1 役立たずになるために
召喚されて数分後、俺たちは全員揃って人間国の王の前に並んでいた。
王は立派なヒゲをさすりながら、俺たちを品定めしていた。
「ふむ……よくぞ来てくれた異世界の勇者たちよ。我はここ人間の大陸の中枢、ディスティニア王国を統べる者、ディスティニア王だ。我はそなたたちを歓迎する。」
そう言うと王の周りに居た大臣や騎士たちが俺たちに頭を下げてきた。
……てかディスティニア王少し老けたな、シワが増えて立派な中年って感じがする。見た目から見て五年くらいはたってるか?
「ありがとうございますディスティニア王、俺たちはあなたに仕え、与えられた使命を果たすためにここに来ました」
王の言葉にそう答えたのはクラスのヒーロー光真……とかいうマヌケ
数分前に王女から召喚された理由を聞き、それを聞いたクラスメイトどもとたまたまその時間授業のため教室にいた女教師は心を打たれた様子でそれを受け入れちまった。
王女曰く――――――この国、大陸は、魔族、獣人に攻められている。
原因は不明。突如終戦したはずの戦争を掘り返され、攻撃を仕掛けられている。
しかも獣人と魔族は同盟を組んでいるそうで、人間国は苦戦を強いられていた。
再びこの国に平和を取り戻すため、この戦争を終わらせる役目を勇者たちに任せたい……とそんな感じの話だ。
はっきり言って聞くに耐えない願いだ。
全くもって関係のない国がピンチだからといって、命をかけるようなことをするバカはいないはずだ。
俺も当初は断っているしな。
――――――だが今回の人間国は一味違った。
「はい!俺たちでよければ!」
クラスのヒーロー、光真はそれにいい返事を返しやがった。
他の連中もうんうんみたいな顔で頷いてやがる。
せめて少しは思考をしろ……と突っ込もうとしたところで、俺は王女の目に魔力が宿っていることに気づく。
(――――――ありゃ魅了の眼か?)
魅了の眼、相手を虜にして願いを聞かせる質の悪い魔法…要はこいつら全員この眼に魅せられたってわけだ。ちなみに惚れさせる訳ではない、あくまで言うことを受け入れやすくさせるだけだ。
それにしても……同性まで魅了するとは相当な力だな。あの王女も5年で成長したようだ。
――――――最初の頃は初級魔法すら危うかったのに
まあお察しの通り魅了の眼程度なら俺になんの影響もない。メドゥーサの石化の眼すら俺には効かないからな。
そんな魅了の効かないやつが俺の他にもう一人…
先程からなんでみんな乗り気なの!? ってな感じでオロオロしている花柱 夕陽。彼女にも魅了の眼は聞いていない。
あいつには小さい頃から俺の加護を与え続けている、そのため精神干渉系魔法は問答無用で弾くようになっているのだ。
……夕陽だけは俺の二度目の人生で両親と同じくらい大切にできる人間だ。あの明るさに助けられたこともある。だからあいつだけは守ると、俺はこの人生に誓っていた。
……まあ魅了を弾けたからといって、多数決には叶わず俺も夕陽も大人しくする他なかったが。
ということがあって現在、俺はどっかの光真のせいで魔力適正テストのようなものを受けさせられている。
テストといってもサッカーボールほどの水晶玉に触れば終わる簡単なものだ。そこで一人一人の属性適性やら魔力量などを調べる。
魔力が全くなければ水晶には何も起こらない。魔力があれば緑、そこから黄、オレンジ、赤、青、紫、黒、白というように、魔力量によって色が浮き出る。緑が最低、白が最大だ。基本的にこの世界の平均はオレンジ。才能があれば青、紫。化物レベルならば黒……といったところか。
「すばらしい!光真様の魔力量は白!! 適正属性は基本属性に光を含めた5属性です!!」
前の方でテストを受けていた光真に対して、王女が飛び跳ねそうなくらい喜ぶ。
やっぱり結構才能はあるみたいだな。元々現代に生きる人間の魔力量は多いのが相場だが、いきなり白は化物レベルだ。ちゃんと訓練を積めば相当な実力者になるはず。
適正属性はどこでわかるのかと言うと、ある程度魔法の知識があれば水晶玉を見るだけで導き出せる。この中でわかるのは俺と王女と城お抱えの魔術師たちくらいだな。
ちなみに基本属性というのは、火、水、雷、土の四種類。いまだ絶賛褒められ中のヒーローはそれに加えて光属性の適性がある。
とくに光属性はこの世界で貴重な適正だ。やつはこの先相当こき使われるだろう、ご愁傷様だ。
光真も相当だったが、その他の連中も大概に才能を溢れさせている。
最低でも紫なんてどんな集団だ…頭おかしいんじゃないのか?
中でも光真の一味は全員黒に少し白が混ざったような魔力保持者、黒の上といったところか。夕陽なんて灰色だ。もうほとんど白といってもいい。
全員が全員魔力量も多ければ適正属性も多い。大体この世界の相場が1~2属性といったところだが、こいつらは最低三属性だ。中でも適正属性が一番多いのは夕陽だ。あいつは七属性、それこそ化物レベル。
「次の方お願いします!」
王女の声が俺にかかる。気づけばテストを終えていないのは俺だけだ。
うわぁ…目…立ちそう
「水晶に手を」
言われるがままに手を水晶に乗せる。
王女は期待の目でそれを見ているが――――――水晶はなんの色にもならなかった。
「え……?どういうことですか?」
王女の表情が困惑気味になる。
試しに代わって王女が手を置いたが、普通に色が変わった。紫か、やっぱり腕を上げている。
故障じゃないことが分かり、王女の目がゴミを見る目に変わる。
目の変化が激しい女だ。当時はまだガキでやんちゃっ子ってイメージが強かったんだけどな
「魔力0ですか……まあそういう方もいらっしゃるんでしょう。では本日は解散となります! 各自部屋を提供いたしますので、ご自由にお使いください!!」
くはは! あからさまに態度を変えやがった!
俺には一瞥もくれず、王女はどこかへ行ってしまう。後ろを振り返ってみればクラスメイトの連中が嘲笑うかのように視線を向けてきた。とくに遠藤一味はうざってぇ笑みを浮かべてやがる。
城お抱えの魔術師たちも、「勇者のくせに」と言いたげな目線を向けてきていた。
……全く残念だ、この城にはろくな魔術師がいないらしい
俺が触れて水晶の色が変わらない理由は、何も魔力がないからじゃない。
――――――計りきれないんだ、あの程度の水晶玉じゃ
白よりもさらに多くの魔力量、それだけの魔力を計る容量はあの水晶にはない。だから計りきれずに色が変わらなかったんだ。……ちなみに俺の適正属性はほぼ全部。人間程度に扱える属性ならいくらでも操れる。それも全部あいつらと|戦ってる内に掴み取ったものだがな。
というわけだ。見当違いのことを考えてる城のやつらには悪いが、その考えを利用させてもらおう。
俺は早々に城から出たい、そのためには異世界召喚系小説から得た知識を利用させてもらう。
「――――――せいぜい俺に役立たずの烙印を押してくれや」
小声で呟いてみる。
役立たずの烙印を押され、城から追い出される。
そうして始まるのは異世界気ままな自由ライフ!! 一度目はなんだかんだで戦いばっかだったから、二度目はうんと遊ばせてもらうぜ!
こうして俺の追い出される計画は進行していった。