31 放っておけねぇ
「――――――終わったの?」
「ん?」
屋根の上から飛び降りてきたリヴァイアが俺の横に着地する。シロネコは頭を民家にめり込ませたまま動かない。
「なんか動く気配ないけど……」
「……とりあえず引っこ抜いてみるか」
俺はシロネコの巨体に歩み寄り、その頭の毛を握って踏ん張る。俺にとっての僅かな抵抗とともに頭はすっぽ抜け、頭を離してやると鈍い音をたてて地面に横たわった。すると体が光り輝き、元の人型へと戻っていく。
「気絶……してるわね」
「そ、そんな強い力で殴った覚えはねぇんだけど……」
「あなたはいつも加減が下手なんだから……そろそろ自覚しなさい……」
呆れられてしまった……これでも努力はしてるんだぞ?
「でもまいったな、この黒ローブのこと聞きたかったんだが……」
仰向けに倒れているシロネコの黒ローブをパタパタと弄る。やっぱり何度見てもあの影野郎と同じローブだ。こいつが奴らと関わっているのは間違いない。
「一度身ぐるみ剥いで――――――いって!?」
突然頭に何がが当たり、俺は思わず声を上げた。近くに石が落ちているがもしかしてこれか?
「セツ……囲まれてるわよ」
「は?」
俺は辺りを見回して驚く。老若男女の獣人、それが俺たちを取り囲むように立っていた。どうやらここらに住んでいる住人のようだが……
「なんの用だよ」
おそらく石を投げつけてきたやつであろうガキに問う。ガキは怒りの表情で俺たちを睨みつけていた。
「よくもシロネコを!!」
「あ? かかってきたのはこいつだぞ?」
理不尽極まりないことをぬかすガキに俺は反論した。
「殺意を持って突っ込んでくるような奴、さすがにほっとけねェだろ?」
「うるせぇ!! 素直に死んどけってんだ!!」
おい話聞けよおっさん……
俺はガキの後ろで怒鳴り散らすおっさんを睨みつけた。
「なんでそんな態度なのよ……この男はこの子に勝ったのよ? 強い者には尊敬の念を送るのが獣人ではないのかしら?」
「その男を尊敬はしてるわ!! でも今回は話が別よ!!」
リヴァイアの疑問に猫耳を生やしたおばさんが答える。なんだよ話が別って
「てめぇを倒さねぇとシロネコはなぁ!! ……シロネコの……妹はなぁ……」
妹?
なぜか悔しそうに泣き出すおっさんの言葉に疑問を覚える。
「――――――わりぃ、ここからは俺に任せてくれねぇか?」
「てめぇは……」
人垣をかき分けて姿を現したのは、一人の男
「宿の亭主だな?」
「ああ、みんな解散してくれ……どのみち俺たちじゃこいつには勝てないだろ?」
「くっ……」
そう言われた住人たちは、悔しげに顔を伏せながらこの場から一人一人離れていく。どいつもこいつも諦めたような表情してやがるが……
「てめぇが説明してくれんのか?」
「ああ、ちょっと宿まで戻るぞ」
そう言って宿の亭主は、倒れたシロネコを担ぎ宿の方向へ歩きだす。
俺とリヴァイアは顔を見合わせ、とりあえずはコイツについていくことを決めた。
◇ ◇ ◇
「ふむ……やはり主様の愛しの男は規格外ですね……」
宿の亭主についていくセツを、少し離れた民家の屋根の上から眺めている者がいた。声は高く、黒いローブを着てフードをかぶっているが、その特有の丸みから女性であることがわかる。
「それにしても、こうも簡単にやられてしまったらさすがに処分せざるを得ませんね」
クロイヌは担がれ運ばれているシロネコに目線を向けながら、残酷な判断を下す。実際のところ、負けたら処分しろと命令されているわけではないのだが、冬真に対して忠誠心が高い部類に入る彼女からすれば、負けた時点で役立たずとみなすには十分な理由である。そしてクロイヌという女は、彼の役に立たないものは存在してはいけないと考える女だ。
「そうだ……どうせならば厄介な妹とともに処分してしまいましょう。役立たずには罰を……」
そう言い残したクロイヌは、軽い身のこなしで夜の街に消えていった――――――
◇ ◇ ◇
「――――――妹?」
「ああ、シロネコには一人の妹がいる」
俺たちが泊まることにした宿、その一室に俺たちは集まっていた。亭主と俺たちは椅子に座り、シロネコはこの部屋のベッドに寝かせてある。
「そいつがどうしたって?」
「……人質に取られてんだよ、妹のミネコがな」
「それは誰にだ?」
「黒ローブを着た連中だった。この街で頻繁に見かけられていた奴で、どいつもこいつも得体の知れない雰囲気が漂っていたぜ」
やっぱり……黒ローブの連中か。
「人質っても連れ去られているわけじゃねぇ」
「どういうことよ」
「ミネコは病気でな、徐々に体の力が失われていくっていう治る見込みのないものらしい。その進行を遅らせる薬ってのがあるらしいんだが……」
「……なるほど、それを持っているのが黒ローブどもってとこか?」
「ご明察だ。そして今回こいつに出された指令が、お前を襲撃することだったらしい」
ってことはシロネコは、俺を襲いたくって襲ったわけじゃねぇってことか。わざわざ俺を狙ってくるなんて、やっぱり黒ローブのリーダーは……考えたくねぇけど――――――
「? 顔色悪いわね、セツ」
「……ああ、ちょっと思い出したくねぇ奴の顔を思い出しちまっただけだ」
「話を続けるが大丈夫か?」
俺は頭を振って悪い考えを払う。別にやつが生きていると決まったわけでもねぇ、確証がないうちは気にしない方がいい。
「ああ、続きを頼む」
「わかった。それで俺たちはこいつに協力を求められたんだよ。シロネコはこの一帯じゃ最強に近いからな、こいつの役に立てるならってみんな食いついたよ」
「それで避難したりしてたのね?」
「ああ、結局みんなこいつが心配で隠れてたみたいだがな」
なるほど、だからすぐに取り囲まれちまったわけだな。
「俺もお前らをシロネコに売っちまった、宿の亭主としては最低だったと思う。すまなかったな」
「それはもういいんだが……にしてもやけにシロネコの肩を持つやつが多いような気がしたんだが……」
「妹のミネコも関わってるからな……シロネコとミネコはその抜群に合った息が特徴なんだ。その二人のタッグは獣王様に傷をつけられるほどだ」
ほぉ……そりゃすげぇな。獣王に傷をつけられるってことは、この世界においてSSS級以上の実力があるということの証明になる。人間の国であるディスティニア以外のこの世界の王は、両方とも規格外だからだ。二人にはSSS級数人がかりでかかってもおそらく倒せない。そしてSSS級一人じゃ傷すら負わせられないんだ。ここまで言えば、二人の実力はわかりやすいだろう。
まあ俺はそんな王が二人がかりできても負けるつもりはないが……ケガくらいは負うだろうな。
「二人で最強となれば、俺たちも両方を尊敬するしかねぇだろ?」
「まあ……そうだな」
「とりあえず彼女に脅されている限りはシロネコは自由になれねぇ……ある日突然病気が治ったりするなら話は別だろうが……」
「……」
俺は黙って立ち上がり、シロネコへと歩み寄る。規則正しい寝息をたてている目の前の少女は、まだ成熟しきっていない幼さの塊のようだ。俺はそれをすっと抱える。お姫様抱っこってやつだな。それにしても軽い、なのにどうして強いのだろうか? 多分俺はこの世界に来て何度もこの疑問を抱いただろう。旅の仲間だったエルカやティア、魔王であるデザス、弟子のアリゼ。どいつもこいつもどこにあんなパワーを持っているのだろうか?
ん? リヴァイア? 本体はそれに似合った質量を持ってるからノーカンです。
「なあ、こいつらの家ってどこにある?」
「ま、街外れにあるが……シロネコをそこへ運ぶ気か?」
「ああ。ちょいと気になることもできたからな。リヴァイア、行くぞ」
空は薄らと白み始めている。だいぶ話していたようだな、夜が明けちまいそうだ。幸いにも昼寝をたっぷりとっていたため眠くはない。
「ええ……」
「今から歩き出しゃその妹が起き出す時間くらいにはつけんだろ」
どうせ起きてねぇだろうから急ぐ必要はねぇ。けど……考えたいことがいくつかある。整理するためにも少し歩きたい。
「んじゃ亭主、俺たち行くわ。まさかお客を売っておいて金は取らねぇよな?」
「へっ……まあな」
ちっ、逃げられたか――――――とでも言いたげな表情で顔を背けられた。その商売根性は中々のものだと思うぞ?
俺とリヴァイアは苦笑いを浮かべつつ、宿を後にする。腕が疲れるからお姫様抱っこをやめてシロネコを背負い、静まり返った街を歩く。
「どうしてその子の家に向かうの?」
横を歩くリヴァイアが、シロネコの寝顔をのぞきながら聞いてくる。
「……俺だったら、その妹を助けられるかもしれねぇと思ってな」
「はぁ……そういうことね」
俺の答えに呆れたようにため息をつかれてしまった。それもそのはず、数日前にあまりやるなと言われたことを、再びやろうとしているのだから。
「もう止めないわよ……無駄みたいだしね……」
「わりぃな。でも――――――一つの家族を守ってやるくらいいいだろ?」
目の前で苦しむ家族を見捨てることは……できねぇよな――――――
次回、ミネコとの対面
最近ありがたいお話をいただきました。今後の活動報告をお楽しみに




