20 少女アーメルのお願い
二日連続投稿できなくて申し訳ありません
ギルドカードを取り戻せたことで上機嫌な俺は、呆れているリヴァイアを連れ回して食べ歩きをしていた。と言っても買えるものは大抵海産物で、今食っている魚の串焼き合わせれば、魚系は3種類目だ。
「私的にはフライが食べたいんだけど……」
「んなもん後でいくらでも作ってやんから、今は付き合えよ」
普段海に住んでる……というか海を統べているいるこいつにとっては、魚などすでに食べ飽きているんだろう。だから新しい調理法として、白身魚のフライに惚れ込んだんだ。自分の料理を食べたいと言われるのは嬉しいところではあるが、今回は俺の上機嫌故の奮発に付き合ってもらおうじゃないか。
「この魚骨がねぇんだ……さすが異世界――――――ん?」
食らいついた魚に骨がないことに驚いていると、一瞬背後にこっちを見る視線を感じ取る。美少女を連れている事への嫉妬や、敵意とは違うものだ。リヴァイアも気づいたようで、俺に判断を求めていた。一瞬でなくなれば、通りすがった人がチラ見してきたということで終わるんだが、その後明らかに俺たちの後をつけてきている。だが敵意は相変わらずないし、急に話しかけてくる気配もない。なにやらどうするか迷っているようだった。
とりあえず、つけられているというのも気に入らないため、俺はリヴァイアにアイコンタクトで「路地裏へ」と伝える。了承した彼女を連れて、俺は店と店の間にある人気のない路地裏へ入った。
「――――――誰だ?」
路地裏を少し進み、気配がついてきたことを確認して声をかける。
隅っこに積まれていた木箱がビクッと動き、その影から少し警戒しながら一人の少女が現れた。黒髪ショートカットで、動きやすくできた冒険者用の服を着ている。歳はルリと同じくらい、しかし体つきはあいつよりしっかりしている。
「何か用があるのか?」
「……つけるような真似してごめんなさい」
俺の問いかけに、少女はまず素直に謝ってきた。そして言い終わると同時に、少女は全力で頭を下げながら言う。
「でも……どうしてもあなたに頼みたかったことがあるんです、聞いてくれませんか?」
これを聞いたリヴァイアは、どうするの? と言いたげな視線を向けてくる。少女の声は悲痛だった。もう何にでも縋るという意志も込められているように感じる。
……とりあえずは話を聞いてみないことにはわからない。
「ひとまず話を聞いてやる、頼みを聞くかどうかはそのあとだ」
「あ、ありがとうございます!」
パッと顔を上げた少女は、喜びのあまり涙目になりながらも、その頼みの内容を話し始めた。
「――――――リザードマンの群れ?」
「はい……それが私の村を襲っているんです」
場所は変わらず路地裏、俺とリヴァイアは適当な木箱に腰を下ろして、その話を聞いていた。
なんでもこの少女、アーメルというらしい。森の奥の村出身で、数日前にその村をでたばかりだそうだ。冒険者としては、村の周りで魔物を狩ったりしていたために、ある程度に実力が身に付いたと言い、ランクで言えばC級らしい。冒険者見習いを過ぎて、討伐依頼にも問題なく挑戦できるレベルだな。装備は腰のベルトにつけられた短刀で、ランクに見合った程度には使い込まれている。
そして頼みごとというのは、村を襲う魔物たちを討伐してほしいということだった。アーメルの村は、竜の巣の近くにあると言う。竜の巣とは、その名の通り竜が住むために作った住処である。基本的に洞窟で、その穴は竜という生物の巨体が入れる程度にはでかい。
竜という種族は、最低でもS級に相当する実力を持っている。空を飛び、火を吐くというだけでも、かなりの脅威となるからだ。そんな竜から産み落とされる魔物が、リザードマンと呼ばれている。B級魔物のリザードマンは、基本的に竜がその住処から出るときに、その巣を守るものとして産まれる。竜は自分の巣に宝石といった高く売れるものを貯める習性があるため、その巣を荒らそうと思うものは多い。だが半端な冒険者ではリザードマンには勝てないため、そう簡単には巣の中にあるお宝は手に入らない。問題は半端ではない冒険者がやってきた時。そいつらはリザードマンを討伐し、そのまま宝をかっさらっていく。そうすると、新たな巣に宝を移動させようとした竜が、その巣の惨状を把握し、怒り狂って暴れまわる。そうして出た被害はかなり大きいため、竜の巣を荒らすことは基本的には禁止とされている。
リザードマンの群れ――――――今の説明から気づいた人もいるだろう。というのも、奴らが群れを作るというのはおかしなことなんだ。巣の守護者として産まれるリザードマンは、よほどのことがない限りは巣から動かない。アーメルは、動かないはずのリザードマン、さらにはその群れに襲われていると言う。
「私もありえないと思いました……でも本当に攻めてきたんです!!」
「……どこから攻めに来ているとかはわかっているか?」
「現れる方角から考えると、村の近くの竜の巣からみたいです。でもその巣は竜が死んだことでもぬけの殻になってたはずで……」
竜が死んだ場合、その際巣から離れるといってもリザードマンは産まれず、巣には宝だけが残る。それを見つけた冒険者はめちゃくちゃ運がよく、そのまま大富豪へと上り詰めることができたりもする――――――まれに竜を討伐して、宝を奪っていく輩もいた。俺とか……まああれは討伐とは言えないかもしれないが
「死んだ竜の巣からリザードマン……ね」
「それはどういうこと?」
リヴァイアが問いかけてくるが、俺自身答えられないでいた。
まず前例がない。だが俺は別に遥か昔から生きていたわけではないため、前例がないといっても本当にそうかとは言い切れない。少なくとも俺が、そんな事例を聞いたことはなかっただけだ。それでも普通に考えて、そんなことはありえない。竜が死ぬとその巣からリザードマンの群れが発生するなんて事実があったら、今までで確実にいくつかの村が滅んでいたはずだ。そうなっていたら当然、竜の討伐に制限ができている。それがないということは、前例はないということだ。
「現状どうしているんだ? B級魔物の群れなんてそう簡単には止められねぇ」
「今はリザードマンの進路を潰すことで、ある程度の実力者たちだけで抑えられています」
集団戦にしない戦法か、確かにそれなら交代を挟むことで守り続けられる。
「A級くらいの力を持っている兵士もいるので、その人が戦っている間は何体か倒せたりもするんですけど……数が減らないんです」
「……無限湧きってか?」
前やったゲームにそんな要素があったな……そこに居続ける限り敵に襲われ続けるやつ。ゲームではなんかしらの目的をこなせば湧きが止まるんだが――――――
「私……その竜の巣に何かあると思うんです。それさえなくせば……」
「それをなくす役目を俺たちに任せる、ってことか」
「はい……あなたがSSS級冒険者と聞いたもので……お願いできないでしょうか?」
確かに、B級魔物の群れなんて言ったらS級以上じゃないと歯が立たないだろう。リザードマンが蔓延る竜の巣に突撃したところで、それでは鋭い爪たちに切り刻まれて終わりだ。
最初はアーメルが騙しているとも考えたが、こいつの目は真剣そのもので、嘘の気配はない。本当のこととわかっているのに、ここで見捨てれば、ルリの時に感じたようにこれからの飯がまずくなるだろう。
俺は腕を組んで考える。まあ答えは「助ける」で決まっているんだが……俺自身もその現象には興味あるし。でも獣人大陸行かなきゃなぁ……まあ数日くらいなら問題ないと思うが
「お願いします……このままじゃ村でハチミツ酒も作れなくて……」
「何!? ハチミツ酒!? お前の村で作ってるのか!?」
「え? あ……はい、そうですけど」
ハチミツ酒とは、その名の通りハチミツの酒だ。そしてこの世界で俺が最初に気に入った酒でもある。こっちへ召喚された当時、世界的に一応成人していた俺は、必然的に酒に触れることが増えた。グレインとティアに薦められることが多く、その度飲んでは見るのだが、完成してない舌を持つ俺は大抵飲むことができなかった。そんな時、偶然手に入れた酒がハチミツ酒だ。まず最初に、とにかく甘さが目立つ。だがくどくなく、後味がスッキリしていて飲みやすい。ほのかに黄色味を帯びた液体は、ハチミツが絶妙な分量で溶かされていることで、それほどの飲みやすさを発揮しているのだ。
そういえばまだ戻ってきてから飲んでいない……そんな状況でハチミツ酒の製造ストップなんて許せるわけがない。その時点で俺にあったわずかな迷いは、一瞬にしてどこかに消えた。
「ぜってぇ助けてやるよアーメル。お前の村は俺に任せろ」
「ほ、本当!? あ、じゃなっくて――――――本当ですか?」
横に居るリヴァイアがどうせくだらない理由なんでしょと言いたげな視線で睨んでくるが、それを無視して俺とアーメルは手を取り合った。
「じゃあ改めて――――――俺はセツだ、よろしく。ランクは知っての通りSSS級だ」
「はぁ……私はリヴァイアよ。冒険者登録はしてないから正確じゃないけど、今のところS級以上の実力はあるつもりよ」
「あ、アーメルです!! よろしくお願いします! セツさん、リヴァイアさん!!」
俺たちは名乗っていなかったため、しっかりと自己紹介を。アーメルはそれに合わせて改めて名乗る。彼女は俺たちのランクを改めて聞いて少し恐縮したようだが、リヴァイアはさんをつけられたことで顔をしかめていた。許してやれよ、ルリには許したんだから。まあルリの敬語は、それが素だとはっきりわかるが、アーメルの敬語は無理してる感じが所々にあった。それが気に障ったのかもな。
「んじゃ案内してもらおうか、その村とやらに――――――」
「はい!」
満面の笑みで返事をしたアーメルを筆頭に、俺たちはその場を後にする。今すぐにでも出発で良かったんだが、彼女が準備をしたいということで少々買い物に付き合うことになった。回復ポーションなんて最後に使ったのいつだったかな……もう覚えてねぇよ。ちなみに最高級回復ポーションみたいな名前のポーションは、俺の魔法袋の中に入っている。一応後でリヴァイアとアーメルに渡しておこうか。
冒険者として準備を終えたアーメルに最高級ポーションを渡したところ、腰を抜かしてしばらく動けなくなってしまったことは、また別の話――――――
もしかして最高級ポーションって高い?
次回、リザードマンに襲われる村にて




