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君となら  作者: 中原やや
13/67

マホウ 4

「にしても、っちーな、今日は」

 ひたいの汗をぬぐい、ロードは空を見上げた。まだ、昼前だというのに、気温は真夏のように暑かった。

「まだ、夏じゃねーだろっつーの!」

 毒つくロードとは対照的にクリスは黙々と歩いている。レッドも先程拾った木の枝を振り回しながら、今や三人は川沿いを東に向かって歩いていた。

 昨夜の戦い以来、何もモンスターと遭遇してはいなかった。そのことと、今日の暑さがロードを苛立たせていた。

「くそっ」

「ロードぉ。イライラするともっと暑くなるよ?」

 レッドにたしなめられ、ロードはチッと舌打ちをする。と、クリスと目が合った。不思議そうにロードを見つめている。

「・・・んだよ?」

「いや・・。何でそんなに暑いのかな、と・・・」

「お前が変なんだよっ!」

 確かにクリスはロードとは異なり、汗一つかいてはいなかった。長袖を肘までまくり上げてはいるものの、マントを付けているにも関わらず、である。

「川から気持ちいい風が流れてきてるじゃないか」

「風っつっても生ぬるいしよ。しかも、草の匂いがすっげーするしよっ!あーーーー!!もうっ!何でもいいから出て来いってんだっ!!」

 半ば叫び、足元の小石を思い切り蹴る。それは近くの木に当たり砕け散った。木に止まっていた小鳥たちが一斉に飛び立っていく。その小鳥たちを見上げ、ぽつりとクリスはこぼした。

「かわいそうに・・・」

「それは俺のほうだぜ」

 つぶやいたロードの言葉にレッドが「どういう意味?」と尋ねる。ロードは大げさにため息をついてみせ、

「旅の連れが嘘つき魔導師にガキじゃな。どうせなら色っぽいねーちゃんと二人っきりで旅したかったぜ」

「お前・・・。なら、始めに断ればよかっただろ!?」

「あん時は金に目がくらんだんだよっ!お前だっていモン着てたしなっ!それに、ゴブリンくらいでへばってるようなヤツに俺の相棒はつとまんねーんだよっ!」

 いつの間にか、ロードとクリスの二人は足を止め、向かい合って口喧嘩を始めていた。ロードの方が背が高いため、クリスは下から見上げる格好となっている。

「何だよっ!その言い方はっ!俺はお前に助けを求めてないだろう?」

「必死だったくせによく言うぜ!なんなら俺が手取り足取り教えてやろうか?クリスちゃん」

「なんだとっ?!」

 クリスは顔を紅潮させて目の前の男を睨みつけた。ロードはというとニヤニヤと笑っている。レッドは「もう勝手にやってよ」と、近くの切り株に腰を下ろしていた。

「男にもてるんだもんな〜クリスちゃんは」

「お前っ・・・!!いい加減―――」

 クリスの言葉はここで途切れた。ロードが途中でクリスの口をふさいでいたからだった。

「何か・・・いるぞ!」

 ロードの言葉に、頭に血が上っていたクリスも冷静さを取り戻した。神経を張り詰めると、確かに何かの気配がする。視線を巡らすと、レッドの座っている切り株の近くに淡白く光るものがびっしりとひしめいていた。

「ライトスライムだ」

 ロードの左手を口から引き剥がし、クリスは小声で言う。そして、視線をスライムに向けたまま、

「何匹かは宝石を食ってるヤツもいるかもな」

「かも・・・か」

 ニッと口の端を上げ、ロードは長剣を音もなく抜いた。それで分かったのか、レッドがあわててクリスの下へと走る。ロードとクリスは口喧嘩をしていたことも忘れ、それぞれ武器を構えた。

「へばるんじゃねーぞ。おぼっちゃん」

「金の亡者に言われたく無いね」

 ロードの皮肉にクリスは平然と答える。フッと笑うと、ロードは駆け出した。

「行くぜっ!」

 ロードの叫びに反応して、ライトスライムは分裂し、増殖する。これは大きな音に反応して密集・分裂する性質のためであった。

ザンッ

 ライトスライム3匹は光を散らしながら四散する。2匹がロードの顔面めがけ飛んでくるが、それを難なく避けると、剣を一振り。落ちている宝石をポケットに入れた。と、ここで、ロードは気付いた。自分の両足の膝から下がライトスライムでひしめいていることに。

「げっ!気持ち悪っ!!」

 足を振れども、2,3匹取れただけで、未だにくっついている。「くそっ」吐き捨て、仕方なくロードは剣で1匹づつ刺し貫いていく。

(めんどくせーなー。クリスはどうしてるんだ?)

 思いクリスのほうを見て、ロードは思わず絶句した。戦ってなぞいなかった。もうすでにレッドと宝石の回収作業に取り掛かっている。

「おいっ・・!お前・・もう終わったのかっ?!」

 左手は休めぬまま、クリスに尋ねるロード。クリスは笑顔で「ああ」とだけ答えると、

「そっちはまだなのか?」

 と、付け加える。ロードは、顔をめがけ飛んでくるライトスライムを避けつつ、足のモノを刺す作業に、もういい加減にうんざりしていた。

「なぁクリス・・・手伝ってくれよ。相棒だろ?」

「お前の相棒は務まらないんじゃなかったっけ?」

「あれはだな〜〜・・・暑さで、イライラして・・・」

「ふぅ〜ん」

 意地悪く笑うクリスにロードも引きつった笑みを返す。と、あの出来事が頭をよぎった。

「クリス、いいか?良く聞けよ?俺が酒場であの時助けてやらなかったら、お前、今頃どうなってたか分かるか?」

 クリスの脳裏にあの酒場での出来事がよみがえった。空いていた席に腰を下ろしたとたん、声をかけてきた中年の男性。馴れ馴れしく、肩に手を置いたかと思うと、腰にまで手を回してきた。今、思い出しただけでも吐き気がこみ上げてくる。

「・・・わかった」

 クリスはため息をついた。

「じゃ、手っ取り早く<魔法>を使う。動くなよ?」

「なっ・・?!ちょ・・・ちょっとタンマっ!」

 クリスの手助けに喜んだロードであったが、<魔法>の言葉にみるみるうちに顔が青ざめていった。

「俺までくらっちまうじゃねーかっ!」

 ロードの抗議の声を無視し、クリスは剣をさやに収めると、両手をロードにかざした。

「ま・・・待てっ!クリスっ!!」

「『水流魔法フラッド』」

 澄んだ声が森に響く。クリスの足元から水が徐々に湧き上がり、生き物のようにうねりだすと、大波は目標物に向かい一気に押し寄せた。

「クリっ・・・」

 ロードの叫びも波に飲み込まれ、かき消される。程なく水は無へと還り、残ったものは小さな宝石とずぶぬれになったロードのみ。

「よっ。色男。大丈夫か?」

 クリスは意地悪く笑いながら、呆然ぼうぜんとしているロードへと近づいた。

「ダイジョーブ・・・なわけねーだろーがっ!死ぬかと思ったぜっ!」

 言うと、濡れた前髪をかき上げる。そんなロードをレッドは見上げると、

「ロードと違ってクリスは優しいんだ。殺すわけねーだろっ」

 と、ロードの足元の宝石を拾っていく。ロードはチッと舌打ちした。

「っとに。いきなりすんじゃねーっつーの!」

「青ざめて、少しは涼しくはなっただろ?この暑さじゃ服もすぐに乾くさ」

 そして、レッドに「行くぞ」と一言。歩を進める。

 ロードは長剣を収めると、鎧を脱ぎ、シャツをしぼった。

(こいつ・・・わざとあの<マホウ>を?)

 一瞬そう思うが「まさかな」と苦笑いし、だいぶ先でこちらを向いて待っているクリスたちを見つめた。

「おーい!置いてくぞ!」

「わーったよ」

 濡れたシャツを着、鎧と盾を持ってロードは彼らの元へと駆け出した。

 空は青く、暑い日ざしが3人を見下ろしていた。

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