42 獣王の娘
最近周りで体調不良が多くなってきた気がします。
みなさまもお気をつけください。
ちなみに自分は絶賛風邪っぴきでございます。
世界樹の入口さえも、シロネコとミネコの顔パスで通過することに成功した。
ここまで容姿以外のチェックがないと、変装する魔法なんかで簡単に侵入を許してしまいそうな気がするが、そこで役に立つのが嗅覚だ。
城門を守る兵士たちが、全員犬族ってのがいい証拠だろう。
その優れた嗅覚で、本物かどうかなんて一瞬で判断できるってわけだ。
「相変わらずいい雰囲気のとこだな、ここは」
「人間にも分かるです?」
「人間ってのも意外とこういう木に囲まれた空間は好きなんだよ」
木そのものをくり抜いて作られたこの城は、当然のごとく内壁も床も天井も木だ。
石で出来た風呂より、木で出来た風呂の方が好きと言える程度の俺は、こういう木の匂いや質感は好ましく思う。
「っと、それより獣王は変わらず上に居るか?」
「はい、最上階です」
あんまり時間もないわけだし、チンタラもしてられない。
さっさと顔を見せておくか。
「じゃあ行く――――――」
「あーーーーーー!!」
「――か?」
突如、俺の言葉を遮り城の中に響く叫び声。
誰もが、思わず声の主の方を見た。
そこにいるのは、健康的な肌色の金髪娘。
言わずと知れた、獣王レグルス・ゴールドの娘、ロア・ゴールドであった。
「お、お前!! この匂い……ッ!」
「ッ!」
やっぱり姿が変わってもバレるか……。
次の瞬間、床をひと蹴りしたロアは、一瞬にして俺の目の前に現れた。
そして視界の隅に、俺めがけて迫り来る拳の姿を捉える。
「まだ……甘ぇ!!」
「!?」
その拳を掴みとり、足を払ってやって、木の床に組み伏せる。
「セツさん!?」
「大丈夫、俺たちの挨拶みたいなもんだ」
「くそっ!」
立ち上がるため体を起こそうとしたところを、俺はマウントを取ることで妨害する。
そしてぎょっとしているロアの首筋に手を伸ばした。
さわ、さわ
「ふにゃ!」
優しくさわさわと撫でるように。
くすぐる手つきとは違い、手のひらも使って安心させるタッチを心がける。
するとロアの表情はどんどん崩れて行き、次第に全身の力が抜け、とろけ切った表情に変わった。
「ふにゃぁぁ~~~ダメぇ……この手つきやっぱりぃ~~」
「久しぶりだな、ペチャパイにゃん子。ほれほれ!」
「セツだぁ~~~~にゃぁぁぁぁ」
猫を撫でるがごとく。
何十回とやってやったこの行動は、どうやら五年経った今も体が覚えているらしい。
さらにいじくってやると、その体はすでに立ち上がれないほどだらけきってしまった。
そんなに気持ちいいのか、これ……
「姉さん、見てますか? あの獣王様の娘のロアさんが手玉に取られてます……」
「ナデナデ……羨ましいです……」
「そこじゃないでしょ!? 姉さんしっかりしてください!」
何を漫才しているんだ、こいつらは……。
最近分かってきたのは、シロネコはポンコツで、ミネコはツッコミ役ってことだ。
案外バランスが取れてるものなんだな。
と、そんな場合じゃない。
「ふにゃぁ~~~もっとぉ……」
そろそろこいつを何とかしねぇとな――――――
「今までどこをほっつき歩いてたんだよセツ!!」
「わりぃわりぃ、ちょっと人間国でいろいろあってな」
「それは知ってるけどさ! ……こっちは強制的に元の世界に返されたって聞いて心配してたんだから……って撫でるな! やめっ……ふわぁ~~~……」
「相変わらずおもしれぇなお前」
少々うるさい口を、撫でることで喋れなくしてやる。
俺だって本意じゃなかったんだから、大目にみてくれたっていいんじゃねぇかな?
「こうして帰ってきたんだから許してくれや。心配させた借りはちゃんと返すからよ」
「にゃぁ……わ、わかったから、今は撫でるのやめてぇ……」
おっと、手を止めるのを忘れてた。
腰が抜ける寸前で、手を引っ込めてやる。
さっきはロアが立ち上がるまで数分かかっちまった。
今は獣王のいる部屋へ向かっている途中だし、こんな廊下の真ん中で座り込まれたら大変だ。
「ふぅ……それで、シロネコとミネコはどうしたの? 見たところセツと一緒に来たみたいだけど……」
「いろいろありまして……」
「セツが主人になってくれたです。だから一緒にいるです」
「はぁ!? セツ! あたしの主人にはなってくれないのに、シロネコの主人にはなれるって言うのか!?」
シロネコめ……余計なことを。
説明はかなりめんどくせぇが、こいつには説明しとかないとダメか。
「別になってねぇよ。こいつが勝手に言っているだけだ」
「ならあたしだってなる!」
「話聞いてたか? 俺はペットなんて募集してすらいねぇよ」
躾けるのなんて、あの氷ドМ女だけで精一杯だ。
せいぜい他をあたれ……いや、やっぱり誰にもあたるな。
「とりあえず、この話は後だ後!! さっさと獣王のとこへ行って、話さねぇといけねぇことがあんだよ!」
「むぅ……わかった」
「よし」
うむ、躾のできたいい猫だ。
種族は獅子だがな、まあネコ科だし大した違いはないだろう。
そしてここまで躾たのは俺だ。
前はお転婆の暴れ獅子だったせいで、厄介者扱いされているところがあったからな……今じゃ城の者たちに笑顔で挨拶され、そして笑顔で挨拶を返す存在になっている。
なんというか、その変化が俺はとても嬉しい。
まあ言葉遣いは荒いのと柔らかいのが混じって、時折おかしくなってるがな。
それはご愛嬌ってところだろう。
「そういえば、セツさんとロアさんはどういうご関係なんですか? セツさんが五年前の勇者だったって話は聞きましたが、その辺りがどうにも読み取れなくて……」
「ん? あたしとセツの関係?」
そういや道中で俺の話はしたんだったな。
元勇者である俺と、ロアの関係が気になるのは仕方ないか。
「そうだなぁ……セツはね、当時からすっごい強かったんだ。人間のお供三人を連れて獣人大陸に来た時は、戦争中だったこともあって『人間だ! 殺せ!』ってなるくらい過激な時期で、セツたちも襲われた」
何十人とかかってきたっけな、兵士みたいなやつらが。
まあもちろん……。
「それを、セツ一人であっという間に全滅させちゃったんだよ。そして当時やんちゃだったあたしは……って二人はあたしがやんちゃだったって知ってるか」
「暴れ獅子の異名は私たちにも届いているです」
「うわっ……自分で言っててあれだけど恥ずかしいな、それ」
当時のこいつは、獣王の娘って立場もあって、獣人どころか他大陸でも有名だったからな。
ちなみに、シロネコとミネコが有名になり始めたのは、俺が送り返された後からだそうだ。
「まあいいや。それであたしは、強いやつがいるって聞いて戦いを挑んだんだよ。結果は惨敗だったけどね」
確か飛びかかってきたところを、クロスカウンターで一撃だった覚えがある。
他の雑魚兵士と変わらない対応しちまったな、あの時は。
「思えば父ちゃん以外に負けたのは初めてだったなぁ……そんであたしは自分を打ち負かしたセツに惚れ込んで、くっついて歩くようになったんだよ。できれば主人になってほしかったんだけどね」
「そんなめんどくせぇこと誰がするかってんだ」
「ケチだなぁ、相変わらず」
なんと言われたところで、俺はペットにする気はない。
主人は主人でも、夫の方の主人だったら考えようはあるのにな。
「二人も同じような理由でくっついてるんじゃないの?」
「私はセツに負けたです。だから主人になってほしいのです」
「私は直接戦ったわけではないので……ですがセツさんは命の恩人ですから、この体はセツさんのために使おうとは思っています」
「だってよセツ。モテモテだね」
「はいはい」
ロアが肘で俺の脇腹を突っついてくる。
ここまで言われて悪い気はしねぇが、やっぱりこいつらの考えは分からん。
人間じゃ、自分を負かしたやつについていこうなんて思わねぇからな。
種族によっての価値観の違いってのはやっぱり大きいんだ。
「そんな話をしてる間についちゃった」
ロアの足が止まると同時に、俺たちも歩みを止める。
目の前には両開きの木の扉。
懐かしいなここも。
「父ちゃん入るよ――――――」
「ロアさん!!」
「あん?」
扉に手をかけたロアを止めるように、後ろから男の声がかかる。
「なんだ、ルーガか」
振り返ると、そこにいたのは犬族の青年。
たくましい体つきで、端正な顔をしている。
こりゃ獣人の女どもは放っておかねぇな、その立ち回りや感じる圧力からすると、実力も相当なものだし。
「何の用? できれば手短に頼みたい」
「何の用って……あなた、人間を獣王様に会わせるつもりですか!? 今は戦争中ですよ!?」
なるほど、こいつはなかなかの堅物だ。
この三人と一緒にいるため、ここまで余計なトラブルには巻き込まれなかったが、ある程度実力があって、ロアに口答え出来るレベルのやつからすれば、俺の存在に口出しするのは当然だわな。
ここに来てめんどくせぇやつが出てきた……。
「シロネコやミネコまでが人間と一緒にいるとは何事だ! 説明してもらおう!」
「その前にあなた誰でs――――」
「姉さん、この人狼刃のルーガですよ」
「あー……そういえばそんな人いたです」
「俺のことを忘れているとは……相当物覚えが悪いと見えるな」
「あ?」
「ね、姉さん抑えて!」
うおっ! シロネコって頭の中のことバカにされるとすごい形相になるんだな。
覚えとくか……っとそれより。
「老人だっけ? とりあえず俺は獣王に用があるわけで、別に何かしてやろうって思ってるわけじゃ……」
「貴様……今俺を侮辱したな……?」
「は?」
狼刃……老人……あ、確かに俺言い間違えてるわ――――――ってニュアンス一緒じゃねぇか!? これは責められる言われないだろ!? お前の捉え方次第だろ!?
「この場で消してやろうか人間――――――」
「やめろバカ」
「……なぜ人間を庇うのです、ロアさん」
俺とルーガの間に、ロアが立ち塞がる。
ロアの目は、明らかな敵意をやつに放っていた。
「違う、あたしはあんたを守るために止めたんだ。この人間は、将来あたしの飼い主……じゃなかった。主人になる人間。いくら父ちゃんの右腕になるほどの実力があるといっても、こいつには勝てない」
おい飼い主ってなんだ、今までは主人って言って別の意味もほのかに混ぜていたのに、完全に飼われたい欲望が出てんぞ、やめてくれ。
っと、それより……獣王の右腕ねぇ……通りで実力者っぽいと思った。
「……なんだと? 待ってくれロアさん、あなたの主人……いや、夫は俺になるはずでしょう?」
あ? 何言ってんだこいつ。
「俺は獣王様がおっしゃった通り、あなたに決闘で勝利し、あなたと結ばれる権利を手に入れたはずだ」
「あ、あれはちょっと体調が……」
「そんな言い訳は獣人の間では通用しない!」
「……っち、うるせぇな!! 誰がてめぇみたいなネチネチ野郎と結婚するかバァーーカ!! 次セツの前でおかしなこと言ってみろ! 八つ裂きにしてやるからな!」
「なっ……」
行くぞと言いながらロアは、俺の手を掴み王の間の扉を開けた。
突如、昔の口調に戻り罵倒されたルーガは呆気にとられ、直立不動で固まっている。
その隙に俺たち四人は、目的地である王の間へと、ようやくたどり着いたのだった。
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