61 それぞれの開戦
本日二本目です。ご確認ください。
かつて、この世界を作った二体の神がいた。
一つは創造神。
0から万物を創り出し、世界を発展させた。
もう一つは破壊神。
発展の妨げになるものを壊し、同じく世界を発展させた。
世界が「完成形」となるのは、時間の問題だった――――――しかし、
創造神が乱心した。
丁度その頃、世界に誕生した「人」を殺戮し始めたのだ。
あっという間に「人」が半数を下回ると、ついに破壊神がそれを止めにかかった。
神どうしの戦いが始まったのだ。
戦いは激しくなっていくが、常に力は拮抗していた。
そこで破壊神は、「人」の力を借りることを思いつく。
長く激しい戦いの末、「人」の力を借りた破壊神は、ついに創造神を封印することに成功する。
そして、封印が解かれることを懸念した破壊神は、封印の鍵を三つ用意した。
それを二つは「人」の中に、もう一つを寿命の概念がない「怪物」の中に宿らせる。
名をそれぞれ「地神」、「天神」、そして「海神」とし、鍵が失われぬよう強い力を持たせた。
地神と天神は「人」の寿命に従い、代替わりをしていく。
海神はそれをずっと見守り続けている。
そうして創造神の封印は、守られ続けていた。
脅かされることすらなかったのだ。
リヴァイアとデザストルを、ガイアが裏切るまでは――――――
「本当にあなた達は……創造神を蘇らせる気なのね」
「そうだよ! この世界の「人」をね! みんなぶっ殺してもらうんだ!」
言葉とは裏腹に、ガイアは無邪気に笑う。
リヴァイアはその表情に軽く寒気がした。
(私がちゃんとこの子を見つけて話が出来ていたら……いや、この話はいいわね。後悔してるってことは手遅れってことだもの)
リヴァイアは、他の鍵たちを気にかける役目があった。
何百年もその役目を続け、今回が初めての失敗である。
悔しくないはずがない、それでもリヴァイアは切り替えた。
隣りにいる妹が、強い目をしていたから――――――――
「……妾たちの代で失態を犯すわけにはいかぬな」
デザストルは一歩踏み出す。
リヴァイアもそれに並ぼうとしたが、彼女はそれを制した。
「ここは妾が行こう」
「ちょっと! 一人でやらなくてもいいじゃない! それにあなた王なのよ!?」
「妾は負けん」
「そうじゃなくて……んー! もういいわ! 勝手にしなさい!」
リヴァイアは獰猛に歪んだデザストルの顔を見て、折れた。
こうなった時の彼女は止められない、敵を殲滅するまでは――――――
「ふふっ……安心しろ。この魔王に万が一の敗北などない」
デザストルの髪の色が、綺麗な赤から美しい金色へと変色していく。
内の魔力の高まりに合わせ、その身体がバチバチと電気を発し始めた。
「ふーん……もしかして舐めてる? 死んじゃうのは自分だってのになぁ、かわいそー!」
「ほざけ人間風情が。妾の前で、貴様に面を上げる権利などないわ」
「〈炎術・大砲〉!」
「ぎゃぁぁぁ!?」
黒い髪の女、クロイヌの放った炎の弾丸が、魔族の兵たちを撃ち抜いて行く。
それを一瞥すると、彼女はローブを翻し、再び戦場をかけていく。
ちなみに、獣人大陸の時とは違い、彼女は人間の姿をしている。
メルアーもそうだったが、基本黒ローブの者はシロネコなどの例外を除き、全員人間なのだ。
そんな彼女の横を、並走する男が一人――――――
「サイガ、持ち場はどうしたのですか?」
「片付いちまったぜ、兵の量も少なかったし一瞬だった」
近づいてきた兵士たちを槍でなぎ倒している男、サイガは答えた。
「それでも持ち場を離れるのはいただけませんね」
「まあいいじゃねぇか! 俺に会えて嬉しいだろ?」
「それは……まあ、そうですね」
「え!?」
サイガは思わず声を上げる。
冗談で言ったことが肯定されてしまい、少なからず同様してしまった。
「あなたがいれば後ろを任せられますからね、ビルドスやルーナならさらによかったですが……この際あなたでも助かります」
「……何だよ、そういうことか」
「? 何か?」
「何でもねぇよ!」
彼はそっぽを向いて、槍を八つ当たり気味に振り回す。
サイガも一人の男だ、好きな女だっている。
彼女の言ったことは、彼を上げて下げるものだったのだ。
「はぁ……あ、そうだ。魔王討ち取ったらよ、一緒に飯でも食いに行こうぜ」
「はい? ……アレが復活したらそれどころではないと思いますが……」
「復活前にだよ! 少しくらいは余裕あんだろ?」
「まあ……その間でいいのなら」
「よっしゃ!」
サイガは今度は喜々として槍を振るった。
その度倒れていく魔族の兵士が哀れである。
そんなサイガを見て、クロイヌは不安そうにため息をついた。
(だから彼では不安なんですよ……感情で動きやすいところが特に)
「おら! どんどんこいや虫けら魔族ども!」
声を張り、サイガは魔族を煽る。
それに怒りを覚えた一人の兵士が特攻し、見事に殴り飛ばされた。
そのまま木に叩きつけられそうになった兵士を、何者かが受け止める。
サイガとクロイヌは、その者たちのことを知っていた。
受け止められた兵士は、受け止めてくれた少女の顔を覗き込む。
「お前……たちは……?」
「……下がってるです」
少女は兵士を降ろし、後ろへと追いやる。
「私たち運がいいね、姉さん」
「よかったです。最初にお前たちに会えて」
そこにいたのは黒と白の二人の少女。
セツとともに転移してきた、獣人大陸で名を馳せた姉妹――――――――
「シロネコ……ミネコ……ッ!」
「こんにちはです。クロイヌ、サイガ」
目の前にいる猫姉妹に、クロイヌは憎悪の表情を、サイガは苦笑いを浮かべた。
彼女らの名前を聞いた兵士たちに、動揺が走っていく。
獣王に傷をつける最凶の姉妹。
魔族でも知らない者の方が少ない。
「主様に泥を塗った猫ども……ここで会えるなんて好都合! 消します、完膚なきまで!」
「うるせーです犬モドキ女。ほら、ミネコ何か言ってやるです」
「ええ……何で私に振るの……」
まさかここで自分に発言権が来ると思っていなかったミネコは困惑する。
しかし言いたいことはあったようで、すぐに真剣な顔つきになった。
「まあ……散々利用されて私も鬱憤が溜まってるし……ただで死ねるとは思わないことですね」
「ほざけ糞猫が!」
「行くです」
「やれやれ……怖い女たちだ!」
「止めろ! 何としても!」
「負けるかァ!」
兵士たちが一人のがたいのいい男に群がる。
その男は黒ローブを着ていて、スキンヘッドであるのに――――――――
――――――何故か口紅が塗ってあった。
「あらぁ……いい突撃よあなた達……で・も、ちょぉっと足りないわねぇ!」
「な、なんだ!?」
剣は当たった、槍も当たった。
しかし彼の身体は斬れない、刺さらない。
「もっとぉ……感じさせるモノを持って来なさいな!」
「ぎゃっ――――――」
男が拳を一振り……それだけで、群がっていた兵士たちの上半身と下半身はさよならを告げた。
それを見た他の兵士たちは、その異様な光景にたたら踏む。
「もっと来なさいよ! このビルドスを体の芯からか震わせるような! 最高の攻めをちょうだぁい!」
恍惚な表情を浮かべるビルドスに、兵士たちは完全に戦意を喪失した。
本能が、コレに近づきたくないと叫んでいる。
「どうしたのぉ! さぁ! さぁ!」
「くっ……一時撤退を――――――」
「――――――――ぁぁぁぁあぁあああああああ! 死ぬぅ!」
「え?」
兵士とビルドスの間に、何者かが落下した。
見事に足で着地したようだが、痛そうに足をさすっている。
「いてて……し、死ななかった! 危ない! あたし危ない!」
「あ、あんたは……」
「ん? あーよかった。とりあえずは戦場に来れたんだ」
金髪の少女は、周りの魔族の兵士たちを見て安心したように言う。
「ろ、ロア・ゴールド……獣王の娘の……」
彼女は本来ここにいるはずのない者であった。
兵士たちは当然驚く、しかし同時に、安心する。
もうこの場の空気は、彼女のモノになっていた。
「ん~あなたは獣人の王女ちゃんじゃないの。なんでここにいるのかは分からないけど、残念ねぇ~獣王なら戦いたかったのだけど……私女には興味ないの」
ビルドスは最初驚いていた様子だったが、それがロアと分かった瞬間に興味をなくしていた。
「でも私は優しいからぁ……今すぐ獣人大陸に逃げ帰るならなにもしないわ。さあ、女は目障りよ! さっさと行きなさい!」
「あ? 誰だあんた。気持ち悪いな」
「……前言撤回、殺すわ」
ビルドスの顔に青筋が浮かぶ。
そしてポキポキと指を鳴らしながら、ロアに迫った。
「何だ敵か? なら丁度いいや! 思いっきり暴れたかったところなんだよね!」
ロアも手を広げて構える。
また皆とは違う戦場で、それぞれの戦いが始まろうとしていた――――――




