6 約束の日
この度日間ランキング2位をいただき、飛び跳ねて喜びました。モチベーションがどんどん上がって行きます。みなさまありがとうございます。
「――――――お主にはこの城から出て行ってもらう」
あれから数時間後、俺は夜明けとともにディスティニアの城の王の間へと呼び出された。
王の横には王女とエルカが立っている。相変わらず王女はゴミを見るような目線を向けてきている……エルカも精一杯蔑む目を俺に向けようとしているが、あまり上手くいかずなんか面白い顔になっている。お前は俺に蔑まれて喜ぶほうだろ、無理すんな
「……理由を聞いても?」
「このエルカが、お主のような力を持たぬ者に労力を裂きたくないと言っている。生憎だが我もタダ飯喰らいなどこの城に置いておきたくない」
勝手に拉致っておいてよく言うぜ……まあここじゃ余計なことを言わず逆らわないのが吉、黙って先を聞く
「さすがにある程度の賃金は渡してやろう。冒険者になりたければ城の武器を与える」
力なきお主になれるのならばな――――――そう皮肉をつけるのも忘れない王様まじゲス野郎
冒険者なんてとっくに極めてんだよこっちは
けど素直に賃金は嬉しい、金はいくらあっても困らないってのが俺のスタイル。武器はいらないがな
「仮にも勇者だからな、本来ならば国から追い出すところだったが、城から出ていけば城下街の滞在は認めよう」
「………ありがとうございます」
何様だっつんだよ髭ジジイ……
だが国から出なくていいのは助かった、街でやるべきことは残ってるからな
エルカに目を向けると、俺を見てゆっくり頷いてみせる。お前が図らってくれたのか、助かるぜ
「明後日には城から退去してくれ、話は以上だ。下がれ」
「はい……」
俺は落ち込んだ雰囲気を醸し出しつつ、王の間から退室した
――――――中身はウキウキだったが
セツが退室したあとの王の間、玉座に座っている王はエルカに命令を出した。
「エルカ、今から適当に金を見繕いやつにわたせ」
「かしこまりました」
王はエルカが退室する様を見送ると、となりで射殺すような視線をセツが出て行った扉に向けている娘に向き合う。
「マーガレットよ、そう睨みつけては美人が台無しであるぞ」
「っ――――――そうは言われましてもお父様……っ! なぜあの不届きものを国から追い出さない結論に決まったのですか!?」
マーガレットはこの王女のことを指し、不届きものはセツを指す。
彼女はセツが国から出て行かないのに不満を感じているようだ。
「あの不届き者の勇者などにディスティニアの土を踏ませているのだけで汚らわしい……っ! いえ……勇者なんて呼ぶこと自体虫唾が走ります!!」
マーガレットの顔は怒りで歪み、その持ち前の魔力がゆらゆらと体から立ち上っていた。
「エルカの強き要望なのだから聞いたほうがよかろう、お前も一度納得したではないか」
「そうですが!! ……あの者を見ると思い出すのです……五年前に召喚されたあの男を……っ!」
彼女の頭に浮かぶのは前回召喚された時のセツの顔、マーガレットはその時のセツが今まで目の前にいた男の雰囲気と似ており、相当に腹を立てているようだ。嫌悪と言うべきか
「彼は私たちの本当の勇者様に対して――――――」
「やめろっ!!」
「!!」
彼女が口走りそうになったことを、王が怒号で止める
「警備はあるとしても誰が聞いているかわからん、うかつな発言は控えろ」
「も、申し訳ありませんお父様……」
マーガレットは頭を下げ、深く反省しているようだった。さっきの苛立ちの雰囲気も消えかかっている
「――――――話を戻す、お前はあの者が国から出て行かないのが気に食わないというが、これはもう決まってしまったことだ。勇者の育成を任せているエルカの意見に逆らうのはあまり得策ではない」
「わかって……おります」
彼女は顔を伏せ拳に血が滲むほど手を握り締める――――――
――――――幸いにしてこの会話を聞いた者は誰一人としていなかった
頭を冷やしてきます――――――マーガレットが退室した後、王は先ほどの会話に引っ掛かりを覚えていた
(あの役立たずの男……確か名前をセツと言わなかったか……?)
その名は王にとって忌々しいと言ってもいいものである。
(かつて我ら人間国を裏切り、戦争を止めてしまった男――――――)
「ふっ……まさかな」
王は浮かんだ考えを振り払った。
あの男が戻ってきた――――――そんなことはあってはならないことなのだ……
城の廊下を遠藤がお供を連れ歩いている。訓練にはまだ時間があり、始まる前に昨日できなかったセツ弄りをしてストレス発散をしようと考えているらしい
「いや~またストレス発散しちゃおうぜ遠藤!」
「――――――うるせぇ」
「え?」
遠藤は怒気の隠せない表情で仲間に当たる
「ちょっと最近生ぬりぃんだよ……あいつにはもっと調子乗った罰をくれてやらねぇと……」
彼の頭には抱き合う自分の愛しの人とセツの姿。あれを目撃してから遠藤の頭はセツへの憎悪でいっぱいいっぱいであった。
「あ……遠藤、ネクラユキいたぜ」
「あ?」
取り巻きが言う通り、自分たちのいる廊下を向こうから歩いてくるセツの姿があった。
相変わらず髪は整えておらず、目元は隠れ、自分より低い背、細い体――――――遠藤は思う、なぜあんなやつが花柱 夕陽と一緒にいるのか、自分の方がまだいいではないか、と。
――――――光真はわかる。あれは完璧な男だ、勝てる要素はない
だがそのパーフェクトマンを差し置いて彼女と仲良くするネクラ男を、遠藤はどうしても許せなかった。パシリや暴行を加えていたのもその怒り――――――嫉妬のためだ。
(恥をかかせてやるんだ……もっと!)
遠藤がセツを睨みつけていると、彼も気づいたようで口元が「げっ!」と言いたげな形になる
それを見た遠藤は自分の顔が歪んだことに気づいた。彼に自分は恐れられている、そう思うと高揚感が溢れ出す。
「よぉネクラユキくんよぉ? 何してんの?」
肩を無理やり組み、前と後ろを彼の取り巻きが囲んで動けなくする。
「………」
「おいおい挨拶もねぇのかよ? オラっ!」
「っ!」
遠藤の拳がセツにめり込む。息をつまらせた彼を見て遠藤はやはり優越感が湧き上がる。
「ん?」
そんな時、ふとセツの手元に視線が行った。
「何持ってんだよお前」
「!!」
それを強引に奪い取る。それは巾着袋のようなもので、小さい袋なのだがずっしりと重みを感じる
開けてみるとそこには10枚ほどの金貨が輝いていた。この世界の通貨を覚えた遠藤ならその金額がわかる。
「10万円かよ……てめぇどっからこんなものを」
金貨一枚は日本円で一万円、それを10枚、つまり10万円。現代で言えば大金だ、少なくとも遠藤はこんな金額を持ったことはなかった。
「……俺……役立たずだからせめて戦闘以外でなにかできないかなって思って……城の人の手伝いしたんだ……そしたらいろんな人からお給料がもらえて……」
「――――――へぇ」
彼の口が邪悪に歪む。
「じゃあこれ俺のものな」
そう言って巾着袋を自分のポケットにしまい込む。ずしっとした感じがなんだか気持ちいい
「うっわ! 遠藤まじひっで!」
「それで食いもん買おうぜ!!」
取り巻きが騒ぐ、先程はイラついてしまった彼らの声だったが、今の遠藤なら心地よく聞き入れられる。
「そうだな! 訓練終わったら街で豪遊だぜ!」
汚らしく笑い、彼らはその場を離れ訓練へと向かう。
その場に佇むセツを残して……
「あんにゃろぉ……」
俺は下品な笑い声を出しながら去っていく遠藤たちを見て恨み言を吐く。
咄嗟に演技したが、まさかあんなに慈悲もなく金を持ってくとはな…俺じゃなかったら号泣もんだぞ
まあこれも俺が夕陽と仲がいいのが原因と思うと、遠藤が哀れに見えてくるようになった。嫉妬がバレバレなんだよ嫉妬が。俺に構ってねぇで夕陽に少しはアタックしろ……多分無駄だが、あいつ自分への好意には鈍感だし
「……まあ金ならいくらでも用意できるから許してやるか、めんどくせぇし」
「――――――あれ?セツさんじゃないですか」
「……グレインか?」
俺がすでにこの場にいない遠藤たちに哀れみの目を向けていると、鎧を外したグレインと遭遇する。相変わらずイケメンが眩しい、爆ぜろ
「どうしてこんなところに?」
「ああそれは――――――」
とりあえずここを出る日が決まったことと、金を奪われたことを伝えた
「明後日ですか……それにしてもセツさんともあろう人がやられっぱなしでいいのですか?」
「……いいんだよ、多分俺が何もしなくてもあいつらはひどい目に遭うから」
「……なんですかそれ」
長いことネット小説なんかを読みあさって得た知識の中に、遠藤のようなタイプの人間は大抵いい目にあわないというものがある。
あんな風に、弱いのに自分の欲に忠実になっていると、そのうち限界にぶつかり立ち止まる。それを壊し、さらなる欲を満たすために、今度は人の道を外れたものに手を出す――――――
「そうして身を滅ぼすわけだ、王道パターンだな」
「? どういうことでしょう?」
「最初のうちの身体作りが大切ってことだ」
間違ったことは言ってない。強くなればなるほど欲を満たすことは容易になるのだから
「あ、そんなことより聞きたいことがあったんだ」
「なんです?」
「――――――今度の訓練の休みっていつ?」
「………まさかこの日だったとは……」
俺はげんなりした表情で城下町を訪れていた。
退去命令を出されてから二日、つまり今日は俺の城滞在の約束の期限の日だ。そして俺たち召喚された者たちに与えられた休みの日でもある
――――――つまり、だ
「――――――お待たせ、ユキくん」
「……いや、今来たところだ、夕陽」
俺の前に現れたのは城下街デートを約束していた幼馴染……
そう、王から出された約束の日と、図らずとも約束の日が被ってしまったわけだ
(なーんかめんどくさくなりそう……)
気分が落ちかけるが、女の子の前でテンションダウンはさすがによくないだろう。
――――――今日がこの街にいる最後の日なんだ、無理やりにでもいい思い出にしておこう
「んじゃ行くか」
「うんっ……」
俺は夕陽の横に並び、街を歩き始める。
今日、俺はこのデートが終わり次第国から出る。
思い残すことがないようにこの街を楽しもう、そう決めていた
「どこか行きたいところあるか?」
「………」
「……どうした?」
「っ!ううん! なんでもない! そうだ! 買い食いしようよ買い食い!」
「あ、ああ……」
なんとなく夕陽に元気がないような気がする……俺はこいつになにかしちまったのか?
それともまさか……
「あれ美味しそう! ドーナツみたい!」
「そうだな……食べてみるか」
――――――俺がいなくなろうとしていることに気づいているのか?
「……楽しいね、ユキくん」
「……ああ」
時折寂しげな表情を見せる彼女の真意は、どうしても読むことができなかった――――――
修羅場はまだか




