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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第三章 戦争編
56/127

55 夕陽犬

ドМにはなってなかった。


 エルカたちの交戦が始まった頃、別の場所では――――――


「――――――ユウ」

「やっと来たね、みんな」


 夕陽のいる少し開けた広場のような場所、そこについに光真たちクラスメイトが到着した。

 雨で視界が悪いが、お互いに雨合羽のフードを取って顔を確認する。


「どうして……そっち側(・・・・)にいるんだ?」

「簡単なことだよ、光真くん。私は魔族側につく」

「何でだ……? 何でだよ! ユウ!」


 次郎が耐え切れず叫ぶ。

 嘘であって欲しかった、洗脳されていて欲しかった。

 しかし彼女の視線は真っ直ぐだ。

 確かな信念のこもった強い目は、彼女が正気であることを否が応でも分からせる。

 それがどうしようもなく――――――悲しい。


「ユウ……理由があるんでしょ? 話してよ……私たちずっと……この四人でもクラスでも仲良くやってきたじゃん……」

「理由? そうだなぁ……」


 夕陽は、自分が彼らと敵対している理由を改めて考える。

 しかし考えても考えても、出てくるのはセツの顔ばかり。

 彼が魔族につくというなら、彼女も同じ所へ行くだろう。

 彼が人間につくというなら、彼女も目の前の彼らとともに戦っていただろう。

 彼が獣人につくというなら、彼女もこの場にはおらず、獣人大陸にいただろう。

 彼が何にもつかないというなら、彼女も自由に歩く彼の隣にいただろう。

 つまりは、何もかも全てセツのそばにいたいからという理由である。

 ただ、それをこれほどの人数の前で言うのは、さすがに抵抗があった。


「……ま、私に勝てたら教えてあげる」


 夕陽はそれ以上語るのを止め、全身からオレンジ色の炎を噴き出させる。

 それは皆が知らない花柱夕陽の戦闘態勢。

 着ていた雨合羽はすぐに乾ききって燃え尽き、その下に対夕陽用として作られた特製の戦闘服が姿を現す。

 白を基調としたショートパンツに、胸当てのついた服、クラスメイトの彼らは一度もその姿を見たことがなかった。

 彼女の強力な炎にも耐えられるほどの熱耐性、それでいて機動性と簡単に攻撃を通さないその服は、夕陽が倒すべき敵を定めた時に姿を見せる。


「本当に……戦わないといけないのか?」

「戦わなければ――――――死ぬだけだよ」


 夕陽の頭上に火の玉が現れる。

 オレンジ色に輝くそれは次第に巨大化し、やがて太陽のような存在感を放ち始めた。

 光真たちは一瞬にして言葉を奪われる。


「ユウ……」

「っ! 光真! やるぞ!」

「あ、ああ……分かった」

 

 夕陽の明確な殺意を当てられ、光真たちは渋々といった様子で各々の武器を手に取る。

 光真は最後まで迷いつつも、最後は決意を固めたのか真っ直ぐ夕陽を見た。


「来い――――――〈聖なる剣(エクスカリバー)〉」


 何もない虚空から、金色に輝く剣を抜く。

 それは「これが聖剣だ」と言いたげに、聖なる光を放っている。

 夕陽は全員が身構えたのを見て、ニヤリと笑う。


「それでいいよ――――――」


 ――――――私も全力が出せる。

 

 と言う最後の声は、謎の声にてかき消された。

 

「あぁぁぁぁ! 間に合わねぇぇぇ!」


 上空から大声で叫びながら何者かが降ってくる。

 それは夕陽と光真のちょうど中心に着地した。


「いてて……さすがにあの高さは痺れるわ」

「……お、お前は……」


 この場にいた者が全員彼のことを知っていた。

 髪が切られ、日本にいた時の表情とはまるっきり変わっていたため一瞬気付かなかったが、確かに彼らも知っているあの男である。

 召喚され、才能がなく数日で追い出されて野垂れ死んだなどと噂されていた、クラスメイトの一人――――――


「――――――ユキくん!」

「おー、夕陽か。久しぶりだな」

 

 須崎雪が、この大陸に降り立った。




「これはやばい」

 

 俺は現在、雲の上にいる。

 獣人大陸から転移してきたはずなのに、なぜこんなところにいるのか。

 そして後のシロネコ、ミネコ、ロアはどうしたのか。

 絶賛落下中の俺は、そんなことばかりを考えていた。

 どうやら、転移魔法陣を発動させたやつが転移座標を間違えたのが原因っぽい。

 急がしちまったからな、ある程度は仕方ない。

 だが雲より上に転移させるのはいかがなものか。

 このまま落ちれば真下の大陸に足をつけられそうだが……果たしてこれは魔族大陸なのか?

 うーむ……雨でよく見えねぇし……


「って――――――」


 そうしている内に、すでに地面は近くなっていた。

 これほど近いと、浮く魔法を使っても間に合わないし、間に合っても速度が落としきれず地面に激突コースだ。

 

「あぁぁぁぁ! 間に合わねぇぇぇ!」


 俺はやむなく身をひねり、無理やり両足で着地する。

 ビーンと膝が痺れたが、他は何もない。

 でもこれ俺じゃなけりゃ死んでたかもしれねぇぞ……。


「いてて……さすがにあの高さは痺れるわ」


 我ながら、あの高さから落ちて痺れるだけってのもおかし気がするな。


「お、お前は……」


 っと、囲まれてるな。

 てかよく見ると全員クラスメイトだったやつらだ。

 こいつらがいるってことは、ここは絶賛戦争中の魔族大陸で合っているな。


「――――――ユキくん!」

 

 と言うことは、当然こいつもいるよな。


「おー、夕陽か。久しぶりだな」


 振り返った先には、毎度おなじみ、俺の幼馴染である花柱夕陽がいた。

 魔力の質が桁違いによくなっているせいで、すぐには気付けなかったんだな。

 ずいぶんと大変な修行を――――――


「ユキくーーーーん!」

「ぶふぉ!?」


 間抜けな声を出して、俺は祟ら踏む。

 急に夕陽が飛んでくるもんで、避けようがなかった。


「お、おう……どうした?」

「ユキくん!」

「おう」

「ユキくん!」

「お、おう!」

「ユキくんユキくんユキくんユキくんユキくんユキくんユキくんユキくんユキくん!」

「うお!?」

 

 夕陽が俺の胸に顔をこすりつけ、匂いを嗅ぎ、俺の体を撫で回してくる。

 むず痒いのと、頭がゴリゴリしてちょっと不快だ。


「夕陽、ちょっと離れて――――――」

「やだ!」

「速ぇよ!?」


 夕陽のじゃれ付きは止まらない。

 ついでに顔まで頬ずりされ、そろそろ周りに見せられない状況になってきた。

 うぉ……髪の毛さらさら……あと胸押し付けんな、さすがに勘弁してくれ。


「くっ……夕陽! 止まれ(・・・)!」

「はい!」

「――――――え?」


 夕陽の動きがぴたりと止まる。

 あれほどやめてくれなかった夕陽が、今度は恐ろしい程に何もしてこないでジッとし始めた。

 ……。


「……座れ」

「はい!」


「おっと、これじゃ汚れるな……立て」

「はい!」


「……一回転」

「はい!」


「気を付け」

「はい!」


「回れ右」

「はい!」


「もう一回」

「はい!」


「宙返り」

「はい!」


「ばーん」

「うっ……なんじゃこりゃぁぁ!?」


「ザオリク」

「元気になったよ!」


「お手」

「はい!」


「おかわり」

「はい!」


「ワンって言え」

「ワン!」


「ちんちん」

「そんな……ユキくんみんなの前で何させる気……? でも命令なら――――――」

「何だ!? 何の話だ!?」

 

 変なところに反応しないで欲しい、これは立派な芸だ。

 てか何で撃たれたところだけ本格的なんだよ……お前何歳だよ……。

 

 それにしても……これはあれだな、犬だ。

 

 花柱夕陽が、犬になっている。


「……エルカァ……!」


 『忠実な犬として教育しました。どうぞお好きなようにお使いください』と、ドヤ顔で言うあいつの顔が見えてくる。

 エルカは俺以外に対してはМじゃねぇからな……ずいぶんと好き勝手やってくれたようだ。


「夕陽、お前エルカにどんな教育された?」

「ユキくんに命令されたら絶対服じゅ――――――」

「もういい、分かった」


 エルカ、夕陽をお前のように変態さんに仕上げなかったことは褒めてやる。

 でも夕陽はこんな子じゃなかった。

 夕陽はノーと言える日本人だったんだよ。

 それを別のものに調教してどうすんだ……。


「? どうしたの?」


 ああ……夕陽の頭に犬耳が生えてる……尻尾が見えるぞ……。

 


 あいつには後でお仕置きだな、キツイやつ。

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この度新作を投稿させていただいたので、告知させていただきます。 よろしければ、ぜひブックマークや評価をいただけると嬉しいです! 世界を救った〝最強の勇者〟――――を育てたおっさん、かつての教え子に連れられ冒険者学園の教師になる ~すべてを奪われたアラフォーの教師無双~
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