94 息子
これにて四章は終わりになります。
次回から五章に入り、〈七聖剣〉との戦いが本格的になっていくでしょう。
結局、俺たちは翌朝逃げるように街をあとにした。
今頃街は騒ぎになっているだろうな。
けど通り魔がいなくなり、平和になったんだから許して欲しい。
道中は迷うこともあったが、体力の多さを武器に2日ほどでたどり着いた。
そして現在――――――――――――。
「……本当に残んのかよ」
「ああ、俺は今しばらく人間大陸に残る」
人間大陸の港街。
数週間前、俺とルリがリヴァイアの背に乗って出発した街と同じ街だ。
「決心は鈍らないようだな」
「……このままじゃ勝てねぇやつがいるって分かったからな。強くなるために、俺にはまだこの大陸でやるべきことがある」
「チッ……わーったよ。んじゃ、ちゃんとデザストル様にてめぇの生存は伝えておく」
「頼む」
二人が船に乗り込んでいく。
俺もこれに乗って魔族大陸に帰れば、あいつらを安心させることが出来るかもしれない。
だが、今の俺があいつらと合流したところで、足手まといだ。
「情けねぇな……」
「そう悲観的になるな。相手は神なんじゃから」
「……」
ストローの言うことはもっともなのかもしれない。
それでも、最強最強言ってた頃の俺が恥ずかしい。
周りにでかい顔してたのも馬鹿みたいだ。
まだまだ、俺より強いやつらはちゃんといる。
「やっぱり、納得行かねぇよな」
「何がじゃ?」
「俺が最強じゃないってことがだよ」
俺は出港した船に背を向け、歩き出す。
今勝てねぇなら、鍛えて出直せばいい。
それでも勝てないようなら、勝てるという確信が得れるまでまた鍛えればいい。
もう一度、最強になればいい。
「っしゃ、行くか!」
「うむ!」
目指すは、こいつ、破壊神デストロイアが祀られている〈崩壊の祠〉と呼ばれる場所。
そこへ行けば、ある程度ストローの力も戻るらしい。
そうなれば、俺の神力の特訓も効率が上がる。
「待ってろクレアシル……元〈化物〉の力をな」
俺は頬を叩き、歩くペースを上げた。
◆◆◆
「傷は大丈夫かよ? セツの大食いで治してもらえばいいのによ」
「私の傷程度ではあれの腹は膨れんだろう。それに、いちいち頼っていては私たちが弱くなる」
「……まあな。俺たちは……ちょっとあいつを頼りすぎてたのかもしれねぇ」
海の上のラミナとジオンは、今までセツにどれだけ任せてきていたかを思い出す。
自分たち魔族が、どれだけ彼に依存していたかを。
「思えば、やつはどんな時でも前線に出て戦ってた。俺たちはそれを見て後ろで呆れるだけ、やっぱおかしいよな?」
「ああ。規格外ではあるが、彼も私たちと同じ「人」。助けなしでは生きられない」
ジオンは、海を眺めながらため息を吐く。
そのため息には、決意の色も含まれていた。
「仕方ねぇ。ちょっくら俺も鍛え直すとしようかね」
「同感だ。久しぶりに山ごもりをしようと思っていた」
彼らとしても、強さに愛着がないわけではない。
特別な才能などはなかったが、死に物狂いでここまで強くなった。
そしてこれからも、強くなるためならばいくらでも狂う。
誰も、最強になることを諦めてなどいない。
「へっ、やる気じゃねぇか! 俺も――――――――――――」
「あー、君たちかー。ミラージュを倒したって連中はー」
「「ッ!」」
その声は空からした。
二人が見上げた先には、何かがいる。
何かと言うのは、彼らには分からない。
だが一瞬で理解した。
この何かは、自分たちよりも高い次元にいることを。
「うーん。しょぼいなーこんなんに負けたなら僕たち〈七聖剣〉が弱いみたいじゃん。勘弁してほしいよねー」
「っ! 貴様は聖剣――――――――――――――」
「はいはいー騒がない騒がないー」
パンッと、何かが手を叩く。
彼の記憶は、この辺りからおぼろげである。
まず一瞬の沈黙。
そして爆音と衝撃。
押し潰されるように大破する船、投げ出される船員と荷物。
荒れ始めた海に投げ出されたジオンとラミナは、飛びかけた意識の中、空中にいる何かをひたすら視界に入れていた。
「ばいばい」
その姿は黒髪の少年で、まだ幼い。
だがその貼り付けたような笑顔は、消えゆく彼らの意識の中に、明確な恐怖を植えつけた。
◆◆◆
「はぁ、そろそろ退屈だね。そうは思わないかい? 光真くん」
「……そうですね」
「やだなー敬語なんて使わなくていいよ。僕に敬意なんて払いたくないだろ?」
「分かってるならその馴れ馴れしい態度をやめてくれないか」
ごめんごめん――――――と言いながら、冬真は笑う。
ここは魔王城地下の牢獄。
その牢屋の中に、冬真と光真は対面する形で入っていた。
魔力を抑制する鉱物が練り込まれた壁に囲まれているため、彼らは上手く魔法が使えない。
だがそれ以外の拘束は特になく、冬真に至っては今すぐにでも脱出出来てしまうだろう。
それでも、冬真はそれをしない。
彼の態度は普段と変わらないように見えるが、精神はボロボロだ。
気力がもう、ないのだ。
「君も気の毒だね。お仲間が全員いなくなっちゃったんでしょ?」
「……あんたは本当に何も知らないのか?」
「ごめんね、何も知らない。僕の直属の部下はガイア含めてみんな死んじゃったし、君のクラスメイトをどうこうできるやつは一人もいなかった。死んではいない……と思うけどね。攫われたってのが可能性としては一番高いんじゃないか?」
「どうして……そう思う?」
その問いに、冬真は指を三本立てて答え始めた。
「まず、痕跡がない。殺されているなら、血痕とか残留魔力とか、殺された証拠が残るはずだよ。それがないってことは、少なくともその場で殺されてはいないと思う」
ただクレアシルみたいに、跡形もなく消し飛ばせるような能力者がいなければの話だけど――――――とつけたして、次の話へ行く。
「次に、目撃証言がない。君のクラスメイトだって決して少人数じゃない。それを一人ひとり始末していたら、ある程度の時間が必要なはずだ。その間、慌ただしい戦争中なら誰かが見かける可能性が高い。でもそんな情報は今の今まで一つも出てこなかった。ここまでくれば、もう攫われたってことでいいんじゃないかな?」
「……」
冬真の話は的を射ていた。
肉片の一つでも落ちていたら話は別だが、そのままの意味で跡形も無いのだ。
攫われたという話も、これで納得が行く。というか納得したい。
仲間が死んだなんて、誰だって思いたくないものだ。
「そして最後。これはもう直接的には関係ないんだけど……1つだけ、1つだけ「異世界人」の身体を欲しがっていた団体を知っている」
「ッ!」
彼が語った内容はこうだった。
その団体名は〈テラン商会〉。
前に冬真自身も取引をした大手の商会だ。
その会長であるテランは現在廃人のような抜け殻になっているが、その商会自体はまだ残っている。
最後に彼が知った情報は、その商会の会長がテランではなく、その弟になったと言う話だった。
そして、肉親を捕らえた魔族に酷い恨みを抱いていること……。
「彼らが魔族に復讐を考えているなら、お得意の生物兵器開発で戦力強化してくるだろう。その良い実験材料に、君のクラスメイトはなったんだろうね」
「……ッ! ふざけんな!」
光真はあまりの怒りで鉄格子に頭突きをする。
ガンという音ともに彼の額から血が流れ出すが、すぐに治ってしまった。
「……助けに……行きたい」
「まだ確証が取れたわけじゃないから早まっちゃダメだよ。それに、今の君だったら確実に負けるね。力を使いこなしていなさすぎ」
「……」
光真は歯を食いしばった。
彼の言葉は、その通りすぎだったのだ。
「だったら……俺を鍛えてくれよ」
「ん?」
光真は拳を床に叩きつけたあと、勢いよく立ち上がる。
そして真っ直ぐ冬真を見つめ、そう言った。
冬真はしばらく呆然としたあと、一息吐いてから話しだす。
「はぁ……何でセツ以外の人のためにそんなことしないといけないのかなぁ?」
「あんただって神を倒したいんじゃないのか!? 恨んでるんだろう!? それなら俺を強くしてくれれば戦力になれる! あいつには届かなくても、足を引っ張らなくなる! どうだこの条件!」
「……」
正直、冬真からすれば、まったくもっていらない話であった。
時間を失い、役立たずを一人作り出すだけかとも思っていた。
だが、彼の不思議な前向き姿勢は、不思議と嫌いではない。
(セツも……きっとこいつと同じこと言うんだろうな)
冬真は立ち上がって鉄格子の元まで行く。
そしてそのまま、鉄格子を持って左右に広げた。
「よいしょっと……」
「お、おい……」
そのまま牢屋を抜け出し、向かい側の光真の目の前まで行く。
「まずこれから始めようか、鉄格子を広げて脱出するだけ。簡単だろ?」
冬真の目に、ほんの少しだが光が生まれた瞬間であった。
◆◆◆
「ッチ、卵切らしてんな……あとで買いに行かねぇと」
「……ホーント、あんたって主婦姿似合わないわねー」
「うるせぇ、こう見えてもうベテランだ」
黒髪で目つきの悪いエプロン姿の女は、リビングの椅子に座っている桃色の髪の誰もが羨むような美女にお茶を出した。
桃色の髪の女は一口飲むと、それを置いてホッと息を吐き出す。
「それより、どうするのよ。あんたの息子、ちょっと面白いことになってるじゃない」
「ああ、めんどくせぇことにな。あの破壊神にくっついて神力の特訓ねぇ……当分無理だろうな」
「でしょうね」
黒髪の女も席につき、お茶を飲む。
豪快に足を組み、湯のみを上から掴むようにして飲む姿は、そこらの男よりも男らしい。
「条件をクリアしねぇ限り、あいつの神力を塞き止めているダムは決壊しない。このままじゃ、ずっとあの朝露みてぇな神力で戦うハメになる」
「でもその条件はデストロイアが知ってるんじゃない?」
「知ってるだろうな……けどこれは賭けだ。早いうちに条件をクリアすると、力を失う可能性すらある。だからって怖がっていれば、あの〈七聖剣〉どもにも敵わねぇってこった」
湯のみを再び持ち上げて、飲む。
その手が退くと、その下には母の表情があった。
「ま、余計なことしようとしやがったら殺せばいいし、しばらくは任せてみるか。お前だってあの女はどうすんだ? 真っ黒じゃねぇか」
「夕陽? あの子はいいのよ。感情が高ぶれば高ぶるほど力を発揮するからね。今は自分の身を守れるだけ強いから、それでいいの」
そう言いながら、〈美の女神アフロディーテ〉は微笑む。
〈死神デス〉は、それに興味がなさそうに、もう一口茶を飲んだ。
「連れないわねー」
「んなこと言っても、てめぇは自分の娘でもねぇのに恩恵を与えすぎだ。ありゃその内化けるぞ?」
「化ければいいわ。姉さんの大事な子供だもの……私が与えられるものならいくらでもあげるわ」
アフロディーテの表情は、妹を思う姉の顔だった。
〈神〉である自分たちが子育てや家族のことで躍起になっている姿を見て、改めてデスは笑う。
「お互い苦労するな」
「そうね、心配は絶えないわ」
二人は顔を見合わせて苦笑する。
「そうだ、しばらくしたら私たちも行こうと思ってるんだが……」
「え? 家族総出で?」
「ああ。旦那も娘もあいつに会いたがってる。それに、もしあいつが〈覚醒〉するようなことがあったら……」
「そうね」
デスの表情は、険しいとともに申し訳無さそうであった。
親としての立場か、神としての立場かを決めかねている。
そう言った心情が読み取れた。
「ちゃんと決めておきなさいね、セツくんを――――――――――――――――連れ戻すかどうか」
「ああ、分かってるっつーの」
デスは立ち上がり、何か適当に食べられるものでも作ろうかと再び冷蔵庫を開けて、卵を切らしていたことを思い出した。
新連載始めました。
「リストラされた神様の異世界転生」
もよろしくお願いします。




