21 村にいた弟子
少々体調を崩しておりました。投稿を再開いたします
前回のアーメルのランクを変更しました D級 ⇒ C級
魔族大陸にある森の中でも、比較的大陸の中心にある森の中に、とある驚異に襲われている村があった。
「――――ッ! 交代だ!!」
「おう!!」
「グリャァァァァ!!」
鎧を身にまとった屈強な男が、指示とともに後ろへ下がる。そこにすかざす別の兵士が飛び込み、目の前で叫び声を上げる異形の剣を受け止めた。振り下ろされた一撃は重く、兵士は思わず膝を折りかける。
異形の後ろには、同じく異形たちが行列を作っていた。その異形の名は〈リザードマン〉――――――竜の巣を守るモノとして知られているB級の魔物だ。2メートル半はあるかと思われる身長に、ウロコに包まれた胴体から伸びる腕は太く、その手には曲刀が握られている。頭部の形はまさしく竜であり、鋭い歯の間から涎を垂らしていた。
リザードマンたちは現在、とある村を襲っていた。だが村にいたA級冒険者の指示により、迅速な対応が行われてしまったせいで、こうして村を目の前にして攻めきれないでいる。
その対応というのが、土魔法で攻めるための入口を狭めるといった手段だ。村は数日前セツたちが訪れた村同様、その周りを壁で覆っていた。住人が優秀なのか、その強度も申し分ない。その壁を通過するための入口は、村正面の門のみ。つまりはそこさえ押さえれば、この村は守りきれる。
「そのまま動くなラーメル!!」
「ッ! アリゼさん!」
膝をつきつつも、リザードマンの一撃を抑え続けるラーメルと呼ばれた青年に、その後ろから来たレイピアを構える女性が声をかける。ラーメルは言われた通りに動きを止め、アリゼと呼ばれたレイピアを持つ女性は、自分に宿る魔力を高めつつ詠唱を開始した。
「荒ぶる怒りの業火で敵を焼き貫け!! 〈炎の槍〉!!」
突き出された手から放たれた巨大な炎の槍は、ラーメルの頭上、リザードマンの頭を抉りとり、その後ろに構えていた同個体たちもまとめて貫いた。
「流石ですアリゼさん!!」
「褒められるのは嬉しいが今はあとだ!! 援護を頼む!!」
「はい!!」
アリゼは銀色の光沢を持つレイピアでリザードマンを始末していく。時に魔法を駆使して炎を放ち、攻め込んできたリザードマンの数を減らしていく。
彼女こそが、この村唯一のA級冒険者にして専属兵士のアリゼ・イフリール。彼女が防衛に出てくる時間、それはリザードマンにとって絶望の時間である。
◇ ◇ ◇
「てやっ!」
「ギィ!!」
アーメルの短刀が、E級魔物であるゴブリンのこめかみを捉え、絶命させる。C級冒険者なだけあってその身のこなしは割と軽やかだ。短刀使いというのもそれを目立たせており、動きも見ていて気持ちいい。
「さすがの短刀捌きだな」
「ふぅ……ありがと」
俺は一息ついたアーメルへ声をかける。街を出発して二日は経っているから、こいつも随分と俺たちと打ち解けた。無理して使っていた敬語をやめ、普通の口調で話しているのが証拠だ。
現在俺たちは鬱蒼とした森の中を進んでいる。アーメルの村へは片道三日程度で、ペースを上げれば二日とちょっとで着く。幸い魔物も大した強さではないため、こうしてアーメルだけでも十分だ。
そして順調に進めた故に、目的地はもうすぐ目の前だという。
「待ってろハチミツ酒、すぐに助けてやる」
「あんたずっとそればっかりね……」
そう呆れるなリヴァイアよ、お前もあれを飲めばきっとハマるから。
「村……無事だといいんだけど……」
「大丈夫だろ、その守り方なら」
アーメル曰く、村は前訪れた村同様壁に囲まれており、入口は正面の一つ。その入口を土魔法で細く伸ばし、リザードマン一匹ほどの大きさに絞る。やつらの知能は大したことがなく、一匹でも通れる穴があるならば、その周りの壁を壊そうとしない。逆に全て囲ってしまうと、中に入るためにそれを壊されてしまう。村唯一の元A級冒険者のアリゼとやらが考え出した案らしい、中々に優秀だ。
けどアリゼって名前……どっかで聞いたことがあるんだよなぁ……
「なあ、そのアリゼってどんなやつ?」
「え? んっと、真っ赤な髪の美人でレイピア使いで……火属性魔法が得意で……」
――――――ちょっと知り合いに似てんなぁ……
「それですごく優しくて……かっこよくて、凛々しくて、慎みがあって……すごい憧れてるんだぁ」
――――――ん? やっぱり知り合いじゃなさそうだ。俺の知ってるアリゼってやつは凶暴で生意気な小娘だったからな、それにあいつはA級程度の実力じゃねぇし。元気にしてんといいけど。
「おっと……見えてきたよ二人共、あれが私の村」
森の中に見えてきたのは土の壁。魔族大陸にある村ならどこにでもある典型的な形の壁だ。
自然と早足になっていくアーメルについて村の正面に向かう。
正面近くまで来ると、村を襲う魔物どもの姿がよく見える。
「アリみたいにわらわらいやがんなぁ……ま、とりあえずは村の安全を確保すっか」
「え?」
俺がそう言うと、アーメルがなんで? と言いたげな顔で振り向いてくる。このまま竜の巣へ直行してほしかったのかもしれないが、俺が戦いに行っている間に村全滅なんてありえなくないからな。それじゃハチミツ酒は飲めない。
俺は魔法袋から黒丸を抜き放ち、アーメルを追い越してリザードマンへと飛びかかる。
「アリ退治だ!!」
こっちに気づいたやつからどんどん切り捨てていく。竜の鱗なんて黒丸の前じゃあってないようなもので、ひと振りで数体の首を切り飛ばす。
「グギャオ!!」
逆に、振り下ろされたリザードマンの曲刀は当たらず、無情にも空を切る。そして次の瞬間には胴を切られ絶命。そんな殺戮がしばらく進むと、俺の周りにあった魔物の姿は消えていた。
「――――――こ、これは何が……」
近くのリザードマンをすべて処理すると、村の方から青年が唖然としながら歩いてきた。その後ろに赤いウェーブのかかった髪の女がついてくる。
「お兄ちゃん!」
「うおっ!? あ、アーメル!?」
ようやく俺に追いついたアーメルが、青年に飛びつく。青年はたたら踏みつつも彼女を受け止め、驚いた顔で彼女を見た。お兄ちゃんって言葉からすると、どうやら兄弟みたいだな。よく見れば顔立ちも似ている。
「君がこのリザードマンをやったのか?」
「ああ」
赤い髪の女が俺に話しかけてくる。
――――――やっぱりこいつ俺の知り合いな気がするなぁ。
「そうか、君がアーメルが探してくるといった冒険者か。さきほどの戦いから見るとS級以上の実力はあるようだな」
「まあな。ところでお前――――――泣き虫アリゼか?」
俺がそう聞くと、女は突然顔を真っ赤にし、持っていたレイピアを構えた。
「き、貴様ぁ……どこでその名を知ったァァァァァァァ!!!!」
「ちょっ!? アリゼさん!?」
さきほどの凛とした空気から一新、髪が浮き上がるほどの怒り……というか羞恥を受け、アリゼは踏み込みとともに渾身の突きを繰り出した。
「おっと」
俺はそれを左手の指で挟み、横へと逸らす。勢いのまま突っ込んできたアリゼの足を払い、そのまま地べたに這い蹲らせた。そして立ち上がろうと四つん這いになったアリゼの上に腰を下ろしてやる。
「貴様!! こんな屈辱を味あわせておいてただで済むと――――――」
「いつから師匠に剣を向けられるようになったんだよ。この泣き虫が」
「くっ……またもその名を……ん? 師匠?」
「前からお前は手当たり次第にレイピア振り回して迷惑かけたっけな、んで怒られるとすぐ涙目になって。逆に褒めてやると嬉し泣きするしよ……まったく」
「まままままままさか……あなた様は……セツ師匠?」
俺は立ち上がり、黒丸をずいっと突き出して見せつけてやる。
「SSS級冒険者のセツだ。よろしくな、A級冒険者のアリゼさん?」
「よ、よろしくお願いします……師匠」
元俺の弟子であるアリゼ・イフリールは、下衆な笑みを浮かべる俺に対して、おそらくずっと見せてこなかったであろう恐怖からくる涙を見せながら、できる限りの苦笑いで俺を昔呼んでいた名前で呼んだ。
◇ ◇ ◇
俺があの三人とともに魔族大陸を旅していた時のこと――――――
とある冒険者ギルドで、俺たちが資金集めのため仕事を探していると、めちゃくちゃ生意気な赤い髪の少女が割り込んできたことがあった。長い赤い髪は緩くウェーブがかかり、つけてある申し訳程度の鎧は新品、剣の持ち手なんか握られた形跡すら少ない。
そんな明らかに新米冒険者な少女は、俺たちの前に割り込んでS級依頼へと手を出した。まあ当然のごとく受付で弾かれたんだが、「私は強いんだからこれくらいこなせる!!」と叫んで駄々をこねる始末。あまりの生意気さに、その場にいたゴロツキ冒険者たちが手を出しそうな勢いだったため、俺はその少女に歩み寄り、
「俺に勝ったらそのS級依頼を受けさせてやるよ」
と言ってやった。
それを聞いた少女は駄々をこねることをやめ、一転嬉しそうな笑みを浮かべ、この勝負を受ける。
「お前みたいなヒョロイ男に私は負けない!!」
俺を挑発するような言葉を言うこいつに、俺は少し怒りを感じ、フルボッコ――――――いや、実力の差を思い知らせてやった。当時の実力は確かSS級、もちろん加減をし、遊ばれていることがわかる程度に痛めつけてやった。
ボコボコにされ、痛みのあまり声も出せずに泣きだすこいつを、回復魔法をかけて外へ放り出し、その日の大きな出来事はそれで終わった。
そして次の日、再びギルドにあいつが顔を出した。
「頼む!! 私を弟子にしてくれ! いや、してください!!」
依頼の達成を報告しに来ていた俺たちは驚き、当然のことながらめんどくさそうだったんで断ったんだが、少女はそれでも必死に頼み込んできた。村を守るために強くなりたいだとか叫びながらすがってきたこいつは、本当にうざくて面倒くさかったわけだが、それだと弟子にしない限りめんどくせぇのが続くという考えに至った。
「セツ様もう弟子にしちゃいましょうよ!!」
「そ、そうですよ!」
「私もそう思う」
お供三人もだんだんと根負けし、最終的には必死に俺に懇願してくるようになった。まあ宿に泊まった夜でさえも部屋の外で土下座され続けちゃぁな……
というわけで弟子にすることになり、少女はしばらく俺たちの旅に同行することになった。
――――――それがこの、アリゼ・イフリールである
次回、竜の巣へ




