38 その頃
予定を変更してクラスメイトサイドを投稿します。
セツとリヴァイアが獣人大陸に上陸する数日前、人間国のディスティニアに残った彼のクラスメイトたちは、〈悲しみの洞窟〉と呼ばれるダンジョンに潜っていた。
ダンジョンとは階層、または深度によって区切ることができる洞窟や森、塔のことである。
いつ、誰によって作られたかなどはいまだに解明されておらず、ダンジョン内に生成される宝の出処なども一切解明されていない。
わかっていることと言えば、ダンジョン内では特定の範囲内の強さの魔物しか出ないことと、最深部にはそのダンジョンで一番強い魔物が待ち構えていること。
強さが一定範囲に決まっているというのはかなり重要で、おかげでダンジョンに難易度を定めることができている。
この〈悲しみの洞窟〉は難易度A級。
最高難易度がSSSであることを考えると、人外指定されるS級に片足を乗せているA級というのは相当な実力がないと攻略することはできない。
「煮えたぎる溶岩よ! 敵を焼き尽くし、その命を溶かせ!! 〈溶岩玉〉!!」
「グギャァァ!!」
遠藤の放った赤く煮え滾った玉が、狼型の魔物に当たりその身を焼き尽くして絶命させる。
「さすが遠藤!」
「ここまで全部一撃じゃん!」
「はっはっは! 俺にかかればこんなもんだぜ!」
頭の悪い笑い声を上げながら、遠藤は再び溶岩玉を放ちもう一体の魔物を絶命させた。
再び遠藤の取り巻きA、Bが盛り上がる中、その魔物を仕留めるべく近づき、溶岩玉の熱量で火傷を負った男子生徒は尻餅をつきながらその三人を睨みつけていた。
「大丈夫か根本……」
「あちち……上田か、悪いヒールかけてくれね?」
「ああ……癒しの光よ〈回復〉」
腕に火傷を負っている根本に、上田と呼ばれた男子生徒がヒールをかけてやる。
幸いそこまで重度なものではなかったため、あまり回復魔法が得意ではない上田でも完治させることができた。
「大丈夫? 根本くん」
「神崎か、ああ、上田のおかげでなんとか」
二人の近くにいた神崎と呼ばれた女子が手を差し出し、根本はそれを借りて立ち上がる。
「よかった。それにしても遠藤くんたちますます調子乗ってるよね」
「そうだな……ちくしょう、俺たちがあいつより強かったらなぁ……」
現在〈聖剣持ち〉である光真とその一行を除くと、一番実力があるのは遠藤であった。
彼はいくつかの既存の魔法を進化させたオリジナル魔法を完成させており、それはどれも強力。
ユニーク魔法とまでは行かないものの、それは対人、対魔物戦ににて大いに役に立っていた。
「行くぞお前ら! 俺達の足引っ張んじゃねぇぞ!」
取り巻きに煽てられ上機嫌の遠藤が、この場にいるクラスメイトたちに号令をかける。
誰しもが心底嫌そうに睨みつけるも、高笑いしながら進む彼には届かない。
「ちっ……うぜぇなほんと」
「まあ今は彼のおかげで楽できそうだし、ちょっとだけ我慢しようよ」
「そう言われると確かにそうだけど……はぁ」
根本は神崎になだめられながら、上田はため息をつきながら、それぞれ遠藤の後についていった。
◇ ◇ ◇
「〈岩砕拳〉!!」
所変わってS級の難易度を誇る迷宮〈帝王の塔〉では、光真一行がその歩みを進めていた。
辛い訓練により持ち前の筋肉をさらに膨らました次郎の一撃が、岩でできたロックゴーレムの体を粉砕する。
「ちょっと! あんまり破片を散らかさないでよ!?」
周囲へと飛び散ったロックゴーレムの破片を華麗な身のこなしで躱しながら、美月は短剣片手に自慢のツインテールを揺らして、奥に佇んでいた魔法使い型の魔物スカルマジシャンへと素早く接近した。
「てやっ!」
「ウギィィィィィ!!」
自慢の杖を振りかぶり魔法を放つ直前に、美月の短剣がスカルマジシャンの首元を捉える。
骨でできた体に薄汚いローブを羽織っただけの魔物であるスカルマジシャンは、頭部と体を繋ぐ首の骨を粉砕され、なすすべなく絶命した。
「わりぃわりぃ、でもこれで全部片付いたか?」
「まだ気を抜かないで、周囲の警戒!」
付き添い人であるグレインの叱咤で、敵を倒して気を抜いていた次郎と美月が再び警戒の姿勢になる。
その後方ですでにスカルマジシャンを二体切り捨てた光真は、言われるまでもなく周囲を警戒していた。
「ユウ、怪我はない?」
「え? あ……うん」
光真の背後にて、彼に守られる形でずっとそこにいた夕陽は、自分が何かをする前に戦闘が終わってしまい、正直言って退屈を感じていた。
というかそもそもな話として、彼女はすでにこの迷宮は単独で攻略済みなのだ。
この迷宮に入ってからかれこれ数時間は進み続けているが、夕陽がやったことといえばドジを踏んだ三人の治療やら索敵程度。
戦闘は光真が頑なにさせようとせず、彼は数時間の間ずっと夕陽を庇うように戦っていた。
そのせいと言っていいほど、彼女はストレスが溜まってきている。
自分ならばこのダンジョンの魔物は一撃で、それに無傷で進められるのに――――――と
「? 大丈夫かユウ」
「あ、ごめん! なんでもないよ」
少し顔に出てしまっていた自分を嗜め、夕陽は再び進み始めた彼らについていく。
(はぁ……早く終わらないかな)
(……まあ彼女にとっては退屈極まりないでしょうね)
あくびを噛み殺す彼女を見ながら、グレインは苦笑いを浮かべるのだった。
◇ ◇ ◇
「みなさんよくぞ無事に戻られました!」
ディスティニア国にある城の王座の間、迷宮から帰還後そこに集められたクラスメイトたちは、直立して王女の話を聞いていた。
(これも退屈なんだよねぇ……)
長い王女の話に、彼女の魅了にかかっていない夕陽は退屈を感じてしまう。
必死にあくびを噛み殺していると、王女の後ろに使えているエルカからの鋭い視線を受けて夕陽はしゃんと背筋を伸ばした。
セツを毛嫌いする王や王女に目をつけられるのは極力避けなければいけないことを思い出し、彼女は反省の意味を込めて軽く会釈を返す。
「――――――エルカ、今日で悲しみの洞窟は攻略できたのですよね?」
「はい、証拠の品です」
話の流れは自然と今日の成果へと向き、付き添い人として迷宮へと入ったエルカが、完全攻略した証拠として迷宮最深部の魔物〈ダークハウンド〉の牙を見せる。
「お見事ですみなさん。では光真様たちの方は?」
「はい、攻略が完了しました」
グレインが見せたものはエンペラードラゴンの鱗。
これも〈帝王の塔〉の最上階の魔物の所謂ドロップアイテムというやつである。
「素晴らしい! これでみなさんはA級以上、光真様たちはS級以上の実力があるということですね!」
歓声を上げる王女マーガレットであったが、実のところ難易度A級というのはA級冒険者が単独で攻略できるラインということなので、団体で挑戦した彼らが全員A級の実力があるということではない。 もちろん光真たちもである。
王女はその辺の理解が浅いのであった。
「……マーガレット、そろそろだな」
「! そうですね父上……今日みなさんにお疲れのところ集まっていただいたのは他でもありません」
玉座に座る王から催促され、王女はクラスメイト全員の顔を見渡しながら言う。
「ここ人間大陸に攻め込もうとしていた魔族軍の兵が物資調達のために引き始めました。命をかけて上陸を防いでいた兵士たちのおかげでこちらの被害は少なく、同時にあなたたちを育てる時間を確保することができ、そろそろ我々も反撃をするべき頃だと思います」
反撃――――――その言葉にその場にいた全員が息を呑む。
「ここまで言えばもうお分かりですよね……? 散った兵士の仇、そして今まで好き放題暴れてきた魔族、獣人たちに、我々は反撃の狼煙を上げることをここに宣言します!! 出発は明日の夜明け! それまでに各自装備を整え、戦いに備えてください! 以上です!」
「よ、夜明け……?」
誰かが呟いた。
王女の言った突然の反撃宣言。
受け入れる時間を与えられず目の前まで迫ってきた戦争は、少なからず彼らに動揺を与えた。
(……もしやこれは逃げ出すチャンス?)
ただ一人、夕陽を除いて。




