28 獣人大陸へ
今回から新章……?ってことになりそうです。
導入みたいなものなので短め
――――――獣人大陸……主に人と獣が合わさったような種族、獣人が暮らす大陸である。
獣人は獣同然の獰猛さや本能を持っている。
人間や魔族よりも身体能力は高いが、代わりに魔力量は多くない。
代わりにとは言ったが、魔法という便利なものが使えない、或いは使いにくいというのは相当なハンデである。
そのハンデを補うために、獣人たちは自分の種族に合った特殊なスキルが備わっていたりする。
猫族ならば体の柔軟さ、脚力、爪などを強化できたり、犬族ならば嗅覚や脚力、特殊な声帯などをスキルによって得られる。
彼らはそれらを駆使して他種族と渡り合ってきた。
もはや魔法が使えないからといって彼らを侮る種族は存在しない。
そんな獣人たちのこの大陸に、今一人の獣人が足をつけた。
体を黒いローブで隠し、頭はフードを被っているので薄ら口元が見える程度である。
口元から判断すると、性別はおそらく女。
体型が小さいことから、幼い印象を受ける。
彼女は獣人大陸の港町、〈レオポート〉を歩き始めた瞬間に、そのフードを取った。
頭についているはピンとたった白い猫耳、そして彼女の髪自身も白くなっている。
顔はまだ幼く、日本で言う中学生程度、しばらくセツと行動を共にしていたルリと同い年程度に見える。
そんな彼女に、漁でとれた魚を売っている店のオヤジの声がかけられる。
「おう! シロネコちゃんじゃねぇか! 今さっきとれたやつ持ってけよ!」
「もらうです」
シロネコと呼ばれた黒ローブを着た少女に、ピチピチといまだに動いている新鮮な魚が投げ渡される。
「お! シロネコちゃんじゃぁないかい! うちの野菜持って行きな!」
「もらうです」
今度は八百屋のおばさんに数種類の野菜を投げられる。
彼女はすべてを手の中に収めた。
「おっと! シロネコじゃねぇか! うちの肉持ってけよ!」
「もら……わないです」
「好き嫌いはよくねぇぞ!」
「わ、わかったです」
腕の中で山盛りとなった荷物の上に、肉屋の店員によりあらたな肉という荷物が置かれる。
シロネコは嫌な顔をしたが、どうにか堪えて再び歩き出す。
彼女が街を行くと、誰かしらが挨拶をしてきていた。
それはシロネコが現状この街で一番強いからである。
獣人の本能は、自分より強いものを好くというものだ。
そのため街の住人は、彼女を尊敬し、好いている。
尊敬している割には対応が子供扱いのような気がしてならないが、彼女の見た目のせいだろう。
シロネコは大量の荷物を抱え、町の外れにある小さな小屋に向かった。
「ただいまです」
器用に足を使って小屋のドアを開けると、荷物を落とさぬよう慎重にその中に入った。
中はせいぜい二人暮らしができるかどうかという広さで、余計な家具は一切ない。
これが街の人気者であるシロネコの家である。
「ミネコ、今帰ったのです」
シロネコがせまい部屋に置かれたベッドの上にいる少女に声をかけた。
「おかえりなさい、お姉ちゃん」
ベッドで横になっていたミネコと呼ばれた長い黒髪の少女は、声に反応して体を起こす。
見たところ年齢はシロネコより上に見える。
長い黒髪は乱れ所々跳ねているが、それが絶妙なあどけなさを誇り、整った顔は逆に大人っぽさを感じる。
そして頭に生えた黒い猫耳が愛らしい。
しかしどう捉えてもシロネコの方が姉ということは見た目じゃわからないだろう。
「起きなくていいです」
「今日は気分がいいので大丈夫ですよ」
そう言うミネコの表情は明るかったが、体は弱っているように見えた。
それもそのはず、彼女は現在病に侵されている。
徐々に体が弱っていく病であり、発生源は不明。
街の医者もお手上げで、ミネコの病はかれこれ数年間治る見込みが掴めないでいた。
「とりあえず今日も薬を飲むのです。昨日なくなったから今日は新しいのをもらってきたのです」
「いつもごめんなさい……お姉ちゃん」
「妹なんだから甘えていいんです。ミネコを治す方法は絶対私が見つけるのです。それまでは……頑張って耐えるのです」
「……はい」
ミネコは笑う。
シロネコは少々無愛想な娘であったが、この時だけは少し悲しげな笑顔を浮かべていた。
シロネコが着ていたローブの懐から黒い粒の入ったビンを取り出す。
それを開け、手の上に一粒落とす。
大きさは日本にある錠剤ほどだ。
「飲むのです」
「はい……」
簡単な水魔法で創られた水とともに、黒い粒がミネコの中へと落ちていった。
「……絶対にあなたを元気な体に戻してあげるのです。こんな症状を遅らせるだけの薬じゃなくて、ちゃんとした薬を見つけてくるのです」
「お姉ちゃん……無茶はしないでくださいね?
「しないのです。私は――――――強いです」
シロネコが強い目でミネコを見つめる。
その時、シロネコの耳がピクリと何かに反応した。
「……ちょっと仕事が入ったのです。少しの間留守にしするので、ミネコは寝ているのです」
「はい、お姉ちゃん」
彼女はそっとミネコの髪を一撫でして、家を後にする。
再び港街を歩きだすシロネコは、真っ直ぐ海の方向を睨みつけていた。
最愛の家族である妹を助けるため、彼女は今日、一人の男に牙を向く――――――
◇ ◇ ◇
「見えてきたわよ――――――獣人大陸」
「ん……おお」
海を進むリヴァイアの頭の上で寝っ転がっていた俺は、前方に見えてきた大陸に懐かしさを感じ、思わず間抜けな声をもらす。
「うっへぇ、なっつかしいな」
「私獣臭いの得意じゃないんだけど……」
「我慢をしろ我慢を……お前猫耳に犬耳だぞ?」
「それがなんなのよ……」
こいつはどうやら獣耳の良さがわからないようだ。
お前もつけたら可愛さ二割増だってのに勿体無い。
「とりあえず、獣人大陸に到着したら真っ直ぐ獣王を尋ねるの?」
「ああ、早々にめんどくせぇ戦争を終わらせて、この世界を過ごしやすくしてやる。
……んで、アリゼたちを探し出す」
「……そうね」
アリゼの村の人々が、範囲召喚によってどこかへ飛ばされたことは確認できた。
あの後必死こいて村を探索したが、結局人っ子一人発見できなかった。
ほんの少し村の周りを探索したが、あいつらはいなかった。
攫われたことはわかった。
問題はどこに、だ。
「……獣人大陸にいりゃあいいんだがなぁ……」
俺はそっと呟き、拳を握り締める。
「――――――ついたわ」
港街から離れた人気のない海岸に、俺は足をつけた。
リヴァイアも目立つ前に人型へと姿を変えている。
「あの村をでて5日ってとこかぁ! とりあえず久々にベッドで寝てぇな、ここ最近野宿しかしてねぇし」
「いいわね、ふかふかのベッド好きよ」
「んじゃちょっと豪華なとこに泊まってみるか!」
意気揚々と歩きだす俺の後ろにリヴァイアがついて歩く。
獣人大陸の空気は人間大陸とも魔族大陸とも違う。
少々獣臭い感じはするが、慣れれば苦になるどころか落ち着いてくる。
久々なこの場の空気を吸いながら進み始めるが、俺たちは三歩で足を止めることになった。
「にゃー」
「へ?」
「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」「にゃー」
目の前にズラーっと並ぶネコ、ネコ、ネコ、ヌコ、ネコ……
小さいものから大きいものまでのあらゆる種類のネコたちが、全員で俺たちを見ている。
なぜ到着早々ネコに歓迎されることになってんだ……――――――
次回、白い猫




