37 危機
ちょっと展開を急ぎたですかね
「ぐっ……」
男の槍が腕ごと跳ね上がる。
俺の一撃で弾かれて手を離さなかったことは予想外だったが、隙であることには変わりない。
ガラ空きの胴を蹴り飛ばし、リヴァイアが戦闘を止めたため水位が下がり始めた海面へ転がす。
「で、デタラメな怪力だな……」
「よく言われる。てか休んでる暇ないぞ?」
息も絶え絶えに立ち上がった男に、俺は間髪入れずに〈飛剣〉を放った。
「なっ――――――ぐおぉぉぉぉ!!?」
ほどほどに力を押さえたそれを男は槍を横に構えて受け止めるが、受け止めきれず地に足をつけたまま後退を余儀なくされた。
あの槍は相当いい槍だな。
俺の飛剣を真正面から受け止められる武器なんてそうはない。
そんで男もかなりの実力者だ。
あのままリヴァイアが戦っていれば犬っころも合わせて負けていたかもしれない。
「結構やるじゃねぇかお前。名前は?」
「はぁ……はぁ……ッチ、サイガだ」
「ふーん……俺は……ま、言わなくてももう知ってるか」
シロネコは俺のこと知ってたしこいつらも全員知ってるんだろう。
あのクソ勇者の部下どもだしな。
「で、どうするサイガとやら。ここでその黒い犬を連れて引いてくれりゃぁ見逃してやらねぇでもないが」
もちろん情報を置いてってもらうのと、これからは簡単に俺たちを襲ってこれないよう少しばかり痛めつけさせてもらうが。
「言わせておけば……ッ!」
「よせクロイヌ! 絶好調の俺たち二人ならともかくこの状況じゃ共倒れだ……」
サイガの方は状況がよくわかってるようだな。
クロイヌの方は……うん。
あの目は完全にあいつに忠誠を誓っている目だ。
そういえばディスティニアにいた時も同じような奴がいっぱいいたっけな。
特にあの王女とか酷かった。
そういう奴はどんな手を使ったとしても命令されたことを遂行しようとする。
(後々めんどくさそうだな……冬真への宣戦布告も含めてボコした状態で送りつけてやろうと思ったが……ボコして監禁しておくか?)
そんな物騒な考えが頭をよぎる。
でも命令されれば自爆特攻でもなんでもしてきそうな奴を野放しにしておくのもな……
「サイガッ!? 私たちはまだ命令を遂行していないんですよ!? それなのに撤退なんて……」
「馬鹿かお前は!? 一度引くだけの話じゃねぇか!」
「それでは主様を待たせてしまいます! 今ここで私があの役立たず姉妹を消さなければ……」
役立たず姉妹というと……シロネコたちか。
クロイヌの目標は俺じゃなくてあの二人だったってことだが、個人的には役立たず始末なんて後回しでもいい気がする。
どうせ妹を人質にとって脅していただけの女にろくな情報を与えてないんだろうから、情報が俺たちに渡る危険性は少ないしな。
「まあやるんなら相手になるが……どうする?」
黒丸を突きつけ二人に睨みを効かせてやる。
クロイヌは一度震えたあと一歩後ずさり、サイガからは息を呑む声が聞こえた。
どうやらかなりビビらせてしまったようだ。
「ま、待て……引く。引かせてもらう。俺たちはこれ以上戦えねぇ」
「なんだそうか。それならちょいと質問に答えろよ。見逃してやるんだからさ」
見逃すの部分を強調して言ってやる。
少しでも屈辱さを感じてもらうぜ。
「ッ!」
「だから止せって! な、何を聞きたいんだ?」
カッとなって飛びかかろうとしたクロイヌをサイガが押さえつける。
よかったな止まって。
ほんとに飛びかかってきてたら腕の一本ぐらいは貰うつもりだったぞ。
「まず、てめぇらの目的が知りたい。冬真は何が目的だ?」
「あ、あの人の目的は魔族と獣人をこの世界から消すことだ」
……は?
なんだそれ。
結構軽く聞いちまったことを後悔するくらいにとんでもないことを言われたぞ?
「な、なんのために?」
「あの人はお前のためだって言ってた……セツをたぶらかした種族を皆殺しにして、邪魔者がいなくなった世界で一緒に暮らすんだとか……」
「……あんの腐れヤンデレ野郎……」
そんな理由で三大種族の二つを消そうってのか?
相変わらずどっかイっちまってるぞ……
(どうする……こうなると魔族大陸にいるデザストルたちが心配だ。下手すりゃ俺が獣人大陸にいる間に黒ローブどもが襲いに行くかもしれねぇ……だからってここを離れりゃこっちが危険にさらされる。こりゃデザストルたちの強さを信じて凌ぎきれることを願うしかねぇか?)
決してすぐに攻め込まれるという確証があるわけじゃないが、いずれは立ちはだかる問題だろう。
なんとかエルカたちと連絡をとって協力を――――――
「……ケッ! 隙見せてんじゃねぇよ! 〈転移の石〉!!」
「ッ! なに!?」
俺が考え事で少し注意を逸らした瞬間、サイガが懐から輝く石を取り出し砕いた。
砕いた際に光が二人に当たり、その体を光らせる。
〈転移の石〉とは、その名の通り転移の魔法が封じ込まれた石だ。
砕けば本来の転移魔法と同じで念じた場所にワープすることができる。
「ッチ! そんなもんを隠し持ってやがったか」
「ハッ! 詰めが甘いぜ! 最後にいいこと教えてやるよ!! お前らがこうして呑気に俺たちに気を向けている間、人間大陸の奴らはすでに魔族大陸に攻撃をしかけているぜ!!」
「――――――はぁ!?」
「もうじき攻撃が始まる頃だ! 俺たちはそっちへ行かせてもらうぜ、あばよ!」
「待てッ! ……ッチ」
ゲスの笑みを浮かべたサイガが光とともに姿を消し、その後ろにいたクロイヌの姿も消えてなくなった。
すっかり水が引いた地面には、奴らの足跡しか残っていない。
俺としたことが、不意を突かれてみすみすあいつらを逃がしちまうなんてな。
俺は最後にあいつが言ったことをよく考える。
(今から……って急すぎるぞ? 本当の話なのか……? だとしたらまずい……俺の足じゃ確実に間に合わない。リヴァイアに乗って行ったら半日以上はかかっちまうし、陸に上がる前に確実に邪魔が入る。邪魔を蹴散らしたとしても、そっからイビルバロウまではまた時間がかかっちまう……)
状況だけ見れば絶望的だ。
デザストルたちが健闘したとしても間に合わない可能性の方がでかい。
獣王に転移魔法陣でも貸してもらうか? いや、それじゃ俺の魔力がすっからかんだ。
「どうする……マジでどうするよ……」
柄にもなく頭を捻り続ける。
くっそ……やっぱり転移魔法陣しかねぇか。
魔力の問題はポーションでも飲めばなんとかなるだろ。
「リヴァイア! ちょっくら獣王のとこまで行って――――――ってどうした?」
声をかけたのに、リヴァイアは何も言わず遠くの海の方を眺めている。
さっきから静かだったのは、まさかずっと海を眺めていたからか?
「おいリヴァイア……」
「ごめんセツ。獣王のところへ私はついていけないわ」
こっちを見ず、リヴァイアはそう呟いた。
「私――――――しばらく別行動しようと思うの」
次回、互いに出発




