表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第四章 人間大陸にて
90/127

89 調査

蛇足感が強い……

 俺は人混みをかき分け、内側の惨状を目の当たりにする。

 

「グルス……」


 早朝、騒ぎがあり、俺とラミナは宿を飛び出した。

 その時にはもうグルスが逃げ出していることに気づき、嫌な予感とともにこの場にたどり着いた。

 案の定、そこにあった死体はやつのもの。

 通り魔の話は道中ラミナから聞いており、やつがどうしてこうなったのかも把握できた。

 

「私たちとしてはどうでもいい男だったが……下手に時間を共にしただけあって複雑な気分だ」

「……そうだな。だが……死ぬことはなかったんじゃねぇかなって思う」


 酷い死に方だった。

 もう服がなければ誰か分からないくらいに壊されている。

 大人しくしとけば……きっと普通に暮らすことくらい出来ていたはずだ。


「む? あそこにいるのはジオンではないか?」


 ラミナの指した先には、この場にあったもう二つの死体を眺めているジオンがいた。

 二人のそばに腰を降ろし、動こうとしない。


「今までどこにいたんだ、ジオン」

「朝まで酒場で飲んでた。安心しろ、酔っちゃいねぇよ」

「なぁ、こいつら知り合いだったのか?」


 ジオンはすぐには答えなかった。


「……さあ、知り合い……まで行ってたんかな。昨日の晩に一緒に飲んだ仲だ。気のいい、いい連中だったよ……俺がついてっていればなァ」


 口調がおとなしい。

 その声色には、罪悪感が混じっていた。

 こいつにも思うところがあったんだろう。


「なあ、セツ」

「なんだ?」

「……俺ァちょっくら犯人探してくるわ。このままじゃ腹の虫が収まんねェもんでよォ……だから出発を待ってくれねぇか?」

「そりゃ構わねぇけど……今の俺は手伝えても役には立たねぇぞ?」


 魔力も何にもないからな、探索すらまともにこなせねぇと思う。

 足だけを使って探せんならとっくに見つかってるだろうしな。


「お前はいい、なんかやることあるみテェだし。ラミナ、手伝えるか?」

「……いいだろう。貴様だけではどんな無茶をするか気が気でないからな」

「さすが相棒だぜ」

「誰が相棒だ殺すぞ」


 ニヒルな笑みを浮かべたジオンは、ラミナを引き連れ人混みの外へと向かって行く。

 仲間としてはあとを追うべきなんだろうが――――――――――。


「てめぇはさっさと目的を果たせよ。てめぇのしでかすことは、いつも何かを変える。俺たちはそれに期待してんだ」


 あとを追おうとしたが、思わず足を止めてしまった。

 もうやつらの姿はない。

 

「けっ……何が期待だよ」


 そこまで言われちゃ、応えなきゃならねぇだろうが。



◆◆◆

「えっと……買い物の内容は、玉ねぎ一個と……じゃがいもと」

「……」


 あれ、俺は何でこんなところで買い物してんだろうか……。

 確か「暇そうだから」とかいう理由でミラに連れだされて、気づいたら市場にいたんだよな。


「ほら! セツさんちゃんと持って!」

「はいはい……」


 たくさんの食材が入った袋を両手に下げ、ミラのあとをついて行く。

 この街の市場はそれなりに広い。

 後に知ったことだが、この街は人間大陸の丁度中心に近い位置にあるらしく、かなり物資が流通している。

 つまり人の集まりもそれなりに多い。

 そんな街で殺人ねぇ……普通ならすぐに捕まると思うんだが。

 

「はぁ……いっつも大変なんだよねぇ。セツさんがいない時は毎週往復してたし」

「そりゃ大変だな、これだけで一日終わっちまうんじゃねぇか?」

「そうなんだよー! でもお母さんたちのお手伝い楽しいから……」


 こんないい子を持った女将さんたちは幸せもんだな。

 俺も将来子どもが出来んなら、こんな子がいい。

 ……俺の周りの女たちを見ていると心配になるが。


「もう最後の店だから、早く帰ろ!」

「はいはい……」

  

 荷物を持った手を引かれ、俺たちは宿屋までの道を駆け抜けた。



◆◆◆

「ただいま!」

「おかえりなさい。セツさんも付き合わせてしまって申し訳ありませんね……お礼と言ってはなんですが、夕食は豪勢にさせていただきますので」

「別にいいさ。楽しかったし」


 荷物を渡し、女将さんに受け取らせる。

 

「お、重いですね……」

「ああ、それなりにはな」

「こんなものを軽々と……セツさんは名の売れた冒険者さんなんですか?」

「いや、冒険者ではあるが、名は売れてねぇよ。あんまり気にすんな」


 俺は女将さんに渡した荷物を奪い取り、厨房まで運ぶ。

 

「どの辺りに置けばいい?」

「ほんとに何から何までありがとうございます……ではその辺りにおいていただけると助かります」


 言われた場所に食材たちを置き、両腕を振るう。

 厨房を見渡すと、それなりに年季が入ったものが多く、大切に使われていることが分かる。

 我ながらいい宿を選んだものだ。

 

「ああ、お客さん手伝いを引き受けてくださったそうで……ありがとうございます」

「別にいいって。暇だったのは本当だし」


 エプロン姿の親父さんが現れ、食材を的確に分けていく。

 この人料理も美味いし愛想もいい。

 と言うかこの家族が本当に良い人たちなんだ。

 それにこの規模の宿を三人で切り盛りできているっていうのも、この人たちの手際の良さが伺える。

 ミラもあの歳の割に買い物に滞りがなかった。


「あんたら本当にすげぇな。この宿選んで正解だったぜ」

「そう言っていただけるととても嬉しいですよ」

「また何かあったら手伝う。長居はしねぇが、しばらく力仕事くらいは請け負うぜ」

「ありがとうございます、ぜひお願いしますね」


 親父さんの嬉しそうな笑顔を背に、俺は部屋に戻る。

 中には腹を出して眠りこけてるバカ神が一人……。


「お前はこの宿の人たちを見習え!」

「いて! 何事じゃ!?」


 腹をベチンと叩き、起こす。 

 別に起こす意味はなかったが、何かムカついたからな、とりあえずいい気味だ。


「だらしなく寝てんじゃねぇよ。腹くらい隠せ」

「何じゃ? ワシの腹に欲情でもしたか?」

「だれが子供っ腹に興奮するか。バカみたいなこと言ってねぇで、さっさと腹かくして寝ろ」

「むう……本当に母親みたいじゃのう……」


 そういや神は風邪引くのか?

 まあいいか、だらしなくなくなれば。

 俺はもう一つのベッドに入り、夜に向けて意識を沈めていった。



◆◆◆

 特に何事も無く翌日。

 また死体が見つかったようだが、ジオンたちはどうしているんだろうか?

 あいつらが一日で解決できないとなると、これは本格的に厄介な敵がいることになりそうだ。

〈聖剣〉どもの可能性をストローに聞くと、可能性自体は高いらしい。

 ただ気配は感じないようで、確証は持てないそうだ。


「別にそこまで睡眠を摂る必要もないし……俺も昼間くらいは調査してみるか……」

「そうは言っても探知するのはワシなんじゃろ……」


 俺とストローは宿屋の前にいた。

 なぜこいつまで巻き込んでいるのかというと、〈聖剣〉が犯人だと言う説が一番濃厚だからだ。

 目撃者が一人もおらず、殺しの方法も独特。

 人間なら少なくとも魔力を使用しているはずだから、ジオンたちが気づかないわけがない。

 そうなると、もうやつらが犯人としか考えられない。

 やつらの気配が分かるのはストローだけだから、どんなに眠かろうが手伝ってもらう。


「まあいい。ワシとて聖剣どもに好き勝手されるのは許容できん。さっさと見つけてへし折ろうぞ」

「お、乗り気になったか。よし、とりあえず現場周辺から当たるぞ」


 ひとまず向かった先は、グルスが殺されていた場所。

 もう綺麗サッパリ片付けられているが、地面の凹みまでは直っていない。

 

「すげぇ力加減だな……人ひとりを的確に潰せるだけの威力で叩いたみてぇだ」


 地面の凹み方からして、一撃でこうなったんだろう。

 今の俺が喰らえば戦闘不能だな、きっと。


「こんなことができるやつ知らねぇか?」

「心当たりはあるが、どれかが分からん。生憎連中の数はそれなりに多くての。これくらいのことは容易くできてしまう」

「だよな……」


 一度聖剣と手合わせしているから分かるが、フェリブスでさえ相当な怪力だった。

 しかしこの場合は、巨大なもので叩き潰した感じなんだよな……怪力うんぬんではなく。 

 いや、そういう面でも、いくつか該当する奴らがいるんだろう。

 正直ハンマーみたいな聖剣が居てもまったく不思議じゃない。

 なんたって冬真のエクスカリバーは大砲になりやがったからな。


「他の死体は……確か斬り刻まれてたんだっけな。それこそ剣だけに見つけにくそうだ」


 その後他の場所に回ってみたが、どの現場でも状況は一緒だった。

 最新の場所にも行ってみたが、残留している魔力はない。

 これはいよいよ聖剣の仕業が濃厚になってきたな――――――――――――。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ