56 俺と遊べよ
「そんで夕陽、状況説明しろ」
そろそろ本題に入るべく、夕陽に命令を出す。
何だかんだ命令を出すのが楽しくなってきた俺がいる。
「はい! えっとね――――――」
ふむふむ、要するに、夕陽が俺と敵対しないために魔族側につこうとしたら、こいつらクラスメイトたちが追ってきたと。
「あ! そういえばエルカさんたちも来てるよ」
「ああ、やっぱり来てくれてたか」
さすがあの三人だ、俺の望んでいることをしてくれる。
「今はあっちで戦ってるみたい。でもさっき変な魔力を持った敵が先生たちの所へ――――――」
「あいつらなら大丈夫だ。絶対に負けねぇよ」
魔王デザストルとも獣王レグルスとも対等に戦える三人組だ、どんなやつが相手でも負けやしない。
何より、俺とずっと一緒に戦ってたんだ、勝つに決まってる。
「――――――そっか……うん、ユキくんが信じてるなら、私も信じる」
「そんで俺は――――――あいつらをぶっ飛ばせばいいんだな?」
「……おいおいネクラユキよぉ」
いまだ放心状態の光真や次郎、ついでに美月を押しのけ、青筋を浮かべて出てきたのは遠藤だった。
相変わらず俺のことが気に食わないらしい。
「久々だな、遠藤。元気そうで何よりだ」
「うるせぇネクラ野郎……! テメェ夕陽さんから離れやがれ!」
「別に……俺からくっつきに行ってるわけでもねぇけど……」
夕陽が俺の腕にしがみついてんだろ、どう見ても。
って匂い嗅ぐのやめろ。
「……っ! うるせぇ! テメェが夕陽さんを操ってんだろ!? あんだけ優しかった夕陽さんが俺たちを裏切るわけがねぇ! そうだ光真! あいつが全部わりぃんだよ! そうに決まってる!」
「……須崎が?」
光真が遠藤の言葉に耳を傾ける。
俺からすれば見当違いもいいとこだが、こいつらからすれば、城を追い出されてこうして戻ってきたと思えば、突然敵対状態で登場した俺が怪しく見えるのも当然か。
遠藤の意見は完全に私情が挟まってるが。
「でもお前、俺が夕陽にデートに誘われてるところ見てるじゃん」
「え? ……嘘……」
「あ、あれだってなぁ! テメェが彼女を操ってそうさせたんだろ! 俺が見てることをいいことによ! そうに違いねぇ!」
聞く耳持たず……まあ分かってたが。
まあ聞いてもらったところでどうしようもない、最初から分かってたことだ。
それと夕陽、顔を赤くしてる場合じゃねぇぞ。
「確かに……日本にいた時……ユウは須崎くんと仲良くしてたし、おかしいと思ってた」
「須崎みたいな不気味なやつと一緒にいたのは、さすがの俺でもどうかと思ったぜ」
「……俺の誘いは断って須崎とは出かけたのも、操られてたからか……」
と、美月、次郎、光真の発言。
てか日本にいた時の話まで持ち出されるか、すごい言われようだな俺。
否定ができないのもどうかと思うが。
「だろ!? 全部あいつが操ってたんだよ! そうとしか思えねぇ!」
遠藤が喚くと、他のクラスメイトが徐々に、俺に警戒心を見せ始める。
とんでもない嫌われようだ、悪いことは何一つしてねぇってのに……もう少しファッションに気を使うべきだっただろうか?
それならネクラとは言われなかっただろう。
後の祭りとはこのことだな。
「ネクラユキ! さっさと夕陽さんを開放しやがれ!」
「……だ、そうだが?」
「――――――みんな」
夕陽が俺を庇うように前に出る。
うっへぇ……怒ってるよ。
「ちょっと黙ってよ」
『っ!?』
突如、夕陽の体から再びオレンジ色の炎が吹き出す。
瞬く間に大きく膨れ上がった炎は、まるで津波のように光真たちに襲いかかった。
炎の厚さは大したことないが、その範囲、即効性から、やつらは不意を突かれている。
このままでは確実に全員くらうが、そこは腐っても聖剣持ち、光真が前に飛び出し、指示を出す。
「全員俺の後ろで一箇所に固まれ!」
その指示に反応できた連中が、反応できなかった連中を担ぎ、すばやく光真の後ろに固まる。
中々統率も取れてるし、思ったより成長してんな。
「斬り開け――――――〈聖なる剣〉!」
光真が聖剣を振るうと、光の粒子を振りまきながら斬撃が飛び出し、炎の波を切り裂いた。
そうすることで、やつらは真っ二つになった炎の間に入り込み、回避に成功する。
あの一撃、エフェクトは派手だが、要は一種の〈飛剣〉だ。
まだ未熟で鋭さがなく、叩き切るような一撃……これじゃグレインの見惚れるような一閃の足元にも及ばない。
「ユウ! 何するんだ!」
「それ以上、ユキくんを悪く言わないで――――――次は本気で殺す」
「うっ……」
光真が息を詰まらせる。
夕陽の放つ殺気がそうさせた。
おどろいた、俺が出発する前は俺の殺気にビビっていたこいつが、今は自分で殺気を放っている。
とんでもない迫力、とんでもない成長だ。
やっぱり後でエルカを褒めてやろう、めちゃくちゃ優しくしてやるお仕置きは控えて、思いっきり尻を叩いてやることにする。
だがその前に。
「夕陽、ちょっと交代」
「え!?」
俺は夕陽を退かす。
こいつらへ俺が思うことはあんまりない。
何をされたところで痛くも痒くもないからだ。
でも、今は少しだけイラついている。
初めてだ、こいつらに怒りを覚えるなんて。
こいつらは夕陽のことを見ちゃいない。
本当に夕陽の友達なら、こいつが操られていないことくらい分かっていいはずだ。
夕陽と友達であることを、仲間であることを、一種のステータスとしか見ていない。
どうしようもなくイライラする。
何より――――――光真が夕陽をデートに誘ったというのが気に食わない。
「お前ら、ちょっと俺と遊んでけ」
一発は殴る。
ついでに遠藤たちに、今までやられてきた分を返してやるよ。
「てめぇ……! そんなでけぇ剣があるからって俺たちに勝てるってか?」
「お前ら相手じゃ負ける方が難しいな」
「なっ!? ……何調子乗ってやがんだ! あぁ!?」
安い挑発に乗る遠藤。
相変わらずこいつは小者だが、対して光真は冷静だ、面白くない。
「……須崎、今ユウを開放して謝れば許してやれる」
「ほざけ、エセ勇者が。ごめんってあやまんのはテメェのほうだ」
「命知らずの狂人になったか……っ!」
各々がついに武器を手にとった。
30人の敵意が俺にぶつかる。
納得してないのは夕陽だけ。
「な、何で私にやらせてくれないの!?」
「俺がやりてぇからだよ」
「でもブラッドは私に任せたって!」
「あいつのお願いなんて無しだ。俺の命令には逆らわねぇんだろ?」
「うっ……」
痛いところを突かれ、夕陽は黙る。
だが俺は見逃さない。
その表情に、少しだけ安堵が混じっていたことを。
「……お前はあいつらと戦わなくていいんだよ」
「で、でも」
「でもじゃねぇ。俺は……お前のその情を忘れて欲しくないんだ」
「え……?」
キョトンとする夕陽の頭を撫でる。
少しでも、俺の言葉が伝わりやすいように。
「情け容赦なく戦う夕陽なんて、俺は見たかねぇよ。お前はいつも近くで元気に笑ってくれてりゃ、それでいい。辛いことは全部俺に押し付けちまえ。俺ならどんなことでも大丈夫だ」
「あ……」
頭から手を離し、光真たちに黒丸を突きつける、
一緒に笑いあった仲間を攻撃することが、辛くないわけがない。
毎日のように遊んでいた仲間を、ましてや殺すなんて、まともな心で出来るはずがない。
それが出来るのは、修羅となった者だけ。
人の死に何も感じなくなった者だけだ。
夕陽をそんなやつにしたくはない。
ならば俺が戦おう。
どんなやつが相手でも、殺さずに戦えるこの俺が――――――
命を奪わないことに全力を注げる、この俺が――――――
「そ、それでも――――――」
「それでも納得出来ねぇってなら……」
まだ何か言いたげの夕陽に、新しい選択肢を提示してやる。
今してやれることはこれくらいだ。
「アレとちょっと遊んでてくれ」
「アレ……?」
俺たちのちょうど後方に、黒ローブを着た人影がひとつ。
ただならぬ魔力を滲ませており、夕陽もすぐに敵だと気づいた。
「あなたがセツね、ようやく見つけたわ」
近づいてきた黒ローブがフードを脱ぐと、下から整った女の顔が現れた。
人間の女だ、身長は高めで、長い紫色の髪を腰近くまで垂らしている。
「あんたみてぇな美人さんが何の用だ? 遊びの誘いか?」
「もちろん、冬真様に仇なすあなたを殺すためよ」
「そうかい……」
皮肉を真面目に返されてしまった……もっと大げさの方がよかっただろうか。
「私の名前はルーナ。別に覚える必要はないわ、どうせここで死ぬのだから」
ルーナとやらが手を掲げる。
おかしな魔力の流れだ、これは予想もしなかったものが来る――――――
――――――と、身構える前に。
「ちょっと場所変えよう」
「っ!?」
夕陽がルーナの眼前へと迫っていた。
次の瞬間、彼女の炎が爆ぜる。
風魔法での高速移動からの、風と炎を混ぜた爆発攻撃か、あいつもほんとに強くなったな。
それにしても、えらく素直に従ったな……もう少しゴネるかと思ったが。
「何よあんた……!」
「ユキくんの恋び――――――お、幼馴染だよ!」
「はぁ!?」
ルーナが夕陽の爆発に押され、この場から離れていく。
こんだけ爆発を起こす夕陽もすごいが、ギリギリでかわすルーナもいい身のこなしだ。
さすがは黒ローブ、一筋縄ではいかないだろう。
……あえて夕陽の発言には触れない。
「さて……俺たちも始めるとするか」




