98 対面
深い森の中を、光真は走っていた。
途中に襲ってくる聖剣たちを問答無用で切り捨て、ただ光の先へ。
そして、ようやく開けた場所にたどり着いた。
「お前があの結界を貼ったやつか」
「ふむ……我に軽々しく質問するでないぞ」
白い髪の男は、振り返りつつ言った。
背が高く、広いマントがなんとも印象的な男だ。
ただし、辺り一帯を占める空間が、この男によって掌握されていることが分かる。
「人間という生物はいつもそうだ。自分たちが一番上だと思い込んでいる。なんたる傲慢、世界の頂点は貴様ら人間ではない。我らが神、クレアシル様。そして――――我だ」
男は空を見上げ、手を広げる。
今口にした言葉が、すべて正しいと信じて疑わない態度。
しかし、光真も負けじと凛とした態度で望む。
「……世界の頂点とかどうでもいい。俺はお前を倒す。それだけだ」
「生意気な人間だな――――処罰が必要と見れる」
両手を広げたまま、男は宙へ浮かび上がった。
「我は七聖剣の一人! 傲慢剣ルシファー! 傲慢を司る者である!」
「光真だ……しがない高校生」
◆◆◆
夕陽は荒れた岩場を駆けていた。
その身に黒炎を纏い、近づくものを一瞬の内に破壊し尽くす。
そうして駆け抜けた先に待っていたのは、黒い髪を長く伸ばした男だった。
眉間には深いシワが寄っており、目つきは鋭い。
赤と黒を基調とした服を着ており、手には禍々しい両刃の剣を握っている。
「あなたが結界の鍵?」
「うるさいな。人に聞く前に自分で考えろよ」
苛ついた様子の男は、その鋭い眼光を夕陽に向けた。
しかし、そんなものは夕陽を怯ませるに至らない。
「どっちでもいいや。殺すだけだし」
「ああ、うぜぇうぜぇ! ムカつくなお前……」
夕陽が構える、男も構える。
互いの表情に浮かぶ感情は、一つ、怒り。
「俺は七聖剣の一人、憤怒剣サタン。お前の名を聞いてやる」
「あなたに名乗る名前はない。どうせここで死ぬんだしいいでしょ?」
「……絶対殺すわ、お前」
◆◆◆
「腹減ったー、腹減ったー」
「……何です? あれ」
「危険ですよ……」
シロネコとミネコの視線の先、そこには、周りの聖剣たちに「腕」を伸ばし、手の平についた「口」でその肉体を喰らう少女の姿があった。
腕は触手のようにしなり、手の平に口があるせいで歪な形になっている。
「あー、人だ、人最近食ってない……食おうかな」
「来るです」
「はい!」
腕が伸びる。
二人は左右に別れることで回避し、無事で済んだ。
しかし後ろにあった木々は口にかじり取られ、更地となる。
「……あれには触れられないです」
「無事で済むわけ……ないですよね」
「あー、木も久々に食べた。美味い」
二人を狙ったことなど忘れ、少女は木を貪り始める。
するとあっという間に森の木が消えていき、いつの間にか広大な広場が出来上がった。
「でも、人も食いたい……ねぇ? 食べていいよね? ガマンしないけど」
「きっと美味しくないです」
「そう言う問題じゃないと思いますけど……」
会話には緊張感がないが、表情は真剣そのもの。
再び標的が戻った腕を、二人は冷静に回避した。
「行くです」
「はい!」
「腹減ったー」
◆◆◆
「うわぁ、僕だけこんなやつが敵なの? 他の聖剣は羨ましいなぁ、これじゃ何も楽しめないよ」
「……あなたがこの結界の鍵ですか?」
「そうだよ?」
エルカの前には、少年が立っていた。
少年は丸っこい眼でエルカを眺める。
そして、ため息をついた。
「君、雑魚でしょ? 攻めてきた人間たちの中で、一番弱いってすぐ分かるよ」
「ど、どこがでしょうか……」
「眼が濁りすぎ。僕を見てない。心ここにあらず、って感じ」
少年は憎々しげに頭を掻く。
「明らかに僕が相手だって分かるのにさ、何で僕を見てないの? 嫉妬しちゃうよ?」
「うるさい! 私は戦える」
「じゃあ、証明してみせて? 少しは戦えるってとこをさ」
「ッ!」
少年は、一瞬でエルカの眼の前に移動した。
今までの彼女であれば、見切っていただろう。
しかし今のエルカでは、それすら捉えることが出来なかった。
「僕は嫉妬剣レヴィアタン。君を殺す剣だよ」
レヴィアタンは、一回手を叩く。
手と手が合わさった瞬間、発生した衝撃はがエルカを吹き飛ばした。
◆◆◆
「おい! てめぇをぶっ飛ばせば、あの結界は消えんのか!」
「……めんどくさいのが来たなぁ。やだなぁ」
「何だ、だらしねぇ男だな」
ロアの向かった先には、地べたに寝転ぶ男の姿があった。
男は気だるげな様子でロアを見つめる。
やがてそのままの態度で立ち上がると、猫背気味のままで出現させた剣を構えた。
「めんどくさいけど、クレアシル様のためだしなぁ……さっさと終わらそ? 俺を殺せば結界が解けるしさ」
「へぇ、話が速いじゃん。んじゃやろうぜ」
片やいつまでも気だるげな男。
片や闘争心むき出しの獰猛な少女。
酷く対象的な二人が、向かい合っている。
「獣王の娘、ロア・レオネールだ」
「七聖剣の一つ、怠惰剣ベルフェゴール。ああ……名乗るのさえめんどくさい」




