36 面白い話
一週間空いてしまった……
ひどい眠気の中書いたので、不明点誤字等は指摘お願いします
拘束されたクロイヌに特大の水球が叩きつけられる。
轟音とともに高く水しぶきを上げたそれは、波紋となって海面を揺らした。
「――――――よく耐えたわね」
「はぁ……はぁ……」
中心に居たはずのクロイヌは無事であった。
先程まで立っていた場所からは随分と吹き飛ばされているが、人体を平気で押しつぶすほどの衝撃を受けて大した怪我もないのだ。
リヴァイア自身かなりの力を込めた技であったので、仕留められなかったことに驚きを隠せない。
(っ……! ギリギリで〈水術〉が作用したからいいものの……体力はごっそり持っていかれてしまいましたね……)
クロイヌは水球が衝突する直前、スレスレで〈術〉を発動させていた。
彼女の得意とする技である〈炎術〉、〈水術〉などの〈術〉は、謂わば対魔法用の魔法である。
例えば、火の槍を撃ち出す〈炎の槍〉という魔法があるのに対し、〈術〉はまず炎を創り出し、それを槍状に変化させて撃ち出す〈炎術・刺創〉という技がある。
ここで重要なのが、魔法は炎の槍を作る、撃ち出すの二つの手順が必要なのに対し、〈術〉は炎を作る、槍状にする、撃ち出すの三つの手順が必要になっているのだ。
これだけ見ると〈術〉が優れていないように見える。
しかしその工程のハンデが気にならないほどに、〈術〉には大きな強みがあった。
それは〈炎〉を操れるという点……つまり、〈炎術・刺創〉を撃つ際に、何も自分で創り出した炎を使わなくてもいいのだ。
自分の周りに火があれば、それを操り槍を作り出すことも可能。
そしてそれは、相手が撃ちだした魔法も例外ではない。
相手の火炎を操り撃ち返したり、創り出した水球を頭上で爆散させたり、雷を跳ね返し自滅させたりなど、魔法に対して絶大な威力を発揮する技なのだ。
今回クロイヌは〈術〉を使い、水球の落下点を少しずらすことに成功していた。
ただしリヴァイアの技は魔法ではあるものの、彼女が司っている海の水での攻撃のため完全に操ることができずに、直撃をさけるだけで精一杯であった。
爆発にも匹敵する水の衝撃を受け、直撃ではないものの全身にダメージを蓄積させたクロイヌは、息も絶え絶えになんとか立ち上がった。
膝は震えているが、目はまだ死んでいない。
しかし現状ではどうしようもないこともまた事実であった。
(くっ……これでは主様の命令に従いあの男を生け捕りにするどころか、シロネコの始末さえ満足にできません……)
「仕留められなかったのは癪だけど……どうやらもう終わりね」
立ち上がってから動かないクロイヌに向けて、リヴァイアは手を突き出した。
その手のひらに小粒の水があるところを見ると、それで心臓を撃ち抜こうとしているように思える。
「悪いけど、私はセツのように命までは奪わないなんてことしないわ。ちゃんと……死んでね?」
一点集中で水滴が飛び出す。
高速で飛来するそれを、クロイヌはスローモーションのように遅く見ていた。
(参りましたね……ほんとに体が動きません)
〈術〉もすでに間に合わない。
彼女は為すすべなく、自分の胸へと吸い込まれる水弾を眺めていた。
「――――――おいおいやられてんじゃねぇよ犬娘」
「なっ……」
クロイヌが驚きの声を上げた。
突然何者かの声がしたと思えば、目の前まで迫っていた水弾が海面へと叩き落とされる。
声の持ち主はいつの間にか彼女らの間に立っており、脇に二メートルはあるであろう槍を抱えていた。
「あんた……なんで?」
「へっ、さっきぶりだな、海神様よぉ」
リヴァイアは驚き、その男は彼女を知っているかのように声をかけた。
それもそのはず、彼はリヴァイアにとってよく知っているというわけでもないが、少なくとも顔見知りではある男なのだから。
「なるほど……私たちは騙されていたのね」
「騙したなんて人聞きのわりぃこと言わないでくれよ、俺は親切心で話をしてやったんだぜ? おかげであの猫姉妹は救えただろ? それにタダで宿に泊まらせてやったしな」
宿の亭主――――――セツとリヴァイアに情報を提供してくれたその男が、今彼女の前に立ちふさがっている。
不敵な笑みを浮かべているせいで、彼の不気味さが引き立っていた。
「それで、あんたもシロネコたちの命を狙いに来たわけ? 返答次第ではあんたも沈めるわよ?」
「おぉ怖っ! 海神が言うとシャレになんねぇな……まあ安心しろ、俺の目的はあんな猫たちじゃねぇ」
「だったら?」
「薄々気がついてんだろ? ――――――お前だよ、海神リヴァイア」
リヴァイアは自分の名前を出されたことで警戒心を強め、男を無言で睨みつけた。
「驚かねぇところを見るとマジで察してたらしいな……まあ自分の価値をわかっていれば当たり前か」
「……どこまで知っているの?」
「教えてやる義理はねぇが……お前たちの存在の使い方までなら知っているぜ」
不敵な笑みのまま男は言った。
リヴァイアは彼を睨みつけ、状況の悪さに奥歯を噛み締める。
「さて……痛い思いしたくなけりゃ一緒に来てもらおうか――――――」
「――――――面白い話してんな、俺も混ぜろよ」
「っ!?」
男がリヴァイアを連れて行こうと一歩踏み出した瞬間、黒い一閃とともに大きく水飛沫が上がった。
とっさにバックステップで跳び去った男はその何かの直撃を避けることに成功したが、水飛沫を全身で浴びて視界を塞がれる。
「しまっ――――――」
「おらよっ!!」
舞い上がった飛沫を切り裂いた黒い線が、男の胴を浅めに切り裂き赤い飛沫を上げさせる。
苦痛に顔を歪めた彼であったが、追撃が来る前にもう一度大きめのバックステップで距離をとった。
「ッチ……もう治療は終わったのか?」
「ああ、おかげさまで」
飛沫が全て下に落ちると、そこにいたのは先程までミネコの治療を行っていたはずのセツが立っていた。
宿の亭主だった男の腹から血が流れている。
もう少し深く切りつけるつもりだったが思いのほか身体能力がいい。
ダメージにはなったが戦闘不能までは程遠いと見ていいだろう。
「やっぱりてめぇは黒ローブの仲間だったか、どうにも怪しいと思ってたぜ」
「なんだそれ? 初めっから警戒していたとでも言いたいのか?」
「ああ。お前のセリフがどうにも怪しかったからな」
『とりあえず彼女に脅されている限りはシロネコは自由になれねぇ――――――』
「宿屋で話を聞いているとき、正体不明の黒ローブの話をしていたはずなのに、お前は彼女と性別を指摘してみせた。もちろんなんらかの事情で性別を確認できていたのかもしれなかったが、疑うには十分な理由だったぜ」
要するに、推理ドラマや小説にある『犯人にしか知りえない情報』というやつだ。
自分に疑いの目を向けさせないために無理して喋り、思わず
「頭を殴って殺すなんて……」
などという墓穴を掘ってしまうアレだと思っている。
「はっはぁ……なるほど。そりゃ俺が悪かったわ……もう少し発言に気をつけるべきだった。だがそれがなんだ? 警戒ができたとしてもこうして俺の接近を許しちまってんじゃねぇか」
「関係ねぇよ。どの道ここで俺がお前を潰すんだ。どうなったって結果は一緒なんだぜ」
黒丸を二、三回振り回し、片手で中断に構える。
視界の隅で体力を削られたクロイヌがまだ動かないことを確認し、俺は剣先を男へ向けた。
「さて……来いよ」
この一瞬、この一瞬で、俺は巨大な大剣である黒丸を突き出し、男は体重を乗せた槍攻撃を放った――――――
次回、一応の決着。そしてしばしの別れ




