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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第一章 魔族大陸にて
9/127

8  締まらぬ国離れ

いつもより長め


過去の話をご指摘を受け所々変更しております(文章の書き方など)

それと七話のカフェでの描写が変わっております(失禁描写など)どれも話の本筋にはあまり関係ありません。


途中エルダーという名前が混ざりましだが、エルダーではなくバウスです。混乱させてしまい申し訳ありません

「―――――うーん……どっから説明したものか」


 あれから時間が経ち、店内には俺と夕陽とエルカの三人しか残っていなかった。客には悪いと思ったが、エルカに魅了の眼をかけさせて店内であったことを他言しないという約束をしてもらい、帰宅してもらった。魅了の眼によって取り付けられた約束は、眼を解除したあとでもよっぽどのことがない限り頭に残り続ける。俺のクラスメイトたちにも王女の願いが残り続けているはずだ。


「……そうだな、まずはエルカとの関係を話すか」

「うん……」


ひとまず話すことは、俺がこの世界に来たことがあるということと、エルカとは訳あって謎の主従関係があるということを話した。転生の話はややこしいから省略だ。


「謎の主従関係って何!?」


夕陽の疑問はごもっともなんだが、訓練で戦ってたら彼女がMに目覚めたからですと言うのはエルカの外面(そとずら)に関わるため言いにくい、ゴメンな夕陽


「そこはいいんだ、重要なのは俺がこの世界に来たことがあるってことだろ?」

「すっごい真顔で有耶無耶にされた感じするけど……うん、そうだね」


 それから様々な大陸に力をつけながら渡ったことを話した。訳あってこの国の恨みを買ってしまっていることも―――――

これから国を出てそこで出会ったやつに会いにいくとも。


「―――――やっぱりユキくん行っちゃうんだね」

「……分かってたのか?」

「なんとなく、どっか行っちゃいそうな雰囲気あったよ」


なんだ俺はそんなに分かりやすいか……?


横でエルカがうんうんと頷いてやがる。


「ねぇ……私もついてっちゃダメかな?」

「……ダメだな。まだお前には足りないものが多い」

「でもっ! 私だって一応戦えるよ!?」


確かに夕陽の魔法はトップクラスと言ってもいい、だがこの場合実力の問題じゃないんだ


「経験が足りないんだよ経験が、襲い来る魔物を殺す経験、敵を殺す経験――――――」


 仲間を殺す経験―――――と言いそうになり、やめる。これが当てはまるのは俺だけだ、夕陽にそんな経験は必要ない。

苦虫を噛み潰したような表情をした俺の様子をどう取ったのかは分からないが、夕陽は駄々をこねなくなった。


「じゃあ……どうしたらいいの?私……ユキくんと一緒にいたいよ……」


……ここまで言ってくれる女がいるってのは男にとって誇らしいと思う。


連れてはいけないが、提案しようと思っていたことがある。


「どうしてもついてきたいなら……エルカの元で学んでみろ、こいつなら夕陽を一人前にできる。エルカ、頼めるか?」

「セツ様の頼みです。夕陽さんさえ覚悟があるのならいくらでも経験を積まさせてみせます」


 頼もしい女だ全く……これで変態じゃなければ俺の見方も変わってたのに


「どうだ?」

「……私は―――――強くなりたい、ユキくんと一緒に世界を回れるくらい……エルカさん、お願いできますか?」

「厳しいですよ?」

「なんだってやります」


 夕陽の眼には明確な強くなりたいという意志が宿っていた。今までは王女の魅了の眼にかからなかったせいで、どうにも目的のない迷いの眼をしていたが、今では別人のように強い眼をしている。


「―――――合格ですね、セツ様」

「ああ、頼むぞエルカ」

「お任せを、大陸を燃やし尽くすほどの魔術師に育てあげてみせます」


 いや……俺は経験面をカバーしてくれって言ったんだが……あとせめて街くらいにしとけ


「そこまでは行かなくていい……あとはそうだな―――――期間は今度会った時にするか、そん時に合格だったら、今度は一緒に行こう」

「うんっ! 約束だよ!」


 夕陽は今日、この世界に来て初めて目標を持ったようだ。






「もう夕方か……」


 店を出たあと三人で街を歩く。本当ならもう俺は国にいないはずだったんだが、ちょっと長居しすぎたな。


「俺は国を出るために用意するもんがあるから、少し行かなきゃいけない所があるが……二人はどうする?」

「少々……夕陽さんと話す時間をいただけますか?」


 二人っきりでってことか


「おう。じゃあ俺は行くからまた後で会おう」

「はい」


 また会うときは別れの挨拶をする時だがな……

エルカはキョトンとしている夕陽を連れて離れていく。


さて、俺も早く用事を済ませねェとな











 セツと別れたエルカと夕陽は、賑やかさが薄れてきた街を歩いている。


「あの……話って?」

「ああ、別に重要な話をするわけではないんですよ。少し彼の話をね」


エルカはあえてセツの名前を出さないようにする。先ほどの教訓が生きているようだ。


「彼はこの世界で生きていくには甘すぎるほどの信条を持っています。それがさっき彼が怒った理由なんです」

「信条ですか……?」

「はい――――――自分はどれだけ他人に罵倒されようが、蔑ろにされようが、暴行されようが、決して報復行動はしない。けれど、自分を慕ってくれている者が危険に晒されれば、どんな手を使ってでも助ける……といった信条です」


 それは意味を返せば自分は何されても構わないと言っているように聞こえる。


「まあ彼の強さがあれば、大抵何されてもビクともしないから言えることなんでしょうね。彼は私たちが猛獣レベルに思う危険を、アリが集ってきたくらいにしか思わないんでしょう」

「ユキくん……そんなに強いんだ」

「規格外といってもいいですね……しかしそのアリが、彼の仲間に噛みつこうとすれば、それを全力で潰す……そう言った考えの持ち主なんですよ」


 先ほどのカフェで、セツは自分の正体がバレることを気にしたのではなく、エルカの立場を気にしていた。とあること(・・・・・)をして国から恨まれている自分と繋がりがあることが分かれば、決してエルカを国は許しておかないだろう。今だって元セツの仲間ということで彼女の、いや、彼女たちの立場はギリギリ(・・・・)なのだから。この前の夜、セツの部屋に行ったのもかなり危なかった。まあ見つかるようなミスをするエルカではない。夕陽にはガッツリ見つかったが……王女の洗脳がない彼女だったから大丈夫だったのであって、他の人物であればアウトだった。

 

 彼女らは、戦争に出ない、勇者の育成に全力を注ぐという条件を飲んでもらい、城にいるのだ。


「私たちももう城にいる必要はないんですけどね……」


彼女たちの目的、セツの帰還はすでに予期せぬ形で達成されている


「ユキくんについていかないんですか?」

「ダメですよ、ついて行ったら追っ手がついてしまいますから」


 国は勇者育成のために彼女らを置いているが、同時に監視の意味も含まれているのだ。セツ関連で余計なことをされないように……それなら夜ももっと警戒し見張っておけという話だが、そこは戦争中、人員の少なさをついたエルカの勝利である。


「まああなたちを育てるのも楽しくなってきた頃ですし、少し調査しなければいけないこともありますから」


 調査しなければならないこと……それはティアやエルカがセツに報告したとある人物のこと

その人物のことだけは、どうしても明らかにしておかなければならないほど、重要なことだ。


「そんなに……重要なんですか?」

「少なくとも……私たちにとっては」


彼女はその内容について話し始める。


「当時、五年前ですが……召喚された彼は同じく一緒に召喚された人物と友人関係を結びました。同郷のものととして息が合ったのだと思います。二人とも同じように力をつけ、この世界に馴染もうとしていたのですが……どこで違ってしまったのか、もう一人の召喚者は国の言いなりになり、戦争に積極的に参加していきました……彼は逆にそうならず、国から逃亡し、魔族や獣人とも関係を持っていました」


そして――――――彼らは衝突した


「人間国を勝たせようとしたその人は、魔族の大陸に軍を率いて乗り込み、魔族を蹂躙しようとしました……それを止めたのが彼です。仲良くなった魔族を守るために、彼はその人とぶつかりました。死闘の末――――――彼がその人を……葬ったのです」


 その戦闘はまさしく地形が変わる戦いであったことを、エルカは覚えている。

まさしく勇者同士の戦い……勇者は勇者でも、人間国の勇者と魔族、獣人にとっての勇者と違いはあったが


「友人をその手にかけた彼はしばらく塞ぎ込みましたが、自分に不殺に誓をたてることでかろうじて立ち直りました。『これ以上命を背負うのはたくさんだ』って苦笑いしてましたね。先ほどあなたに殺す覚悟がどうこう言ってましたが、彼にもないんですよ。そこでその覚悟を失ってしまったんです」

「……」


 夕陽は思わず黙り込む。想像以上に彼の話は壮絶だったからだ。


「私などはこの世界で命を奪うことに慣れて(・・・)しまっています。いくら敵を葬っても感情はほとんど動きません――――――けれど、彼が今度命を奪うことがあれば、どうなってしまうか……」

「……」


 夕陽はまだ言葉がでなかった。知らないセツの一面に、何と言っていいかわからなくなっていた。


「……話を戻しますね?私たちが重要と言っている調査というのは、その死んだ人のことです」

「……死んでしまったのにですか?」

「――――――生きているかもしれないのです」

「!?」


 その人物が生きている――――――それは国を揺るがすような一言であった。


「確証は全くないんですがね……ティアが彼の魔力を感じ取ったらしいのです。一瞬だったそうですが、それを明らかにするために調査するんです……」

「生きていたら……どうするんですか?」

「……始末すると思います。その人は危険すぎますから」


 辺りからさらに人気がなくなっていることが幸いだった。殺しをすると宣言しているようなものなのだ、捕まってもおかしくない。


「危険なんですか……?」

「その人は最終的に魔族、獣人を滅ぼそうとさえ思っていたようです。この世界にできた大切な人を、戦争で奪われた――――――そう聞いています」


 つまりは復讐、戦争に積極的になったのも、その時からだったようだ。


「もし生きていたら……この戦争に参戦してくると思っています。そんなことがあれば、再び彼は殺し合いをしなければいけなくなるかもしれません。そうさせないために、先に明らかにさせておくのです」


 生きていれば、戦争に参加させる前に殺す――――――そう言っているのだ。


「――――――おっと、すみません。私が話したいのはこんな話ではないのですよ」

「……?」


 エルカから重苦しい雰囲気が消える。夕陽は無意識のうちに気を張っていたようで、思わず息を吐く


「私があなたに言いたいのは、強くなったあと、彼を支えるのを手伝って欲しいということです」

「え……そんなの手伝うに決まってるじゃないですか」


 夕陽はわざわざ聞くことですか?と言いたげな顔をしている。エルカはそんな夕陽の認識を改めた。セツが人を殺したと聞いて、少しは考えが変わってしまうんじゃないかと考えていたのだが、そんなことは関係ないようだ。


「ユキくんは日本にいた頃私を何度も助けてくれているんです。周りのみんなは変な目でユキくんを見るけど、彼は本当にすごい優しいんですよ。私はずっと守られてきたので、この世界に来てユキくんに力がないって分かった時は少し嬉しかったんです。今度は私が守れる――――――って……なのに力を隠してただけなんですね……ちょっとがっかりしちゃいました」


 あはは……と苦笑いする夕陽。


「私なんかがユキくんを支えられますかね?」

「はい……と言っても、彼は強いので、支え方も別ですよ」

「別?」

「彼に極力命のやり取りをさせないようにするのです。私たちが危険な目に遭わなくなれば、彼は力を振るおうとはしません。そういう信条ですからね」

「つまり……危険な目に遭わなくなるように強くなればいいってことですね?」


 その通りとエルカが頷く。自分が強くなることが、セツを支えることに繋がるなんて、夕陽からすれば願ってもないことだ。


「なのでこれからは厳しく行きますよ?休日はないと思ってください」

「は、はい! 頑張ります!」


 二人は夕暮れの街を歩く。

いずれ、大陸を離れたセツの耳に想像以上の力をつけた夕陽の名前が、聖剣持ちの勇者である光真の名前よりも先に入ってくるのだが、この時はまだ誰も予想できなかった。















 二人と別れたあと、俺は街外れまで足を運んでいた。この辺はあまり治安が良くないため長居はしたくないが、用がある以上は仕方がない。

街外れでも比較的治安がマシな地域に俺の目当ての場所はあった。マシといってもさっき目の前でひったくりを見た。そのひったくられた人の荷物は、その人が別の人からひったくったもので、つまりは盗んだ自転車を盗まれたみたいなものだ。最初の人が哀れだな……これでマシというのだから、この国はもう少しなんとかしようとするべきじゃないのか?


「相変わらずボロいな……」


 目当ての場所、それは酒場だった。表に準備中を意味する看板がかかっている。外装は木なのだが、老朽化が進み今にも崩れそうだ。かろうじて入口の上にある店名が読める。


『バウスの酒場』


ここが俺の目的の場所


扉を開けようと手をかけるが、立て付けが悪く開かない……


「いい加減直せよ……よっと」


軽く前蹴りを放って扉をぶち破る。豪快に吹き飛んだ扉が店内を散らかす。

こんだけ激しく開けても壊れないこの店はやはり謎設計だ。見た目ボロいくせに作りはやけに頑丈なんだよな……五年前から変わってないのも見た目からすればありえない話だ


「誰じゃゴラァ!!」


 俺の耳に懐かしい怒号が聞こえる。


「扉を壊しやがって!! どう落とし前するつもりじゃあぁん!?」


 店の奥から現れたのは、身長二メートルを越す大男。茶色く日焼けした体は鍛え上げられた筋肉で盛り上がり、ノースリーブのシャツがぱっつんぱっつんになっている。顔はとにかく厳つく、白髪まじりの髪はこいつが初老の男ということを表していた。


「相変わらずの怒号だな……ジジイ……耳がいてぇ……」

「あぁん?その口調……てめぇ……セツか?」

「久々だなバウス、いつも通り扉は壊して入らせてもらったぜ」

「うおぉぉぉぉぉ!! セツじゃねぇか!!」


 興奮気味に俺の背中を叩く大男の反応に、こいつが変わってないことが分かり嬉しく思った。


――――――ってやめろ痛い痛い!!









「はっはぁ~なるほどな、そうしてお前はこの世界から追い出されたってわけだ」

「ムカつく言い方すんじゃねぇよ……」


 俺は姿を消した理由を一から説明していた。バウスは扉を直しながら相槌をうっていたんだが、一々ムカつく返しをしてきやがる。


「なんか恨みでもあんのか俺に……」

「あるに決まってんだろうが!? 扉は壊すし五年間も家の倉庫を占拠しやがって!」


 あ、そうだった。俺はここに来た理由を思い出す


「倉庫開けてくれよ、国から出るから準備がしてぇ」

「さらっと扉の話スルーすんなクソガキ……まあそういうことなら開けてやんよ」

「さんきゅ」


 バウスは扉の修理もほどほどに、酒場のボロいカウンターの後ろにある扉を開けて入った。俺もそれについていき、奥にある部屋に入る。


 その部屋は外見からは想像できないほど頑丈にできていた。床はどこも傷んでいないし、天井からは木屑の一つも落ちてこない。


「ここも相変わらずの作りだな」

「てめぇの荷物はどれも当時のまま残ってる。保存状態は良好なはずだが、さすがに元々ボロかったやつとかガラクタは処分したぜ?」

「ああ、構わねぇよ。ほとんど使わねぇもんばっかりだ」

「なら置いてくんじゃねぇよ……」


 ジジイの言い分ももっともだが、突然飛ばされたこっちの身にもなってほしい。


「ほらよ」


 部屋の中にある一際大きい扉をバウスが開ける。

中にあるのは巨大な剣やら盾やら弓やらの装備品に、厳つい防具、光る鉱石、そして目も眩むような金貨たち……


ここにあるものはすべて当時の俺がかき集めた物だ。一時冒険者として活動したことがあり、それによって手に入れた金、装備品、宝石などがこの倉庫には入っている。


 なぜバウスに管理を頼んでいるか、それはこいつが元人類の最高峰にして、最強の冒険者だったことが関係している。


「てめぇ現役時代の俺より稼いでやがんな……やっぱ」

「若さだぜジジイ」

「ほざけ俺はまだ163歳だ」

「この世界の平均寿命どうなってんだよ!?」


 付き合いはそれなりに長かったが、年齢は今初めて聞いた。

まあ冷静に考えれば別におかしい年齢じゃない。この世界では魔力の量が生命力に関わる。元最強の冒険者のバウスは見ての通り肉体派の男だが、魔力の量は多かったはずだ。身体強化の魔法はしょっちゅう使ってたしな。さすがに衰えはあるらしく、冒険者を引退しこんな酒場を営業しているが……


「うっせぇな俺の弟子(・・)のくせして」

「てめぇに言われたくねえ騒音ジジイ」

 

 毎回鼓膜がピンチだこのやろう

……まあこの通り、俺はバウスの弟子ということになっている。本当に偶然だったが、こいつがちょっと無茶した俺を助け、弟子にしてくれたんだ。そんとき確か俺が冒険者なりたてで、失敗しそうになってたとこを助けられたんだったかな?


「……てめぇ最初薬草と間違えて毒薬草食おうとしてたんだもんな」

「おい……言うなよ」


 初心者でもやらないミスだったんだから……というか薬草が美味いのが悪い。

その時から俺は拾った薬草をむやみに食べないと固く誓っている。


そういう関係で、冒険者経験がトップクラスのバウスに荷物を預けていたわけだ。こいつなら武器の手入れもお手の物だからな。


「ほら、話もいいが開けてやったんだからさっさと整理しろや」

「おっと、そうだった」


 俺は倉庫に入り、かつての持ち物を物色する。てかこの倉庫マジで広いな、魔法か?


「魔法袋と同じ原理だ、俺が作ったんだよ忘れたか?」

「いや……聞いてねぇよ」


 魔法袋……持ち主の魔力量によってその容量を変える便利な袋だ。人によっては竜が丸ごと入れられたりもする。


「こいつと~?」


 俺は近くにあった俺の魔法袋を持ち、中を見る。

やはり底が見えない、手を入れてみるが、当然ながらどれだけ押し込んでも底に手が付かない。

そこで適当な宝石を放り入れ、再び手を突っ込む。

コツンと指先に触れるものがあった。手を伸ばしてそれを掴むと、そこには投げ入れた宝石が。


……とまあこういった風に、底が見えないほどの容量が入るが、取りたいものがあればそれを思い浮かべながら手を突っ込むことで、それが簡単に手に入る。これは人が魔法を袋にかけて作るもんなんだが、この倉庫にはそれと同じ仕掛けがあるってことか?


「必要なもんを念じて眼を閉じてみな、目の前に現れっから」


 疑い半分だったが、言われた通りに目を閉じて思い浮かべる


ふっと目の前の気配が変わった気がした。


「開けてみ」


開けてみると、目の前には俺の身長を軽々と超える長さを持った鞘に入った大剣が落ちていた。

こいつは魔族の大陸に行った時に、魔王にもらったものだ。俺にはスキルとして聖剣があったんだが、ちょっと使い勝手が悪かった。そのためこの大剣を使うようになったんだが、その切れ味も申し分なくずっとお世話になっていた。余計な装飾も少なく、刃が黒いのが特徴なこの両刃の大剣を俺は黒丸と名付けた。


「相変わらずでけぇな黒丸」

「なあそのネーミングセンスなんとかならねぇか?」


 いい名前だろうが黒丸。


「だが本当に魔法袋と同じ原理だな……」

「まあ魔力袋に施された魔法を部屋にかけただけなんだがな、結構時間はかかっちまったが」


 まあ本来袋にかけるものを部屋にかけたらそりゃそうなるわ。

俺は倉庫物色を再開する。こんな人形どうして俺持ってたんだったけか……


覚えのない物を見つけては作業が止まる俺に、バウスが話しかけてきた。


「てめぇが相変わらずなのはいいがよ……この国にそこまでされて復讐すらしようとしねぇんだな、やっぱり」


 いきなり真面目な話を始めてどうしたこいつ……


「あ?誰がそんなめんどくせぇことするかよ」

「てめぇ転生させられたってこたぁ一回殺されてんだぞ? 見た目まで変えられてよぉ……」

「……そりゃ思うところがないわけじゃねぇ」


 この世界に永住する決心はとっくについていた。だがこの国はその決心を踏みにじり、日本での人生も奪いやがった。憎んでないと言ったら嘘になる。


「だがよ、この国の希望(・・)を殺したのは俺なんだ。それくらいされても仕方ねぇ……って思ってたよ」


 俺と召喚されたもう一人の男、この世界に来てから友人になり、しばらく一緒に力の使い方を学び、別れ、再開し――――――命を奪いあった男。

そいつはこの国で真っ当な勇者として戦争に参加し、勇者とはかけ離れた俺は魔族と獣人と仲良くしていた。だからだ、魔族を慈悲の一切ない刃で殺そうとしたそいつを、俺は許せなかった。人間として理不尽なことを考えてるのは俺なのに――――――


「それにこの国は俺の大切なもんには手ぇだしてなかったしな」


 エルカもグレインもティアも無事だった。魔王や獣王も生きてる、それで十分だった。

特に国に居た三人は囚われてても仕方ねぇくらいに思ってたんだが、指導者として俺の前に現れたときは随分と気が抜けたもんだ。


「はぁ……てめぇは相変わらず自分には関心ねぇのな」

「失礼だなおい。俺は自分のことだって考えてる」


ため息つかれるようなことか?


「考えてねぇだろうが……てめぇは自分がどんだけ理不尽に晒されようが対処しようとしねぇ。アリが集ってるくらいに思ってんだろうが、周りは心配すんだぞ? せめて払い落とすくらいのことはしろってんだ……」


 バウスの言葉に所々怒気が混ざっているように感じた。

……こいつも俺のことを心配してくれてたのかもしれねぇな


「そのくせ周りが危険に晒されればどんな手段を使っても助け出しやがる……そりゃついてくるやつが多いわけだぜ」


 今度は呆れたように言われた。馬鹿にされてるわけじゃなく、どちらかといえば褒められてる感があり、なんというかむず痒い。


「……いいだろ別に。俺のもんに手を出すやつはぶっ飛ばす、俺自信は何されようがもう二度と消されねぇ、それで十分だ」

「いいわけねぇだろ、お前が何されても何もしねぇせいで今の戦争は起きてんだ」

「……」

「忘れんな、てめぇはよくてもてめぇを守りてぇ(・・・・)って思う奴もいる。てめぇがやられて怒るやつもいるんだ」


 俺は何も返すことができず、無言で作業を進めた。


 バウスもそう思ってくれてんのかと聞きたかったが、できなかった。

多分、「知るか」って言われるから





「邪魔したなジジイ」

「ふん、また困ったら来い。機嫌が良かったら助けてやんよ」

「はっ! 笑わせんな困ることなんてもう二度とねぇよ」


 もう拾った薬草なんて食わねぇし、この世界から消されるなんてハメにはならねぇ


「――――――ならいいんだよ、行ってこい馬鹿弟子が」

「……ああ、行ってくるぜクソ師匠」


 俺は荷物を持って店を出る。そろそろこの店も開店の時間だ。


……やっぱりバウスと話していると、子供扱いされている気がするんだが、なぜかそれが嫌じゃなかった。


(オヤジみてぇなもんなのかな――――――)


 俺は馬鹿馬鹿しいと首を振って、二人との待ち合わせ場所へ急ぐ。ちょっと時間を使いすぎたな、日が沈みそうだ。待ち合わせ場所はこの先の街外れだから、もうじき着くだろう。


 街を走っていると、バウスの言葉が頭に反復する。

会話の延長で戦争の話になり、相変わらず「殺し」はしないと言う俺に、やつは言った


『不殺か、いい志だとは思うがよ、その志が宝物を殺すかもしれねぇことを忘れんなよ?』


「……分かってんだよそんなこと」


 そう呟き、俺は走る速度を上げた。

殺す――――――その行為を思い出す。


その時の感情を、俺は一生受け入れられる気がしなかった














「ユキくん!」


 待ち合わせ場所に着くと、そこには夕陽が居た。だがエルカの姿はない


「エルカは?」

「帰ったよ、明日の訓練の準備が残ってるって。忘れてたみたいで結構焦ってたよ? なんか明日から基礎訓練するから本格的な戦闘訓練に切り替えるんだって」


 そういうことなら仕方ない、あいつはたまに抜けてんだよなぁ……

それにしても戦闘訓練になるんだったらちょっと受けたかったかもしれない。あのアホ遠藤をぶっ飛ばすチャンスがもらえたかもな


――――――こんなこと考えるなんてやっぱりジジイに影響されたか? 


「ユキくん、どうしてももう行くの? もう日が暮れたよ?」

「今日までの約束だからな、野宿グッズはもう持ってる」


 そう言って腰につけた魔法袋を叩く。これ一つで金も剣も食料も済んでるため、俺は比較的身軽だった。ちなみに食料はバウスに分けてもらった。余りもんだったがな


「そっか……


私ね、ユキくんに守ってもらわなくてもいいくらい強くなるから!」


 夕陽が言った言葉は、「お前に頼らない」って言われているのと同じことだが、俺の場合それは嬉しかった。

もしかして俺の信条をエルカから聞いたか?


「私が危険な目に遭わなくなれば、ユキくん戦わずに済むもんね!」


……やっぱりエルカから聞いてたか。


「ああ、そうだな。頼むぜ?」

「うん! ……だから……無事で帰ってきてね?」

「俺を危険な目に遭わせるなんて無理だっつーの」


 俺はそう言いつつ、風魔法を使い長く伸びていた髪を切り裂く。センスも何もないから適当だが、パラパラと髪が地面に落ち、長らく目を覆っていた髪がなくなり、視界が綺麗に開ける。不格好になるのは嫌だから、とりあえず目が見えるくらいで抑えておいた。


 いつか切ろうと思っていたのだが、気づけば今の今まで伸ばしっぱなしだった。

まあ新しい気持ちで出発するためにはいいきっかけだろう。


「変か?」

「ううん! 大丈夫! いつも通りかっこいいよ!」


……俺は自分の顔を思い出すが、前世と同じ平凡な顔だったはず……まあいいか、褒められてるわけだし。


 落とした髪を処理しようとすると、夕陽の手から先に細い火が放たれ、落ちた髪を燃やし尽くしてくれた。


「綺麗な炎だな」

「そう言ってくれると……なんか嬉しいな」


 そう言い照れる夕陽。

彼女の炎は綺麗なオレンジ色で、今までこんな綺麗な色の炎魔法は見たことがなかった。

それは彼女の名前である夕陽(夕日)と同じ色……


「私炎魔法が一番得意みたい。でもね、この力を人を傷つけるためには使いたくないんだ」


 そもそも魔法をそのために使いたくない――――――そう夕陽は言う


「こんな世界に来ちゃって……戦わないといけないって言われてすごく嫌だった……みんなはなんの疑問も持たず戦う訓練しているし……私は命を奪う技術を学ぶのがたまらなく怖かったの」


 疑問を持たせたのは……魅了の眼を弾かせたのは俺だ。もし加護なんて施してなければ、夕陽もそんな恐怖を抱かなくてすんだのかもしれない――――――だがそれをよしとはできない、絶対に


「でもね、誰かを守るために学ぶなら、強くなるなら……私怖くないと思えたんだ。だからね、私はユキくんに迷惑かけなくなるだけじゃなくて――――――君を守れるくらい強くなりたいな」



『――――――忘れんな、てめぇはよくてもてめぇを守りてぇ(・・・・)って思う奴もいる。てめぇがやられて怒るやつもいるんだ』


(はぁ……目の前にいたぜ師匠、とんだ変わり者がな)


 頭にドヤ顔のジジイが浮かび上がってくる。言った通りだろ? みたいな顔すんじゃねぇ営業妨害すんぞ


「ユキくん……?」

「―――――っと、わり。ああ、俺を守れるくらいに強くなるんだろ?」

「うん!」

「そうかそうか……てぃ!」

「あたっ!?」


 俺は夕陽の頭にデコピンを放つ。

デコを赤くした彼女が恨めしそうに睨んできた


「痛いよぉ……なんで!?」

「俺を守りたいんだろ?これくらい防いでみろって」

「な、なるほど! も、もう一発!」


 あ、いやそういうことじゃないんだが……

それでも真剣な夕陽に申し訳なくなり、もう一回放つ。


不意打ちはできないから少し早めのやつを


「あたっ!」


ピュっと風を切って指が夕陽のデコに当たる。


「ダメだ避けられないよ!」


 デコピンを避けるも何もないだろう……相変わらずちょっとボケている夕陽に俺は思わず苦笑する。


「じゃあ今度会った時に避けられるようになってたら合格だな」

「ほんとに!? 頑張る!」


 まさかデコピンを避ける練習ばっかやらないだろうな……

流石にないと思いたい……ないよな?


ふと気づくと辺はもう薄暗い、楽しくなってきた頃だが、そろそろ行かないとな……


「んじゃ……そろそろ行くわ」

「……うん、行ってらっしゃい」


俺は街の外へ続く道に向かって歩き始める。目の前にはその道と、暗い夜の森が広がっていた。


「ユキくん私ね……ユキくんのことが好―――――」

「まあ待て夕陽」


 俺は突然口走りかけてていた夕陽の言葉を止めてやる。女からそれを言わせるのは……なんとも情けなかった


「俺はこっちの世界に返事を待たせている女がいーーーーーっぱいいるんだ、そんな俺にそんなこと言ったら自分が傷つくだけかもしれないぜ?」


 いーーーーーっぱいなんて嘘だがな……それでも数人思い当たってしまう。どうして俺に対してそんな気持ちになるんだあいつら……


 夕陽に……その……好意を向けられていることは気づいていた。俺も大切に思うくらいには好きだ―――――けれど俺はこの世界に先約を残しすぎている。


「それでも私は――――――」


「じゃあこうしよう」


俺はそれ以上言わせず、振り返り言う


「次に俺たちが会うとき、その時に夕陽が俺を守れるくらい強くなってたら――――――そんときは俺から言ってやる」


 お前が必要だ、一緒にいてくれ――――――と


夕陽は俺にそう言われ、衝撃を受けたようにハッとした顔になる。

そして心底嬉しそうに、決意の混ざった声で言うのだ。


「…………わかった。絶対言わせてみせるよ、私。エルカさんよりも強くなっちゃうから!」


 ああエルカよ――――――いい目標になってやれよ……


いや、あいつが目標なのはまずいか? 夕陽がドMになってたらどうしよう……


「お、おう、頑張ってくれよ!」

「う、うん……」


 なぜか不安が拭えない俺は言葉に詰まってしまった。大丈夫、大丈夫なはずだ


「じゃ、じゃあ行くわ! じゃあな!」

「あ、ちょっとユキくん!?」


 気づけば俺は動揺を隠しきれないまま駆け出す。

冷や汗が止まらない!? なぜだ……


「ぐおぉぉぉぉ!! 締まらねぇぇ!!」


 俺は夜の森を駆けながら、叫ぶ。

途端に恥ずかしいことを結構言っていたことを思い出し、顔まで赤くなる


「ああああ!! 頼むから夕陽無事でいてくれよぉぉぉ!!」


 夕陽を心配しているのに、あいつから離れるという何この矛盾――――――


やがて、俺たちは再会を果たすのだが……その時、夕陽は心配していたドM化はしていなかった


……ドM化()していなかった……





締まらないですねぇ……甘い空気に我慢ができなくなりふざけた自分が悪いんですが


次回はセツと離れた夕陽の心情から始まります。

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