26 大食い
投稿ペースキープのため、展開が遅いです。
「さて……と」
俺は地面に横たわった外傷が一切ないラーメルの体を眺める。折れ曲がっていた腕は元に戻り、裂けていた肉も何事もなかったかのように元通りだ。
「鎧は邪魔だな」
体を包んでいた鎧を外し、胸部を手を置く。
「戻って……くりゃいいけど」
実はこの方法、ちゃんとした確証があるわけではない。今まで失敗したことはないが、やった回数を数えてもたったの数回だ。万が一もある。
……ま、それでも弟子の悲しい顔はあんまり見たくねぇわけで……
「俺も気合入れっから、お前も気張れ……」
ラーメルの胸の上で手のひらを組み合わせ、膝立ちになる。医療ドラマの主人公になった気持ちを味わいつつ、そのまま心臓マッサージを開始した――――――
◇ ◇ ◇
「――――――ラーメル!!」
しばらくして俺がラーメルを負ぶさりながら帰ってくると、一目散にアリゼが駆けてきた。顔が相当疲れているから、かなり心配してたんだろうな。
「師匠……ラーメルは……?」
「ああ……とりあえず大丈夫だ、心臓も動き出した」
ラーメルの心臓は決して大きくない鼓動を刻んでいる。静かな呼吸を行っていることから、アリゼも安心したように息を吐いた。
「ありがとうございます……師匠」
「なぁに、弟子の恋人だ。これくらいはしてやるよ」
「ま、まだ恋人じゃありません!!」
へぇ、まだ……ね。
俺がニヤニヤしていると、アリゼは顔を真っ赤にしてラーメルを奪い取り、お姫様抱っこで抱えながら離れていってしまった。なんだよちょっとからかっただけじゃねぇか。
「おーい、まだ寝かしといてやれよー。かなり衰弱してんだかんな!」
失った血や体力は残念なことに戻せない。もう危険な状態になることはないと思うが、いまだにラーメルの顔色は悪い。
「わ……わかってます! あの……それで師匠――――――」
「ん?」
「――――――一体、先ほどの薬はいくらでしょう?」
相当お高いのでは――――――とアリゼは聞いてきた。うーむ……別に正直に何をしたか言ってもいいんだが、ドン引きされんだろうな……それになんでもかんでも蘇生できるなんて思われても困る。
「自家製だから大した値段じゃねぇよ、まあ一つしかねぇやつだけどな」
「それなら!」
「いいんだよ。本当だったらねぇほうがいい薬なんだ、作った俺自身が扱いに困ってたんだよ。死者を生き返らせるなんて普通に考えて禁忌だろ?」
「確かに……そうですが」
「だからこれっきりだ。もうあの薬は作らねぇし、もうこんな風に命を弄んだりしねぇよ。だから今回は、『ラーメルは死んでなかった、回復魔法で傷も治った。だから代償はなし』ってことにしておけ」
「……わかりました」
少し納得のいっていない表情で、アリゼは離れていった。村から逃げていた連中も戻り始め、壊れた門や抉れた地面に目を向けなければ、村本来の姿に戻り始めていると言ってもいいだろう。
「――――――あれを使ったのね」
「リヴァイア……」
リヴァイアが歩いてくる。表情は若干怒っているようにも見えた。
「アーメルは?」
「村人たちのところよ」
「そうか……」
「それで、あれを使ったのね」
少し攻めた口調に変わる。
「……ああ。なんでわかった?」
「あなたの魔力がほとんどないんだもの、すぐにわかったわ。前もそうだったもの」
……まいったなこりゃ。バレバレじゃねぇの
「一度起こすと満腹になるまで止まらない――――――〈異形型〉の聖剣、〈大食い〉……大方ラーメルの傷をすべて食わせたんでしょうけど、それだけじゃ満腹にならないことぐらいわかるわ。今日は何を犠牲にしたの?」
「そんな大したもん食わせてねぇよ……魔力くらいだ」
「嘘ね、バレバレよ?」
そうだったな、俺はポーカーフェイスが苦手だったことを思い出したわ。
――――――〈異形型〉の聖剣、〈大食い〉、俺がこの世に勇者として召喚された際に目覚めた力。かつて一緒に召喚されたやつや、クラスメイトの光真のような〈エクスカリバー型〉とは違う、禍々しくて、どちらかといえば魔王なんかが使ってそうな剣だ。
〈エクスカリバー型〉と〈異形型〉の違いは、見た目もさることながら、その能力にも大きな違いがある。前者は身体能力、魔力の底上げや光属性大幅強化等の能力。後者は、身体能力強化、魔力の底上げや属性強化がない代わりに、何かしらの強力な能力を持っている。俺の〈大食い〉の能力は、そのままの意味で「なんでも食べる」。ひと振りすれば空間を食べさせることもできるし、加減しだいで敵の体力だけを食べさせることもできる。今回はラーメルの傷を食べさせ、体を修復し、心臓に再び刺激を与えることで蘇生させることができた。
けれどこの方法、かなり条件がシビアなのだ。
まず、四肢の欠損は戻せない。そして血も、体力も。だから今回はかなりギリギリだった。ラーメルの出血がかなり多かったからだ。いくら無傷の状態に戻せても、血がなければどうしようもない。ラーメルも間に合わなかった可能性は大いにあった。
そして――――――一番大切なこと
〈異形型〉は、その強力な能力故に代償も大きい。
〈大食い〉の場合は、剣が満腹になるまで食わせないと辺り一面を食い尽くしてしまう。ほんのちょっと何かを食わせて放置すれば、自分の周りは何もなくなるだろう。今回の場合でも、俺が追加で何かを食わせてなければ村ごと消滅していたと思われる。
〈大食い〉を満腹にさせるために俺が食わせたもの……それはほとんどの魔力と、最初に召喚されるまでの記憶、つまりは日本で暮らしていた前世の記憶だ。そのせいで俺は、初めてこの世界に召喚された時より前の出来事を思い出せない。当時の家族も、友人の顔も浮かんでこなかった。
「記憶――――――そう、あなたはそれでよかったのね?」
「ああ、その時の俺こそすでに死んでる存在なんだからな」
元々前世の記憶を持っているということはおかしいことなんだ。正確に言えば、生まれ変わったのはエクレールから送還された時だが、個人的には召喚された瞬間に死んだようなものだと俺は思っている。それにもう当時の記憶が必要になることはない。寂しいことには寂しいが、なくなっても問題がなかったことは本当だ。
「私の魔力も使ってくれれば……そんなことしなくても済んだんじゃない?」
「あー……そうかもな」
「もう少し周りを頼りなさいよ……あなたはいくらなんでも抱え込みすぎだわ。強いからって……そんなに抱え込む必要はないのよ?」
「でも……」
「それに私だって弱くないの、あなたに抱えられてるだけなんてゴメンだわ」
そう言いながらリヴァイアは俺の胸に手を置き、魔力を送り込んでくる。減っていた俺の魔力にリヴァイアの魔力が注がれ、ある程度まで元に戻る。
……なんか、リヴァイアにハッとさせられてしまった。どうして俺はこんな強い女を「守らないと」って考えていたのかと……
大切だからそりゃ守るのは当然、けれど、こいつは――――――こいつらは、俺に守られているだけの存在じゃない。強いんだ、俺が思っているより。
「はっ……なんだよ……心強いじゃん」
「そうよ? なんたって私は海神なんだから!」
俺の胸から手を離して笑うコイツの笑顔はめちゃくちゃ輝いて見えた。
ま、たまには心配されたり守られたりすんのも悪くねぇのかもな――――――
次回、再出発




