72 聖刻の大砲
本日二話目です。(深夜の入れたら三話目)
ご注意ください。
僕とセツが、この世界に呼ばれたときの話――――――――――。
「セツ、君はなんでそんなに冷静なの?」
「ふっ! ふっ! ……あ? 何だよいきなり」
セツは一心不乱に木剣を振っていた。
迷いのないその眼は、そのときの僕からすると不気味ですらあった。
「だって……急にこんな訳の分からない世界に来ちゃったのに……君はもう順応している。何をするべきか、もう分かってるように見えるよ」
「うーん……そうだなぁ」
剣を振るう手は止めずに、セツは言う。
「何をするべきか……とりあえず強くなんないといけないんじゃねぇの? 魔物やら魔王やらいる世界らしいし。お前も死にたくはねぇだろ?」
「……僕は」
言い難かった。
自分が日本にいたとき、死にたいと思っていたなんて。
「よく分かんねぇけど、お前が死にたくねぇって言うなら、俺がお前を守ってやるよ」
「え?」
「同郷の仲間だしな。何かの縁だ、仲良くしようぜ」
「……いいの?」
そんなことを言ってくれる人に、初めて出会った。
灰色の髪に赤い目、こんな見た目をしているせいで、僕は誰からも優しい言葉をかけてもらったことがない。
親すらも、僕を気味悪がって近づかない。
だから、初めてだった。
心がポカポカと温まっていくのを感じる。
「当たり前だろ、冬真」
彼は、優しい笑顔で僕の名前を呼んでくれた。
「ユキくん……」
「おう、あいつは倒せたみたいだな、夕陽」
見たところ夕陽には怪我もないみたいだ。
それより――――――――。
「ずいぶん派手にやられたみたいだな、お前ら」
倒れている連中に向けて言う。
「はは……面目ない」
「つえぇよこいつ……」
グレインとロアが苦笑いしている。
重傷者がほとんどだが、今にも死んじまうようなやつはいないな。
ん? 何だよ、イデスたちも生きてたのか。
とりあえずは不安要素がなくなったな。
「夕陽、リヴァイア。お前らはまだ動けるだろ、倒れてる連中の治療を頼む」
「わ、分かったわ……」
「うん……」
二人が動き出したのを見て、俺は改めて冬真に向き合う。
「よくもまあこいつらを傷めつけてくれたなぁ……えぇ? 冬真よぉ」
「……やっぱり、前みたいに優しく名前は呼んでくれないんだね」
「当たり前だ。お前、自分が何をしたか分かってんだろうな?」
何人もの人を傷つけた。
その思いを踏みにじった。
何より、俺の仲間を傷つけた。
「分かっているよ。でも、これはすべて君のためなんだ!」
「……」
「愛し合う僕と君が、一緒にいないのはおかしい! でも君は悪くない。すべては君を惑わしている魔族と獣人、そして一部の人間が悪いんだ! 君を救い出すには、必要な犠牲だよ」
……相変わらず狂ってやがる。
「って言うか……あの茶髪の女の子、セツのことをユキくんって呼んだよね?」
「あ? それがどうしたって――――――――――――」
「何慣れ慣れしく……僕のセツのことをアダ名で呼んでるわけ!?」
冬真がエルカを治療中の夕陽に手を向ける。
夕陽はそれに気づくが、もう遅い。
「消えろ!」
特大の炎の玉が放たれる。
夕陽は確か炎の魔法が得意だったはずだ。
あいつならダメージは少ないだろうが、同じ場所にいるエルカは間違いなく死ぬ。
「させねぇよ」
だから俺は炎と夕陽たちの間に割り込み、黒丸でその炎を両断した。
「っ! 邪魔しないでよ!」
「余計なことをしたのはお前だ。お前は俺とだけ戦ってりゃいいんだよ」
ぶった切った炎は空中で霧散して消える。
とりあえず二人に被害はないようだ。
「このままここで戦えば、巻き込んじまうな……おい、冬真、場所を変えるぞ」
「……なんでわざわざそっちの有利になるようにしないといけないの?」
「言うこと聞けねぇなら……無理やりだ」
俺は地を蹴り、一瞬で距離を詰める。
そのまま黒丸を振り下ろし、冬真の胴体を狙った。
「くっ!」
冬真は黒ローブの中に隠していた片手剣を抜き、それを受け止めた。
俺の加減のない一撃で、地面が陥没する。
「やっぱりパワーは俺の方が上だな」
「相変わらずの……っ、馬鹿力……!」
「さっさと場所変えるぞ! オラァ!」
黒丸を受け止めるのに夢中になっているこいつを、足で蹴り上げる。
隙を作った一撃で、冬真は天高く打ち上げられた。
俺もその後を追い、飛び上がる。
「「〈空歩〉」」
俺たちは同時に空中に着地した。
地面が遥か下に見える。
「ほんと……容赦ないね」
「容赦してもらえる立場じゃねぇだろ、お前」
「ま、そうだけど……ねッ! 〈聖なる槍〉!」
冬真は、手の上に極大の光る槍を作り出す。
光魔法の中堅ほどの魔法だが、冬真が使えばその桁が数倍になる。
「君を僕だけのものにするには、一度倒す必要がありそうだ!」
「ちっくしょ……」
俺は黒丸で槍を受け止める。
光魔法で生み出された槍は、聖なる光を凝縮したエネルギーの塊。
そう簡単に受け止められるものじゃない。
「うぎぎ……ラァ!」
何とかそれを真上に弾く。
真上に飛んで行った槍は、ある程度の高さまで飛んだ後、空中でエネルギーを撒き散らすように爆散した。
「……ウォーミングアップは済んだか?」
「そっちこそ」
そう答えると、冬真は虚空に手を向ける。
「来い――――――――――〈切り開く剣〉」
空間が割れ、剣の柄が姿を現す。
「君と戦うには、これがないと話しにならないもんね」
光真の聖剣とは違い、真っ黒な刃を持つ剣が、やつの手に握られる。
初めは、光り輝く剣だったのにな……。
「君の剣が、使い勝手悪いことは知っている。悪いけど、セツがそれを抜く前に終わらせてもらうよ」
「やれるもんなら……やってみろよ!」
俺は空中を蹴り、冬真に接近する。
「はぁぁぁぁ!」
同じく冬真も空中を蹴り、俺に向かって急接近してきた。
黒丸と聖剣がぶつかり合い、辺り一帯に衝撃波を撒き散らす。
「空が……割れた……」
治療を終えたデザストルは、上空を見ながらつぶやいた。
空で剣を打ち合う二人、その度に、空を覆っていた分厚い雨雲が消し飛んでいく。
「まったく……次元が違うわね」
横に並んだリヴァイアが、呆れたように言う。
この場にいる誰もが、彼らとの力の差を思い知らされた。
「ユキくん……」
「がっ……」
「パワーで俺に勝てるかよ!」
真上から黒丸を振り下ろす。
冬真は聖剣を腕ごと弾かれガードが間に合わず、その肩に命中させることができた。
真下に叩き落とされた冬真は、〈空歩〉で足場を作り、再び俺と同じ高さまで戻ってくる。
「やっぱり〈聖剣の鎧〉があるとろくにダメージ入らねぇな」
「地味に痛いけどね!」
「おっと!」
冬真の周りに無数の光の槍が現れる。
最初に撃たれたものと同じ規模のものが、パット見で40本ほど。
「逃げ場はないよ!」
一斉に放たれたそれを、黒丸で斬り、時に受け止め、逸らす。
しかし――――――――――。
「くっ……そ!」
数が多すぎる。
ガードをすり抜けた槍が、俺の腹部へと到達した。
「それ、着弾」
そうしてできた隙に、ここぞとばかりに他の槍が襲い来る。
槍は次々と俺に着弾し、爆音を上げた。
「っ……いってぇなァ!」
俺は腕を一振りし、爆風をなぎ払う。
視界が晴れたが、そこはもう冬真はいなかった。
「上だよ、セツ――――――――――〈飛剣・絶〉!」
「なっ!」
冬真は俺の真上にいた。
やつが聖剣を一振りすると、切れ味を極めた〈飛剣〉が放たれる。
(だめだ……黒丸で防げば黒丸が両断されちまう……!)
俺はとっさに魔法袋に手をつっこみ、いつだったか手に入れた業物の剣を取り出し、受け止める。
当然のごとく、魔力で強化したとは言え、その剣は簡単に切断され、俺の身すら切れ込みを入れた。
「いっつ……」
肩からポタポタと血を流しながら、俺は空中で体勢を立て直す。
聖剣持ちには、もう一つの能力、と言うか特性がある。
それは、聖剣で聖剣持ちを攻撃したとき、〈聖剣の鎧〉を無効化する特性。
これがあるから、聖剣持ちは聖剣持ちでなければ実質倒せないのだ。
「あれ? 腕が鈍ったんじゃないの?」
「はっ! ほざきやがれ!」
「っ!」
俺は切断された剣を投げ捨て、改めて黒丸を握り直す。
空中を蹴って冬真に接近すると、俺は迷わず黒丸を振り下ろした。
「〈ツバメ返し〉!」
「その程度……!」
振り下ろし、斬り上げる技である〈ツバメ返し〉を放つが、ことごとく聖剣で防がれてしまう。
しかし、斬り上げる際に、冬真の剣を真上に弾くことに成功した。
「しまった!」
「〈連打〉!」
俺は上に黒丸を放り投げ、渾身の拳を何十発と冬真に叩き込んだ。
〈聖剣の鎧〉は打撃への体勢が微妙に低い。
聖剣が軽々しく抜けない以上、こうして攻めていくしかない。
「がっ……く……痛いじゃないか!」
タコ殴りにされた冬真はしびれを切らし、至近距離から魔法を放とうとする。
それを察知した俺はすばやく下がり、落ちてきた黒丸をキャッチした。
冬真も少しだけ移動し、落ちてきた聖剣を掴む。
「へっ、いい顔になったじゃないか」
「つぅ……酷いなぁボコボコにするなんて」
冬真の顔は少しだけ腫れていた。
すぐに自然治癒能力で治ったが、ダメージを与えたことは確かなはず。
対して俺の肩の傷も治っているから、今のところは互角か。
「仕方ない……僕はちんたら戦うのは好きじゃないし……少しペースアップしよっか」
「あ?」
冬真が、俺に聖剣を向ける。
魔力が聖剣に注がれ始めており、黒いオーラを撒き散らしていた。
「〈形態変化・聖刻の大砲〉――――――――――――」
「……なんだよ、それ」
聖剣、〈切り開く剣〉の形が変わる。
まず巨大に、そして長く。
冬真はその巨大な銃を脇に抱えるようにして持ち、銃口を俺に向けてきた。
「〈聖剣〉の新たな可能性だよ、セツ。さて、第二ステージだ!」
横の持ち手につけられた引き金が、引かれる――――――――――。




