77 破壊神
お待たせしました。
「っ……んん? ……ここは……」
俺は痛みを訴える身体にムチを打ち、起き上がる。
最初に視界に入ったのは、木々の作り出す木漏れ日。
どうやら、俺はどこかの森の中にいるようだ。
(身体に痛みがなかなか引かねぇ……魔力が尽きてんのか)
全身くまなく弄ってみると、傷は一つもなかった。
しかしダメージが残っているのか、全身を打ち付けたかのように痛い。
「……そうだ! 俺は――――――――」
自分に何があったかを、突然すべて思い出す。
俺は、あのクレアシルとか言う女神に負けた。
手の中には折れた黒丸が残されており、それが現実だということを嫌でも思い知らせてくる。
完全な敗北だ。
「ちっく……しょうッ!」
思わず、腕を地面に叩きつける。
辺りの木々が揺れ、葉が宙を舞った。
あいつらが心配だ。
俺が生きていること自体不思議ではあるが、あいつらの内一人でも失えば意味がない。
向かわねぇと。
今すぐあの場所に戻って、あいつらを守らねぇと――――――――――。
「やっと起きたと思えば、どこに行くのじゃ馬鹿者が」
「あ?」
立ち上がった俺に、聞き覚えのない声が掛かる。
いや、違う。俺はどこかでこの声を聞いた。
そうだ、クレアシルの手から放たれた光を浴びたとき――――――――。
「何をぼーっとしとるんじゃ! こっちじゃよ!」
俺はハッとして振り返ると、そこには木に寄りかかる子供が一人。
流れるような黒髪の長髪に、ハイライトのない漆黒の眼。
まるで、あのクレアシルと正反対な色合い。
やつそっくりだ、体型と色以外。
顔立ちなんて、双子と言われても信じられそうだ。
ただ、上下ともに黒Tシャツに短パン、正直センスを疑う。
「何じゃ、ワシの服装に文句でもあるのか?」
「っ! てめぇ……心を読んで――――――――」
「顔に出ておるわ馬鹿者!」
「いでっ!」
頭を叩かれた、いてぇ――――――――――――痛い?
「力を使いすぎてこんなちんちくりんになってはいるが、ワシはこう見えて神じゃ! 貴様一人消し飛ばすなどわけないぞ!」
「っ! 神……なるほどな! あいつの仲間か!」
叫ぶ幼女に対し、俺はとっさに折れた黒丸を構えた。
もう使い物にならないことは分かっているが、一瞬でも攻撃を耐えられればいい。
最悪な状況だが、なんとしても生き残ってやる。
こいつを殺す。
こいつを殺して、俺が生き残る。
あれ……なんで俺は殺そうなんて思っているんだ?
……そうか、こいつらが「人」じゃないからか。
「神」ならば、俺は殺せるはずだ。
「殺すッ!」
「待て待て待て! 待てってッ!」
折れた黒丸がやつに触れる寸前で、俺は思わず手を止めた。
なんだこいつ、めちゃくちゃビビってるぞ……?
「ワシは破壊神〈デストロイア〉! あの創造神〈クレアシル〉と対をなす者じゃ! 脅してはみたが、お前さんと戦う気はない! だから剣下げてぇぇぇ!」
「……」
黒丸を近づけてみると、「ヒィ!」と言って顔を覆う。
ううむ……こんなやつがあのクレアシルと対をなす者?
「……冗談はほどほどにしろよな、ガキ」
「冗談などではないぞ! 失礼なガキだ! ワシはもう何万年も――――」
「うるせぇ」
「ヒィ! ごめんなさい!」
再び黒丸を近づけると、こいつはびっくりするほど大人しくなった。
仮に神だったとしても、こんな威厳のねぇやつが神でいいのだろうか。
「わ、ワシがお前さんを助けたというのに……お礼くらい言ってくれてもいいじゃないかブツブツブツブツ」
「……おい、その話詳しく聞かせろ」
「はぇ?」
はぇ? じゃねぇ。
今こいつ聞き捨てならねぇこと言いやがったぞ。
俺を助けた?
「ふっ……ふっふっふっ! ワシの話を聞くきになったか! ならば教えてしんぜよう! なぜお前さんが見知らぬ土地にいるのか! そしてなぜワシがこんなに可愛いらしいかを――――――――」
「うるせぇ、さっさと話せ」
「うっ……そう言うのバチあたりなんだよぉ!? ワシ神様だよ!?」
ふむ、この泣きべそが素なのか。
っと、こんなことしている場合じゃない、さっさと情報だけ聞き出さねぇと。
「で、なんだってんだよ。こっちは本当に急いでるんだ」
「わ、分かったから……。最初にお前さんが一番気になっている話をしようと思う。一言先に言うとしたら、お前さんの仲間は全員無事じゃ。誰一人として死んでおらん」
「本当か!?」
「こんな状況で嘘はつかんよ……」
俺は思わず膝から崩れ落ちる。
よかった、助かった。
今あいつらが生きててくれるなら、もうこれ以上は望まない。
「それもこれもワシのおかげなんじゃ――――――」
「それで?」
「……本当にいつかバチが当たるぞ、お前さん」
うるせぇ、あんな襲ってくるようなやばい神に出会ったんだ。
敬えっていうほうが無理なんだよ。
「まあいい、一から説明するのじゃ。まず、あの創造神〈クレアシル〉についてじゃが、あやつはワシとともにこの世界を創りあげた相方じゃった」
「……いきなり壮大だな、おい」
「神じゃからのう。ま、世界を創り上げていくのは順調じゃった。やつが万物を創造し、ワシが余分な物を壊す。これで世界は発展していったのじゃ」
「……」
「そんなある日、何の前触れもなく「人」が現れた。ワシは別にその程度のハプニングはどうでもよかったんじゃが、やつはそれが許せなかったようでの……まあ「人」を虐殺し始めたのじゃ」
ひどい話だ。
「何がそんなに気に入らなかったんだよ」
「自身が創りだした物以外が世界に蔓延るのが許せなかったらしいのじゃ。ワシはさすがに目に余ってやつを止めた。神は殺すことはできんので、仕方なく封印を施したのじゃ」
「……んで、それがさっき解かれた……と」
「さっき? 何を言っておるのじゃ? お前がやつに負けてから、かれこれ3日は経っておるぞ」
「……は?」
3日……? 俺は3日も寝てたってのか……。
その割には魔力も傷も回復していない。
到底信じられる話じゃねぇな。
「お主の受けた消失は、神ならば誰でも使える〈神技〉じゃ。効果は、この世界から対象を消し去ること。それを受けたお主は本来消えてなくなるはずじゃった。そこでクレアシルの封印が解かれると同時に復活したワシが、助けに入ったのじゃ。やつの消失を打ち消し、お前を遠く離れたところに飛ばすことで、お主を助けたってことじゃ」
「……それが3日寝てた話とどう繋がるんだよ」
そう問いかけると、破壊神とやらはそっぽを向き、バツの悪そうな顔で話し始めた。
「い、いやぁ~……ほんとはかっこよく助けに入って、またクレアシルを封印しようと思ったんじゃがのう……その……ドジって消失を相殺しきれなくて……ワシは力のほとんどと、お主は魔力を持って行かれてしまったのじゃ……結果ワシは使おうと思っていた神技を失敗しお主を転移させ、お主は魔力が使えない身体になってしまった……のじゃ」
「……おい」
呆れてものも言えなくなった。
なるほど、どうりで魔力が練れないなって思ったわ。
って――――――――
「ふざけんなぁぁぁ!」
「ひぃ! 悪かった! ごめんなさい!」
「助けられたことには感謝するけどよ! これじゃ俺あいつと戦えねぇじゃねぇか!?」
「わ、ワシが残った神力でお主に魔力を取り戻させるから! しばらくは我慢するのじゃ!」
「だぁ! くそっ!」
それじゃ……俺はしばらくまともに戦えないってことにならねぇか?
ちくしょう……何なんだよ、せっかくめんどくせぇ戦争も終わってのんびりできるって思ったのに……。
だが、少しだけホッとしている俺もいる。
今クレアシルと戦っても、言い訳ができる。
責任を、負わなくて済む。
そんな風に考えちまっている俺がたまらなく嫌になり、俺は拳を強く握った。
「……クレアシルは、完全に力を取り戻すためにとある場所に向かった。ワシが現れたことで危機感を覚えたようでの……お主の仲間には手を出さず、三大大陸の丁度中心にある島で力を安定させているはずじゃ。あそこは孤立していて誰も近づかぬ」
「じゃあ……今なら」
「無理じゃ。強力な結界が貼られているじゃろうからの。お主には敗れぬし、この身体のワシでも破ることはできぬ」
……どうしようもねぇってことか。
本当にそうか? 何も出来ないのだろうか。
やつが力を取り戻すまで、俺たちは何も出来ないのか……。
「――――――――往くぞ鼻たれ小僧」
「あぁ!? 行くってどこにだよ!」
「そんなものは知らん。だが、ここでウジウジしている暇があったら、何かできることはないか探せ。五体満足なんじゃ、それくらいやらぬか」
「……ちっ」
ぐうの音もでなかった。
悔しいが、このチビの言っていることは的を得ていて、俺は諦めているだけだ。
動くか、今は。
その方がきっと、気も紛れる。
あいつらが無事なら、とりあえず合流するのもありだろ。
時間を無駄にはしたくない。
「お主の魔力は、ワシといれば徐々に戻るじゃろう。やつが全盛期に戻るまで、短く見積もって2,3ヶ月と言ったところか……やつは妥協するような性格ではないから、おそらく3ヶ月は自由に使えると思っておいてよいぞ」
「3ヶ月か……何でもできるな」
「ああ、何でもできる。その気になればのう」
「……上等」
弱気になってる場合じゃねぇな。
神が何だってんだよ、何とかしてやるさ、今回も。
俺に喧嘩を売ったこと、絶対に後悔させてやる。
「ところでお主、名は?」
「セツだ。よろしくな、ストロー」
「うむ、よろしく――――――――ってなんじゃ、ストローって」
「デストロイア、真ん中でストロー。呼びやすいし、いい名前だろ?」
「……お主ネーミングセンスないじゃろ」




