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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第三章 戦争編
64/127

63 幻想の兄妹

遅れて申し訳ありません

 何かが引きずり出される音がする。

 その音に反応したティアは、エルカとアリゼの身体から血が吹き出すのを見た。


「ッ! エルカ! アリゼ!」


 珍しく、ティアが声を荒らげる。

 駆け寄ろうとするが、運動は彼女の一番不得意な分野だ。

 倒れこむ二人を抱き込むには到底間に合わないが、代わりにブラッドが動き、二人をその腕で抱きとめた。


「ブラッド! 二人は!?」

「今見る!」


 ブラッドはサポート魔法も使いこなす万能な魔族だ。

 と言ってもスペシャリストではないが、彼の解析魔法は二人の様態を容易に明らかにした。


「筋肉がズタズタだ……内蔵もいくつか損傷している。心臓が無事なのが救いだが……ッ! これは……」


 二人の身体に解析の光を当てながら、ブラッドは息を呑む。

 脳の一部、そこが二人とも損傷していた。

 エルカはそこまで酷いわけではないが、アリゼは目に見えて傷ついているのが分かる。

 

(これでは……)


 この世界でも、人の重要器官は脳である。

 そこが傷つけば、当然身体の機能どころか魔力を練ることだって叶わない。

 エルカはともかく、アリゼの損傷具合は回復魔法で治ったとしても、後遺症が残ってしまうかもしれない。

 そうブラッドが判断を下していた時、ティアも彼女たちの身体を見ていた(・・・・)

 その魔眼には、先程まで写っていたメルアーの糸が見えていなかった。

 

「引きぬかれた……? そんなことされたら」

「はは……あははははは! ざまぁ見ろ!」


 メルアーが高笑いを上げていた。

 彼女はしっかりと二本足で立ち上がっており、濃い魔力を垂れ流している。

 胸の傷は塞がっており、口元の血と服の血を除けば、メルアーが怪我をしていたとは誰も思わないだろう。


「貴様……魔臓は潰したはずだ」


 ブラッドは二人に高位の回復魔法をかけながら問いた。

 魔臓を潰された者は魔力を練れなくなるはずなのだ。

 だというのに、メルアーの身体には魔力が流れている。

 ブラッドには理解できなかった。

 もはや、彼女が魔臓を二つ以上持っているという事実から、目をそらしてしまっていたのだ。


「えへへ……私、って言うか私たちはね、みーんな身体をイジられてるの(・・・・・・・)。何十本と薬を打たれてるし、私の場合は心臓と肺、そして魔臓をそれぞれ1つずつ増やされている。すごくない? もう化物だよね」


 彼女は笑っていた。

 狂った笑みではあったが、どことなく悲しそうに、そして辛そうに笑っていた。


「このユニーク魔法だってね、とある研究成果を私たちで実験して、それに生き残ったから手に入れたの。ほんと、死ぬ思いだったんだから。あ、でもカゲロウは天然だっけ? まあいいや」


 その手でマリオネットの糸を操りながら、メルアーは話す。

 彼女の口から放たれる壮絶な背景に、ブラッドとティアは少なからず動揺した。

 

「冬真様に拾ってもらえなかったらどうなってたかは考えたくないね。だから、あの人のために戦うんだけど!」


 メルアーが地面に手をつく。

 溢れ出る魔力が地面を駆け、一つの魔法陣を完成させた。

 

「〈合成獣(キマイラ)・召喚〉!」


 地面が揺れる。

 ティアは思わず身体を震わせた。 

 その魔法陣から現れた、巨大な怪物の魔力に。


「こいつは私の中じゃ飼えなくてね! 仕方なくこうして召喚魔法を使ってるんだ! 管理は冬真様に頼ってるけどね!」


 キマイラと呼ばれた怪物は、ライオンの頭、山羊の胴体、毒の牙を持つ蛇が尻尾になっており、他にも羽や、腹から巨大な牙が生えている、見た目からもう化物としか言えない生物だった。

 その前足はブラッドたちを軽く押し潰せそうなほど大きく、触れただけでも戦闘不能にされるだろう。


「でも、こうして〈限界突破(リミットブレイク)〉していれば、私もこの子を操れる」


 メルアーが飛び上がる。

 彼女はキマイラの頭に立つと、手をついた。


「〈完全なる我の操り人形ペルフェットマリオネットドール〉!」

『グオォォォォォォォ!』


 キマイラが苦ししげな雄叫びを上げる。

 メルアーの指先から糸が溢れだし、キマイラの頭のなかに潜り込んで行く。

 同時に、彼女の身体にも糸が絡み始めた。

 その糸は量を増やし続け、最終的にキマイラの頭と彼女の半身が、文字通りの意味で合体してしまう。

 

「私の脳とこの子の神経を直接つなげた。こうしちゃえば、この子は私の手足のように操れるの」

「っ! 避けろ!」

「あっ」


 キマイラの腕が振られる。

 大きさに似合わぬ驚異的な速さで迫るそれは、間違いなくティアを捉えることができた。

 しかし、ブラッドが彼女と怪我人二人を抱えて飛ぶ。

 腕が振り切られるよりも速く軌道から外れたが、その風圧を避けることは不可能。


「くっ……」


 彼らは泥濘んだ地面に叩きつけられた。

 ブラッドが抱えていた手を離さなかったために三人は無事だが、彼自身は背中を強く打ち、息を詰まらせる。


「ははははは! 無様無様! ほら……避けないと死んじゃうよ?」


 キマイラの口の中に炎が見える。

 ブラッドは息も絶え絶えに舌打ちした。

 あの炎、魔力の濃さからしてSS級以上の威力はあるだろう。

 さすがの彼でも、それを簡単に防ぐことは出来ない。

 

「……私がやる」


 だが、今この場にはティアがいる。

 ティアは立ち上がると、詠唱を始めた。


「相殺するには……これしかない。堂々たる水の流れ、恵み、厄災、すべての源となる母なる水よ、穿ち、叩き、砕く災の水よ、今はその力を貸せ、我の敵を撃て――――――――〈水神の咆哮(ウンディーネブラスト)〉!」


 ティアの頭上に巨大な魔法陣が形成される。

 キマイラの火炎が放たれると同時に、その魔法陣から水の激流が飛び出す。

 ぶつかり合った二つは空中で相殺され、爆音を上げた。


「くっ……」

「やるじゃん! でも……こっちは何発でも撃てるんだよね!」

『グオォォォォォ!』

「……」


 キマイラの口の中には、すでに次の火炎が溜まっていた。

 それを見てティアは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 さすがにあれだけの詠唱をしながら水を連発するのは、魔力は持っても間隔が短すぎて間に合わなくなるだろう。

 それでもやるしかない。

 一度でも当たればこっちは即死だ。

 ティアがしくじれば、四人とも死んでしまう。


「さあ! いつまで耐えられるか……な……あ……あれ……?」

「? ……何?」


 火炎を撃とうとした時、突然メルアーの動きが止まる。

 腕を突き出した状態から、徐々にその動きが鈍くなっていく。

 まるで、身体が固まって行ってるかのように――――――――――――


「――――――ふん、ようやく効いたか」


 その時、ブラッドが呟いた。

 呆れた顔で立ち上がった彼は、ティアの横に並び、キマイラを見上げる。


「な、何で……身体が……鈍い……」

「もうほとんど動けないだろう。貴様がこのデカブツと合体した時は不安になったが、効いて何よりだ」

「? 一体何の話をしているの?」


 この中で、すべてを理解しているのは当然ブラッドのみ。

 突然身体の自由が効かなくなってきたメルアーも、仲間であるティアも、この状況が一切理解できなかった。


「俺が最初に貴様に不意打ちした時、俺はこのナイフで貴様を刺した」


 取り出されたのは赤いナイフ。

 血を吸い、赤黒く輝く恐ろしいほど美しいナイフであった。


「これは〈凝血刀〉。この表面には、俺の魔力で滲み出す特別な毒があってな、不意打ちの時に貴様の体内に入れさせてもらった」


 ナイフからぽたりと液体が垂れる。

 それは赤い液体であったが、血より薄く、明るい色であった。


「これは血を石のように固める毒。少量では相手の動きを鈍くする程度の働きしか出来ないが、さっきのように深く突き刺し、尚且つ身体の中心に刺してしまえば、貴様の全身の血を石に変えるなど容易だ」

「あ……あ……」


 すでにメルアーは、彼の言葉が理解出来なくなってきていた。

 彼女を司令塔としていたキマイラは完全に動きを止め、身体を支えることも出来ずに崩れ落ちる。

 

「残念だが、貴様はもう詰んでいた。もう……ほとんど聞こえていないだろうがな」

「……」


 メルアーはもう喋れない。

 しかし、まだ少しだけ動く眼球が、視界の端に一体の魔導兵の姿を捉える。

 ボロボロの外装から、一人の男が今、這い出そうとしていた。

 男の名前はラーメル。

 今死にゆくメルアー、いや、アーメルの兄だと思い込んでいた男だ。

 魔法によって刷り込まれた記憶のはずなのだが、この期に及んでもまだ、ラーメルは家族に対する視線をメルアーに向けていた。


「アーメ……ル」


 彼自身もボロボロであった。

 先ほどグレインに蹴られたダメージが大きいのだろう。

 口から血を流しながらも、ラーメルは彼女の、妹の名前を呼ぶ。




 何であの人はあんな眼を向けてくるのだろう。

 騙していたのに、酷いことしたのに。

 最愛のアリゼさんだってめちゃくちゃにしちゃったのに。

 何であんな優しい眼を向けてくるんだろう。

 妹なんで幻だ、家族なんてまやかしだ。

 それなのに、どうして?


 そういえば――――――――


 あの人達と過ごす毎日って……悪くなかったなぁ。


 ああ、私が本当の妹だったらよかったのに。


 それならきっとこんな力いらなかったのに。


 もっと――――――――普通の女の子みたいに――――――――――――





「さらばだ、魔物使いよ」


 

 崩れ落ちたキマイラの上、何かを求めるかのように手を伸ばしている少女の像が、そこにはあった。

 

メルアーファンの方はいらっしゃいましたか?

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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