39 出発前夜
短いですがとりあえずはクラスメイト(夕陽)サイド終了です。
次回は再びセツサイドです。
明日の朝戦争へ出発すると突然聞かされ、クラスメイトたちはそれぞれ異なった様子になっていた。
うろたえ顔色を悪くするもの、すでに冷静に何を準備すべきか考えているもの、迫る戦いの場を想像して興奮するもの……それぞれが思い思いに出発前の最後の夜を過ごす。
「ユウ、ちょっといいか?」
「ん? 光真くん?」
夕陽の個室の前に光真が立っていた。
すでにエルカ、グレインに戦争時に逃げ出す算段を相談して決め、準備も特に時間をかけることなく終わっていた夕陽は光真を自室へと通す。
「どうしたの? 準備は終わった?」
「ああ、準備はもう大丈夫だ。寝る前に少しユウと話したいと思ってね」
それを聞き夕陽は彼から見えない角度で顔をしかめた。
実のところさっさとベッドに入り明日に備えたかったのだが、光真のせいでそれが叶わず不機嫌気味である。
とりあえず部屋の椅子に座ってもらい、彼女自身ももう一つ置いてある椅子に座った。
「んー……まあいいよ、何話そうか?」
「明日のこととかどうだろう?」
仮にも男女が夜にする会話であるのにそのチョイスはどうかと思うが、特に光真と関係を深めたいわけでもない夕陽は素直にその話に乗った。
「明日……俺たちは人を殺すことになるんだよな」
「……」
魔族も獣人も姿は違えど中身はちゃんとした意思を持っている。
話によると、どうやら光真は殺すことに躊躇いを覚えているようだった。
(なんだそんな話か)
夕陽はその話を聞き何とも言えないがっかりとした感情に襲われていた。
元々魔族獣人と戦う気のない彼女からすれば退屈な話なのだろう。
殺したくない光真と、殺す気のない夕陽の違うところは、夕陽は大切な者のためなら例えクラスメイトでもその手にかけられるところだ。
エルカからセツのそばにいるための教育を受けた彼女に、殺しを躊躇う感情はない。
「迷っちゃダメだよ光真くん。大切なものを奪われたくなければ戦うしかないんだよ? 光真くんはクラスのリーダーみたいなものなんだからさ、あなたが躊躇ってたらみんな動けなくなっちゃう。だから頑張ろ?」
夕陽なりに光真を元気づけるつもりであった。
クラスメイトから徐々に心が離れて行っている彼女であるが、光真、次郎、美月が傷つけばそれなりに怒りを覚える。
「……やっぱりユウはこっちの世界に来て変わったな。なんというか……強くなった」
「そう?」
自分の精神状態の変化というのはあまり自分自身では気づけないもの。
エルカに鍛え上げられ、この世界の決して綺麗とは言えない部分に積極的に触れることになった彼女は、気づかぬうちにたくましく、そして強く成長していた。
光真にそのことを気づかされ、夕陽は内心嬉しくなった。
少しはセツに近づけたと思い、彼女は少しだけ頬を緩ませる。
実際のところ、人の命を奪う行為ができなくなったセツと比べれば精神面はすでに彼を追い抜いているのだが、それにも気づけるほど夕陽は鋭くない。
「強くなったとは言っても……俺はユウに危険なことはしてほしくない。できることなら戦争にも逝かないでほしい……」
「……それは無理だよ」
光真の願いは叶うことはない。
せめて光真のパーティでなければ融通が少しは効いたかもしれないが、人間の重要な戦力である夕陽が戦争へ行かないというのは許されることではないのだ。
「わかってる。だからユウは俺が守る、この命に代えてもね。だから魔族大陸にいるときは俺のそばを離れないでくれ」
「え……あ、うん」
肩を掴みまっすぐ夕陽の顔を見て言う光真の目には、熱っぽい視線がこもっていた。
これが普通の女子であれば、おそらくほとんどが彼の虜になっていただろう。
残念なことに夕陽の心はピクリとも動いていないが……
「じゃあ……俺はそろそろ行くよ。明日からの戦い……頑張ろう」
「うん、おやすみ……」
光真が部屋から出て行ったあと、夕陽はしばらく動かずその場で考え事をしていた。
(離れないでね……か。まずいなぁこれじゃ簡単に離脱できないよ……)
適当な理由でひとまず戦線から離れる予定であった彼女の計画は、さきほどの光真の言葉で少し雲行きが悪くなってしまった。
彼がそばにいると、クラスメイトから離れるための条件を整えることができないのだ。
エルカやグレイン頼ろうとしても、二人は戦場に来ることができない。
今彼らが城で生活できているのは、他種族の味方をされないため戦争に参加しないという条件があるからなのである。
いざとなればそんな条件を無視して駆けつけると言っていたが、死んだはずの勇者のことがはっきりしない限りエルカたちに城から離れてもらうわけには行かない。
つまりこの程度のことで彼らの助けを得るわけにはいかないのだ。
(ま、それも状況によって考えればいいか)
なるようになるしかないとすべての問題を一括りにまとめて頭の隅っこに詰め込み、夕陽はベッドに入り込む。
S級迷宮攻略程度で疲れる彼女ではなかったが、エルカから早めに寝ておけと言われているため、目を閉じゆっくりと眠りの海へと沈んでいった。
明朝、彼らは多くの国民に見送られ、5000の軍勢とともにディスティニアを発つ。
彼らを待っていたのは、平凡な高校生活を送っていた頃では想像できないほどの、地獄という名の戦場だった――――――




