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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第三章 戦争編
71/127

70 最凶最悪

「うっ……ん……?」

「よかった、エルカ起きた」


 目を覚ましたエルカは、大きな木の下に自分がいることと、メルアーとの戦闘が終わったことをすぐに把握した。

 

「身体は完治しているはずだ。起き上がっていいぞ」

「ブラッド……そうですか、あなたが援軍に来てくれたんですね」

「援軍はお前らのほうだと思うがな……まあそういうわけだ」

 

 ティアに支えられながら、エルカは身体を起こす。

 そして、となりに寝ているアリゼを見た。


「アリゼは……」

「もう正常。ただ、あの魔物使いのせいで脳にダメージが残ってるかもしれない」


 メルアーを倒したあと、ブラッドはすぐに二人の治療を開始した。

 あらゆるサポートも完璧にこなす彼の回復魔法は優秀で、比較的〈操縦魔法(マリオネットマジック)〉の浸蝕が浅かったエルカの傷は、完治させることに成功。

 しかしアリゼは、脳もかなりダメージを負っていた。

 傷は治せても、その間に脳に障害が残ってしまっていてもおかしくない。


「今はグレインがあのデカブツに止めを刺しに行っている」

 

 ブラッドが指した方向には、巨大な怪物が立っていた。

 脳であるメルアーを失い、動けなくなってしまったキマイラである。

 今、その身体が両断されて地面に落ちた。


「ふぅ……あ、エルカ起きたんだね。よかったよかった」

「お騒がせしました」


 たった今、キマイラに止めを刺してきたグレインが戻ってくる。

 その背中には男が背負われていた。


「ん、その人誰?」

「アリゼの近くにいたカラクリの中身だよ。お互い離れようとしてなかったから、もしかしてアリゼの知り合いかなって」


 その男、ラーメルは気絶していた。

 目立った怪我は肋骨の骨折程度で、後は身体がところどころ変色し、両腕両足に無数の筋が入っている。

 重傷ではあるが、呼吸は安定していて命に別状はなさそうだ。


(……あの変色……どこかで……)


 少しして、ブラッドは思い出す。

 

(デザストル様に求婚した男……テランとか言ったか、あいつが連れていたローブの連中と同じだな……なるほど、あのカラクリどもの中身は改造人間……ずいぶん胸糞悪いことをしてくれる)


 ブラッドは思わず拳を握りしめた。

 しばらくして、彼は自分のやるべきことを思い出す。


「おっと……その男も治療しよう、そこに寝かせてくれ」

「分かったよ」


 グレインは言われた通りに、木の下のあまり湿っていない草の上にラーメルを寝かせる。

 

「私たち、これからどうする?」

「そうだね……僕の傷ももう癒えてるし、エルカ次第でセツさんを探そうか」

「私ならもう大丈夫です。貧血気味で少しフラつきますが、それだけなので」


 そう言ってエルカは立ち上がる。

 その言葉に嘘はないようで、しっかりと地面を踏みしめて見せた。


「俺も行こう」

「でもブラッドがここを離れたら、その二人どうする?」

「道中で魔族の兵士に回収を頼む。この二人も魔族だ。お前たちの仲間でもあるようだし、とりあえずは魔王城へと連れて行かせる」


 ラーメルの治療も終わり、ブラッドも立ち上がる。

 

「じゃあ……行こうか」


 四人が駆け出す。

 探ってもセツの魔力が感じ取れないのには不安を抱いたが、エルカの謎のセツだけを感知する嗅覚を頼りに、戦場を駆け抜けた。


(そう言えば……あの夕陽とか言う女はどうなったか……)


 


「っ……はぁ……はぁ……」


 夕陽は少し時間をかけつつも、肉体を生身に戻した。

 その途端に膝をつき、息を荒らげる。

 一度全身を炎に変化させて再構築しているため、ルーナに負わされた怪我のダメージが原因ではない。


「やっぱりちょっと……しんどいなぁ」


 彼女の〈限界突破(リミットブレイク)〉は強力であるが、その分消費が激しい。

 集中力を切らせば、自分の肉体が飛び散ることにもなるため、精神力の消耗も想像以上なのだ。

 エルカからも、長時間の使用は禁じられている。


「……弱音吐いてちゃ……いけないよね」


 休むのもそこそこに、夕陽は立ち上がる。

 魔力も体力も三割と言ったところではあるが、セツの元に戻らなければいけない。


「ユキくんならもうとっくに終わらせてるはずだもん……すぐに追いつかなきゃ」


 魔力で軽く身体を強化しつつ、夕陽はセツのいた場所に駈け出した。




「デザス、これからどうするの?」

「そうだな……妾たちも前線に上がるか」


 デザストルは王の間にあるテラスに向かいながら、言う。


「何で自分から危ないところに行こうとするのよ……」

「そんなもの……セツに会いたいからに決まってるじゃないか」

「……あなた、本当に正直ね」


 少し羨ましいわ――――――――――。

 

「ん? 何か言ったか?」

「いえ……何も」


 リヴァイアは少し顔を赤く染めながらも、首を横に振る。

 

「いいわ、あなたが行くというなら私も行くだけだし。それに――――――――――多分……もうすぐこの戦争も終わるわ」

「? なぜ分かる?」

「あなたより何年生きてると思ってるの? 年長者の勘よ、勘」

「ふむ、それは宛になりそうだ」


 デザストルはニヤリと笑いながら、テラスから飛び出す。

 リヴァイアもそれに続き、外へと飛び出した。




「……うーん……」


 冬真は悩んでいた。

 目の前で光の球体(・・・・)に包まれてしまったセツに、どうやっても手を出すことができないせいで。

 カゲロウを殺してしまったことで、発狂するまでは彼の想像の範疇だった。

 しかし、まさかこのような防御策を取ってくるとは流石に想像以上である。

 ちなみに、現状あらゆる手段を試し、すべてことごとく弾かれてしまった。

呪術魔法(カーストマジック)〉すら、為す術はない。


「困ったなぁ……聖剣抜くしかないかも」


 冬真は頭を捻るが、いい案は思いつかない。

 仕方なく、聖剣を抜こうとした時であった――――――――――。


「き、貴様は!」

「んー? あれ、君たちは五大魔将じゃないか。カゲロウに殺されたって聞いてたんだけどなぁ」

「そ、そう簡単には死なないよ」


 そこに現れたのは、リリーとイデス。

 彼らは他の兵士の肩を借りながら、そこに立っていた。

 

「なーんだ……死んでなかったのかー。じゃあしょうがない。僕が殺してあげるよ」

(……まずいよ……)


 リリーの頬を冷や汗が流れる。

 彼らは現状、立っているのがやっとであった。

 ブラッドに言われ、夕陽の元へ向かっていた兵士たちが瀕死の彼らを見つけなければ、おそらく今頃死んでいただろう。

 ギリギリの応急処置で一命は取り留めたものの、とてもじゃないが戦える状態ではない。


「……全員退避だ」


 張り詰めた空気の中、イデスがポツリとつぶやく。


「なっ……イデス様! 何を言っているんですか!」

「戦いますよ! 我らも!」


 兵士たちは、その言葉に不満を露わにする。

 しかし、それをリリーが制した。


「みんなが戦うって言っても、あいつには何の妨害にもならないよ。無駄死は認められない」

「その通りだ。我々なら、少しは時間を稼げるかもしれない」

「そ、そんな……」

「命令だ」


 イデスが凄む。

 ビクッと身体を震わせた兵士たちは、怖ず怖ずと言った様子で、後方へ下がった。

 だが――――――――。


「逃すと、思うの?」


 この場にいる全員の足が止まる。

 兵士の中には、この男が発する殺気で気絶してしまう者までおり、一瞬にして場が恐怖に支配された。

 この中には、冬真の存在を知らないものが多い。

 それが逆に、身構えるのと退避を遅れさせた原因であった。

 

「逃げてッ!」

 

 リリーが飛び出し、兵士たちの盾になるように立つ。

 

「今すぐデザストル様にこの男の存在を伝えろ! それがお前たちの役目だ!」


 まさに命がけの壁。

 これでも、冬真に対しては一秒稼げるかどうか――――――――。


「無駄なのに……じゃあ――――――――死ね」

「ッ!」


 冬真の手が、イデスとリリーに向けられる。

 軽々しく向けられたはずの手であるのに、そこに集った魔力は、容易に彼らを消し飛ばせるほどの力を秘めていた。


「っ! ……化物め!」

「バイバイ」


 イデスとリリーは、覚悟を決めて眼を閉じる。

 その姿を見た兵士たちは、ようやく自分の使命を認識し、全力で逃走を始めた。

 しかし、もう遅い。

 彼らが逃げ切るよりも早く、その手から魔法が放たれ――――――――――。


「はぁぁぁ! 〈重脚〉!」

「っ!」


 真上から、冬真目掛けて足が振り下ろされる。

 魔法を放つ寸前だった彼は手を引き戻し、後ろへ跳んでかわす。

 

「逃さないです」


 そこに追い打ちを仕掛ける影。

 一瞬で距離を詰めたその人物は、長く伸びた爪で怒涛の攻撃を繰り出す。


「危ないなぁ……そんなにはしゃがないでよ!」

「っ! チッ……」


 その攻撃は当たらず、冬真はそれをかわしつつその人物に手を伸ばす。

 いち早く危険を察知した彼女(・・)は、ギリギリで後ろに跳んでかわした。


「いいところだったのに……やめてよ、シロネコ、ミネコ」

「ふざけるなです」

「これ以上、あなたの好き勝手にはさせない!」


 ミネコとシロネコが並ぶ。

 イデスとリリーは、それを唖然とした表情で見ていた。


「お前たちは……」

「とりあえず、援軍として来たです」

「二人とも怪我しているみたいですし、今は私たちに任せて下がってください」

「っ、ご、ごめんね!」


 二人は言われた通りに下がる。

 彼らも実力者。

 自分たちの力が通用しないと分かれば、逃走も視野に入れられる判断力は持っている。


「裏切り者二人が何の用? 邪魔しないでほしいなぁ」

「裏切ったのはお前です。ミネコの薬をくれるって言ったから協力してたです。それをお前は――――――――――」

「そう言うのは騙された方が悪いんだよ?」


 冬真が下衆な笑みを浮かべる。

 それを見たミネコは血がにじむほど拳を握りしめた。


「姉さんがどんな気持ちで……あなたに協力してたと……ッ!」

「知らないよ。君たちに別段興味があるわけじゃない。その力に利用価値があっただけ。僕の興味は……全部セツに注がれている!」


 そう言いながら、冬真はセツの入っている球体を抱きしめる。

 相変わらず球体は微動だにせず、彼は少しだけ寂しそうな顔になった。


「はぁ……僕はこんなに愛を注いでいるのに、セツはなかなか答えてくれない。早く僕のものになってくれればいいのに……」


 冬真が、その球体を舐める。

 二人はその姿を見て、思わず鳥肌が立った。


「その中に……セツさんがいるんですか……?」

「まさか……お前が――――――――――」

「おっと、勘違いしないでシロネコ。こうなったのは僕のせいじゃない。全部セツが自分でやったことだよ」

 

 その言葉には嘘はない。

 しかしどうにも胡散臭さがつきまとい、シロネコとミネコは彼を信用することができないでいた。


「まあいいや、それより……どうしてここが分かったの? 僕は魔力を消してたし、セツもこの球体に包まれてから、一切魔力を感じさせなくなった」


 冬真ほどの実力者であれば、魔力を他者に感知させなくするくらいわけはない。

 セツもできなくはないのだが、少なくとも、こんな風に球体に包まれてまで消すような真似はしない。

 それでも、しっかりと魔力は消えていた。

 つまり、この場を感知するすべはないはずだ。


「私たちは鼻も利くです」

「なるほど、そういうことね」


 雨で洗い流されたところで、魔力で自由に強化できる嗅覚を使えば、彼女らにとってセツを見つけることぐらい容易である。

 つまり……同じく獣人である彼女(・・)も――――――――――。


「見っけたぞぉぉぉ!」

「っ! 君も来るよね、やっぱり!」


 突然真上に現れたロアが、拳を放つ。

 冬真はそれを受け止め、後ろに向かって投げ飛ばした。

 地面に叩きつけられる寸前で、彼女は滑りこんできた男に受け止められる。


「あっぶね……お! グレインじゃん!」

「まったく……昔から突っ込んでく癖は直らないね、ロア」


 グレインがロアを離す。

 その横には、エルカとティアも並んでいた。


「イデス! リリー!」


 同じく到着したブラッドが、後ろで身体を休めている二人の元へ治療しに行く。

 冬真はそれには手を出さず、薄笑いを浮かべながらエルカたちを見ていた。


「勢揃いだね、みんな。この様子だと、僕の仲間は全滅したみたいだ」

「仲間なんて……あなたはそんなこと言う人じゃないでしょう。ただのコマ、そんなふうにしか思っていないはず」

「失礼だなぁ……ちゃんと仲間だと思ってたよ。都合のいい……ね」

「相変わらずゲスい」


 ティアの一言に、冬真は嬉しそうに笑う。


「そりゃそうだよ。僕がセツ以外に優しくするはずないでしょ? 優しくしたとしても――――――――――――それは必要(・・)な行為だからだよ」


 全員に動揺が走る。

 彼らが戦ってきた連中は、少なくとも冬真に助けられ、冬真を慕い、崇め、すべてを捧げる覚悟で戦っていた。

 彼らがそうなった理由は、冬真の優しさ、愛を受けたからだと、誰でも想像がつく。

 それを、この男はすべて否定した。

 彼らの思いを、踏みにじった。

 彼らと拳を、剣を交えた者は、その者の思いや信条をぶつけられたため、誰よりもその心を痛めるはめになる。


「あなたって人は――――――――――」

「だから……君たちも、少しでも生き残れるなんて思わないことだ」


 冬真の殺気が周囲を支配する。

 思わず構えてしまった彼らの中心で、冬真はゆっくり手を広げた。


「君たちには、優しくする必要もないからね」


 その恐怖は、ゆっくりと彼らを浸蝕する。


「セツが起きるまでに……片付けてあげるね」


 最凶最悪の勇者が、動き出す――――――――――。


 


 

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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