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一話

 逸る気持ちが止められない。スキップでもしてしまいたい気分で、心がウズウズする。この春から高校生になる花宮はなみや玖路くろはご機嫌に高等部の寮を目指す。

 玖路は前世というものを持っている、いわゆる転生者という存在だ。転生して赤ん坊スタートだったが、赤ん坊のころの記憶は全くない。ただ、眠い、お腹空いた、不快だなどの気持ちが浮かぶだけで、寝ては食べて泣きの繰り返しだった。意識がハッキリし出したときのことは覚えている。

 前世の記憶を思い出して自分と言う存在を認識した途端、思わず「まだ漫画のちゅじゅき読んでいましぇんわ!」と叫び家族に心配された。今では懐かしむことができ、思い出になっているが当初は色々な情報が頭の中に入ってきて大変だった。幸い今までの玖路だという記憶もあったので、自分を囲んだ家族に驚きもせずに受け入れられたが、小さいぷにぷにした手を見て、あ、これ転生したんだなと納得した。

 今世の世界は前世の世界とは違い、人間以外の種族である吸血鬼と魔女、獣人が存在する。だからと言ってRPGゲームみたいなゴリゴリなファンタジー世界というわけではなく、舞台は地球で人種は日本人という現代ファンタジーの世界だった。そのせいか、あまり混乱はしなかったが、地味に常識がズレているのが痛い。高校生となった今でも戸惑うことは多い。

 吸血鬼と魔女、獣人の三種族は、三竦みの状態にある。吸血鬼は魔女に勝ち、魔女は獣人に勝ち、獣人は吸血鬼に勝つ。ここに人間が入らないのは、明らかに三種族に劣っているからだ。三種族は前世のファンタジー設定の種族とよく似ている。

 吸血鬼の特徴はお約束の如く血を吸うこと。ただし、無作為に相手を選んでいるわけではなく、魔力が多い者、すなわち魔女を狙って吸血しているのだ。また、容姿は美しく魅了の能力と固有能力と呼ばれる個々に違う不思議な能力を持っている。

 魔女は魔力が多くて占術に長け、魔法を使うことができる。魔法は自然や物を支配するような能力が多く、吸血鬼の固有能力と同じく一人一人違う魔法を持っている。

 獣人は直感が鋭く身体能力が並外れ高く、獣化すると獣になることができる。完全に獣になる完全獣化と人型をベースにして獣化する半獣化がある。それだけとしか思うかもしれないが侮ることなかれ、獣人の強さはとてもシンプルなのだ。

 面白いことに三種族の存在は周知の事実だ。違和感なく人間社会に溶け込み、吸血鬼は芸能や芸術、美容、ファッション系に強く、魔女は医療系と物作り系、植物関係に強く、獣人はスポーツや警察関係、動物関係の仕事に就いている。玖路としては前世の記憶があるだけにどこか釈然としない。現世がベースのファンタジーものだと、異能力者達は一般人に悟られないように隠していることが多い。万が一バレたときは記憶操作している描写があったりしたので、三種族が普通に暮らしていることに違和を感じる。

 当たり前だが三種族と人間の間には覆せない能力差があるので、人間のことは完全に下に見ている。人間も三種族にこうべを垂れて恐れ敬っているが、それほど負の感情はないみたいだ。人間は三種族のことを特権階級の華族とか貴族とかそういうものとして見ていて、自分達はその下にいる平民という思いが強い。三種族側としてもそんな意識だが、人間を馬鹿にしたり虐げているわけではない。強い者の宿命かお約束の如く繁殖能力が低いのだ。種族的に見ると数が圧倒的に違う。世界から見ると三種族なんて一握りの存在なのだ。

 種族数も少ないし、基本的能力が違うから学校は人間とわけられている。三種族が通う専用の学園は、日本で二、三カ所しかない。だからこそ、学園は幼稚舎から大学部まである一貫性の学校のものがほとんどだ。幼稚舎から初等部までは種族ごとにわかれて、中等部から合流し、中等部と高等部は全寮制で親元から離れて暮らす。大学部になると寮はなくなり、マンションやアパート、自宅から通うので人間達に交じって過ごすことになる。これがスタンダードだ。

 転生した玖路は希少種の三種族の一つ獣人だ。獣人は幼いころに姿が安定しないことが多く、人型を取ったかと思えば次の瞬間には獣の姿になるといった風になる。なので、幼稚舎はモフモフパラダイスで、小さな獣達はまるでぬいぐるみのように愛くるしかった。初等部も低学年は同じ感じで、リアルぬいぐるみが一生懸命動く姿には癒された。高学年になると皆安定してきて、少し残念に思ったが授業で色々な獣の姿は見れるので楽しい。

 中等部に上がってからある違和感に気付いた。右を見ても左を見ても美形や美少女ばっかりで、平凡なモブ顔は少なく、不細工に至っては存在すらしない。そんな、まさか……玖路は一つの結論に達した。

――ここはきっとBLゲームの世界だ。

 転生と言えば、ゲームの世界に転生するのはお約束だ。そんな物語をどこかで読んだことがある。きっと玖路もそうだ。ちょっと覚えのない世界観だが、BLゲームで間違いないだろう。

 なぜならば、BLゲームと言えば古今東西は言いすぎだが美形の宝庫と相場は決まっている。見渡す学生達が皆容姿端麗なのが証拠だ。BLゲームと言う単語から想像できただろうが、前世腐女子だった玖路は狂喜乱舞した。見目の良い男同士の絡みに鼻息荒く、バレないように物陰から観察した。妄想はもちろん、色々な相手と勝手に組ませ、勝手にカップリングを作ったりと、中等部は充実した日々を送っていた。

 玖路はにゃふっと笑う。

 BLゲームの学園ものと言えば舞台は高校である。これから素敵なBLストーリーが始まると思うと、高校生活がとても楽しみなのだ。


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