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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第三章 戦争編
58/127

57 独占欲

遅れましたすみません!

「お前……あの人が誰だか知っててユウに相手させようとしてるのか……!?」

「あ?」


 光真が信じられないものを見る目で俺を見ていた。

 

「バカ野郎! ルーナさんは人間軍の幹部だぞ!? そんな人と戦って夕陽さんが勝てるわけないだろ!?」

「ふーん……」


 そうか、黒ローブどもは幹部を任されてんのか。

 そりゃそうだよな、いくら強くたって身元が分からなけりゃ信じてもらえねぇもんな。

 でもエルカたちが俺に何も伝えなかったってことは……国側が何かしたんだろう。


「そこをどけ須崎……! 今すぐユウを止めないと死んでしまう!」

「いや、大丈夫だろ。今のあいつならあの女にも勝てるさ」

「……何を言っている?」

「それより、少しは自分たちの心配をしろよな?」


 少しはマジになってもらわないと、瞬殺じゃ味気無さ過ぎる。

 まあ急いではいるんだが。

 それは光真たちだって同じはずだ。

 

「さっさと始めようぜ、急いでんだろ?」

「テメェ……ネクラユキのくせに生意気なんだよ! 〈溶岩玉(マグマボール)〉!」


 遠藤が青筋を立てながら飛び出し、大きな溶岩の塊を撃ちだしてきた。

 前に使われた魔法の完成形か、遠藤独自の魔力を使ったユニーク魔法に近い技だ。

 けど遅い。

 俺が余裕を持ってクラスメイトたちの後ろに回り込めるほどには。


「やったか!?」

「やってねぇよ!」


 地面に辺り爆音とともに水たまりが水蒸気になる。

 その水蒸気を見て馬鹿なことを言い出す遠藤に、俺は親切にも場所を教えてやった。


「ッ! 後ろ!?」

「何!?」


 美月が一番に気づき反応を見せるが、これまた遅い。

 相手が殺意を持ったやつだったら、この一瞬で半分は死んでいた。


「遠距離組は下がれ! 近距離組は前衛だ!」


 次郎の指示が飛ぶ。

 一体一で挑んでくるほど自惚れてはないようだ。

 

「来いよ」

「ウオォォォ!」


 特に名も覚えていない男子生徒が剣を持ち飛びかかってくる。

 それに続き左右に回り込んだ連中が、両サイドから攻撃をしかける。

 連携はいいが、一斉に飛びかかってきてどうする気だお前ら。


「ほらよ!」


 俺は黒丸をひと振り。

 軽く振られた黒丸は、飛びかかってきた連中をまとめてなぎ払う。

 

「まとめて行くな! 迷宮探索で身につけたことを思い出せ!」


 薙ぎ払われ地面で呻く連中を見て、光真が叫ぶ。

 それを聞いた前衛たちは一瞬動きを止め、それぞれ別々に動き始めた。

 いや、バラバラに見えてちゃんと統率が取れている。

 その証拠に、絶妙にタイミングをずらして攻撃を仕掛けてきた。


「オラァ!」

「よっと……」

「せいっ!」

「ほいほい」

「やぁ!」

「当ててみろ~」


 突き出される拳、振られる剣、投げられたナイフをいなし、反らし、弾く。

 十人ほどに囲まれてはいるものの、誰一人として俺に触れられない。

 こりゃ魔物の方がよっぽどましだ。


「何で当たらない!?」

「さぁ? お前らが遅いんじゃねぇの?」

「このぉ!」


 ムキになったところで当たらないものは当たらない。

 っと、離れたところで遠距離組が魔法の詠唱をしている。

 撃たれる前にこいつらには眠っててもらうか。


「ほれ、〈電撃床(サンダーフロア)〉」

「がっ」


 俺の足裏から放たれた電気が、クラスメイトたちを焼く。

 大雨のおかげで水たまりが出来てることが幸いだった。

 おかげで少量の魔力でも電気がよく流れる。

 

「魔法だ! 行け!」

「〈風の刃(ウィンドカッター)〉!」

「〈炎の槍(フレイムランス)〉!」

「〈水の大砲(ウォーターキャノン)〉!」

「〈岩の雨(ストーンレイン)〉!」

「〈雷の槍(サンダーランス)〉!」


 次郎の声とともに、一斉に魔法が放たれた。

 量が多いな、また回り込んで――――――


「ッ!」

「にが……すか……」


 電気で動けないはずの名も知らないクラスメイトが、俺の足を掴んでいた。

 何つー眼をしてやがる……執念に闘志……それと何だ? 得体の知れないものがこいつに宿っている。

 いや、こいつだけじゃない、全員だ。

 一体何をされたんだ……?


「って、そんな場合じゃねぇよな」


 足を掴んでいる手を無理やり振りほどき、寸前へと迫っていた魔法を黒丸でなぎ払う。

 避けるつもりが間に合わなかったな……。

 ――――――そう言えば。

 こいつらは何で夕陽のためにここまでする?

 夕陽が意識をはっきり持っていたことは誰の目からも明らかだった。

 それでもあいつが俺に操られているって前提で戦ってるんだろうが、一人も夕陽のことを疑わないってのはおかしくないか?

 それも遠藤のことを全員が信じすぎだ。

 

(いや……違う。全員が夕陽を信じすぎているんだ)


 確かにあいつは誰からも愛されていた。 

 転生してからずっと夕陽の近くにいたが、あいつのことを嫌っているやつを見たことがない。

 それこそ、全く会っていないやつからも好意を寄せられていると聞く。

 はっきり言って異常だ、見知らぬ人間からも愛されるなんて。

 

 あいつには――――――何かあるのか……?


「ま、いいや。後回し後回し」


 これは今考えても仕方ない話だ。

 行き着いちまったからには後で確認したいが、今は目の前のこいつらの相手をしよう。

 

「どけ! 俺がやる! 〈溶岩玉(マグマボール)〉!」

「芸がねぇな」


 再び放たれた遠藤のマグマボールを、俺は片手で打ち払う。

 空中で爆散し、地面に落ちて水蒸気をあげた自分の魔法を見て、遠藤は硬直する。


「嘘……だろ……?」

「……全員退避だ」

 

 それを見た光真が、前に出ながら指示を出す。

 他に勇ましく前に出たのは、次郎、美月の二人。

 ついでに、前に出たまま動けない遠藤。

 多分他の連中だと、さっきのマグマボール以上の攻撃ができないんだろう。

 なら、この戦いじゃ役に立たないと判断した光真は合っている。

 何か言いたげなクラスメイトたちは渋ったが、自分の実力は理解しているのか、後ろに下がった。

 

「あ、帰るんならこいつら持ってけよ」


 俺は後ろに倒れていた数人のクラスメイトたちを掴み、投げつける。

 驚く連中を尻目に、次郎が全てキャッチして勢いを殺し、地面に下ろしていった。

 全部片手か、中々やるな。


「おいおい、仮にもクラスメイトなんだからよ、もう少し丁寧に扱えねぇか?」

「なら全員で寄ってたかって虐めないでくれよ。こっちは一人だぜ?」

「わりぃな、ユウに手ぇ出したやつに情はねぇ」

「そうかよ、まあいらねぇけどな」


 そんなこと話してる間に、連中は俺とは反対方向へと逃げていく。

 警戒されているようだが、別に追いやしねぇよ。

 バイバイ名前も知らないみんな。


「それにしても光真、全員逃がしたのはいい判断だぜ。遠藤のマグマボールが通じねぇなら、俺たちじゃねぇと相手にならねぇだろうからな」

「みんなには申し訳ないことをしたかな」

「しょうがないって! この方が私たちも動きやすいんだからさ!」


 残ってんのはリア充四人組の内の三人と、間抜け一人か……妥当なんだろうな。


「役立たず宣言された連中可哀想だなー」

「死ぬよりはマシだと思うぜ」

「そりゃそうだけど」


 殺すことはないが……いや、万が一もあるな、あんだけいたら巻き込んで一人くらい事故死するかもしれない。

 人数も減ったし、こっちからしてもめんどくさくなくていいや。


「――――――行くぞ、須崎」

「おう」

 

 光真と美月の姿が消える。 

 速い……グレインの型が見えるな。

 俺は真横に現れた光真のエクスカリバーを黒丸で受け止め、反対から来た美月の短剣攻撃を、その腕を掴むことで止める。

 速いとは言ったが、それは常識の範囲内でという意味だ。

 俺からすればまだ遅い。

 驚いた様子の二人だが、どうやらこれが本命じゃないようだ。

 両手が塞がっているという絶好のチャンスで、次郎が俺の正面に現れた。

 

「くらえ! 〈鉄拳制裁〉!」


 魔力のこもった拳が腹を打つ。

 踏み込まれた足は地面を揺らし、小さなクレーターを作り上げた。

 いい連携からの、高火力の攻撃は中々よかった……が。


「もうちょっとグレインにちゃんと鍛えてもらうんだったな」

「なっ……マジかよ」


 俺はピクリともしない。

 さすがにノーダメージだとは思ってなかったようで、次郎は思わず拳を引っ込める。

 離脱される前に、まず掴んでいた美月を投げ飛ばし、空いた手で次郎を殴りつけた。

 投げられた美月は体を起こしながらこちらを睨みつけ、次郎は水たまりを転がり、うめき声を上げて止まる。


「じ、次郎! 須崎……!」

「どこでこんな力をってか?」

「!?」


 聞きたそうな顔してるからな。

 逆の立場なら俺だって気になる。


「まぁ、教えてやんねぇけど!」

「くそっ!」


 光真を黒丸で押し返す。

 本来、黒丸じゃ聖剣を押さえるどころか、一瞬で切り裂かれてしまうレベルだが、光真の聖剣はまだほとんど覚醒していない。

 ただ力を垂れ流している棒だ。

 光を放ち続けるエクスカリバーが、光をその身に凝縮させることで、初めて鋭さを得る。

 そして勇者(俺たち)は高みへと行き着くんだ。

 何が言いたいかと言うと――――――光真が未熟すぎて話にならないということだ。


「――――――なんでお前は魔族軍に味方するんだ」

「あ?」


 光真は距離を取って構えながら、俺に聞く。


「俺たちは人間に助けを求められて、剣を手に取ったはずだ……なのに、どうしてお前はそっちにいる? どうしてユウを連れて行こうとするんだ」

「……そうだなぁ」


 俺と言う人間が、あいつらと仲良くなったのが理由だが……それだけでもないような気がする。

 単純に、冬真に好き勝手やられるのもムカつくし、もう一度やつを殺さないといけない。

 何より人間国が嫌いってのもある。

 あと一つ、この場に限って一つだけ付け足すとすれば――――――


「大きな理由は、魔族にも獣人にも俺の大切なやつらがいるからだ。人間がそいつらに害をなそうとするなら、そいつらに味方するのは当然だろ?」

「……」

「あと、個人的にお前が夕陽をデートに誘ったってのが気に食わない」

「……まさか……連れて行きたがってるのはそれが理由か?」

「ああ」


 夕陽に手を出すようなやつがいる所に、一人で置いとけるかってんだ。

 まあ……夕陽が下心ある男からの誘いを断ることは分かっている。

 あいつが見た目ほど弱くないってことも。

 だからあいつが誘われたからって、俺以外の男と二人で出かけたことがないのも知っている。

 それでも……こいつは誘うことをやめないだろう、夕陽のことが好きだから。

 俺だってな、独占欲はそれなりにあるんだよ。


「俺は花柱夕陽が好きだ。大大大好きだ。お前には渡さない、ここで倒す。以上」

「……一番分かりやすい理由をありがとう。なら俺も負けられない」


 和解はない。

 ならば戦うのみ。

 俺は黒丸を構え、光真はまだ未完成のエクスカリバーを構える。

 合図はない。

 それでも俺たちは同時に地を蹴った。

 剣が合わさり、火花が散る――――――




セツくんもはっきり言う時は言います。

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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