62 限界突破
新年一発目です!
今年もよろしくお願いします!
「させない……! 〈地面爆弾〉!」
膝をついていたグレインと、剣を振り下ろそうとしていたエルカとの間の地面が、突然爆ぜる。
小さな爆発ではあったが、意表を突くには十分であり、エルカは剣を振り下ろすのをやめ後ろへ飛び退った。
「ちぇ、決められると思ったんだけどな」
「そう簡単には行かない」
ティアがグレインにかけよる。
うめき声を上げる彼の傷に回復魔法をかけるべく、手を傷に押し付けた。
「ごめん、私回復魔法あんまり得意じゃないから……」
「うぅ……」
とんでもない数の魔法を使いこなす彼女であったが、唯一苦手なことが、この回復魔法である。
そもそも適性がなかったことが問題なのだが、それでも初級魔法ならコントロールでき、それを多量の魔力で回復量の底上げを図っているのだ。
それでも、初級は初級。
かなり深いグレインの傷を完治させるまでは行かず、表面を再生させ血が流れ出るのを防ぐ程度にとどまった。
「しばらく動いちゃダメだから」
「ティア……一人で三人を相手にするのは……」
「大丈夫、いざとなればアレを使う」
「……無茶だけはしないで……」
グレインをその場に座らせ、ティアは珍しく真剣な顔で三人の前に立つ。
「んー? 一人でやる気? 死んじゃってもしらないよ?」
「……よく喋る人」
「ちっ……ガキのくせにムカつくなぁ!」
お前もだろというツッコミをグッと噛み締めたティアは、その瞳に宿した力、魔眼を発動させる。
目に見えない魔力の流れやその形を見ることの出来るその眼は、エルカにかけられた「何か」をはっきりと捉えた。
「糸……糸が身体の中に入り込んでいる……」
「っ……魔眼持ちだったんだ……」
エルカの肩に出来た傷から、不可視の糸がその身体の中に入り込んでいた。
その糸は彼女の右半身を占領しており、一部が脳に到達している。
そして、糸の先はメルアーの指先につながっていた。
アリゼの身体にも同じく糸が入っているが、エルカと違い、全身に張り巡らされてしまっている。
脳にもかなり糸が入り込んでいた。
「〈操縦魔法〉は……身体を操る魔法」
「……当たり。私のユニーク魔法は人の身体を直接操れる。傷口さえ作れば、そこに糸を侵入させるだけで神経を乗っ取り、私の意思どおりに動かせる魔法だよ」
「傷口がないとダメ?」
「分かってるくせに。そうだよ、傷口が出来て、尚且つそこから糸を入れないといけない」
糸を入れる――――――そこからティアは考察する。
その糸が触手のような動きが出来るとしたら、後ろで座っているグレインも操られてしまう。
しかしその気配はない。
そのことから糸を飛ばすことは出来ないと推測できる。
だとすれば
(アリゼのレイピア……やっぱり糸が絡みついている)
あのレイピアで身体を突かれれば、そこから糸が進入する算段だったのだろう。
もちろんその糸も、彼女の指に繋がっていた。
「まーそっちもバレちゃうよね。こうやって剣に糸を絡めておけば、傷をつけた瞬間に身体に糸を入れられるでしょ? まあ傷口がもうちょっと大きければ、もっと深くまで侵入させられたんだけどね……でもコレ思いついた時は天才だって思ったよ! 」
「確かに……悪知恵の天才」
「褒めないでよー……そして、こうすればもっといい感じだね」
メルアーがエルカの剣に触れる。
するすると糸が剣に絡みついていき、あっという間にある意味で毒の塗られた剣が完成した。
「さて、この二人を相手にあの人を守りながら戦えるかなぁ?」
メルアーは残虐な笑みを浮かべ、首を傾げる。
横には掠れば終わりの剣を構える二人の仲間。
脳に糸が入り込んでいることで意識すらないため、説得は不可能。
後ろには手負いのグレイン。
絶体絶命に近い状況である。
少なくとも、ティアはこの状況の打開策がまだ思いついていない。
策を考えるどころか、ぼーっとただ一点を見つめるだけである。
「何? 現実逃避でもしてるの? まあ安心しなって、すぐこの二人みたいにしていあげる!」
二人が剣を振りかぶり、ティア目掛けて飛びかかる。
ティアは動かない。
ただ一言、言葉を零した。
「おひさ」
「――――――――ああ、久方振りだな」
「ッ!? 後ろ!?」
メルアーが、自身の後ろからした声に振り返る。
しかしどうしようもない。
すでに赤いナイフが、彼女の胸の中心を貫いているのだから。
「不意打ち、さすが」
「隙だらけだったのでついな」
「がふっ……そんな……いつの間に……」
メルアーの口から血が溢れだす。
操られていた二人は、その場で動きを止め、崩れ落ちる。
赤いナイフの持ち主であるブラッドは、それを彼女の身体から引き抜いた。
傷口からも血が溢れだし、メルアーは前のめりに倒れる。
「後ろからブラッドが来てることに気づいたから……私はずっと気配を悟らせないように、微弱の魔力を放出し続けた。あなたは人形の操作に夢中だったみたいだし、見事に惑わせたよ」
「ごぷっ……そ、そんな……」
ブラッドはナイフについた血を払い、しまう。
それを見たティアは疑問を抱いた。
「? 止めは刺さないの?」
「いや……もうこの女は助からん。魔臓も壊した。あとは死を待つばかりだ」
魔臓――――――魔力を練るための重要な身体機能である。
人間は胸元に一個、魔族は全身の至る所に、獣人は心臓と同化していると言われており、魔族が魔法を得意とするのは、その魔臓が多いからと言われている。
人によって差はあるようだが、メルアーの魔臓は一般的な胸元にあったようだ。
そこを壊されてしまうと、魔力を上手く練れなくなり、誰かに治療してもららわない限りは魔法が使えない。
この状況で魔臓を壊されてしまったメルアーは、もはや死んだと言っても過言ではないのだ。
「俺が止めを刺す必要もない。何か恨みでもあるならばお前が刺したらどうだ?」
「……別にいい。それより二人の身体を治さないと」
ティアはエルカとアリゼに近寄り、その様態を確かめる。
ブラッドもメルアーを一瞥したあと、二人の近くへと寄った。
「がぁ……ごほっ……死ねるか……」
だが、苦しげな声で思わず足を止めた。
ティアも反応し、メルアーを見る。
血だまりの中で横たわっている彼女は、息も絶え絶えになりつつ、立ち上がろうとしていた。
力を込めるたびに胸元から血が溢れだし、身体を死へ近づけていく。
彼女には負けられない事情があった。
主である、冬真のために。
彼の手駒として、最後まで側にいるために。
冬真の命令なら何でもした。
洗脳した村に潜り込み、したくもない愛想笑いをし続けた。
村のためと、冒険者の真似事もした。
殺したくてたまらないあの男、セツに、頭を下げたりもした。
彼がそうしろと言ったから、全ては主の命令だったから。
今だってそうだ。
殺せと彼が言ったから、メルアーは負けられない。
刺し違えてでも、全員の命を持っていかなければならないのだ。
「っはは……全員……殺してやる……ッ! がはっ……り、リミット……〈限界突破〉!」
狂気に満ちた声が、辺りに響いた。
「おいおいその程度かよ! カゲロウさんよぉ!」
「くっ……」
こうなることは分かっていただろう。
気づけばすでに俺は攻勢に出ており、カゲロウを追い詰めていた。
こいつもよくもまあこの程度の実力で挑んてきもんだ。
黒丸を叩きつけるたびに吹き飛ぶやつを見て思う。
「なぁ……そろそろ諦めたらどうだ? 帰って冬真呼んで来いよ、これ以上お前とやり合うのはめんどくせぇだけだ」
「ふっ……ははは! そうだな、諦めるぞ。このままお前ほどの強敵と戦うのは愚の骨頂だった! お前には俺の全力を相手にしてもらうとしよう!」
なんだ?
急に笑い出しやがって……何を企んでやがる?
黒い剣を構えたカゲロウは、目を閉じ、魔力を練り始めた。
一体何をする気だってんだ……ちょっと見てみたい気も――――――――――――
「お前にも、闇をくれてやる――――――――――〈限界突破〉!」
「……はぁ!?」
待て待て待て待て!?
〈限界突破〉なんざ使えんのか!?
想定外だ……!
俺はしっかり黒丸を構え、警戒の姿勢を取る。
〈限界突破〉――――――――人間にのみ許された、己の限界をぶち壊す最終兵器。
自身の魔臓から全身に伸びる魔力回路を、通常の何倍にも大きく開くことで、多くの魔力を一気に扱えるようになる。
するといつもなら使えないようなとんでもない魔法が、一時的ではあるものの使えるようになるのだ。
もちろん、無理やり魔力回路を開くせいで身体への負担も尋常じゃないが、その分得られる力は絶大……本来血もにじむような努力を何年と続け、ようやく手に入る技のはずだが――――――――こいつは本当に何者なんだ?
「この姿になったのは今日二回目だ……本来こんなに見せる姿ではないが、お前と戦うには命を削ることすら辞さん!」
カゲロウの身体から魔力が吹き出し、やつを覆っていく。
次第に黒く形を持ち始めた魔力は、漆黒の鎧となり、完成した。
「〈影騎士団の鎧〉――――――――二回戦と行こうか、化物」




