48 戦地の脅威
グレインの口調を変更しました
獣人大陸にて、セツと狼刃ルーガの戦いが始まる、数刻前のこと。
人間大陸のディスティニア王国、その城の中にある、魔導博士ことティア・アムレートの研究所。
そこには三人の人影があった。
一つはこの部屋の主、ティア・アムレート。
もう一つはエルカ・ヴェルソー。
そしてグレイン・アルモニー。
三人は大きな魔法陣――――――正確に言えば、転移魔法陣の上に立っていた。
「ようやくこの堅苦しい城から出られますね……」
「冬真の魔力が完全に感知できた。これでこの城は用済み」
「二人共厳しいね。僕は結構愛着湧いてたりするんだけどな」
そう、いよいよ冬真という存在が表舞台へ出てきたことで、彼らの目的である、冬真の生存確認は済んでしまったのだ。
そうなった以上、この城を拠点として情報を集める必要はなくなった。
つまり――――――彼らは自由に動けるようになるということ。
「私はセツ様がいればどこでも愛着が湧きますよ?」
「つまりここにはいないから愛着はないと……」
「そうなります」
キリッとした顔で言い放ったエルカだったが、言葉の内容が内容なため、グレインは呆れてため息を吐いた。
「セツがいればどこでも楽しい。だから速くセツのところへ行こう」
「ティアも大概だね……でもその点は僕も同感かな」
転移魔法陣が輝き始める。
それは発動待機状態であり、今すぐにでもとべるという合図でもあった。
「とりあえずは戦争に参加、殲滅対象を人間兵に定め、隙を見つけて夕陽さんの回収。忘れないでね?」
「分かってます。セツ様いるといいなぁ……」
「問題ない。セツがまだ来てなくても、来る前に終わらせるくらいの気でやる」
グレインは女性陣の頼もしさに、思わず苦笑いを浮かべる。
なぜ自分は男だというのに、こうも威厳がないのだろうかと考えてしまうのも、こうも女性が強いと仕方ないことだろう。
「じゃ……セツさんも僕たちを頼ってくれるだろうし……行きますか」
今、三人の強者が戦地へと向かった。
セツと彼らはテレパシーが使えるわけではない。
それでも、長く連れ添った仲として、お互い何を望んでいるかが分かるくらいは、彼らは強く繋がっている。
魔族大陸に、世界を揺るがすほどの戦力が揃いつつあった。
◇ ◇ ◇
「ふぅ……セツはやっぱり変わらないなぁ」
「顔見せは終わったか、主よ」
「うん、待たせたね、カゲロウ。みんな」
大粒の雨が降る巨大な崖の上、そこには黒ローブを着た七人の男女が並んでいた。
中心にいるのは冬真。
さきほどセツが見た思念体と、同じ姿をしている。
「やっぱりあの獣人は役に立たなかったのね……冬真様に恥をかかせて……」
「まあ落ち着いてルーナ。僕は大して気にしてないから」
「でも!」
「君たちは僕の役に立ってくれるんでしょ?」
そう問いかけると、黒ローブは全員深く頷く。
中には、頼られたことで笑みをこぼす者もいる。
彼らはそれほど強く、それこそ死ねと言われれば死ぬほど、冬真のことを愛し、忠誠を誓っているのだ。
「さて……それじゃ行こうか……世界から拒絶された者たちよ」
冬真の号令に従い、今、六人の死神が崖下の戦地に解き放たれた。
人間の兵士と魔族の兵士が拮抗した戦いを見せる中、魔族の兵士たちの断末魔が響き始める。
まさにこの時、長く均衡を保っていた戦場が、ようやく傾きを見せ始めた。
「さあ! 蹂躙してくれ! 僕の可愛いおもちゃたち!」
狂った勇者の笑い声が、戦場に響き渡る。
この日は雨が降っていた――――――
◇ ◇ ◇
「つ、強い!! だれか止めろ! こいつを止めろ!!」
「ダメです! 前衛崩壊!!」
「クソがぁぁ! 命に代えてもここで殺せぇ!!」
私は――――――なぜここにいる?
「貴様! その肌と角は魔族だろ! なぜ我々を攻撃する!?」
「この同族殺しがギャッ――――――」
私は――――――なぜ同族を刺した?
「止むを得ん! 取り囲み仕留め――――――」
「兵長!!」
やかましい男に脳天にレイピアを突き入れる。
その周囲にいた魔族の兵士を魔法で焼き払い、レイピアを連続で繰り出し息の根を止めていく。
「あ、赤髪の女だ! レイピアを持った赤髪の女!! 肩に傷がある!! 最優先で仕留めろ! 魔王様の下へ行かせるな!!」
「と、止まりません! ギャァ!!」
私は――――――一体何をしているんだ?
意識がぼやける。
さっきから何を考えてもまとまらない。
ここはどこなんだ。
誰と何のために戦っている。
なぜ私の腕はレイピアを突き出し続ける。
また一人死んだ。
やめろ。
助けてくれ。
やめろ。
ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ、ヤメロ。
ヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロヤメロ――――――ッ!
誰か私を――――――
「――――――トメテクレ」
突如戦地を荒らし始めた、赤い髪の魔族の女。
同族の血にまみれ、全身を真っ赤に染め上げた女は、一人で戦地に佇む。
彼女の周りにあるのは屍、屍、屍――――――
表情はなく、虚ろな表情で佇む彼女は、赤い涙を流す。
雨で体の血は流れ落ち、その涙もすぐに消える。
あるいは――――――その目から流れたのは涙ではなかったのかもしれない。
彼女は、もうそんな感情を抱くことができないよう、作り替えられたのだから。
それでも彼女は泣き叫ぶ。
心の――――――どこか深く、暗く、狭いところで。
「いた!! あの女だ!」
「同族殺しめ!! ここで死ねぇ!!」
「あの横のやつはなんだ!?」
再び獲物がやってきた。
彼女の体は自然と動く。
それを、それらを殺すために。
彼女の横には、いつの間にか兵士たちが並んでいた。
その身は彼女の倍、無骨な装甲を身に付け、いくつもの魔法陣が組み込まれた兵士。
〈魔導兵〉――――――後に世界に伝わる、戦争兵器の名前である。
「――――――イコウ、ラーメル」
女は呟いた。
それに呼応するように、魔導兵は動き出す。
黒いローブの死神が戦場に現れた頃、戦地の片隅で、別の脅威が動き始めた――――――
ひとまず第二章獣人大陸編は終了です。
駆け足で進みましたがいかがでしたでしょうか?
序盤はかなり迷走しているので、しばらくしたら修正するつもりです。
次章は戦争編ですね。
セツと冬真の決着は、果たしてつくのでしょうか――――――




