40 それぞれの出発
「……リヴァイアの野郎……」
獣王の暮らす街への街道を歩く。
平に整備されただけの土の地面は所々端っこに雑草が顔を出していて、しばらく整備されていないことが伺える。
この辺が獣人族の適当さというかなんというか。
そういえば人間の大陸の道路はちゃんと舗装されてたな。
「行くにしてももうちょっと話し合いをするべきだと思うんだわ。なあお前ら」
「わ、私たちに聞かれても……」
「わからないです」
俺の後ろについて歩くミネコとシロネコは苦笑いを浮かべている。
なぜ二人が俺とともにいるのか、そしてどうやってリヴァイアと別れたのか、それは昨日の場面まで遡る――――――
◇ ◇ ◇
しばらく別行動しようと思うの――――――
そう言ったリヴァイアに俺はなんでと聞いた。
「私今すぐ魔族大陸の戻るわ。私一人なら潜れるし半日もかからずにたどり着けるから……」
「別に俺を乗っけてったていいんじゃねぇか? あいつらだって弱くねぇし、半日で負けるなんてことはないだろ。俺がいれば……」
「あなただって完璧じゃないわ。話を聞く限りそのトウマとかいう勇者と黒ローブたちは人間側の味方なんでしょ? そうなったらセツだってどうなるかわからないじゃない」
確かに……冬真の野郎の目的が本当に魔族と獣人を滅ぼすことなら、奴らは人間の味方をしているだろう。
そうなると割と強い黒ローブたちと冬真を相手にしなくちゃいけなくなる。
冬真と俺は……そこまで実力の差がない。
俺の方が強いことは前回奴を殺した時に確認できたことだが、その時は俺の魔力もすっからかんになり、ボロボロまでは行かなくてもかなり怪我は負った。
もしあの時少しでも俺が油断していたら、一瞬で勝敗は逆転していたかもしれない。
油断と言えば今さっき敵に逃げられたばっかりだ。
現状俺はリヴァイアに「俺がついて行ったほうがいい」と言い返せるほどの根拠を持っていなかった。
「確かに……召喚された俺のクラスメイトたちと黒ローブ共が手を組んでたら……俺だけがいても止められねぇかもな」
できて時間稼ぎ程度だろう。
それじゃ直に敗戦するのが目に見える。
「けどそれならお前が行ったところでどうにも――――――」
「わかってるわよ。私が行ったところであなたほど頼りにならないってことくらい……だから……少し頼ませてくれないかしら?」
俺は自虐気味に言うリヴァイアの言葉に、ただ頷くことしかできなかった。
「ああ……」
「ありがと。頼みっていうのは……セツにこの獣人大陸から援軍を送り込んでほしいのよ」
「援軍だぁ?」
「そう。あなたの人望ならそれくらいできないことはないでしょ?」
確かに頼めば獣王は動いてくれるだろう。
例えあいつ自身は動けずとも最大限の戦力を貸してくれるはずだ。
「けどそこまですることか? 二大陸の力を合わせちまったらいくら黒ローブと勇者どもがいたとしても……」
「――――――私はね、あの黒ローブたちを全滅させたいの……そして、その親玉のトウマってやつも」
「……」
リヴァイアの目には憎悪に似た何かが燃えていた。
こうなったらおそらく話は通じないだろう。
「その事情は話してくれねぇんだな」
「今はね……私自身話したいことじゃないのよ。だからできれば聞かないで」
「……あいよ」
そこまで問い詰めることでもないか……そうだよな。
女には多いんだろうな、そういう聞かれたくないこと。
男にだってあるから仕方ないな、うん。
「まあ言いたいことはわかった。お前の望みも……頼まれるって言ったしその通りに動いてやる。けどお前が先に行くからにはしっかり魔族大陸を守っとけよ」
到着した時にはもう負けてましたなんて洒落にならねぇんだからな。
「わかってるわよ……あともう一つワガママを言わせてもらうと……できるだけ早くお願いね」
苦笑気味でそう言うリヴァイアに、俺は思わず吹き出して笑う。
仕方ねぇな、早めに済ませて助けに行かなきゃな。
「ふっ……わかってんよ。それじゃ……」
「ええ、また向こうで」
「ああ、向こうでな」
俺とリヴァイアは挨拶もそこそこに踵を返す。
こうしちゃいられない。
まだ時刻は午前中だし、今日と明日で獣王のところへ行こう。
魔族大陸には転移魔法陣を借りるとして3日から4日はかかるな……耐えてくれよリヴァイア、デザストル。
「セツ……」
「ん? どうしたシロネコ」
早速出発しようとしていたところ、シロネコに声をかけられて俺は止まる。
「私、あなたにお礼がしたいです」
「わ、私もです!」
お礼と言ったシロネコに張り合うようにミネコも声を張る。
こんな状況じゃなければすぐにでも飛びつく話なんだが……
「今はいいって、また今度でも礼なら――――――」
「ならばセツについていくです」
「……は?」
「わ、私も!」
「……え?」
◇ ◇ ◇
と、言うわけで俺はリヴァイアと別行動となり、このネコ娘二匹? 二人? を連れて獣王のところへ向かっている。
シロネコとミネコは戦力として俺とともにいることになった。
お礼として魔族大陸での戦争にも参加してくれるそうだ。
二人は聞くところによると抜群のコンビネーションだかなんだかでかなりの実力者らしい。
仲間となるには申し分のない存在だな。
「獣王か……久々だなほんと」
五年ぶりだもんな、デザストルのときもそうだったがこんな気持ちになることは仕方ないだろう。
ロアに会うのも久々なんだよな……あの元気っ子少しは成長したかね?
「セツと獣王様ではどっちが強いです?」
「あん? そんなの俺に決まってんだろ」
「決まってるんですか……」
戦いを好むあいつの希望に応えて何度も戦ったが、俺が負けたことはない。
だが傷を負った回数は他の連中よりもはるかに多い。
負けはしなかったが、片腕血まみれとかそういうことはよくあった。
「まあ獣王も相当強ぇよ。できることならあいつ本人に力を借りたいところだが……」
魔王と獣王が揃えば戦況が押されてたとしても一気に返せるだろう。
王の強さは伊達じゃないってこったな。
「っと――――――見えてきたな」
ここまで一日とちょっと、歩きで進んできた割には随分早くたどり着けたものだ。
木々が別れた先、広大に広がった平地の上に作られた街〈王都レグダム〉が、俺たちの前にその姿を現した。
◇ ◇ ◇
獣人大陸と魔族大陸の間の海、そこを猛スピードで泳いでいく影があった。
(……言えない、言えるわけないじゃない……)
リヴァイアは苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
「私やデザストルが……黒ローブたちの目的を達成するための重要なピースだなんて……」




