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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第四章 人間大陸にて
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79 人知れず決着

別視点になります。

「何だと!? 敗北……したのか……?」

「はい……」

「冬真……冬真たちはどうしたのだ!」

「おそらく、魔族に捕まったかと……」

「っ……もういい、下がれ」

「はっ!」


 ディスティニアの王は、この最悪な報告に頭を悩ませた。

 まさか負けるとは思っていなかったのだ。

 冬真たちの脅威は、彼でも十分に理解していた。

 もちろん魔族たちにもそれなりの戦力がある。

 しかし、獣人たちと合流していない魔族たちであれば、簡単に根絶やしにできると思っていたのも事実。

 王は自分の考えの甘さに、思わず王座を殴った。


「お父様……」


 王女であるマーガレットは、そんな父の姿を見て涙を浮かべた。

 それでも涙を拭い、強い眼差しで王を見る。


「お父様、冬真様がそう簡単に負けてしまうわけがありません。きっとこれも何か考えがあってのことですわ。例えば、わざと捕まり、内部から反撃すると言った――――――――」

「その線はあるかもねー」

「……っ! ルーム!」


 いつの間にか、玉座の上に黒ローブを着た少年が立っていた。

 冬真が集めた黒ローブの集団のうちの、最後の一人、ルームである。

 

「あなた……どこにいましたの?」

「何言ってんのさ、ぼくはずっとここにいたよ。この部屋(・・・・)にね。それよりさ、冬真くんがまた動き出すまでは動かない方がいいかもね。なんか邪魔しちゃ悪いし」

「う、うむ……」

 

 この場にいるものは知っている。神代冬真という人物が、規格外の化物であることを。

 彼らの頭では到底理解できないことも、簡単にやってのけるということを。

 しかし、彼らはまだ知らない。

 その冬真よりも、天敵であるセツよりも、さらに規格外の存在が現れたことを。

 

 そして、今現在彼らに危機が迫っていることを――――――――――。


「っ! 伏せて!」

「「!?」」


 ルームが玉座から飛び降り、王を抱えて地面に伏せる。

 マーガレットもとっさに反応し、その場にしゃがんだ。

 直後、響き渡る轟音。

 王の間の大きな扉が、部屋の中を舞っている。

 何か爆発が起きたのか、部屋の入口で煙が発生していた。

 その中から、二人の若い男女がゆっくりと姿を現す。


「よぉ……人間の王様、それにお姫様も」


 歪んだ笑みを浮かべる男は、乱暴な口調で言った。

 両方とも、青白い肌から魔族ということは分かる。

 男はボサボサの金髪に、赤い眼球に黒目を持ち、女は灰色で質素な袴を身につけ、髪を後ろで一つに束ねていた。

 異様な雰囲気を醸し出し、瞬きさせないほどの存在感が、彼らにはあった。


「ま、魔族だと!? 警備の兵たちはどうした!」

「今頃お寝んねしてるぜェ……起きるか分かんねぇけどな」

「なっ……」

「……」


 驚く王を後ろに下げ、ルームは一歩前に出た。

 王女もハッと気づき、自身の中にある魔力を練り始める。


「君たち、魔族ってことは、王の首を取りに来たのかな?」

「あたりめぇだろ」

「それにしても……二人とはねぇ……大部分の戦力を魔族大陸に送ったとはいえ、相当数の兵が残ってるってのに、勇敢だね」

「はんっ……雑魚が何人束になろうが、俺様には勝てねぇよ。生意気な口聞くなよ、雑魚が」

「ッ! ……ほんとに命知らずなんだね!」


 ルームから魔力を吹き出す。

 濃厚な魔力が、部屋の中を満たした。

 しかし、二人は微動だにしない。


「僕の名前はルーム……今から君たちみたいな雑魚を始末する強者だよ」


 その魔力から推測するに、彼の実力はSSS級。

 あのカゲロウよりも、その魔力量は多い。


「……っち、名乗られたしなァ……一応俺様たちも名乗っておくか」

「必要なことだろうか、それは」

「連れねぇこと言うなや、ノリってもんがあんだろ」

「ふむ、一理ある」


 彼らは膨大な魔力に身を晒しつつも、一歩、前に出た。


「俺様は五大魔将が一人、ジオンだ」

「五大魔将が一人、ラミナという。覚えなくてもいいぞ」


 二人から、同時に魔力が吹き出す。

 それは瞬く間に部屋の中を満たし、ルームの魔力を塗り替えた。


「なっ……君たち……ッ! 五大魔将だったのか!」

「気ぃつけろよ、俺様たちは……他の三人よりは格上だぜ」


 狂気染みた笑みを浮かべるジオンに、ルームは思わず一歩後ずさりした。

 それと交代するように、マーガレットが震えながらも前に出る。


「あ、あなたたちが五大魔将と言うなら! ここで帰すわけにはいきません! 〈連なる炎槍(フレイムツインランス)〉!」

「おっとォ……ずいぶん勇敢なお姫様だこと」


 マーガレットの魔法は、かなりの威力を持っていた。

 冬真や、その周りの指導もあり、彼女の魔法は明らかなる進化を遂げていたのだ。 

 セツが初めに驚いたのも、その成長が著しかったからである。

 この炎の槍も、威力だけならばS級を凌ぐだろう。

 しかし……。


「え……」


 炎の槍は、二つ同時に真っ二つに割れた。

 いや、切断された。

 威力を消され、地面に落ちた炎はそのまま消滅。

 彼らは変わらない姿でそこに立っていた。

 一つ、変わったところがあるとすれば、ラミナが、腰に帯刀している刀に手を置いているところくらいか。


「おい、あの王女は任せっぞ。俺様はあの子供雑魚を始末する」

「よし、任された」


 ラミナは頷くと、一蹴りでマーガレットの眼前へ移動した。

 この中でその速度に反応できたものは、誰一人いない。


「わっ――――――――」

「〈転脚〉」


 驚くマーガレットに、ラミナの後ろ回し蹴りが刺さる。

 腹部にまともに受け、彼女の身体は壁を突き破り、となりにあった王の寝室へ転がり込んだ。

 

「二分はかけんなよ」

「いらぬ、そんな時間など」


 ラミナがマーガレットを追ったのを確認し、ジオンはルームに向き直る。


「さて、俺様も終わらせるとするかァ」

「甘く……見るな!」


 ルームが腕を振る。

 すると、部屋に敷いてあったカーペットが蠢き、拳の形になってジオンに襲いかかった。


「うおっ! なんじゃこりゃ」

「僕の魔法は〈部屋魔法(ルームマジック)〉、部屋にあるものなら自由自在に操れるのさ! まあ屋外じゃ役立たずだから、戦争には置いて行かれちゃったけどね!」

「ユニークかよ……うぜぇ」


 そう愚痴を漏らしつつ、ジオンは無数の拳をステップでかわす。

 彼にとってこの程度の速度と密度の攻撃ならば、誰かと世間話をしながらでも避けきれる。

 しかし、カーペットの範囲から抜け出す寸前、彼の足はカーペットの毛によって絡め取られた。


「なっ!」

「はっ! 引っかかった!」


 バランスを崩して転んだところに、カーペットの拳たちが一斉に襲いかかった。

 

「ぐっ……このっ……うっぜぇ!」


 全身をくまなく殴りつけられたジオンは、ダメージを受けつつも毛を引きちぎり、離脱に成功する。

 カーペットの範囲外からぬけ出すと、今度は彼の本能が危険を知らせた。

 嫌な予感がして上を向くと、そこには巨大なシャンデリア。

 それが、ジオン目掛けて落下し始めるところであった。


「潰れなよ!」

「くっ……」


 ジオンは横に転がるようにしてシャンデリアをかわす。

 カーペットの方へ行けば再び捕まると考え、今度は壁のある方へ。

 しかし、ルームはしっかりそれを読んでいた。


「もっと周りに気を配ったほうがいいよ、魔族さん」

「はぁ? がっ――――――――」


 壁には、王の揃えた絵画たちが立て掛けられていた。

 その絵たちが壁を外れ、今はその額縁をジオンの後頭部に叩きつけている。

 悶絶するジオンに、さらに絵画たちが追い打ちをかけはじめた。


「かっ……これ……しきでよォ……」

「はは! 頑丈だね! でも僕もあんまりヒマじゃないんだ。一気に決めさせてもらうよ」


 〈限界突破(リミットブレイク)〉――――――――。



◆◆◆

「はぁ……はぁ……」

「敵を嬲る趣味はない。潔く降参するならば、命までは奪わん」


 マーガレットは血を吐きながら、ラミナを睨みつけた。

 おそらくどこか内臓が傷んでいる。

 しかし、立っているのもやっとの様子だが、彼女の眼はまだ死んでいない。


「舐めないでくださいませ……私は誇り高きディスティニアの王女、魔族ごときに屈しません」

「誇り高き……か、あまり他人のやることに口を出す趣味ではないが……異世界の無関係な人間を召喚し、戦わせるお前たちが誇り高いというのは……いささか笑えるな」

「ぶ、侮辱するか……私たちを! 〈炎の球の空間ファイヤーボールフィールド〉!」

「っ!」


 怒りの形相を浮かべたマーガレットは、魔法を放つ。

 いや、起動させた(・・・・・)というのが正しい。

 その魔法は、今の今までそこにあったのだ。


「面白い魔法を使う。私はわざわざ感情を口に出す趣味はないが、これには驚いた」

「喰らいなさい!」


 ラミナの周りには、無数の炎の玉が浮いていた。

 ようするにこれはトラップであり、この火の玉は、中心に向かって一気に集まる。

 かわすのは至難の業であり、このままでは間違いなくラミナは消し炭になるだろう。


「……足りないな」


 しかし、火の玉は決してラミナには届かない。

 先ほどの炎の槍と同じである。

 彼女に届く前に、すべての火の玉が切断され、霧散した。


「え……」

「見えないか。他人に期待を抱く趣味はないが……これはさすがに、期待外れだ」


 このとき、マーガレットは瞬きした。してしまった。

 一瞬視界が塞がり、そして再び光を取り戻したとき――――――――彼女の上半身は宙を待っていた。


「あれ……?」


 しばらく、彼女は死んだということを認識できず、なぜ立ち上がれないのかと真剣に考えていた。

 そして自分の下半身の姿をとらえると、ようやく自分の死を認識し、マーガレットはゆっくりとその眼を閉じる。

 彼女はもう二度と、目を開くことはない。


「……死人と話す趣味はないが……あの世で自分の行いを見直すことだ、姫よ」


 

◆◆◆

「がっ……はっ……まさか……この俺様が……」

「ははっ! あーはっはっはっは! 大口叩く割にはずいぶん弱いねぇ!」


 ジオンは、身体を巨大な剣で貫かれていた。

 この部屋にはない、鋼鉄でできた剣である。


「僕の〈理想のおもちゃ箱(ドリーマーボックス)〉は、僕のイメージ次第でなんでも創り出せる! 君を貫いている剣を、さらに成長させることだってね!」

「や、やめろ……頼む……」

「命乞いが遅いよ! 死ねェ!」

「っ――――――――――――」

「〈黒の華〉!」


 ジオンの体内から、正確には中心の剣から、真っ黒い鋼鉄の棘が四方八方に飛び出す。

 その瞬間に彼は人からただの物に早変わりし、まるで芸術品のように、真っ赤な血を滴らせる黒い華となった。


「僕に勝てるわけないじゃん……僕は冬真くんよりも、あのセツって人だって! その気になれば殺せるんだからさァ! あはははははははははは! あーはははははははははは!」


 ・ 

 ・

 ・ 

 ・

 ・

 ・


「あは……ははは……あは……」

「ご機嫌じゃねぇの……いい夢見れてんなら、そら何よりだな」


 ジオンは、眼を虚ろにさせ膝をついているルームを見下ろしながら、そっと呟いた。


「ルーム! ルーム! なぜ動かん!」

「あー、無駄だ。こいつはもう二度と戻ってこねぇ(・・・・・・)。そういう魔法をかけといた」


 横からルームを蹴飛ばし倒しても、彼は笑っているだけ。

 よほどいい夢を見ているのか、その笑いは心底気持ちよさそうだ。


「終わったのか、ジオン」

「おうよ。そっちも早ぇな」

「あまり死人について語るのは趣味ではないが……とんだ期待はずれだったのでな、一撃で終わらせてきた」

「かーっ! 残酷だねェ! 残酷だわー。俺様よりもよっぽどなァ」


 王様は後ずさりした。

 普通ではない(・・・・・・)、この二人の様子に恐怖し、すぐにでもこの場を離れたいという気持ちが彼を支配する。

 しかし、逃げられるわけがない。


「はァ……けどこれで、ようやく「混戦で姿を隠し、敵が油断しているところで王を討ち取る手柄総取り作戦」が成功したなァ」

「……決まってしまっていることにとやかく言う趣味はないが、その名前はどうにかならなかったのか」

「てめぇが思いつかねぇのがワリィんだろ。いいじゃねぇか、あいつ並のネーミングセンスの名前で」

「……そうだな、あの方は誰よりも強いが、名前をつけることに関しては負ける気がしない」


 世間話を始めた二人を尻目に、王は玉座の後ろに回り込もうと駈け出した。

 そこには隠し階段で行ける抜け道があり、万が一のときのために逃げられるようになっている。

 このチャンスを、逃さないわけにはいかなかった。

 しかし――――――――――。


「む、逃げるな」

「ぎ……ぎぃ! あぁぁぁ」


 膝から下が切り落とされ、王は床に横たわった。

 抜け道は、まだ遠い。


「おうおう、よかったなァ、カーペットが赤くてよォ……これなら血で汚れても気になんねぇもんな」

「ひ、ヒィ……」

「潔く、散れ」


 ――――――――――王が最後に見た光景は、ラミナの刀が一瞬だけ煌めいた瞬間であった。


「はぁ、いい土産もできたことだし、そろそろ帰っか。デザストル様も喜ぶだろ」

「勝手をするなと叱られるかもな。そうなれば全責任を貴様に押し付け、私は逃げよう」

「そりゃねぇよラミナさんよォ……旅は道連れだろ?」

「……あまり人の言葉を面と向かって否定する趣味はないが、それは違うと思う」


 彼らはマイペースな会話を続けながら、この場を去っていった。

 残っているのは、いまだ笑い続ける少年と、首のない男の胴体だけである。


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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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