3 国を出たい
話の説明が多いです、進みが遅くて申し訳ない
――――――俺が初めて召喚されたとき、まだ力のない俺をサポートするためにこの国から三人の兵士がお供することになった。
その内の一人がエルカ。
当時力を使いこなせていなかった俺は、エルカとよく組手をしていた。
最初はほとんど歯が立たなかったが、だんだん力の使い方を覚えてくると、今度は一方的に俺が勝つようになってくる。
エルカが変態に目覚めてしまったのはその時。俺に蹴り飛ばされた瞬間、どうも快感が走ってしまったらしい。
それ以来攻撃にわざと当たったりするようになり、組手もままならなくなり、俺は他の二人と剣を交えるようになる。
エルカはどうしたのかというと、突然俺の奴隷にしてくれと頼み込んできた。
真性のドMとして覚醒してしまった彼女は、どうしても俺の下につきたいと泣いて懇願。その迫力に負け、俺はそれを了承…彼女の要望通り、エルカをこき使い始めると、俺がドSに目覚めるのも時間の問題だった。
「まあ昔を思い出すのもこれくらいにして……エルカ、お前に聞きたいことがある」
「はい! なんなりと!!」
俺はお仕置きとして俺の‘‘椅子となっている’’エルカに疑問をぶつける。
「どうして五年前だったか?そん時に終わらせたはずの戦争が起きているんだ?」
王女は何が原因で戦争が起こっているのかは口にしなかった。
それに獣人や魔族から攻撃を受けていると言ったんだ。
俺はなんの理由もなくあいつらが攻撃を仕掛けてくるとは思えない。
てか戦争なんてめんどくせぇこと二度と起こすなって命令していたはずだ。
「それは……この国が原因です」
「この国?ディスティニアが原因なのか?」
「はい……確かに五年前、戦争は終わりました。ですが……ディスティニアはセツ様が持つ力、人望を恐れて、あなたを元の世界に強制的に返しました」
「……っち、ああ、大体わかった――――――大方あいつらがその情報聞きつけて、報復のために攻めてきた……そんなところだろ?」
「お察しの通りです……」
俺を無理やり消した王国を、俺を慕ってくれているあいつらが許すわけがない。
俺の中でようやく話が繋がった。
「だぁー……つまり俺のせいか」
「あの方たちはセツ様を心の底から慕ってますから……」
そう改めて言われるとむず痒いものがあるな……
それでもなぁ……
「また戦争かよめんどくせぇ……一抜けるわ」
「ちょ……セツ様……」
俺はもうこの世界にいないことになってんだ。どう過ごそうと勝手だろ――――――
「そう思ってたんだけどなぁ……はぁ、まあ責任がないわけじゃないってなれば……しゃぁない、少しくらい付き合うか」
「! 戦争に参加なされるのですか!?」
「あーそれはねぇ」
「あ、さようですか」
戦争に参加するのはめんどくせぇし立場がわからねぇから却下。なら俺のやることはひとつ
「とりあえず、あいつらに会いに行くくらいはしてやる。元々行くつもりだったしな、あいつらの機嫌次第で戦争くらい終わるだろ」
「まあ確かに……その通りだとは思うのですが……」
ん?俺がこの世界にいることが分かればあいつらの怒りも収まると思ったんだが
「あの方々の怒りは収まると思いますが……現状、人間国はこの戦争で前奪えなかった魔族大陸と獣人大陸の領土を奪うつもりです」
「はぁ!? つまり……」
「はい。戦争に勝つつもりです」
防衛戦じゃなかったのかよ!? またややこしくなってきたぞ……
「つまり今回召喚された勇者は……」
「はい、勝つために召喚されました。行く行くは上手く言いくるめ、敵国に攻めさせる予定と聞いております……」
上手く使うつもりだったわけか。
人間国としては前回の戦争で領土を手に入れたかったが、戦争が終わった今、再び領土戦争を始めれば民衆の反感を買いかねない……
「向こうから攻めてきてくれたから万々歳……てか?」
「その通りだと思われます……」
要は最後まで俺を利用しているわけだ、舐めた真似してくれる。
「あなたのお供として行動を共にしてた私たちは、止める方法を考えました……ですが最も良い案はやはりあなたのエクレール帰還かと思い……」
「お前たちは王国に留まり、忠実に働くふりをして俺の再召喚を狙っていた――――――そんなところか?」
「はい、結局こんな形になってしまいましたが…でもよかったです。知らぬ世界の少年少女を戦争に利用するとなれば、さすがに反乱を起こしてしまいそうでしたから」
笑顔で言うエルカ。この笑顔は嘘を言っていないときの笑顔だな…マジで反乱を起こすつもりだったのか?
「この国は学習しません……セツ様にあれだけ迷惑をかけて利用して……これ以上被害が出ないよう戦争まで終わらせていただいたのに……同じことをまたやろうとしています」
「ああ、相変わらず馬鹿な国だと思ったよ――――――ま、これで改めて考えがまとまったぜ」
「?」
俺はエルカから立ち上がり言う。てかいつまで四つん這いでいるんだてめぇは
「俺はこの国を出たい」
「……はい……言うと思ってました」
立ち上がったエルカが言った。そうか、俺の考えは読まれていたか
「戦争なんか気にせず気ままに旅がしてぇ……って思ってたが、戦争があるとどうにもうるさくて適わん。あいつらに会ってまた戦争を起こした罰をくれてやる。そうすりゃ大人しくなんだろ」
「ふふっそうですね」
「何笑ってんだ?」
「いえ、やはり見た目は変わっていてもその優しいところはセツ様だなぁ……と思いまして」
「あ?」
「一緒に召喚された者たちのために戦争を止める……ですよね?」
「んん?……まあ……そうなのか?」
まあ……夕陽を危険な目に合わせたくないってのは俺の中にあるが、他のやつらは微妙だ
ちなみにエルカには俺が転生していることは伝えてある。今思えばよく名前が同じだったな…ご都合主義万歳
「ま、いいやそれで」
「はぁ……。それでどうやって国を出るおつもりですか?さすがに召喚した勇者たちをそう手放さないと思うのですが…」
「ああ、それなら簡単。俺が役立たずの烙印を押されればいいんだよ。そうすりゃぁ勝手に城から追い出されるさ」
「な、なるほど……ですが……あなたが役立たずとされるのは…私としては辛いものが……」
顔を伏せて心底嫌そうな声で言う。そう思ってくれることは嬉しいんだが
「お前もさっき俺のこと散々言ってくれたよな?」
「はぅ!?」
さっき正体を明かしてない時にこいつが言った言葉を、俺は一生忘れない。
ニヤニヤしながら彼女を攻めていると、謝りながらも興奮し始めたので止めた。そうだったこいつはドMだった。
「……まあいいや。んで、お前はなんとか王女や王の思考に干渉して、俺のことを追い出す方向に持って行ってほしい」
「あぁん……もっとぉ……はっ!! 私がですか!? そんな……あなたを陥れいるようなことを言わなければならないなんて……」
「ちゃんと追い出せたら尻叩き100回をくれてやる」
「わかりました! このエルカ! セツ様の犬として精一杯役目を果たします!」
――――――ちょろい
「よし――――――あとは」
「セツ様、せっかくですし後の二人に会いませんか?」
「ん?ああ……そうだな」
この国にいるという俺の残りのお供二人。確かに会っておきたい。
「まずは二人に顔を見せておくか。今あいつらどこにいるんだ?」
「〈グレイン〉は私の方とは違う勇者を育てております」
ああ、夕陽や光真の方か
「〈ティア〉は城の魔法研究所にいます。今はリーダーをやっているはずです」
「へぇ、二人とも出世しとるなぁ……
この俺を差し置いて」
んん?なんか気に入らないぞぉ?
俺は殴ったり蹴られたりひどい目に遭っているっていうのに……まあわざとだが
「ま、まさかセツ様……」
「ちょっとお仕置きしちゃおうかなぁ……」
俺は狼狽する二人の顔を思い浮かべ、楽しみを膨らませる
なんだかんだで二回目の異世界を楽しめているのに気づいたのは、この時だった。