23 ドラゴン襲来
「よっと!」
「グギャァァ!」
適当に黒丸を振り回すだけで、数体のリザードマンの命を断つ。こんなものただの作業だ、まあ無双をしていると思えば楽しくはある。
「まあさすがに遊びも飽きたな、こりゃ」
それでもうじゃうじゃといるこいつらに嫌気がさしてくるってもんだ。もう当分ウロコは見たくねぇな。
「うっし、さっさと元凶を潰してくっか!」
俺は群がり続けるリザードマンどもを、黒丸で回転切りを放つことでなぎ払う。そうしてできた時間で、俺は足に力を込め思いっきり跳んだ。
着地地点で奴らを再びなぎ払い、その場に足をつけて再び跳躍。もう一度それを繰り返し、木々に隠れた崖にできた洞窟の前へとたどり着いた。
穴の周りは特にこいつらの密度が多い。黒丸を二、三回振り回してまとめて切り捨てるが、中からうじゃうじゃ出てきやがる。やっぱり無限湧きかな、これは。
(なら……一点突破だな)
スローモーションにしか見えないリザードマンの攻撃をくぐって躱すと、俺は再び足に力を込め、先ほど上へ跳んだ時とは違い、真正面へ思いっきり跳ぶ。地面を蹴る破裂音とともに俺の体は押し出され、正面へ突き出した黒丸が、立ちふさがるリザードマンたちをことごとく破壊していく。
竜の巣は竜が住むとだけあってかなりでかい。入口も相当なものだったが、奥行は野球ができそうなくらいに広い。普通こんだけの穴が空いてれば崩れそうなものだが、所々竜のウロコが埋め込まれており、それによって穴は補強されている。今まで竜の巣が崩れたという話を聞かないことから、きっとこの穴もかなりの強度なんだろう。これなら少しくらいは暴れても良さそうなもんだが……
「……なんじゃこりゃ」
竜の巣の奥地。あれから何度も地面を蹴ってここまでこれたんだが、ここにあったのは紫色の球体。大きさは俺の半身ほどで、どことなく禍々しい気配を感じる。
(すげぇ魔力の量だな……魔力溜りに匹敵してるか?)
魔力溜りっていう空気中の魔力が溜まってしまう現象がある。それが起こると近くの魔物が強くなったり、大量に湧いたりするんだが……
(こいつは魔力溜りと違う……溜まった魔力が多すぎるし、何よりリザードマンしか現れないのはおかしい)
明らかに人為的な何かだ。どう考えても自然に発生するもんじゃないし、あまりにもこの球体は完成しすぎている。魔力溜りはもっと不安定で、強風が吹いただけで消えちまうものさえある……それを考えると、この丸く整った形で安定しているこれの異常性がわかるだろう。
――――――っと、考えるのは後だな。
「グギィ!!」
「うっとおしい!!」
頭も使わずただ曲刀を振り回すリザードマンの首を飛ばす。
ひとまずあの球体をなんとかしてみなきゃな、斬れば止まるか?
俺は剣を高く振り上げ、黒丸へ軽く魔力を流す。
「飛剣……よいしょォ!!」
力いっぱいそれを振り下ろすと、剣から衝撃波のようなものが飛んでいくことが目に見えてわかる。
飛剣――――――名前の通り、剣を飛ばす技だ。正確には斬撃をだが……
この世界じゃ魔力を使えば斬撃を飛ばすこと自体は簡単で、ある程度魔力と剣術が育てば誰でも使える。まあこのめちゃくちゃ高い天井すら切り裂くレベルの奴らは、そうはいないと言っておく。
地面をえぐりながら進む斬撃は、立ちはだかるリザードマンどもを破壊し、時に吹き飛ばしながら球体に迫り、それをそのまま両断した。
二つに分かれた紫の球体は空中で霧散し、溜め込んでいた魔力を爆散させながら消え去った。
……と、同時に。
「……周りのリザードマンまで消えやがった……どうなってんだ?」
目の前の光景に少し呆然としてしまう。あれだけいたリザードマンたちは、もはや見る影もなく、ここにあるのは俺がつけた天井にまで届く斬撃痕のみ。
これも普通では考えられない。魔力溜りの影響で出現した魔物は、魔力溜りが消えたからってそいつが消えることは当然ない。現れた魔物と魔力溜りは、魔物が出現した瞬間に関係性が切れるからだ。
だが今回の場合はどうだ? 魔力溜りが消えれば、それによって生み出された魔物も消えるなんて現象初めて見たぞ? やっぱりなんかしらの手が加わっているとしか思えないな……
「まあ……グダグダここで考えてても仕方ねぇか……」
とりあえずはやることをやった報告をすべきだろう。この巣の後始末はしなくていいか、どうせ浮いてる魔力はそのうち溶け込むしな。
ちょいと時間をかけた気がするため、俺は少々早歩きになりつつ、リヴァイアとアーメルの待つところへと戻った。
◇ ◇ ◇
「セツッ!!」
「あ?」
リザードマンの素材回収すれば残ったかなぁ……なんて貧乏性なこと考えつつ戻ると、向こうからリヴァイアとアーメルが駆けてきていた。
リヴァイアが少々焦り気味で、アーメルに至っては顔面蒼白だ。そのことから、ただ事じゃないことが起こったことは理解できる。
「何があった?」
「……ドラゴンよ」
「……は?」
「だから! この巣の持ち主のドラゴンが帰ってきたの!! しかも村の方へ飛んでいったわ!!」
……そいつはちょっとマズイな。
大方、巣が見知らぬリザードマンで溢れてて、人間の仕業だと思い込んだとか――――そんなところだろ?
とばっちりで村壊滅なんてたまったもんじゃねぇな。なによりハチミツ酒が危ない。
「ほんとブレないわねぇ!! それなら早く戻らないとまずいでしょ!?」
「ああ!! ちゃっちゃともどるぞ!!」
俺は恐怖で僅かに震えているアーメルを担ぎ、全力で地面を蹴って走り出した。結構距離があるが、俺の全力ならすぐだ。
(っち……あの中に魔力が溜まりすぎてて全然外の様子に気付かなかった……)
あの球体さえ壊してなかったら、ドラゴンの出現に気づけていただろう。今更どうしようもないが、あまりにもタイミングが悪すぎる。
何かの策略なんじゃないかと思うくらい――――――
「今は考えてる場合でもねぇか……っ!」
俺は地面が陥没するほど強く蹴りこみ、さらに加速する。アリゼがいる以上は大丈夫だとは思いたいが……
◇ ◇ ◇
「リザードマンたちが……」
「……消えたな、どうやったのかは分からないが……さすが師匠だ」
「……」
セツたちが竜出現で焦っている頃、村では久々の平和な時間が過ぎていた。それもそのはず――――――今まで村の周りにいた魔物どもが、一瞬にして姿を消したのだ。村は大喜びで宴の準備をしているし、アリゼもラーメルも心底安心していた。
「む? なにやら不機嫌だな。せっかく村が平和になったんだぞ?」
「……アリゼさんにはわかりませんよ」
実は彼女がセツのことを語るたびに、ラーメルの機嫌が悪くなっているのだが。これは恋する男の仕方のない感情である。実際のところ、アリゼにあるのはセツへの尊敬で、それ以上でもそれ以下でもないのだが、こういう時の男は複雑なのだ。
「? よくわからないな。まあいい、そろそろ私たちもあがるか。もうリザードマンの驚異はなくなったようだし」
「油断は危険ですよアリゼさん!」
自分よりもランクの低い男に注意され、アリゼは微妙に顔を歪める。アリゼがあがろうといったのは決して油断ではなく、周囲の魔物の気配が完全に消え去ったから故の言葉なのだが、まだ未熟な彼にとっては油断としか取れなかったんだろう。
「だが魔物の気配はすでに――――――」
「ならば自分は今しばらく門前にいます! アリゼさんは先に休憩を挟んでください!」
このわからず屋が! と怒りそうになるのをなんとか抑える。彼女的には、このまま二人でお茶でもしながら、セツたちの帰還を待とうと提案したかったのだが、アリゼに頼れる部分を見せたいラーメルは居座る方向へ話を進めてしまった。またとないチャンスを棒に振ってしまったことを、彼はまだ知らない。
「そうか……わかった」
彼と過ごせないというのを残念に思い、逆にどうしてそんな風に思うのだろうかと真剣に考えつつ、アリゼはその場を後にする。考えれば常にラーメルとともに過ごしていた気がするなと彼女は思った。アリゼは、自分がだんだんとラーメルに惹かれていたということを自覚していない。それが完全な恋心となっていることも気づいていない。そういう経験がないせいで、彼女は無自覚にかなりの鈍感さを誇っていたわけだ。
(そういえば、師匠に渡す酒の準備もしなければ……)
唐突にそのことを思い出し、彼女の思考は中断される。あの家のは美味しかったななどと考えつつ、村の中を歩き始めた――――――その時
ゾクッ!
「っ!?」
突如彼女の全身に悪寒が走る。とんでもない気配が近づいてきている……そのことが直ぐにわかった。思わず振り返ると、竜の巣のある方向……そこから一つの影が空を飛び、こちらへ向かってきている。
「ど……ドラ…………ゴン……」
アリゼは思わず自身の肩を押さえる。かつての古傷がひどく痛むのだ。
……彼女にとってドラゴンは、トラウマの原因であり、そして……
絶望の象徴である。
次回、いろんな意味での力の差




