表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第三章 戦争編
59/127

58 〈聖剣の鎧〉

説明が多くなったのでいつもより長めに……

「ぐわぁ!?」


 光真が吹き飛び、地面を転がる。

 やがて止まった光真は、着ていた雨合羽が鬱陶しくなったのか大胆に脱ぎ捨て、聖剣を地面に突き立てて立ち上がった。


「くっ……なぜこんな力が……」

「どうよ、無能だのネクラだの馬鹿にしていたやつに負かされんのは」


 俺は一気に距離を詰め、黒丸を追い打ち気味に振り下ろす。

 光真は何とか剣で防いだが、重さに耐えかねて膝をついた。


「ぐっ……!」

「さぞ悔しいだろうなぁ……おら、言ってみろ! 悔しいってな!」

「舐め……るなッ!」

「おっと」


 光真は聖剣を傾けることで黒丸をいなし、俺に向けて膝をついたまま剣を突き出した。

 いい一撃ではあったが、俺はそれを手のひらで受け止める。

 聖剣は俺の手のひらすら貫けず、光真は驚愕の表情を浮べた。


「そんな……」

「残念だったな」

「がっ――――――」


 動きを止めた光真の肩に、黒丸の峰を叩きつける。

 加減はしたが、鎖骨を砕いた感触がした。


(やっぱりこいつは未熟だな……)


 崩れ落ちた光真を見て思う。

 俺や冬真だったら、この程度の一撃じゃダメージすら負わない。

 〈聖剣〉持ちの能力の一つ、〈聖剣の鎧(ソードディフェンサ)〉があるからだ。

 これは全身に魔力を流すことで体を強化する〈強化魔法〉を遥かに凌ぐ性能がある。

 まず武器を通さない。

 剣、弓などの殺傷武器を、皮膚で止めることができる。

 自分でも原理はよく分かっていないが、まあ俺たちの皮膚は魔力を流すと硬くなると思ってくれ。

 打撃や魔法、内部へダメージを与える攻撃は完全防御できないものの、無敵と言っても差し支えないほどの防御力は得られる。

 その分、常時発動なんてしてたら魔力消費がえげつないことになるため、俺は普段使わないようにし、必要なタイミングに応じて発動させる。

 例えば、さっきの光真の突き。

 あれは手のひらで〈聖剣の鎧(ソードディフェンサ)〉を発動させて、受け止めたのだ。

 逆に光真がダメージを負ったのは、これが未完成だからと言える。

 打撃に弱いと言っても、あの程度で骨が砕かれているようなら駄目だ。


「ぐ……はぁ……はぁ」

「治るのも遅いな」


 〈聖剣〉持ちのもう一つの能力、それは〈聖剣の加護(ソードスリール)〉。

 この能力は一番単純、傷の超再生だ。

 あらゆる外傷、身体へのダメージ、魔法による束縛、または悪い効果をもたらすもの、それを瞬時に回復させ、万全を保つ能力。

 回復魔法と違うところは、例え死んだとしても、瞬時に息を吹き返すことが出来るという点だ。

 ただしそれなりに魔力を消費する。

 俺はよく知らないが、魔力がない状態で重症を追えば、例え〈聖剣〉持ちと言えど死ぬらしい。

 かつての〈聖剣〉持ちはそうして死んだらしいが、人伝てに聞いた話だからよく分からん。

 まあ……ドラゴンで始まる某有名RPGじゃ勇者は生き返れるだろ? この世界でもそういうシステムだと言うことだ。

 それ以外にも能力があるのだが……まあこいつ相手には必要なさそうだし、こいつもまだ使える様子ではない。

 

「どうした? もう治ったろ、立てよ」

「……っ!」


 肩を押さえて光真が立ち上がる。

 聖剣を構えるが、さっきより光が小さいし、腰が引けている。

 怯えている、明らかに。

 目に闘志がないし、俺が一歩前進すると一歩後退する。

 どうしたらいいか分からないんだろう。

 自分の剣が敵に刺さらなかったことなんてなかったはずだ。

 自分の体が傷ついたこともなかったはずだ。

 初めての激痛で体が恐怖に支配されている。

 もう、こいつは駄目だ。


「つまんねぇ」


 俺は光真の頭目掛けて黒丸を振るう。

 その意識を奪うために、今度はさっきよりも弱く。

 光真は動けない――――――だが、


「うおぉぉぉ!」

「光真はやらせないよ!」

 

 次郎と美月がそれを受け止めた。

 その隙に、今まで膝をついていたはずの遠藤が動き、光真を抱えて離脱する。

 

「……どけよ」

「どかねぇ! ここで光真をやらせるわけには行かねぇんだ!」

「そうだよ! 大切な友達なんだ!」

「……」

 

 目がマジだ……うわ、こいつらめんどくせぇ。


「二人とも……」

「悔しいけど、こん中じゃお前が一番強いんだ。これからのこともあるし、お前だけは失うわけにはいかねぇんだよ」

「遠藤……」

 

 何て言うんだろうなこれ。

 俺が悪役っぽいことはいつものことだが、目の前でこうした友情劇を見せられるとむず痒いものがあるな。


「さっさと立て! あのいけすかねぇやつをぶっ飛ばすぞ!」

「――――――ああ!」


 光真の剣が強い光を放つ。

 さっきよりも眩く光るそれは、徐々にその剣の中に光を吸い込んでいく。

 そして――――――全ての力をその刀身に閉じ込めた聖剣、〈切り開く剣(エクスカリバー)〉が完成した。


「エクスカリバー……そうか、今までのお前は完成形じゃなかったんだな……けど今なら!」

「行くぜ!」


 本当にめんどくさいことになったな……。 

 物語の主人公のように仲間に囲まれ、光真は本物に覚醒した。

 さっきまでの半端な力とは大違いで、魔力も桁違いだ。

 ……俺とは違う真っ白な刀身が、少しだけ羨ましい。


「ちょっと本気でやらねぇとやばいかなっと」

「くっ!」

「うわ!?」


 目の前で剣を押さえていた二人を打ち払うと、俺は光真に飛びかかろうとして――――――


「遅い!」

「うお!?」

 

 思わず体を反らした。

 眼前を剣先が掠る。

 一瞬で俺の前に現れた光真は、さきほどとは比べ物にならない速度で剣を振るう。


「ずいぶん速くなったじゃねぇか!」

「おかげさまで体が軽い!」


 俺も少しだけ本気を出し、回避に専念する。

 反撃チャンスなどいくらでもあるが、黒丸では今の光真にダメージが与えられないだろうな……。

 〈聖剣の鎧(ソードディフェンサ)〉がかなり完成されているのが分かる。

 剣の鋭さも数倍に――――――

 こっちも聖剣を抜くか?

 いや……下手すりゃ殺しちまうし、どんだけ巻き添えで食っちまうかも分からない。

 

「ちっ!」

「っ!」

 

 剣をかわし、光真の胴に拳を突き込む。

 魔力で強化した拳にも関わらず、鈍い感触が手に伝わった。

 光真は反撃されたことと、微量だがダメージを負ったことに目を見開き、驚いた様子で後ろへ飛ぶ。

 そこに他の三人もかけよった。

 

「大丈夫か光真!」

「ああ……それにしても、これだけ攻撃したのに一撃も加えられないとは……」

「何者なんだろうね……」


 四人の顔に若干の余裕が見られる。

 光真が俺といい勝負をしている……なんて思っているんだろう。

 俺に、

 勝てると、

 思っていやがる。


「ちょっと作戦がある……三人とも耳を貸してくれ」


 やつらは固まって話し合いを始めた。

 まあ普段なら不意打ちで襲いかかるんだが、今回は待ってやろう、よくいる悪役のように。


「――――――わかったな! よし行くぞ!」


 光真、美月、次郎が飛び出す。

 当然光真が一番速いが、美月も速い。

 その後ろに次郎がいて、さらに後ろに遠藤がいる。

 この中じゃ……とりあえず光真を潰すか。


「〈溶岩の槍(マグマランス)〉!」

「なっ……ち!」


 黒丸を振るおうとした瞬間、俺めがけて赤黒い大きな槍が飛んできた。

 速いほうだが、大したことはない。

 片手で払って壊すと、大きな破片が水たまりに落ちて白い水蒸気が上がる。


(しまった……これが狙いか)

「俺はよォ! ネクラユキ! お前のことが大嫌いだ!」


 どんどん視界を狭めていく水蒸気の向こうから、遠藤の声がする。

 ああ、言われなくても知ってるし、俺も好きじゃねぇよ。


「いっつもスカした顔してよォ! 俺たちの言うことに逆らわねぇ」

「……」

  

 なんだ、逆らって欲しかったのか?


「それがこっちの世界に来た途端にその態度か! ムカつくんだよ!」


 狂ったようにマグマの槍を打ち払う。

 その度水蒸気が上がり、もう視界は真っ白だ。

 

「はぁ……はぁ……お前なんかにな!」


 馬鹿な野郎だ……連発して息切れ起こしてやがる。


「夕陽さんを渡せるかぁ!」

「……そうかい!」


 とんでもない大きさの槍が、水蒸気を突き破って現れた。

 最後の力を振り絞ったのか、もうあいつのうるさい声は聞こえない。

 俺はその槍を片手で掴み、先端を砕いた。

 右手が少し熱い……最後に〈聖剣の鎧(ソードディフェンサ)〉を貫いたか。

 まあ……大したやつだったよ。

 

「さてと……」


 最後の槍が地に落ち、水が蒸発する音とともに水蒸気が上がる。

 その時、右側からヒュンと風を切る音が聞こえた。

 黒丸をその方向に置くと、キィン! という金属音が二回。

 音の軽さ的にナイフだろうか、おそらく美月の攻撃だ。

 ナイフが飛んできた方向から足音がする。

 同時に、反対方向の水蒸気の奥で何かが光った。

 位置から考えるに、光真と美月……それならさっきと同様に次郎がフィニッシャーか。

 光真が決めると見せかけて、予想外の次郎ってか……あいつの攻撃が効かねぇことは分かっていると思うんだが……。

 光と足音が間近まで迫ると、左右からナイフと()が――――――拳?


「くらえ!」


 ナイフと拳を受け止めて気づく。

 ナイフの持ち主は予想通り美月だった。

 しかし、光を放っていたのは光真の聖剣ではなく、次郎のただの光魔法。

 つまり正面から来るのは――――――


「これで――――――決まりだ!」


 俺を傷つけることの出来る男……光真。

 飛び出してきた聖剣の先が、俺のガラ空きの胴に吸い込まれる――――――

 ――――――訳もなく。


「……え?」


 俺はエクスカリバーの刃を掴んで止めていた。

 やつの剣先は俺に届いてすらいない。

 さらに、俺の左右には次郎と美月が倒れていた。

 

「お前らのそんな安い作戦で俺を倒せると思ったか……? バレバレだ馬鹿ども」


 やつらが光真で決めるのは分かりきっていることだ。

 なんたって次郎の攻撃は通じなかったわけだしな。 

 あと次郎が光魔法を使ったのはマヌケすぎる。

 魔力が使われさえすれば、いくら優秀でもない俺の魔力探知でも引っかかるしな。

 だからかわされる心配もなく、俺は美月と次郎の腹に拳を突き入れ、気絶させた。

 そして光真の刃を掴む――――――力の差を見せつけるために。


「この場で覚醒したような力で勝とうなんざ甘いんだよ。この世界はそこまで都合よくねぇぞ」


 力の差は力の差、どんなに急激に強くなろうが、埋まらないことはある。

 俺と光真の間には、力も、技も、経験も、大きな差ができているんだ。

 聖剣が土壇場で覚醒しようが、その差は埋まらない。


「……」

「どうした? 何も言えねぇか?」


 黙り込む光真に、俺は問いかける。

 驚いてると思ったが、どうやら違うようだ。

 光真は俺――――――正確にはその後ろを見て、薄く笑った。


「頼む――――――遠藤!」

「おう!」

「何!?」


 真後ろ――――――水蒸気を突き破り出てきたのは、さっき動かなくなったと思われていた遠藤だった。

 大方、気絶したフリして後ろに回り込んでいたのだろう。

 それにしても……どうして魔力を感じなかったんだ?


「くたばれ! 〈溶岩の槌(マグマハンマー)〉!」

「ちっ!」


 何かが砕ける音とともに、超至近距離で煮え滾った巨大なマグマの金槌が叩きつけられる。

 光真はすでに聖剣を異空間に収納し、美月と次郎を担いで離脱していた。

 俺は両手でマグマの塊を受け止める。

 とんでもない魔力の塊だ、ただでさえ〈聖剣の鎧(ソードディフェンサ)〉は魔法耐性が完全じゃない。

 手が少し熱くなってくる。


「俺たち全員の魔力がその遠藤の魔法に入ってる! 受けきれると思うな!」


 なるほど、俺が遠藤の接近に気付かなかったのは、こいつの魔力が枯渇していたからか。 

 さっきこの塊を放つ前に聞こえた何かを砕く音……おそらく魔石が砕けた音だろう。

 魔法を記録する魔石があると聞いたことがある。

 それなら全員の魔力を押し留めておけるし、遠藤は魔力ゼロの状態でも魔法が撃てる。

 いい作戦だ……なんて、言ってる場合じゃねぇかも……!


「行けェェェェ!」

「くっ……」

 

 駄目だこりゃ……潰され――――――




「はぁ……はぁ……ざまあみろってんだ」

「大丈夫か遠藤……」

「ああ、魔力が枯れただけだからな……すぐに立てるぜ」


 光真は崩れ落ちた遠藤に肩を貸し、水蒸気の中から逃れた。

 次郎と美月を休ませているところまで下がり、改めて外から()がいた場所を確認する。

 水蒸気でよく見えないが、確かに彼はあの中にいる。

 遠藤は確かな手応えを感じ、光真も彼が溶岩の塊に押しつぶされたところを確認した。


「死んだ……のか?」

「へっ……ざまあないぜ」


 仮にもクラスメイトだった男にその言い方はないだろうと思った光真だが、自分も殺意を持って戦っていたし、人のことを言えないことに気づく。

 夕陽を洗脳していた男なのだから、死んで当然――――――そう結論付けて、光真は自らの行いを正当化し、納得させた。


「それよりお前、夕陽さんのところへ行かなくていいのかよ。多分正気に戻ってるぜ」

「……お前はどうするんだ。遠藤だってユウのことが――――――」

「いいんだよ! ……俺はいいんだ。夕陽さんにはお前がお似合いだよ……だから俺はもういい。行ってこいよ、動けるようになったら俺も行くしよ」

「……分かった」


 まだ動ける光真は、勝利の余韻を払い、夕陽が行ってしまった方向へと歩き始める。

 その――――――瞬間であった。


「「っ!?」」


 二人は一瞬にして青ざめる。

 肩が重い。

 とんでもないプレッシャーに、光真は膝をつき、遠藤はピクリとも動けなくなった。


「あー……悪かった。ちょっと舐めてたよ、お前らのこと」


 おそらく、彼らにとって今世紀一番聞きたくない声だった。

 いまだ立ち込める水蒸気の中から、()が現れる――――――



セツくん悪役すぎ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ