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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第四章 人間大陸にて
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81 〈抜刀〉

「さて、次は破壊神様ですね」

「……」


 紫の瘴気を流す剣を向けられても、デストロイアはフェリブスに見向きもしない。

 ただその眼はセツが消えていった家屋に向けられるばかりである。


「よそ見とは余裕ですね。今のあなたなら、僕でも倒せる――――――――」

「ほう……」

「ッ!」

「たかが剣ごときが……ワシに勝てるとでも?」


 フェリブスは思わず距離を取った。

 彼が知っている破壊神は、近づいただけですべてが崩れ去るほどの圧倒的な力の象徴だった。

 今は、その面影すらない。

 面影すら、ないはずなのだが……。


(何を怯えているんだ僕は……今の破壊神様なら僕より神力が少ない可能性すらある。なのに……まったく勝てるビジョンが浮かばない……)

「そう怯えずともよいのじゃ。お主を倒すのはワシではない」

「はい?」

「ほれ、出てきおったわ」


 穴の空いた家屋から、木片を蹴飛ばしながらセツが現れる。

 ところどころ服が破け、ダメージは負っているようだが、足取りはしっかりしていた。


「はぁ……次は、こっちの番だよな」



◆◆◆

「元気そうじゃな」

「当たり前だ」


 何ニヤニヤしてやがる。くすぐりの刑に処すぞストロー。


「おう、どうした? 草食面。俺が無事なのがそんなに想定外か?」

「……驚きました。まさかそれだけ元気だとは思っていなかったので。ですが、その折れた剣でどうするというのですか? そんなナマクラでは、仮に僕に当たっても斬れませんよ」


 こいつをナマクラと言うとはな……まあ、自分を聖剣と名乗ったくらいだ、大口叩けるだけの力はあるんだろ。

 というか実際今体験したしな。

 

「確かに、黒丸じゃお前を倒せねぇ。けどな、俺の武器はこれだけじゃねぇんだよ」

「……?」


 俺は虚空に手を伸ばし、名を呼ぶ。


「喰らえ、〈空腹の牙(ハングリーファング)〉!」


 空間が割れ、中から剣の柄が現れる。

 それを握りしめ引き抜くと、割れ目から流れだした瘴気が集まり、大きな口のついた刃となった。


「な……なんですか……それは」

「お前と同じ、聖剣ってやつだよ」


 大食いをフェリブスに突きつける。

 今はかなり空腹状態だ。

 これなら食い尽くせるだろう。


「そんなものが……聖剣だと言うのですか……?」

「?」


 何やらよく分からねぇことを言う。

 同じ聖剣の仲間なんだから、名前くらい覚えていてもいいじゃねぇか。


「ま、関係ねぇな。油断してんじゃねぇぞ? ……行くぜ」

「ッ!」


 大きく大食いを一振り。

 とっさにかわそうとしたフェリブスの片腕を、根本から食いちぎった。


「なんて凶悪な……!」

「オラオラァ!」


 肩口から血を振りまきながら、フェリブスは俺の連撃をかわす。

 てか血が出んのな、よく分かんねぇ。

 

「セアッ!」

「ぐっ!」


 一度囮として黒丸を放ち、それを防がせた。

 そして出来た隙に、大食いを突きこむ。

 片腹を丸く食いちぎられたフェリブスは、たまらず後ろへ跳んだ。


「……なるほど、強い」

「褒めても何も出ねぇぞ。差し出すのはむしろてめぇの命の方だ」

「……」


 フェリブスは無言で俺を睨んでいる。

 あの眼は、何かを狙っている眼だ。

 そのチャンスさえくれば、一瞬で戦況をひっくり返せると言わんばかりの気配を感じる。

 だったら、逆にこっちが一瞬で決めちまえば――――――――――。


「なんだなんだ!?」

「さっきの音は何だよ!」

「こっちの方からだ!」


 俺の中で、完全に眼中になかったことが起きちまった。

 村の男たちが、数人向こうから走ってきている。

 まずい、さすがに庇いきれない。


「てめぇら! 来んじゃねぇ!」

「あ! お前はさっきの――――――」


 叫ぶが、状況が分からない男たちはそのまま走り寄ってくる。

 俺は嫌な予感がし、そいつらの前へ移動した。

 

「好機! 余計なことに気を取られましたね!」

「くっ……」


 この場にいれば、こいつらは庇える。

 だがこれは得策ではなかった。

 一撃で、やつを葬るべきだった。


「――――――――〈抜刀〉」


 やつが、一言何かを唱える。

 するとみるみるやつの体型が変わっていき、両足が歪な形に膨らんでいく。

 やがて一体化した下半身は、タコツボのような無数の突起を持った巨大な塊となった。

 

「〈抜刀〉……聖剣が己の鞘から刃を抜いた姿。意味はそのままじゃが、聖剣どもからすれば、己の真の姿を晒せる言わば完全解放状態。やつの能力はさらに凶悪になったぞ」

「おいおい……」


 病魔を撒き散らす怪物がさらに進化したってか?

 いや、今までが制御されていたのか。

 今までで一番嫌な予感がする。

 

「めんどくさくなる前に……一撃で!」

「遅いですよ。〈シックミスト〉」

「うぉ!?」


 フェリブスのタコツボの穴から、黒い霧が吹き出す。 

 俺は大食いを振るって自分に降りかかる霧を消した……が。


「ごほっ……」

「な、何だよ……これ……」

「げほっ……ごほっ」


 男たちは霧をもろに浴びたのか、うずくまり、血を吐いていた。

 何だよこれ……もう毒じゃねぇか。


「僕の〈シックミスト〉は、吸い込んだものにあらゆる病を何倍にも凶悪にして発病させます。それは遺伝系のものも、感染系のものも、すべてが等しく確率です。ただし、致死性のものしかありません」

「極悪じゃねぇか……!」

「あなたも何を逃れた風でいるのですか?」

「ッ!」


 俺は突然力が入らなくなり、地面に膝をついた。

 同時にこみ上げてきた吐き気に耐えられず、そのまま吐血する。

 地についた手の甲を見ると、赤い湿疹が無数に浮かび上がっており、猛烈に全身が痒い。

 全身が焼けるように熱く、ついにはうつ伏せに倒れてしまうほど、身体に力が入らなくなった。


「霧を吸い込まなくたって、病原菌は空気中を漂います。僕がこの状態になった時点で、あなたの敗北は決定していました」

「ちく……しょう……」


 まずい、意識が薄れてきやがった。

 あの男どもは……動いてねぇ。

 死んだ? 死んじまった?

 

 やめろよ、めんどくせぇ。

 誰が後処理(・・・)すると思ってんだ。

 いちいち死ぬんじゃねぇよ。


(なんだ……今、俺は何を考えていた?)


 あのゲテモノ野郎を壊せば、こいつらは助かるかもしれない。

 俺の仕事が増えねぇなら、やつを倒した方が早いな。


(さっきから……何だよ、この思考は)

「な……なぜ、立ち上がれるのですか?」

(え……?)


 気づくと、俺は二本足で立っていた。

 身体が恐ろしいほど軽い、どうなってやがる。


 いや、まあいいや。もうなんでも。

 すべてがもうどうでもいい。

 とりあえず、邪魔だから消すか……あいつ。


「あなたは……一体……」

「……」


 俺は一歩、前へ踏み出す。

 誰も反応できない。

 眼前へと詰め寄ったはずなのに、フェリブスは俺を視界に捉えてすらいなかった。

 俺は、その胸に、ゆっくりと大食いを突き入れる。


「がっ……あれ……? そんな……」

「――――――――――――――――あばよ」


 聞こえる音は、咀嚼音のみ。

 大食いは、やつの固まった表情も、歪な顔も、容赦なく食い散らかしていった。

 

 大食いが満腹になった頃には、もう、そこには何もなかった。


◆◆◆

「……お疲れ様、じゃな」

「ああ……」


 ストローに背中を叩かれ、俺の身体の重さが、ゆっくりと戻ってくる。

 不思議なことに、身体はすこぶる好調だ。

 あれだけの痛みが、まるで嘘だったかのように……。


「……」

「……? どうしたのじゃ?」

「いや……なんでもねぇ」


 あの、何もかもどうでもよくなる感覚……どこかで味わった気がする。

 確か、お袋によく分かんねぇ空間に呼び出されたときに――――――――。


「おい! ほんとに大丈夫か!」

「っ! あ、ああ……心配すんなって」


 訝しげな視線を向けてくるストローを適当にあしらい、俺は倒れ伏した男たちの方へ向かう。

 背中に刺さるやつの視線が痛いが、今はそれより村の連中の体調が心配だ。

 フェリブスを倒したことで、解決してりゃぁいいんだが……。

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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