マホウ 3
<アスター川>の反対側で、三人は野宿をすることに決めていた。クリスの魔法で火をおこし、その周りに寝床―と、いっても、落ち葉や枯れ草を集めたものだったが―を作る。
「お前、あの火もソレでやっただろ」
と、意地悪く笑ったロードに対し、クリスは「秘密」と笑って答えていた。
クリスのマントにくるまり、レッドがすやすやと寝息を立てている。大人びて見せても、やはり子供なのだと、ロードは再認識していた。
焚き火を挟んで、それぞれ横になる。クリスはレッドに寄り添うような形をとった。鎧を脱ぎ、ショルダーガードを枕にする。
「・・ロード」
「うん?」
横になったまま、クリスがそっと話しかけた。
「魔法のこと・・・ごめんな」
「謝ることじゃねーって」
ロードは空を見上げた。分厚い葉の遥か彼方に星が散りばめられている。
「お前が謝ることはねーよ。何、気にしてんだ?」
「黙ってたから・・・。やっぱり、先に言っておくべきだったかな、って・・・」
「ん〜〜・・・まぁ・・な」
ぽりぽりと鼻の頭を掻くロード。こちらからはクリスの表情は分からない。赤い炎がゆらゆらと揺れている。
「先に言っといてくれてたら、戦い方は変わったかもな。ま、人目につかなきゃダイジョーブって。今じゃ<マホウ>なんて使えるヤツも少ないしな」
ロードの言葉通り、今では<魔法>に関する文献はほとんどといっていいほど無かった。100年前に起こった<魔法戦争>以来、その姿を目撃されることはまずなかった。ロードとて同じで、幼い頃歴史の授業で聞き知ってはいるものの、この目で見るまではその存在なぞ信じてはいなかった。
「なあ・・・クリス。お前、<マホウ>どこで――」
「お休み、ロード」
口を開きかけるロードに、しかしクリスは言葉をかぶせた。体もロードとは反対に向ける。
しかたなく、ロードはため息混じりにつぶやいた。
「お休み、クリス」
(<マホウ>については『秘密』ってことか・・・)
そして、そのまま瞳を閉じた。
翌朝、ロードは木々の間から漏れる朝陽に目を覚ました。運の良いことに、モンスターに襲われずに済んでいた。大きく伸びをし、上半身を起こす。焚き火はすでに消え、その向こうにはレッドが大の字で眠りこけている。
(あれ、クリスは・・・)
思い、辺りを見渡すと、川辺に座りなにやらしているクリスの姿。ロードはそっと起き上がると、彼の元へ行った。
「よっ」
「ああ・・起きたのか。おはよう」
クリスの手元を覗き込むと、昨夜とは違う果物が冷たい川の中で光っている。木漏れ日に水面が反射し、ロードは少し目を細めた。ザバッと顔を洗うと、クリスの手から果物をひょいと掴み、早速口に運んでみる。それは柔らかく、りんごのように甘酸っぱかった。
「レッドは?まだ寝てるのか?」
「ああ。ぐーぐー言ってるぜ」
「それじゃあ、起こして来るか」
ロードに果物を二つ渡し、クリスは大の字で寝ているレッドの下へ向かう。
「ん〜〜・・もう朝ぁ?」
レッドの眠そうな声が果物を食べているロードの耳まで届いた。一つを胃の中に収め、もう一つをポケットに入れると、ロードは大きく伸びをする。
(あと半日も歩けば<ピース>だな。さて、今日も稼ぐか)
振り向くとクリスがレッドの身支度を整えてやっていた。子供を叱る母のようなクリスに思わず苦笑する。
「・・・・こんな旅もいいかもな」
つぶやいた言葉は、木々のざわめきの中に消えていった。
まだまだ続きます。
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ロードの性格とかって、気に入っていただけてるんでしょうか?
まだ、そんなにひけらかしてはないですけど(笑)