60 地神ガイア
それぞれの戦いが始まるので、視点がコロコロ変わります。ご注意ください。
「さて、どうすっか」
光真たちとの戦いも終わり、次はどうするかを考える。
当面の目標は黒ローブどもの撃破だが、ひとまずは夕陽のところに行くべきだろうか。
ちょっと時間かけすぎちまったしな、あいつなら大丈夫だろうが、ユニーク魔法使いは侮れない。
とりあえず様子見だけでもしておくか。
「っ!?」
夕陽たちの向かった方向に足を踏み出した瞬間、後ろからすごい勢いで飛んでくる気配を感じ取り、横に飛ぶ。
すると、今まで俺が立っていた場所にべちゃりと何かが叩きつけられた。
見たところ人型みたいだが……これは光真たちが着ていた雨合羽と同じもの?
髪の色は黒で短髪、体格の良さから男子だろうな。
……この格好、クラスメイトかもしれない。
確証が持てないのは、こいつの顔面が原型をとどめていないからだ。
潰れている……何度も殴打されたんだろう。
さすがに息はないな。
「ふん……戦場から逃げていく愚か者どもを殺して回っていたら、面白いやつに会えた」
死体を確認している俺に、声がかけられる。
後ろにいたのは、若い男。
顔も見たことないし、過去にその姿を見たこともないはずだが、この声だけは知っている。
「てめぇがカゲロウか?」
「……誰から聞いたかは知らないが……その通りだ、セツ」
「ちゃんと黒ローブ着といてくれよ、一瞬分かんなかったじゃねぇか――――――よッ!」
俺は言葉もそこそこに地を蹴り、カゲロウに接近。
そして不意打ち気味に黒丸を叩きつけた。
だが――――――
「この前の俺とは違うんだがなぁ……舐められたものだ」
「……っ、へぇ」
カゲロウは黒い剣で黒丸を受け止めていた。
この一撃で決めようと思ってたが、そう簡単には行かないようだ。
そういや……結婚式のときのこいつは分身体だったんだっけか。
「っ! てか黒い剣とか黒丸と被ってんだよ! ぶっ壊してやる!」
「やれるものならやってみろ! そのでかいだけの剣でな!」
「オラァ!」
一度距離をとり、黒丸を遠心力を乗せて振り回す。
カゲロウはそれを黒い片手剣でいなして行く。
結構力をこめているはずだが、見事に反らされてるな
ちっ……相手がこいつらじゃやっぱり一筋縄では行かないってか?
「……気に入らない男だ」
「あ?」
「なぜそれほどの力がありながら、貴様は他人を気にする?」
「は? よくわかんねぇこと言いやがるな」
「なぜ弱者にかばうのかと聞いている!」
カゲロウが俺の剣を反らした勢いを利用して、剣を切り返してくる。
軽く地を蹴り後ろに避けると、カゲロウは逃してたまるかとばかりに距離を詰めてきた。
再び剣が合わさり、鍔迫り合いになる。
「弱者って……何の話だよ」
「さっきから、貴様は自分の後ろに時折意識を向けている。何か……俺に見つかってはまずいものがあるんじゃないか?」
「……さぁてね」
変に勘が鋭いなこいつ。
確かに俺の後ろには光真たちが寝かせてある。
逃げたクラスメイトたちを殺してたこいつのことだ、ついでとばかりに殺すかもしれない。
情報は搾り取ったわけだし、もう用済みではあるが……
「ま、これ失うと俺の大事な女が悲しむんでね、てめぇには悪いが庇いながらやらせてもらう」
割り切ったようなこと言っても、光真たちが死ねば夕陽は落ち込むだろう。
わざわざ悲しませてやる必要なんてない。
それにこれ位のハンデなんて、あってないようなものだ。
「大切な女……仲間のためか」
「はっ! 仲間のためなんて笑わせるぜ! 俺が動くのは俺のためだ。悲しんでるあいつの顔が見たくねぇから守るんだよ」
俺がそれを見ないためには、後ろの連中を守らないといけねぇ。
だったら安いもんだ、いくらでも守ってやる。
正義の味方や、勇者なんかとは程遠い考えだろう。
そう言うのは、光真のように仲間思いで、正直で、輝いてるやつにお似合いだ。
だから俺は勇者じゃなくていい。
万人を助ける英雄になんざなりたくもねぇ。
ただ、周りにいてもらわなきゃ困るやつらだけを守る。
「そんでもって、俺はてめぇが気に入らねぇ。だから倒す。いいだろ? 自己中心的で」
「ふん……その部分だけなら……分からない話ではないなッ!」
互いに意見が合い、そして違えた。
やつの剣と俺の剣が、雨の中、再び音を立ててぶつかり合う――――――
爆音とともに、二人の女が地をかける。
爆発を起こし続ける者と、それをかわし続ける者、二人はほとんど人気のないところに来るまで、決してその動きを止めなかった。
「あなたしつこいわね……私はあの男を始末しないといけないのに」
「そんなの許すわけないじゃん。ユキくんを狙う害虫は潰さないと」
「私が害虫ですって……!?」
罵倒されたことで湧き上がった怒りが、ルーナの魔力を爆発的に高める。
夕陽はそれを冷静に眺めながら、その手に静かな炎を灯した。
「私は駆除人よ! あのクソ虫をぶっ殺す……正義の使者なのよ! 冬真様の名にかけて、あなたもクソ虫もまとめて潰すわ!」
「……決めた。本気で殺す」
激しい怒りを放つ女と、静かに怒りの業火を燃やす女の戦いが始まった。
「この気配は……!」
デザストルは思わず玉座から立ち上がる。
その顔は、先ほどまでの難しい顔ではなく、喜びに包まれていた。
「ようやく来たわね、セツ。この距離でも分かるわ」
「ああ、それにかつてのお供たちに、ロアまで……」
「ロア?」
「妾の大切な友人だ。とても強いぞ」
「へぇ……助かるわね」
魔王城にいる二人の顔はとても明るくなった。
彼らが来てくれただけで、戦況はすでに変わりつつある。
限りなく魔族側が勝利に近づいているはずだ。
そう思ってしまったからか……二人は急接近する何者かに気づくことが出来なかった。
突然、王の間の床に穴が空く。
砕けた床の破片が室内に散らばり、埃が舞い上がった。
「っ!? 敵襲か!?」
「うへへ……ラッキー! 二人まとめて見つけられるなんてついてるね!」
穴から出てきたのは、緑髪の少女。
決して背が小さいわけではないが、そのあどけない表情から幼く見える。
さらに、目の下に刺青が入っており、それがさらに不釣り合いさを醸し出している。
不気味――――――――一言で印象を表すとしたらそれだ。
最後に身にまとっている黒いローブ、これが彼女が敵だということを明らかにしている。
「分かってると思うけどぉ……あなたたち二人の身柄を拘束させてもらうから!」
「ふん……人間の身でありながら粋がるな。出来るものならやってみ――――――リヴァイア?」
「……」
リヴァイアは驚愕の顔で少女を見ていた。
そして同時に、怒りから血が滲みそうなほど拳を握りしめている。
「どうして……あなたがそっちにいるのよ……地神」
「なっ!?」
「えー? 別にボクが誰に味方していようが勝手でしょ? ねぇ……海神さん、天神さん」
「そうか……そなたが地神か」
天神と呼ばれたデザストルが、苦虫を噛み潰した表情でその名を口にする。
「そうだよ、ボクが地神、ガイア。そして初めまして、お姉ちゃんたち」
ガイアと名乗った少女は、可愛らしい笑みを浮かべながら、そう言った。




