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異世界召喚は二度目です   作者: 岸本 和葉
第二章 獣人大陸にて
50/127

49 不穏な動き

更新を再開します。

二章は終わりと言いましたが、切りが少々悪かったのでもう少し続きます。

「……」

「どうしたの?」

「ロア……」

 世界樹の城の一室、魔族大陸へと行く予定の俺たちは、そこで転移魔法陣の準備が整うまでの間、一時的な休息を取っていた。

 転移魔法陣には大量の魔力が必要というのは、前にも言ったと思う。

 そのため、いざとなった時に使えないというデメリットが存在する。

 デメリットを消すためと言って、常にフルチャージで置いておいても、それはそれで事故やら悪用されたりしたらたまったものではない。

 そこで取られた対策は、あらかじめある程度の魔力を補充しておき、使う際に短時間のチャージで済ますという方法だ。

 種族的に魔力量が多くない獣人でも、ルーガとの戦いから数時間はたったため、そろそろチャージが完了するはず……。

「あたしもデザスが心配だなぁ……なんたって魔王だからさ、一番優先的に狙われるじゃん?」

「確かにな……」

 あいつならそう簡単には討たれないと思うが、黒ローブどもの動き次第では、一気に危険になる可能性もある。

 まだ動き出してなきゃ対処できんだけどな。

「まあ……五代魔将もいるし、あいつ自身相当強い。当分は大丈夫だろ」

「そうだと思うけどさ……」

「それに、命の危機が迫れば俺が気づく」

「ああ、デザスにもこういうの渡してあるからか」

 そう言って、ロアが首につけた黒いチョーカーを撫でる。

 俺が与えたロアのチョーカーやデザスのブローチには、一から作り上げた俺のオリジナル魔法が組み込まれており、持ち主の危機に反応して知らせてくれるようになっている。

 基本的に俺が渡すアクセサリー類にはこれが組み込まれており、今のところ何も反応がないということは、みんな無事と言っていいのだろう。

 ちなみに渡してある人物は、夕陽、お供の三人、デザストル、ルリ、リヴァイア、レグルス、ロア……他にもいることにはいるが、あいつらが戦場なんかに行くわけないし、今心配すべきは名前を上げた連中だ。

 ルリは商人だから戦いはしないだろうが、イビルバロウに住んでいる以上、敵はそこを目指して進軍してくるのだから、危険がないわけではない。

 他のやつも心配だが、一番は夕陽だ。

 心の優しいあいつのことだから、戦場でも敵に情けをかけて痛い目をみているかもしれない。

 エルカたちが俺の予想通りに魔族大陸へと行って、保護してくれたらかなり安心できるんだが――――――


「商人! 水をくれ!」

「は、はい!」

 幼き商人であるルリは、雨に濡れ服に泥をつけながらも、必死に頼まれた荷物を運んでいた。

 セツの予想通り、彼女は戦いはしなかったが、こうして物資補給班として魔族軍に貢献している。

 魔王デザストルと顔見知りであるルリは、人間ながら魔王直々に補給係を頼まれ、こうして戦場を駆け回っていた。

 彼女はセツ直伝の揚げ物屋台を順調に経営しており、「セツの料理が食べられる」ということで、魔族の兵士たちも行きつけの店とし、ルリと仲良くなっている。

 商人としての技術もそこそこあり、兵士の信用、行動力、手際において、ルリが補給班の班長に選ばれるのは、ある意味必然であった。

 初めは、自分より幼い人間に指示されるのに不満があった他の補給班のメンバーであったが、彼女の手際の良さと的確な指示、そして戦場の忙しさによって、すでに不満など感じていない――――――と言うより、感じる暇すらない。

「班長! 医療班から清潔な布と消毒がほしいと、 負傷者が多すぎて応急処置用具を要求しています」

「回復魔法が間に合っていないってことですか……なら奥の馬車の荷台にそれらが入っています。清潔な布ということで、布は袋に入れて雨に濡れないように。あと他の人の手も借りていいので、魔力回復ポーションをいくつか医療班にお願いします。念のためですがないよりはいいと思いますので」

「分かりました!」

 指示を受けた身軽な格好をした若い班員は、補給地を駆けていく。

 ルリも持っていた水の樽を、要求してきた兵士に渡す。

「ありがてぇ! って重!? 嬢ちゃんこんなの持ってたのかよ!?」

「持ち方にコツがあるんですよ! 個人で商売をしていると嫌でも身に付きます」

「へぇ……すげぇな。っと、ありがとよ!」

「はい!」

 彼女は再び走る。

 戦場の裏で、一人の商人が戦う兵士たちを支えていた。


「う……おぇ」

「大丈夫か、美月」

 魔族大陸に築かれた、人間側の砦。

 そこは負傷した兵士の治療や、一時撤退を余儀なくされたものたちの休憩所となっている。

 中には勇者たちの姿もあり、揃いも揃って顔色が悪い。

 つい数週間前までただの高校生だった彼らにとって、人の死が蔓延する戦場というのは、そこにいるだけで拷問に等しいほど精神を弱らせるのだろう。

「ご、ごめっ……私……人が目の前で……うっ」

「無理ねぇって……今は全部吐いちまえ」

 いくつもの死を目の前で見てしまった美月は、先程から様々な感情が入り混じり、吐き気が止まらず汚物が入ったバケツの前から離れられないでいた。

 ひたすら吐き続ける彼女に寄り添うのは、同じく勇者として召喚された次郎だ。

 彼も戦場で様々なものを見て参ってはいるが、比較的にましな精神状態である。

 柔道やボクシングなどの格闘技に手を出していた彼の精神は、同年代においてそれなりに強靭だった。

「おい! てめぇらしっかりしろ!」

「すまねぇ遠藤……」

「き、気持ちわりぃ……」

 遠藤と、その取り巻きたちも相当に参っていた。

 取り巻きを叱咤する遠藤であったが、彼自身の顔色も悪い。

「はぁ……ちくしょう……なんで俺たちがこんな目に……」

「遠藤くんたち大丈夫? 水を持ってきたよ」

「花柱さん!」

 水を差し出してきた人物が夕陽だと気づくと、遠藤の姿勢がピンと伸びた。

「いる?」

「は、はい!」

 遠藤はがっつくように、夕陽の持ってきたコップを手に取り、飲み干す。

 憧れの異性から水をもらい、優しくされるだけで、彼の表情は明るさを取り戻していた。

 遠藤の元気の源になったとは気づいていない夕陽は、少なくとも彼の顔色がよくなったことに安心する。

「何かあったらまた言ってね」

 光真のせいで戦わせてもらえない夕陽は、砦では雑用係として働いていた。

 遠藤は名残惜しそうだったが、彼女にはまだやることがあるため、早々に他の水を持ってその場を去る。

「ユウ……休まないのか?」

「光真くん……」

 他にも水を持っていこうとしたところ、光真に阻まれた。

 彼は少し怒ったように夕陽を見ていたが、その顔には疲労の色が浮かんでいる。

 光真自身、相当な人数を討ち取ったことで、少々心が堪えていた。

「だって私ほとんど戦ってないよ? だからこれくらいしないと――――――」

「それでも休め! そんな雑用を夕陽がすることない!」

 思わず大声を出した光真のせいで、その場の全員が彼らの方を見る。

 夕陽は慌てたが、光真は気にしていない様子で、彼女の肩を掴んだ。

「君は俺が守る。だから戦場では俺の後ろに隠れていればいいし、こんなことを君がやらなくてもいいんだ」

「……」

 まるでゲームのキャラのようなことを言う光真に、女子は照れ、男子は憧れる。

 夕陽は何も言えなくなった。

 それは感動――――――ではなく。

 歓喜――――――でもなく。

 どうしようもなく、彼に「呆れ」てしまったからだ。

(こういう時……ユキくんなら褒めてくれるのに)

 夕陽は昔から友達が多く、そのためいろんな人と関わってきた。

 その過程で、彼女はよく人を助け、さらに多くに人に慕われることになる。

 セツは、夕陽が誰かを手伝ったり、助けたりする度に彼女を褒めた。

 そこにあったのは素直な関心。

 当然周りも彼女を褒めることがあった。

 花柱 夕陽という少女は、心優しい少女だと……。

 しかし、実際のところ、彼女の心は特に優しいわけではない。 

 あくまで常識の範囲内で優しいだけだ。

 優しいから人助けをする――――――ではない。

 人助けをすると、セツが褒めた……とどのつまり、花柱 夕陽という少女は、セツという男に褒めてもらうために、人を助け、人のためになることをするのだ。

 褒めるというのは、すなわち認めるということ。

 夕陽のことが好きだからこそ、彼女の行動を認め、支えるセツ。

 夕陽のことが好きだからこそ、その行動を認めず、守ろうとする光真。

 そこには到底詰めることのできない差がある。

 夕陽は決して弱い女ではない。

 守られるよりも守りたいと思えるくらいの強さを、彼女は持っている。

 どうしようもないくらいに過保護になってしまった光真は、夕陽にとって邪魔でしかないのだ。

「……」

「どこへ行くんだ!」

「ちょっと外の空気を吸ってくる……一人になりたい」

「あ、ああ……」

 思わぬ形で目立つ羽目になり、雑用をこなす気分でもなくなった夕陽は、光真の横を素通りして、外へ向かう。

 呆けた顔をしている彼に、一部始終を見ていた次郎が声をかけた。

「……ちょっと過保護なんじゃねぇか? 光真」

「俺は……ユウを危険な目に遭わせたくないんだ」

「その気持ちは分かるけどよ……あいつだって強いんだぜ? そう簡単にはやられねぇって」

「そんなの分からないじゃないか!」

 怒鳴り声が再び砦に響く。

 あまりに周りのことを考えない光真に、ついに次郎が立ち上がり、その拳で彼の顔を殴りつけた。

「がっ……」

「目ぇ覚ませよ……おい」

 周りから小さく悲鳴が上がる。

 光真はなぜ殴られたか分からないと言いたげな様子で床を転がり、唖然としてしまって動けない。

 次郎はその胸ぐらを掴み、目線を合わさせるために持ち上げる。

「好きな女を心配して危険に晒したくねぇって気持ちは分かる! でもなぁ、お前はユウは無事ならそれでいいのかよ! 他のやつらは!? すでに怪我したやつだっていんだぞ! 悔しいが、この中で一番強いのはお前だ! みんなお前を頼る! ユウばっか気にして他のやつを蔑ろにする気か! 許さねぇぞ俺は!」

「っ……」

「ユウだって戦えるじゃねぇか……俺たちはあいつも含めて、他の戦いが苦手なやつらを守るべきだろ……」

「……」

 光真は気まずくなり、次郎から顔を逸らす。

 他のクラスメイトのことを考えていなかったのは事実であり、彼は自分が冷静になっていくのを感じた。

「……ごめん、次郎。俺ちょっと冷静じゃなかったかもしれない」

「……おう。殴って悪かったな」

 次郎が光真の上から退き、手を差し出す。

 その手を取り立ち上がった光真は、周りで心配そうに見ていたクラスメイトたちに頭を下げた。

「ごめん、騒がせた」

「すまなかった」

 続けて次郎も謝ると、クラスメイトたちはホッとした様子で各々の休憩に戻る。

 二人と特に仲のいい美月も、その間にギスギスしたものがなくなっていることに気づき、ホッと胸をなでおろす。

「俺、ユウを迎えに行く」

「おいおい待てよ、今行っても気まずいだろ?」

「うっ……」

「俺が行ってくる。そしたらあいつに謝れよ」

「分かった……頼む」

「おう」

 気まずいところに心当たりがあったのか、光真は素直に次郎に任せることにした。

 椅子に座り、二人の帰りを待つ。

 しかし――――――いくら待っても、二人が戻ってくることはなかった。


「はぁ……」

 時は少し戻る。

 砦を抜け出した夕陽は、雨の濡れないよう雨合羽を被り、外を歩く。

 雨と火薬の臭いがする空気は少々きついが、砦の中の沈んだ空気よりもよっぽどマシだと思えた。

(光真くん……ちょっと邪魔だなぁ)

 自分を心配してくれる彼の気持ちは彼女も理解しているのだが、どうにもそれが行き過ぎている。

 早いところセツを知っている魔族に会って、あちら側に転がり込みたい夕陽は、光真の存在が邪魔で仕方が無かった。

「もうこのまま出てっちゃおうかな……」

 足元の小石を蹴り飛ばし、そう呟いてみるが、すぐにその考えを取り下げる。

 砦の周りには人が多すぎるのだ。 

 これでは自分が出ていく姿を絶対に見られてしまう。

 夕陽たちは単独行動を禁止されており、一人で出ていく姿を見られてしまえば、連れ戻されてしまうかもしれない。

「はぁ……今は戻ろうかな――――――」

「ゆ、勇者どの!」 

 気分も落ち着き、砦の中に戻ろうとしたところで、向こうから駆けてきた兵士の声で立ち止まる。

 あまりに焦っているようで、ただ事ではないことを感じさせた。

「どうしたんですか?」

「そ、それが……五代魔将が現れまして……今勇者様方に応援を頼もうと」

「!」

 五代魔将、その名前は夕陽も聞かされている。

 最低でもSS級以上の実力者で、魔王直属の五人の部下。

 一般兵で作られた部隊ならば、いくつあっても足りないような強者が、ついに戦場に姿を現した。

「確認できたのは一人なのですが……すでに我々の部隊は壊滅状態でして……」

「それはどこに?」

「あっちで――――――ぴゃっ!」

 突然、夕陽が兵士の首を掴むと、兵士の意識が飛ぶ。

「ありがとうございます」

 崩れ落ちる兵士を支えて地面に転がすと、彼女はバチバチと電気を纏った腕を振るって電気を消す。

 様々な属性の魔法が使える夕陽にとって、この程度は朝飯前だ。

 突然兵士が崩れ落ちたように見えたようで、周りの見張りの兵士たちが駆け寄ってくる。

「どうしました!?」

「どうやら疲労が溜まってるみたいです、運んであげてください」

「は、はい!」

 二名ほどで兵士を運んでいくのを見送ると、夕陽は五代魔将が現れたという方向に駆けだす。

(五代魔将……確かその人たちは――――――)

 見張りが薄くなっていたため、誰かに呼び止められることはなく、夕陽は森の中に消えていった。


「――――――あいつ……どこへ行く気だ?」

 ただ一人、彼女を追って外に出てきた次郎は、その後ろ姿を見つけ、同じく森の中へと入っていった。



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