85 魔王城強襲
「アタマを斬れば真っ赤なお花ー、ドバドバ出して切る切る」
魔王城の入り口。
堀に囲まれた城の中に入るには、正面にあるこの橋を渡るしかない。
そんな橋を守るために立っている兵士たちに、一人の少女が近づいてきていた。
「ん? お嬢ちゃん人間かい? こんなところにいるのは危ないよ?」
「新鮮なお肉ーきるきる!」
「え?」
優しく話しかけた兵士は、首と胴体がお別れをしたことで絶命
「な!? お前!」
「いっぱい切る切る!」
「か……」
それを見て駆け寄ってきた二人の兵士は、縦に真っ二つになり絶命。
「て、敵襲だっ――――――――――――」
「キルキル!」
異変を知らせるべく駈け出した兵士は、バラバラになり気づかぬうちに絶命。
その返り血で、胸に巻いた布と短パンを汚し、黒いツインテールの髪をドス黒い色に染め上げる。
「あはぁ……お花、いっぱぁい……もっと、もっとぉ」
少女は揺れながら、肉片の散らばる橋を渡り、城の中に入っていった。
◆◆◆
そこは魔王城にある応接間。
グレインとエルカとティア、そしてブラッドがこの部屋に集まっていた。
「さて、この先どうしようか」
グレインの問いかけに、すぐさま反応できる人物は、この場にはいなかった。
魔王デザストル、海神リヴァイアはクレアシルに力と血を取られたせいで、現在意識不明。
夕陽は錯乱し、部屋から出せない状態。
獣人一同は、国で対策を考えるため援軍の船に乗り、一度帰国。
五大魔将のイデスとリリーの傷は完治したが、戦場の後始末のため外出中。
現在まともに会話ができる者は、ここにいる四人だけである。
いや、正確には三人だ。
「エルカ……エルカ!」
「……はい?」
グレインが名前を呼んでも、エルカの反応はとても薄かった。
その顔は疲れきっており、今にも倒れそうだ。
「エルカ、無理はしなくていい。辛いなら部屋で休んでて」
「……あなたたちは……平気なんですか? セツ様が……目の前で消えて……」
エルカはあのときの光景を思い出して顔を覆う。
彼女からすれば、二度彼を失ったことになる。
その精神的ショックは計り知れないだろう。
「辛いよ。夜は悲しくて涙が出る。でも、今は忘れるようにしてる。このままだと、セツだけでなくみんな消えるかもしれないから」
「……」
ティアの言葉を、エルカは頭のなかでは理解していた。
悲しむより先に、目先のことについて真剣に考えたほうがいい。これはどうしようもない正論で、それゆえに、エルカの感情はその言葉を受け入れまいと必死になる。
愛しの人が消えたと言うのに、切り替えて戦いのことなど、彼女に考えられるはずもなかった。
「エルカは無理をするな。今は所詮対抗策が思い浮かばない俺たちの意見交換だ。何か意見があるなら言うだけでいい」
「……分かりました」
エルカは項垂れ、主導権は完全にブラッドに移った。
「よし、まずは現状の整理だ。クレアシルは俺たちの前から姿を消したが、またいつ襲いかかってくるか分からない。そして襲いかかられてしまえば最後、今の俺たちの戦力では歯がたたないだろう」
「魔法も通じなさそう。印象でしかないけど」
「試すまでもないだろうね、それくらいは」
ブラッドは天井に顔を向けて、目を閉じる。
彼が思考するときの癖だ。
それなりに頭も回る彼だったが、さすがにこのときばかりはいい案が浮かばない。
思い沈黙が四人を包む。
そのとき、外の廊下から慌ただしい音が近づいてきた。
「ブラッド様! ブラッド様はいらっしゃいますか!?」
「落ち着け、どうした?」
部屋の扉を乱暴に開けて飛び込んできたのは、城の中を巡回している兵士の一人だった。
その慌てようは尋常ではなく、汗が滴り落ち、全身が震えている。
「し、侵入者です! 私たちでは歯が立たず、現在城の中を進行中!」
「何だと……特徴は?」
「女です……小柄で子供にしか見えませんが、謎の不可思議の攻撃で身体が切り裂かれます……」
「ふむ……」
兵士の動揺っぷりから、ブラッドはその侵入者の脅威をなんとなく察する。
そして次に考えたことは、自分一人で向かうのは危険かもしれないという予想。
そこで振り返ると、すでにグレインとティアが立ち上がってこちらへ向かってきていた。
「二人とも、ついてきて――――――――」
「いや、ブラッドはエルカと他の兵士たちの避難誘導を頼むよ」
「これ以上被害を増やさないために、魔族であるあなたが指示したほうがいい」
「だが! 二人でも倒せなければ……」
そこまで言い、ブラッドは口を塞ぐ。
二人はすでに戦闘態勢を取っていた。
これを止めるには、相当な覚悟と根気がいるだろう。
「大丈夫だよ。もし僕たちでどうしようもなければ、時間は稼ぐから援軍を頼む」
「多分いらないけど」
「……分かった」
ブラッドは二人の視線の先にいるエルカを見て、そう答えた。
彼女はこの状況がいまだに理解できておらず、オロオロとしている。
そんな状態の彼女を放置するのは、危険極まりない。
「あのクールな女がこうなってしまうとはな……」
「そういうわけだから、頼んだよ」
「ああ、任せろ」
二人は部屋を飛び出し、兵士の指した方向へと駆けていく。
「さあ、俺たちも行くぞ」
「あの……今はどうなって」
「話は後だ。とりあえずついてこい」
エルカの手を引き、ブラッドもその部屋をあとにする。
その頃、彼らのいる階よりもさらに上層階で、謎の轟音が響いていたことを彼らはまだ知らない。
◆◆◆
「血の匂い……すぐそこだ!」
「いる……!」
彼らの進行方向より、生臭い匂いが漂っている。
廊下の突き当り、そこには何かが転がっていた。
それは兜をかぶった兵士の頭。そこに胴体はなく、真っ赤な血を吐き出しているだけである。
「ッ!」
グレインは嫌な予感を感じ取り、とっさに剣を構える。
響き渡る金属音と、飛び散る火花が見えたと思えば、彼の身体は吹き飛ばされ廊下を転がっていた。
「何が……!」
「グレイン!」
ティアが駆け寄ってくる。
彼女に支えられ、グレインが身を起こすと、その原因が判明した。
「アタマ飛ばなかった、切り飛ばしーぐちゃぐちゃ。あはぁ」
「侵入者はあなた?」
「わたしそんな名前じゃない、わたしは〈切断剣リッパー〉。きる、切る斬るキルKILL!」
リッパーと名乗った少女の姿が消える。
グレインはとっさにティアを抱え、真横に剣を構えた。
再び響く金属音。
しかし今度はグレインも身体が追いつき、吹き飛ばされることはなく鍔迫り合いへと移行した。
「その手……! 全身凶器か?」
「あひっ! 止めた! 切れない切れない!」
グレインの剣と鍔迫り合いを繰り広げていたのは、少女の肘から先の手だった。
指の先端までが刃となっており、金属の光沢を放っている。
「〈火の玉〉!」
「ぎぇ!」
ティアが至近距離から火の玉を放ち、リッパーを吹き飛ばすことで鍔迫り合いは終わる。
距離を取り、二人は何とか体勢を立て直す。
リッパーはゆらゆらとフラつきながら、笑っていた。
「効いてない……」
自分たちを巻き込まないようにと弱い魔法を撃ったのは確かだが、彼女としては、人間最強クラスの魔法使いである自分の火の玉を受け、ダメージがないというのはいささかショックであった。
「赤い玉、目の前チカチカ……あったかぁい!」
「ティア下がって!」
「っ……」
ティアがうなずき下がるのと同時に、グレインが飛び出し魔力をまとわせた剣で迎え撃つ。
リッパーは自分の胸の中心から一本の剣を抜き、彼に叩きつけた。
二つの剣が合わさる。
しかし、今回は金属音はしなかった。
「な……に……」
「あひっ、真っ赤なお花。きれいねー」
剣は両断され、顔から股にかけて一閃されたグレインは、大量の血を撒き散らしながら左右に分かれた。
二つになったグレインを見て、リッパーの表情は満面の笑みとなり、彼女の笑い声だけが廊下に響いてる。
呆気無く死んだ仲間を目にしたティアはと言うと……。
「思ったより厄介な能力かも」
限りなく、冷静であった。
それもそのはずである。
グレインは、リッパーの後ろに立っているのだから。
「太刀筋は分かった?」
「ああ、おかげさまでね」
「え?」
グレインの剣がきらめく。
今度は、リッパーの背中から血が吹き出した。
彼女の身体が床に倒れる。
その先にあったものは、両断されたグレインではなく、ただの木の人形だった。
「汚いなんて言わないでおくれよ? 僕たち人間は悲しいことに、こうやって小細工でもしないと生き残れないのさ」
立場が逆転し、グレインの刃はリッパーの首につきつけられていた。




