75 降臨
導入につき短めです。
創造神とは、絶対の存在の片割れである。
この世界を創りだした神であり、そして「創造」を司る者。
彼女がいなければ発展はなく、衰退もなかった。
そんな神である彼女が乱心すれば、もう止められるすべはない。
神とは、その名に恥じない力を持ち、別次元に存在する者のことを指す。
故に、今この世界に降臨した創造神〈クレアシル〉を倒すという行為は、彼ら一次元下の存在には不可能である。
彼らは、ただその強大な力に、怯えることしかできない。
◆◆◆
思わず、膝の力が抜けかけた。
この女はやばい。
着ている羽衣のようなものから、肌、髪の先端まで純白に染まっている。
唯一色が付いている青色の眼からは、何も感じ取れない。
殺気も、怒りも、その他の感情も、何もかも。
それがたまらなく恐ろしい。
逃げろ、逃げろと本能が叫ぶ。
魔力が尽きている今の俺では、こいつに勝てないことは明白だ。
それでも――――――――こいつらだけは。
「エルカ! グレインにティアもありったけの魔力を俺によこせ!」
「っ! はい!」
「分かったよ!」
「うん」
俺の意図を素早く読んでくれた三人が、俺に駆け寄り魔力を流し込んでくる。
しかし、これじゃ足りない。
「ロアにシロネコたちも頼む!」
「よく分かんねぇけど……任せて!」
「了解です」
「はい!」
獣人三人も、同じようにして魔力を注いでくれる。
だいぶ回復した。
これなら少しの間持ちこたえられるだろう。
「ブラッド! デザスとリヴァイアを回収しろ! 夕陽は二人の治療を頼む!」
「ああ!」
「分かったよユキくん!」
ブラッドが素早く移動し、腹をナイフで刺された二人を抱きかかえて離脱する。
夕陽はそこに駆け寄り、すぐさま治療を開始した。
「そんでもって……全員かなり遠くまで離れろ。こいつは……次元が違う」
この女からは、魔力や相手を威圧する覇気も、何もかも感じない。
それだけなら、ただ弱いようにも見える。
だがそうじゃない。
魔力を感じないってのはありえないんだ。
この世界で息をしている限り、生物には魔力があるはず。
じゃあ……こいつは何だ?
こうして睨んでいても、やつは一切動かない。
不気味ではあるが、ありがたくもある。
その間に全員の退避が終わった。
この場にいるのは、俺と、冬真と、白い「何か」だけ――――――――――――。
「ふむ……我の存在が分かるか、小僧」
「っ……少しだけな」
正直に言えば、俺はやつの存在が少しだけ感じ取れる。
気配と言えばいいのか……夕陽たちなら、やつが背後から近づいてきても気づかないだろう。
俺ならかろうじて分かるかどうかと言ったところか。
どちらにせよ、この場においては何でもいい。
「神の気配が分かるか……おかしな男だ――――――――――む?」
そのとき、やつの胸元から黒い鎖が生え出し、全身へと伸びて行く。
やがて全身を絡めとられたやつは、完全に身体を縛り上げられていた。
これは、冬真の?
「創造神〈クレアシル〉……ッ! 僕の呪いで、僕に従え!」
倒れている冬真が、やつに向かって手を伸ばしていた。
これか、さっき〈呪術魔法〉が使えないって言っていた理由は。
とんでもなく複雑に組まれた呪いだ。
こんなの受けたら、俺でもどうしようもねぇぞ。
「人間が……思い上がるな」
しかし、それではやつは捕まらなかった。
少し力んだだけで、粉々に砕ける呪いの鎖たち。
こりゃ……桁が違いすぎるな。
「やっぱりだめか……」
「虫にも劣る生物風情が……今ここで消えるか?」
やつの手が、冬真へと向く。
それを見た俺は、とっさに小さな火の玉をやつの顔面に放った。
やつは避けようともせず、そのまま顔で受け止める。
ダメージはないだろうが、炎の煙で視界が潰れているだろう今がチャンス。
俺は全力で地を蹴り、冬真を抱えて距離を取った。
今こいつを失う訳にはいかない。
「セツ……どうして僕を……」
「この女は……俺一人じゃどうしようもねぇからな」
俺は、エルカたちからもらった魔力を、半分冬真に流し込む。
「あいつはどうやら俺たちが気に食わねぇみたいだ。そんでもって、このままじゃ確実に消される。
阻止したくても、俺一人じゃ多分勝てねぇ」
ならば、することは一つだ。
「力を貸せ、冬真――――――――――――――――共闘だ」
俺と一緒に戦えるやつを、味方にするしかない。




