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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第四章 人間大陸にて
88/127

87 夜

本日二話目です。お気をつけ下さい。

 ブラッドは見ていた。

 彼がその手に持っている剣で斬りつけた壁が、爆発したところを。

 そしてすぐに考えをまとめた。

 

(おそらく……この男には俺たちでは敵わない。少なくともエルカは逃がすべきだ。時間を稼ぐ、そしてティアたちが上がってくるのを待つしかない……!)


 ブラッドはエルカを背にしてジリジリと後退を始めた。

 エルカはいまだにオロオロしたままで、戦力から外されるのは仕方ない。

 

「おや? 逃走ですか? いけませんねぇ……少しは堂々と立ち向かってはどうですか?」

「生憎だが……勝てない勝負に挑むほど、俺たちはマヌケではない」

「ふむ……まあいいでしょう。私も獲物には少々抵抗していただきたいのでね!」

「っ!」


 エクスプロードが床を蹴る。

 ブラッドはエルカを突き飛ばし、近くの部屋に飛び込ませた。

 

「仲間を逃しましたか!」

「ぐっ……」


 振り下ろされた剣を、ブラッドはナイフで受け止める。

 

「触りましたね?」

「っ! まさか!」


 爆発――――――――――。

 全身を焦がしたブラッドが、床を転がる。

 とっさに後ろへ跳んだものの、彼の身体は焦げ目だらけになっていた。

 

(これはまずい……直撃を受ければ一撃で動けなくなるぞ……)


 全身の痛みが、そう言っていた。

 なんとか身を起こしたが、もう機敏に動くことはできない。


「ほら! その有様ではすぐに終わってしまいますよ!」

「むぅ……!」


 ブラッドは床を転がり、何とか剣をかわす。

 しかし壁に当たった剣が爆発し、再び吹き飛ばされる。


「はぁ……はぁ……」

「よくよけましたねぇ……しかし戦いを長く味わいたくとも、クレアシル様の命令は絶対。遊びはほどほどにし、そろそろ殲滅を開始しましょうか」

「クレアシル……そうか、お前はやつの仲間か」

「仲間……と言うより子供? まあいいでしょう。あなたはここで死にゆくのですか……ら!」


 再び剣が振られる。

 しかしその速度はさきほどまでの比でなく、ブラッドはとっさに動くことすらできなかった。

 今度こそ直撃、そう思われたが――――――――――。


「ねぇあなた、今クレアシルって言った?」

「……何?」


 エクスプロードの腕を、横から掴む者がいた。

 それは今の今まで部屋に篭っており、壁が破壊されたことで外に出てきた少女の腕。

 クレアシルという神に対し圧倒的な憎悪を抱く少女は、エクスプロードの腕を黒い炎で焼きつくした。


「っ! ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「うるさい、騒ぐな」

「がっ――――――――――――」


 崩れ落ちた彼の頭を掴み、持ち上げる。

 その異様な光景に、ブラッドは身体を震わせた。


「夕陽……貴様どうして」

「考えがまとまったよ、ブラッド」


 夕陽の身体から、黒い炎が立ち上る。

 その眼は暗く沈み、虚ろ。

 しかし、しっかりと憎悪の光だけは宿していた。


「ユキくんを殺したのはクレアシル……じゃあ同じ目に合わせないと……その仲間も、全部全部私が燃やし尽くすの」

「や、やめてく――――――――――――」

「夕日は沈んだの……もう――――――――――夜の時間だよ」

 

〈炎夜〉。

 黒い炎が、エクスプロードの全身を包み込む。

 一瞬、絶叫が聞こえるものの、すぐに喉が焼けてしまったのか聞こえなくなる。

 その炎は、彼の身体を燃やすと同時に、壊していく。

 やがて炎が収まると、そこには塵も、灰も残っていなかった。


「全部殺すよ、ユキくん……あなたを傷つけたあのド腐れ女は、最後まで苦しめて殺してあげるからね……」


 彼女の身体で揺らめく黒い炎は、まるで夜空のように澄んでいて、誰も近づけないほどに恐ろしかった。



◆◆◆

「おばちゃん、おかわり」

「俺もだ」

「私もいただきたい」

「私もいただくのじゃ!」

「はいよ! あんたらよく食うねー」


 ラクリアの街の中にあるさほど大きくない食堂で、俺たちは飯を食っていた。 

 グルスは宿の一室を借りて閉じ込めてある。

 ちなみに俺たちのぶんとして他にも二つ部屋を借りた。

 全部グルスが荷台に積んでいた財宝を換金したものだがな。

 外道? 聞こえないな。


「オイ、セツよォ……とりあえず俺たちは明日まではこの街にいねぇといけねぇんだな?」

「ああ。王が殺されたってのはもう広まってるから、この辺は混乱しまくってる。馬車も一日一本あるかないか。最悪明日も泊まりだな」

「はぁ……さっさと帰ってゆっくりしてんだがなぁ」

「ジオン、クレアシルとやらの存在を忘れたわけではあるまい。先ほど話を聞いたばかりなのだから」

「ああ! 分かってるっつーの!」


 ジオンは怒鳴り、皿の肉を強引に口に放り込む。

 こいつは怒ってるわけじゃない、これが平常運転なんだ。


「もしかしたら、この街のどこかにも聖剣どもが隠れてるかもしれねぇ。けど全部に構って行ったら命がいくつあっても足りねぇだろう。ここはこの辺りにはいないことを祈って通り過ぎるしかねぇな」

「そうだな。デザストル様も心配だ。聖剣とはぜひとも手合わせ願いたいが……」

「勘弁してくれや。今は誰も傷を治せねぇんだからよォ」


 ジオンの言うことももっともだ。

 俺に魔力がない以上、ヒーラーはいない。

 大食いを使えばなんとかなるが、こいつは奥の手だ。

 そう簡単に使うわけにも行かない。


「よく分からぬが、この街でやることは特にないのじゃろう? ならばもう宿に戻ってよいのではないか? セツ、ワシはもう寝たい」

「寝坊助が……まあいいや、ってなわけで俺たちは戻るが、お前らは?」

「俺は街をぶらぶらしてくるわ。せっかく自由に使える金があんだ、豪遊させてもらうぜ」

「私は少しギルドを見てこようと思う。何か情報があるかもしれぬし、美味しい依頼があれば肩慣らし程度に受けてくる」

「そうか、分かった。んじゃ夜また宿でな」


 

◆◆◆

 メシ代を払い、俺とストローは宿までの道を歩いていた。

 

「なぁ、本当にできるのか? 神力を宿すなんてよ」

「分からぬ。ただやる価値があると言うだけじゃ」


 その答えを聞いて、俺は頭を掻く。

 何というかこう……ぱっとしないものか。

 こいつにも結果が分からないのだから仕方ないが、はっきりしないことはやっぱりむず痒い。


「それより、今からしっかり寝ておけよ? 夜通しの訓練じゃし、ぶっ倒れられても困る」

「ああ……分かったよ」


 宿についたのは、それから5分後のことだった。

 表の大きな両開きの扉を潜ると、中から活発な女の子の声が迎えてくれる。


「いらっしゃい! って12号室の人かーお帰りなさいだったね!」

「こら! ちゃんと敬語を使いなさい! ミラ!」

「ああ、いいよ。それくらい元気がある方が女将さんも安心だろうし」

「そ、そうですか? お客さんがそうおっしゃるなら……」


 話がわかるー! と俺に親指を立てた拳を突きつける女の子は、この宿を経営している夫婦の娘のミラだ。

 茶髪のツインテールで、身体は小さい。

 話を聞く限り、13歳くらいのようだ。

 そのくせお調子者で、俺たちのような客とも積極的に話す。

 この宿の名物でもあるようで、この歳で売上に貢献するとは恐れ入る。


「他の二人はー? 部屋は違うけど連れなんでしょ?」

「ああ、街をブラブラしてくるってよ。俺はめんどくせぇから部屋で寝る」

「知ってるよあたし! そういうのダメ人間って言うの!」

「うっせ、ほっとけ」


 今のは割りと効いたぞ、心に。

 俺はミラの頭に軽くデコピンをぶつけ、自分たちの部屋に続く階段を上がった。

 後ろでブーブー言ってるみてぇだが、無視。

 

「あの娘と関わるときのお前さんは楽しそうじゃの……まさかお前さん……小娘趣味か?」

「生憎ロリコンじゃねぇよ。ただ……ちょっと似てんだよ、俺の幼馴染の雰囲気とよ」


 茶髪で元気いっぱい、それでいて人懐っこい。

 それくらいしか一致するものがないが、何となく似ているんだ。

 

「てか部屋に入るまで姿見せんじゃねぇよ。料金取られるだろうが」

「……けち臭いのぉ」


 金はあればあるだけいいからな、当然宿代削減のため、ストローには人に認識されない状態でいてもらう。

 

「……一応見てくか」


 自分の部屋に入る前に気が変わり、俺は隣の部屋のドアを開けた。


「おう、気分はどうだ?」

「……最悪だぜ」


 そこにいるのは縛られたグルス。

 部屋の柱に繋がれ、鋭利な刃物でもない限りこの部屋から出ることはできねぇだろう。

 

「まあ魔王に引き渡したら、悪いようにはしないでくれって頼んでやるよ。お前が協力的だったらな」

「……」

「じゃあな、また来る」


 口を噤んでしまったため、俺は部屋を出て、今度こそ自分の部屋に入った。

 さて、言われた通り夜まで寝ておくか――――――――――――。



 

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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