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七話

 獣人と言う種族は仲間意識が非常に強い。特に仲間内の弱者に対する扱いは過保護と言っても良いくらい目をかける。

「あら」

「お」

 今まで避けていた相手とうっかり鉢合わせしてしまい、しまったと回れ右をしようとしてハグをされて阻止される。そのまま、体を持ち上げられ顔中にキスを落として可愛がられる。嫌だと抵抗しようにも体格差と筋力の違いからあるので無意味だ。気付けば抱えられて運ばれていた。

 おそらく向かっている先は風紀委員室だ。避けていた相手は中等部から風紀委員をしていて、見かける度に連行されているので行動も読みやすい。

「オメーら、帰ったぞ。俺様の小さな妹も連れてきたから、さっさと茶ぁ出しやがれ」

 乱暴に風紀委員室の扉を開けると、お馴染みのメンバーがチィーッスと挨拶してくる。彼らは中等部のころからの光景に、誤解も嫉妬もせずに微笑ましいと言わんばかりに穏やかな笑みを玖路達に向けてくる。

 椅子に腰かけた誘拐犯、至狼は自分の膝の上に玖路を乗せ、抱きつきながら顎を玖路の頭に乗せる。

「高等部に上がってどうだ? 誰かに苛められてないか? 友達はできたのか? 勉強はついていけるのか?」

 従兄の嵐のように聞いてくる。予想はしていたが、随分と心配していたらしい。連行される前に自分から風紀委員室にくれば良かったが、いかんせん玖路は至狼のことが苦手なのだ。いつでもどこでも見つければベタベタと体に触り、過度なスキンシップを取ろうとする。拒否ろうにも力の差から至狼にはじゃれついているように映るらしく、玖路に構ってもらえると勘違いして鬱陶しさが増すので、なるべくされるがままになるのが正解なのだ。

 前に一度、あまりにもスキンシップの多い至狼に耐えかねて、仲の良い獣人の仲間に聞いたことがある。至狼のスキンシップは普通かという問いに友人は頷いた。もっとも、彼らから見ると玖路は保護対象なので、スキンシップが多くなるのは当たり前なのだそうだ。

 獣人は長身が多くて女子も例外ではないのだが、高等部に進学した玖路は人間の女子の平均値程度しかない。それだけではなく、完全獣化した姿が頼りない子猫のように映るので、周囲の獣人達をやきもきさせるそうなのだ。理解しているからこそ拒絶の言葉を吐かないし、嫌いなわけじゃないから過度なスキンシップを我慢して受け入れる。獣人は愛情表現が過度なのだ。

 これで、対象が自分ではなくゲームの攻略相手や主人公などであったら萌えるのに自分だと萎える。

「玖路ちゃん、お菓子ですよ。いっぱい食べて大きくなってくださいね」

「ありがとうございます。でも先輩、これ以上背は伸びないと思いますわよ」

 狐の獣人が玖路では食べきれない量のクッキーを置く。残すような心配はない。玖路が食べきれなくても、後ろから抱えている至狼にかかればすぐに空になるだろう。というか、風紀委員はほとんどが獣人だ。成長期の獣人を舐めてはいけない。彼らの胃袋は掃除機のようで底が知れないのだ。

「それでどーなんだ?」

「そうですわね。わたくし、香子様と同室になりましたの」

「ああ、香子か。そーいや、聞いてたっけな。確かクラスも一緒なんだろ?」

「授業も手助けしてくれますの。わたくし、香子様と一緒のクラスで良かったですわ」

「ま、香子になら玖路のことを任せられるな」

 至狼は鋭い目を緩ませながら満足げに頷く。周囲の獣人達も同じように頷き、皆目じりを下げて保護者気分丸出しだ。生温かい雰囲気に居心地が悪くて、誤魔化すようにクッキーを頬張る。

「だけどな、香子は俺様よりも弱い。何かあったら俺様のほうを頼れよ」

 少し強い力で頭を撫でられから、口元に着いた屑をとられ口へと放り込まれる。あむっと人差し指を噛んでしまったが、特に痛がる様子を見せないので謝りもせずに新たなクッキーに手を伸ばす。

 その後、お菓子を食べすぎて夕食があまり入らず香子に叱られた。


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