそ 馬車の町<ピース>へ」

 町のゲート――と言っても、板にペンキで書いただけのものなのだが――をくぐり、三人は町へと入った。

 <ピース>は<リリィ>の東に位置しており、<平和都市・チューリ>の中心都市として栄えていた。<平和都市>というだけのことはあり、この国は他のどの国よりも犯罪は少なく、ここ数十年と戦争・内紛等争いごとは一切無かった。これもひとえに女王<アイビー>の力と言えよう。彼女は国民から絶大な人気を得ていた。今年で50半ばというのに、容姿は未だ若く美しい。加えて、自分の信念をきちんと持ち、国民にはっきりと示している。また、国民の立場に立って考えるために、週に一度、城下町へおもむくことも彼女の人気の理由の一つになっていた。

「へぇ〜。結構、にぎわってるじゃねぇか」

 体の疲れも、華やかな女性たちを見てどこかへ吹き飛んだ。ロードが口笛を吹くと、なまめかしい仕草で女性たちが手招きをする。

「クリス。行かねぇか?」

「行くって・・どこへ?」

 レッドの手を引きながら、クリスは小首を傾げた。ロードは嬉しそうにニヤニヤ笑いを浮かべて、あごで通りの奥、女性たちのいるほうを指す。クリスは眉を寄せた。

「俺は遠慮しとく。そういうのは嫌いなんだ」

「へぇ〜。お前なら随分とモテるのにな。んじゃ、俺は行って来るわ。宿、テキトーに取っといてくれ」

 足取りも軽く、ロードは女性たちの輪の中に入っていった。キャーキャーと黄色い声がクリスの耳まで届く。そちらを向いていたクリスに

「・・・あんな男だよ?いいの?クリス」

 と、半ば心配げにレッドが見上げた。クリスは目を閉じ、首を振る。

「仕方ないさ。男って・・・そういうモンだよ」

「でも・・おいらは・・・」

「レッドはいい子だよ。ロードみたいになっちゃダメだよ?いいね?」

「わかってるよぉ」

 ややふくれるレッドの頭に、クリスはそっと手を置いた。しばらく、ロードが消えた辺りを見つめていたが、「さて」と、レッドを促す。

「俺たちは宿を探すか」

「うんっ」



 

 石畳の道を馬車が軽快な音を立てて走り抜ける。

 <馬車の町>と言うだけあって、何十台もの馬車が行き交っている。道を横断するのにも一苦労だった。

 空が暗くなるにつれ、店は次々と閉められていく。もうすぐ町が夜の顔へと変わるのだ。

 クリスとレッドは宝石を金に替える店を探していたのだが、やはりもうこの時間にはどこも閉まっていた。

「やっぱり、明日にしようよ。ロードのもあるし」

 そういうとレッドは両替屋の隣にある小さな雑貨屋に目をやった。まだ開いているのを確認すると、その中へ入っていく。

「こら!レッド!」

 あわてて、クリスも後を追い、中に入る。そこには小さなアクセサリーや日用品・お菓子やおもちゃ・食料品等ありとあらゆるものが揃えてあった。店を閉める直前だったためか、クリスたちの他には客は誰もいない。

「クリスっ!これ欲しいっ!」

 目を輝かせ、クリスに見せるレッド。手に持っていたのは髪飾りだった。黒い薔薇ばらが彫刻されている。クリスは一目見て、ニコッと笑った。

「お母さんに?」

「うん!似合うと思って・・・ダメかな?」

「いいよ」

 クリスの答えにぱぁっと表情が明るくなる。

「んじゃあね、あとお菓子もっ!」

「3つまでな」

 店内を走り回るレッド。クリスは微笑むとアクセサリーの棚に目を向けた。少々安っぽいが、かわいらしいものがそこには飾られていた。それらをしばらく眺めていると、

「彼女さんにかい?」

 腰の曲がった老婆がクリスに話しかけてきた。どうやら、この店の主人らしい。背丈がクリスの胸ほどもない。

「ええ・・・まあ」

 クリスが曖昧あいまいに答えると、老婆はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにしてホッホと笑い、

「これなんかはおススメじゃよ?」

 と、赤い小さな石がはめ込まれた指輪を手渡す。リングはハートの鎖のような形になっていた。

「あ・・・かわいい」

「気に入ったかい?」

 ホッホと笑う店主。丁度そのとき、レッドがお菓子を抱えクリスの下にやってきた。

「じゃあ、この指輪と髪飾りとお菓子をください」

「はいはい」

 カウンターに行き、店主はゆっくりとした動作で計算をし、袋に詰める。それが終わると、クリスに袋を渡しながら金額を言った。

「銀貨1枚と銅貨1枚じゃな」

 彼女の手の中にお金を入れ、クリスたちは礼を言うと店を出た。外はすっかり暗くなっていた。

 結局、クリスとレッドはこの店の近くにあった<陽だまりの丘>という宿に泊まることに決めた。受付で部屋を二つ取り、一つはロードの名前で登録しておいた。宿の主人にも「後からロードという名前の剣士が来る」と告げておくのも忘れはしなかった。

「あー疲れた」

 クリスは鎧とマントを脱ぎ、剣をソファに立てかけると、ベッドに腰を下ろす。肩の荷物を下ろしたレッドは、もう一つのベッドの上で、先程買った髪飾りを眺めながらお菓子の袋を開けていた。

「レッド、食べ過ぎちゃダメだよ?」

「わかってるって」

 クリスのほうを見ずに答える少年に、クリスは苦笑する。

「ご飯、食べに行こうよ。そしたら、俺も出かけるから」

「そっか」

 お菓子の袋から顔を上げ、レッドはクリスをじっと見た。

「大丈夫?」

「何かあったら・・・そのときは・・・」

「うん。任せといてよ」

 ニカッと笑い、レッドはお菓子の袋をくしゃっと潰した。

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