80 病魔剣
「ここか……」
「おうおう、ずいぶんと活気のない村じゃのう」
商人のおっさんと会ってからしばらくして、俺たちは例の村に到着した。
外から見た村は、全体的に暗く、偶然前を通りかかっただけなら決して近寄りたくない雰囲気を醸し出している。
「とりあえず入ってみるか。解決しようにも、原因が分からねぇんじゃ話になんねぇ」
「そうじゃの。ワシもまだ確証が持てんし」
ストローはその病の原因に見当がついているらしいが、俺には教えてくれない。
ただ神に関係することらしいが、ただの伝染病とかだったらどうすんだろうな。
まあ、今からそれを確かめに行くわけだが。
村に入ってみると、そこら中の家の壁に、若い男たちが座り込んで休んでいる姿が見られた。
どいつもこいつも生気のない顔をしてやがる。
だがこいつらは病に侵されているわけではなさそうだ。
辺りを見渡しながら歩いていると、そのうちの一人が話しかけてきた。
「……あんた、旅の人かい?」
「! ああ、そんな感じだ」
「そうか。ならさっさと立ち去ったほうがいいぜ。この村はもう終わりだよ」
「……病が、流行ってるんだってな。詳しく話を聞けねぇか?」
「はっ、物好きな人だ。分かった、せめてこの話を外の人に伝えてくれるとありがたい」
詳しい話はこうだった。
数日前、突然村の子供の一人が病に倒れた。
風邪に症状が似ていることからそれなりの対処法を取っていたらしいが、一向に回復せず、症状は重くなっていくばかりか、周りの人間にも移り始めたそうだ。
ことの重大さに気づいた頃には、子供と老人はほとんど倒れ伏し、手がつけられなくなっていたらしい。
今も病人たちの対処に追われ、男たちはこうして休み休み看病し、なんとか交代制で看病しているそうだ。
「……状況はずいぶん悪ぃな」
「そうじゃのー」
とりあえず、俺たちは村に宿を取った。
宿の亭主も女将さんと娘が病に倒れているらしく、本人もかなり弱っているところを無理やり泊めてもらったから、せめて金は少し多めに払った。
まあ……魔力がなくなったせいで魔法袋が使えず、さっきの盗賊からもらった金だが。
「で、お前の予想は当たってたのかよ?」
「おおよそ……ってところじゃのう」
「じゃあそろそろ教えろや。この病と神、どこが関係してるんだ?」
「ふむ……」
ストローは腰掛けていたベッドから降りると、窓の外に身体を乗り出した。
「……やはり、いる」
「あ? 何がだよ」
「喜べ小僧、ようやく確証が持てたぞ!」
「……?」
何やら得意げなストローは、俺の手を取って宿の外に飛び出す。
唖然としながら村を走っていると、こいつは村の中心でようやく足を止めた。
「お、おい! 何だってんだ!」
「村の中心、ここじゃな」
「はぁ?」
さっきから一切の説明がない。
いい加減にしねぇと頭ぐりぐりの刑に処そうかと思い始めた、その時――――――。
「出てこい、いるんじゃろ?」
「――――――――――これはこれは、破壊神様ではないですか……」
俺は思わず後ずさった。
いつの間にか、そこに子供が立っている。
毒々しい濃い紫色の髪を持ち、子供らしさのかけらもないほどに無表情だ。
見かけだじゃ性別すら分かりにくい。声からすると男のようだが。
何というか……あのクレアシルを彷彿とさせる雰囲気だ。
「……〈病魔剣フェリブス〉、やはりお主の仕業じゃったか」
「まさかこんなに早く感づかれるとは思っていませんでしたよ、破壊神様。その様子だと、僕は最初の聖剣のようですね」
「あ? 聖剣?」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、俺は思わず口を挟んだ。
聖剣と言えば、異世界から召喚された人間に宿る人智を越えた武器。
俺や冬真、ついでに光真、つまりは勇者と呼ばれる者が持っている。
それを、こんなガキが持っているとでも言うのか?
「違うのじゃ、セツ。こやつは聖剣を持っていない。根本から違うのじゃ。こやつは……こやつ自身が、聖剣なのじゃ」
「……はぁ?」
何だそれ、意味が分からん。
どこからどう見ても、このガキは人間だ。
異様な雰囲気は感じるが、どこを見ても剣だなんて思わない。
「……破壊神様、どうやらこの男は相当鈍いようですね。こうすれば、理解できるでしょうか?」
「っ! よすのじゃ!」
俺はとっさに背負っていた折れた黒丸を突き出す。
鈍い音がして、気づくと俺は地面を転がっていた。
「な、何だ!?」
腕がしびれている。
動かないほどではないが、力が入りにくい。
すぐさま立ち上がって前を見ると、そこには片腕を片刃の剣にしたあいつが立っていた。
「おっと、よく防ぎましたね」
「セツ! 油断するでない!」
「っ! どうなってんだよこいつは!」
腕を刃に変形させるやつなんかに会ったことがねぇ。
て言うか、魔力がないとは言え、この俺を吹き飛ばしやがった。
パワーだけなら、冬真にも匹敵するかもしれない。
「創造神クレアシル様が、「人」を殲滅するために創りだした存在、それが僕たち聖剣です。本来は剣の状態でいるのですが、こうして持ち主がいない場合、人の肉体を得て存在することもできます。まあ、さすがに力は落ちますけど」
聖剣? クレアシル? やべぇ……俺こんなに頭悪かったか。
まったくもって理解できないやつの言葉を、俺は自分なりに整理しようとする。
だがだめだ。剣が喋ってるってことでいいのか?
「セツ、今考えることはこやつをどう倒すかじゃ。こやつを倒さぬ限り、この村に安息は訪れぬ」
「あぁ!? だから展開早すぎてついてけねぇんだよ! 分かりやすくまとめろ!」
「目の前のこいつが病の原因! 倒せばみんなハッピー! おーけー!?」
「お、おお……そっちの方が分かりやすいわ……」
突然素の口調になったのはビビったが、とりあえず頭が状況に追いついた。
詳しい話はあとでストローから聞き出そう、今はこいつを倒すだけでいい。
てか知らん! とりあえず喧嘩売ってきたこいつはぶっ飛ばす!
「戦う気のようですね。破壊神様が敵というのはかなり絶望的な話ですが、僕もまだ使命の途中。あなた方を斬らせていただきます」
「上等だ!」
俺は強く地面を踏み込み、フェリブスとやらに跳びかかった。
真上から黒丸を叩きつけてやると、フェリブスは自分の胴体から一振りの剣を取り出し、受け止める。
その剣は歪んでいて、これまた毒々しい。
……ってか普通に受け止めるか、少しショックなんだが。
「人の身にしては重い一撃ですね。僕も油断せず行きますか」
「!」
俺が押し返される。
体勢を整えながら下がると、フェリブスはそっとその剣に手を添えた。
「侵しましょう、〈フェリブス〉!」
猛烈に、嫌な予感がした。
やつの剣から溢れだす紫色の瘴気。
本能が、あれには触れるなと言っている。
「いかんのじゃ! セツ! 今のお主じゃ耐えられん! すぐに下がるのじゃ!」
「分かって……っる!」
迫ってきた瘴気を黒丸で扇ぐようにして吹き飛ばし、バックステップを踏む。
すると視界の奥で、フェリブスが地を蹴るのが見えた。
「安易に下がるのは得策とは言えませんね!」
「ぐっ!」
黒丸の腹を盾として使う。
そのど真ん中に、やつの突きが命中する。
重い、ただの突きなのに。
すさまじい推進力を得て、俺の身体は真後ろに吹き飛んでいく。
やがて民家を突き破り、中の床に身体を叩きつけた。
「がっ……おいおい……これで全力じゃねぇのかよ……」
全身が痛い。
目立った外傷はないが、擦り傷だらけだ。
まあこの程度ならなんてことない。問題は、今の俺でやつの全力を受け止められるのかってところ。
ぶっちゃけ無理だろう。今のでもずいぶん腕がしびれた。
おそらく、やつらは微量だが神力を持っている。
クレアシルと同じ雰囲気がするのは、それが原因だろう。
で、なんだっけ? 神力があると一次元レベルが変わるんだっけ?
せめて魔力があればって思ってしまう。
だがどうしようもねぇ、身体が動く限りは、やつにぶつかってみよう。
「げほっ……げほっ……」
「っ!」
「あれ……お兄ちゃん……だれ?」
俺の足は、思わぬところで止められた。
この家の娘だろうか、うつろな目でベッドに入っている子供がいる。
顔は赤く、かなり熱があるようだ。
……そうか、これが病にかかってる子供か。
「わりぃ、起こしちまったか」
俺は起き上がろうとしていた子供の頭をそっと撫で、再びベッドに倒してやった。
まずいな、壁を壊しちまった。あとで直そう。
そんでもって、こいつらの病気も治してやらねぇとな。
「苦しいか?」
「うん……少し」
「そうか――――――――待ってろ、すぐに元気にしてやるからな」
こんなに小さいやつらが苦しんでいる。
それがあのフェリブスの仕業ってんなら……弱音なんて吐いてらんねぇな。
「ありがとう……お兄ちゃん……」
「おう」
……眠ったようだ。
おそらく高熱で、ろくに意識なんてなかっただろう。
きっとほとんどうわ言だ。
それでも、こいつは助けてほしそうな顔をしていた。
やるだけやってやる。
恐れる必要なんてねぇさ、俺だって聖剣を持ってんだから――――――――――――――ん?
「……持ってんじゃねぇか、俺も聖剣」




