90 戦闘開始
本日二話目です。お気をつけ下さい。
あれから、4日ほど経過した。
俺とストローの方の調査は滞り、ジオンたちの行方も知れない。
死体が見つかってないってことは生きているんだろうが、どこで何をしているやら……。
「はぁ……」
「どうしたの? セツさん」
「いや、最近物騒だなって思って」
「ねー怖いよね。でも私はセツさんがいるし安心かな」
時刻は夜、俺とミラは臨時の買い物を済ませて、宿に戻るところだった。
俺が付いてきている理由は、言わずもがな護衛である。
明日でもよかったんじゃないかと思ったが、どうしても必要な物だったらしい。
まあ俺がいれば、最悪こいつだけを逃がすことはできるし、何とかなるだろう。
「もし通り魔が現れたら、ちゃんと守ってね?」
「ああ、命に変えても守るから安心しろ」
「あ……ありがとう……」
顔が赤くなってら、ませたガキだな。
ん? ませたって使い方あってんのか? まあいいか。
と、そんなことを話していると、もう宿は目の前だった。
「あ、お母さんたち」
「ん?」
よく見ると、宿の前に女将さんと親父さんが立っていた。
どうしたのだろうか、こんな時間に。
「お母さん! お父さん!」
ミラが駆け出す。
そのとき、俺は二人の表情に違和感を覚え、彼女の肩を掴み止めた。
「ん? どうしたのセツさん」
「いや……何とな――――――――――――」
「始まる……」
「く……?」
俺の言葉を遮り、女将さんが何かをつぶやく。
二人はそれっきりピクリとも動かない。
そして、彼らの後ろから、月明かりを反射するほどの銀髪を持った背の高い女が姿を表した。
初めは、ただの客かと思った。
しかし、羽衣のようなものを纏い、その恐ろしいほど透き通った眼を見て、俺は確信する。
こいつは、聖剣だと。
「セツ! そいつらから離れやがれ!」
「ッ!」
俺はどこからともなく投げかけられた声に反応し、ミラを抱えて後ろへ跳んだ。
すると、今まで立っていた場所を一陣の風が吹きすさぶ。
次の瞬間、俺の前髪が数本宙を舞った。
「ジオン、助かったぜ」
「どういたしまして……油断すんじゃねえぞ、こいつら相当やばい」
左右の民家の上に、ジオンとラミナが立っている。
二人が見つめる先、ミラの両親を見て、俺もはっきりと感じ取った。
こいつらも、やっぱり聖剣だ。
「ほう、なかなかの使い手のようだな。エアロ、クエイク、姿を開放しろ」
「「は」」
「……胸糞ワリィ結果だな……こりゃ」
銀髪の女が言うと、女将さんの姿が黄緑色の髪を持ち羽衣を纏った女に変わり、親父さんの姿が茶色い筋肉ダルマへと変貌する。
どちらにも二人の面影はなく、まったくの別人にしか見えなかった。
「……私たちは事件の起きた現場の場所を探っていた」
「そしたらよぉ……事件のほとんどはこの宿屋の周辺で起きてたんだわ。いくつか例外はあったが、基本的にこの宿から一定の距離内に通り魔が現れていた。だからこの辺りを見張っておこうと考えてたんだが……いきなりビンゴだぜ」
なるほど、だが信じられねぇな。
あんだけいい人だった二人が通り魔?
どうしても違和感が消えない。
「お父さん……? お母さん……?」
それより、一番心配なのはミラだ。
あまりにもこれは……残酷過ぎる。
「ああ、その娘の両親はとっくに死んでいるぞ。我々の計画には邪魔だったのでな」
「あ……ああ……」
「っ!」
とんでもない事実が銀髪の女から告げられる。
どういうことだ?
こいつらが聖剣だってことは察したが、あんな人間らしい行動ができるものなのか?
何かあるぞ、これは。
「お父さんが……お母さんが……うっ」
「ミラ!」
崩れ落ちるミラを支える。
しかしもう意識はなく、青白い表情を浮かべるばかりだ。
「ちっ……てめぇら、やっぱり聖剣か?」
「ほう、驚いたな。私たちの存在を知っているのか。ならば名乗ろう、私は〈鏡魔剣ミラージュ〉。クレアシル様の名の下、お前たち「人」を殲滅する者なり」
「そうかい……なら、遠慮無くぶっ殺せるな」
俺はミラを近くの物陰に隠し、戦闘態勢を取った。
黒丸は残念ながら宿屋の中だ。
取りに行く暇はない。
「私と戦うか、よかろう。ならばこの二本を倒してみせよ」
「ミラージュ様の手を煩わせるほどではありません」
「この愚か者に、神の裁きを」
ミラの両親だった二人が構える、二体同時か、めんどくせぇ。
だが、こっちにも頼れる仲間がいる。
「おいおい、俺らを無視すんなよなァ」
「少し、手合わせ願おうか」
筋肉ダルマをジオンが、女をラミナが引き受けるべく、立ちふさがる。
「こいつらは任せろ!」
「真ん中は任せたぞ」
「へっ……はいよ!」
二人が攻撃を仕掛け、二体の聖剣を左右に分けてくれる。
あのまま離れたところで戦う気のようだ。
これなら俺はミラージュを相手にするだけでいい。
「ふん……二手に分けたか。それもよかろう」
「何余裕ぶっこいてんだ。死ぬぞ?」
「私が? ありえないことだ。「人」風情が……粋がるなよ?」
やつの威圧感が身体を打つ。
神力の訓練をした今なら分かる。
こいつはフェリブスやさっきの二体よりも多くの神力を持っている。
つまり……今までの敵の中で圧倒的に強い。
「頼むから、少しは足掻いてみせろ」
「ああ、手足がもげても、てめぇの首を噛みちぎるくらいには足掻いてやるさ!」
俺は迷わず駈け出し、ミラージュに向けて拳を放つ。
やつはそれを片手で受け止めると、もう片方の手に出現させた美しい剣で斬りつけてくる。
腕を掴まれているため、後ろへ逃げることができない。
前までの俺なら、ここでジ・エンドだろう。
だが、今の俺は違う。
「そう簡単には斬らせねぇよ」
「っ! ……ほう」
俺も、片手でそれを受け止めていた。
手のひらで止まっている刀身を見て、ミラージュも声を上げる。
「らぁ!」
「ぐっ……」
両腕は塞がったが、まだ脚がある。
俺は飛び上がり、膝をやつの顎に叩き込んだ。
普通なら致命傷になりかねないダメージがあるはずだが、聖剣どもは伊達じゃない。
腕は緩み逃げ出せたが、よろめきもしなかった。
「はっ、鉛でも蹴った感触だぜ」
「少々見誤っていたようだ、貴様、只者ではないな」
「こう見えて勇者やってたんでね、そこら辺のやつと一緒にすんなよ」
もう過去の栄光だけどな。
そもそもそんな栄光いらねぇや。
「おら、そろそろ〈抜刀〉したらどうだ? じゃねぇと、すぐ死ぬのはお前だぜ」
「抜刀を知っているのか……いいだろう、見せてやる。貴様はここで完膚なきまでに叩きのめす。今決めた」
ミラージュが剣を構える。
力の集まり方が尋常じゃない。
これは余計なことを行ったかもしれねぇな。
でもこれでいい。
こいつくらい倒せないと、俺はこの先クレアシルと戦うなんて夢のまた夢だ。
「〈抜刀〉――――――――――――――」
◆◆◆
「よくも邪魔をしてくれたな、下等な剣士よ」
「ほざけ、お前たちが何者かは知らないが、私たちの主の夫に歯を立てようとしたのだ。それなりの覚悟はできているのだろうな?」
エアロと呼ばれた女型の聖剣と、ラミナが向かい合う。
すでにラミナの手は刀に添えられており、いつでも抜くことができる完全な臨戦態勢だ。
「愚かな……やはり貴様らはこの〈風魔剣エアロ〉が根絶やしにしてくれる」
「む? それは名乗りか? ならば私も名乗ろう。五大魔将が一人、ラミナ・スフィルだ。貴様が死ぬ数分後まで、しっかりと覚えておいてもらおう」
◆◆◆
「憎き者よ……相当な死にたがりやのようだ」
「ア? 俺が死ぬ? ありえねぇから」
別の場所では、ジオンとクエイクと呼ばれていた大男が向かい合っていた。
しかし、それなりの緊張感を張り巡らせているクエイクに対し、ジオンは至っていつも通りの飄々な態度を取っている。
「貴様、俺を舐めているのか?」
「別に敵を舐めるなんてこたァしねぇよ。俺だってやるときゃそれなりの覚悟を持ってやるさ」
ジオンはそれでも笑みを浮かべている。
まるで、事が全て上手く行っている策士のように。
「ああ、そういや先に名乗っとかねぇと。俺は五大魔将が一人、ジオン・レイズだ」
「……俺の名は」
「おっと、お前はいい、名乗らなくて。だって――――――――――――」
「っ」
クエイクの視界が歪む。
いや、眼を回しているのだ。
平衡感覚が失われ、立っていることすらままならなくなったクエイクは、思わず膝をつく。
「――――――――――――もう、終わってるからな」




